日 内 分 泌 会 誌,(Folia

623

Endocrinol.)68.623∼635.1992

難 消 化 性 デ キ ス トリンの耐 糖 能 に及 ぼ す 影 響 第I報:消

化 吸 収 試 験 お よ び 糖 負 荷 試 験 に よ る検 討

松 谷化学 工業(株)研 究所 生理機 能 研究 室1) 兵庫 医科 大学 臨床 病理学(指 導:松 岡 瑛 教授)2) 若

林

茂1)2)

The Effects of Indigestible Dextrin I. Studies on Digestion-Absorption

on Sugar Tolerance: and Sugar Tolerance

Shigeru WAKABAYASHI1)2) 1)MatsutaniChemical Industry CompanyLtd

.,Research Institute, 5-3Kita-Itami, Itami, Hyogo 2)Department ofClinicalPathology , Hyogo College of Medicine, (Director:ProfessorAkira Matsuoka) 1-1 Mukogawa-cho, Nishinomiya, Hyogo

It is widely acknowledged that high viscosity water-soluble

dietary fibers such as

pectin and guar gum affect a lowering of blood glucose levels and a reducing of insulin secretion following a sugar load. However, as dietary fibers vary in origin and in chemical properties, their physiological functions differ as well. Indigestible Dextrin (PF-C) , a low viscosity, water-soluble acid and heat-treatment examined. First,

of potato starch,

In this study the effects of dietary fiber obtained through

on various aspects of sugar tolerance

were

the influence of PF-C on sucrose hydrolysis was examined in rat intestinal

mucosa cell homogenate order to investigate

confirming that PF-C did not inhibit sucrase activity. Then,

the influence of PF-C on sugar digestion-absorption,

in

an experiment

was performed by using the everted intestinal sac of the rat in vitro. PF-C did not have an effect on glucose-transport of hydrolyzed-glucose

into the serosal medium, whereas PF-C did inhibit the transport

from sucrose, with no change in the hydrolysis of sucrose.Recently,

Crane et al. reported that there is a specific route for hydrolyzed glucose from sucrose in glucose-absorption

on the enteric surface (disaccharidase

related transport

system) . The

possibility exists that PF-C specifically affects this pathway. Further, total glucagon released into the serosal medium stimulated by both glucose and sucrose were reduced by PF-C. On the basis of these results, and healthy concurrent

human subjects. administration

an oral sugar tolerance test was conducted in both rats

In male Sprague-Dawley

rats

(8 weeks old, 250-280g)

of PF-C (0.6g/kg body weight) reduced an increase in plasma

insulin levels with no change in glucose levels following a glucose (1.5g/kg body weight) 第68巻

第6号

624

シ ョ糖 に対 す る難 消 化性 デ キス トリンの 耐糖 能 改善 効 果(若 林)

load. Further noted were reductions in increases in both plasma glucose and insulin levels following a sucrose (1.5g/kg body weight) plus PF-C (0.6g/kg body weight) load to that of the sucrose (1.5g/kg body weight) single load. These findings reflect the above mentioned in vitro results. Moreover, in healthy male subjects the increase in both plasma insulin and glucagon-like immunoreactivity (Gut GLI) levels following a Trelan-G75 significantly reduced by concurrent administration of PF-C.

load were

From these observations it would appear that the effectiveness of reducing insulin secretion

by PF-C results due to the decrease

in sugar absorption

by inhibiting

the

disaccharidase - related transport system. As glucagon-like in the enteroinsular

peptide 1 (GLP-1) , [an incretin axis] secreted with Gut GLI from intestinal L cells, is known to

enhance insulin secretion following a sugar load, the resulting effectiveness by PF-C to reduce insulin secretion is thought to be attributed to the action on this enteroinsular

axis

mechanism. Keywords: Indigestible dextrin, Dietary fiber, Everted intestinal sac, Sugar tolerance, Enteroglucagon

緒

言

食 物 繊 維 の 糖 質 代 謝 に 及 ぼ す 影 響 に つ い て は,主 られ て き た 。Jenkinsら

は,食

と して 食 物 繊 維 摂 取 時 の 耐 糖 性 の変 化 か ら論 じ

後 の 血 糖 値 上 昇 な ら び に イ ン ス リ ン分 泌 が ペ ク チ ン や グア ー ガ ム 等

水 溶 性 食 物 繊 維 の 摂 取 に よ り抑 制 され る こ と(耐 糖 能 改 善 効 果)を

見 出 し,糖 尿 病 の予 防 と治 療 に

高 食 物 繊 維 食 が 一 定 の 効 果 を 有 す る こ と を報 告 した1)2)。彼 ら は,そ

の 機 序 と して,こ

れ ら食 物 繊 維

が 高 い 粘 性 を 有 して お り,食 物 の 胃内 滞 留 時 間 を 延 長 し,栄 養 素 の 吸 収 を 遅 延 さ せ る こ と に よ り, 血 糖 値 上 昇 な ら び に イ ン ス リ ン 分 泌 を 緩 徐 に し た も の と 推 察 した が3)4),Mirandaら5)お Morganら6)は,食

物 繊 維 がEnteroinsular

axisに お け るincretin候

補 物 質 で あ るGIP等

よび 消 化管 ホ

ル モ ン分 泌 を 抑 制 す る こ と に よ りイ ン ス リ ン分 泌 を 低 下 させ た 可 能 性 に つ い て 報 告 して い る 。 さ ら に,最 近 食 物 繊 維 が 消 化 酵 素 活 性 を 阻 害 あ るい は 賦 活 化 し栄 養 素 の 消 化 吸 収 に 影 響 を及 ぼ して い る 可 能 性 が 示 唆 され て お り7),食 物 繊 維 が 有 す る耐 糖 能 改 善 効 果 の機 序 に つ い て は 現 在 尚 統

一し た 見

解 が 得 られ て い な い 。 本 研 究 に お い て 著 者 は'馬 鈴 薯 澱 粉 を 熱 処 理 後,分 (一 般 名:難

消 化 性 デ キ ス ト リン)に

つ い て,耐

画 ・精 製 して調 製 した 低 粘 性 水 溶 性 食 物 繊 維

糖 能 に及 ぼ す 影 響 を 詳 細 に検 討 した 。 先 ず,糖

の 消 化 吸 収 に 及 ぼ す 難 消 化 性 デ キ ス ト リン の 影 響 に つ い てin vitroで 検 討 した 。 次 い で 'ラ

質

ッ トな

らび に健 常 人 を対 象 に 糖 負 荷 試 験 を 実 施 し,耐 糖 能 に 及 ぼ す 難 消 化 性 デ キ ス ト リ ンの 影 響 に つ い て 観 察 した 。 材 料 お よび 実 験 方 法 1.食 物 繊 維 水 溶 性 食 物 繊 維 と して 難 消 化 性 デ キ ス ト リ ン(以 下PF-C),プ 第68巻

第6号

ル ラ ン(分

子 量 約20万;以

下

日

本

内

分

泌

会

PUL,林

原 生 物 化 学 研 究 所)お

PF-Cの

調 製 法 の概 略 は 以 下 の 通 りで あ る8)9)。即 ち,加

ン)を,α-ア

よ び ペ ク チ ン(以

学

雑

下PEC,レ

誌

625

モ ン 由 来:和

ら に活 性 炭 で 脱 色 して 粉 末 化 した 。PF-Cの

ス 単 位 が α-1,4,α-1,6な

らび に β-1,2,β-1,3お

末 端 の 一 部 は レ ボ グル コ サ ン(1,6-ア

量 は91.6%で

難 消 化 性 成 分 は グル コー

よ び β.-1,6グ

ン ヒ ドロ グ ル コ ー ス)で

リ ン と 推 定 され て い る(平 均 分 子 量:1600)。

ル コ シ ド結 合 し,還 元

あ る分 枝 構 造 の 発 達 した デ キ ス ト

高 速 液 体 ク ロ マ トグ ラ フ ィ ー法 に よ る食 物 繊 維 含 有

あ っ た9)。

尚,PF-C,PULお い てB型

使 用 した 。 焼 デキ ス トリ

ミラ ー ゼ お よ び グ ル コア ミ ラー ゼ で 加 水 分 解 し,難 消 化 性 成 分 を ク ロ マ ト分 取 後,

イ オ ン交 換 樹 脂 に よ り脱 塩,さ

2.試

光 純 薬)を

熱 処 理 した 馬 鈴 薯 澱 粉(焙

よ びPEC水

溶 液(Brix4.0)の

粘 度 は,3.2,9.0お

よ び702.0cps(30℃

粘 度 計 を 用 い て 測 定 。 対 照 と した 同 濃 度 の シ ョ糖 溶 液 の 粘 度 は3.2cps)で

にお

あ った。

薬

フ ロ リ ジ ン はSigma 薬,ラ

Chem.Co.,ペ

ッ ト ・イ ン ス リ ン はNovo

ン トバ ル ビ タ ー ル は ダ イ ナ ボ ッ ト,ト レ ラ ンG75は Ind.,シ

ョ糖,D-グ

清水 製

ル コ ー ス お よ び そ の 他 の試 薬 は 和 光 純 薬 の

製 品 を 使 用 した 。 3.ス

ク ラ ー ゼ 活 性 に 及 ぼ す影 響

ス ク ラー ゼ 活 性 の 測 定 はDahlqvistの 雄 性 ラ ッ ト(Jcl:SD,日 下 に 開 腹,Treitz靱

方 法 に 準 じて 実 施 した10)。体 重250gの

本 ク レア)を24時

間 絶 食 後,ペ

帯 よ り下 部10cmの

生 後8週 齢 のSD系

ン トバ ル ビ ター ル(50mg/Kg体

空 腸 部 分20cmを

転 し ス ラ イ ドグ ラ ス を 用 い て 粘 膜 を 剥 離 採 取 し た 。 採 取 した 粘 膜 標 品100mgに buffered saline(PBS,pH7.4)1mlを ×g,10分)し

加 え,テ

る い はPEC添

30分 間 イ ン キ ュ ベ ー ト後,100℃

ゼ活 性 は 粗 酵 素 液 の 蛋 白質1mgが60分 た 。 尚,粗 4.翻

加 え,37℃,

で5分 間 加 熱 し,生 成 した フ ラ ク トー ス 量 をFキ Mannheim

心 分 離(1000

基 質 溶 液 と して 種 々 濃 度 の

加 ・非 添 加 シ ョ糖 溶 液(342mg/dl;10mM)700μlを

ス/グ ル コー ス/フ ラ ク トー ス(酵 素 法:Boehringer

Co.)を

ッ ト ・ス ク ロ ー

用 い て 測 定 した 。 ス ク ラー

間 に 生 成 す る フ ラ ク トー ス量 に換 算 し,μmol単

酵 素 液 の 蛋 白量 はLowry法11)に

酔

対 しphosphate

フ ロ ン ホ モ ジ ナ イ ザ ー で 磨 砕 後,遠

上 清 画 分 を 粗 酵 素 液 と し た 。 調 製 した 粗 酵 素 液300μlに

PF-C,PULあ

重)麻

単 離 し,付 着 す る 脂 肪 組 織 を 除 去 後,翻

位 で表 し

よ り測 定 した 。

転 小腸 にお ける被吸 収性 試験

体 重250∼280gの mg/Kg体

重)麻

生 後8週 齢 のSD系

雄 性 ラ ッ トを20∼24時

酔 下 に 開 腹,Treitz靱

帯 よ り下 部20cmの

間 絶 食 後,ペ

空 腸 部 分5cmを

ン トバ ル ビ タ ー ル(50 単 離 し,土 屋 らの 方 法

に 準 じて 翻 転 小 腸 を作 製 し た12)。こ れ を10mlシ

リ ン ジ に 固 定 し,内 側 の 漿 膜 側 をPBS1.5mlで

た し,外

ョ糖 に 対 して は120mg/dl)あ

側 の 粘 膜 側 に はPF-C60mg/dl(シ

43.6mg/dl(1mM)添 mg/dlを

加 ・非 添 加 条 件 下 に 被 験 物 質 と して グル コ ー ス150mg/dlあ

含 むPBS10mlを

入 れ,O2+CO2(95+5%)混

合 ガ ス の 送 気 下,37℃

経 時 的 に 両 側 の 糖 濃 度 を 測 定 した 。 ま た,120分 (Total GLI)を

グル カ ゴ ンN端

を用 い たRIA法 尚,本

特 異 抗 体(免

後 に 漿 膜 側 のTotal

る い は シ ョ糖300

で イ ン キ ュベ ー トし,

glucagon

immunoreactivity

疫 抗 原:des-Asn28,Thr29,Homoser27-glucagon)

に よ り定 量 した 。

研 究 で の グ ル コ ー ス 濃 度 は 後 述 し た グ ル コ ー ス 担 体 のin

(144∼162mg/dl)と

満

る い は フ ロ リジ ン

vitroで

報 告 さ れ て い る こ と か ら13),こ れ を基 準 に150mg/dlと

つ い て は 加 水 分 解 に よ り等 モ ル の グル コー ス を 生 ず る300mg/dlに 第68巻

第6号

のKm値 設 定 し,シ

設 定 した 。

が8∼9mM ョ糖 濃 度 に

シ ョ糖 に対 す る難 消 化性 デ キス トリンの耐 糖 能 改善 効 果(若 林)

626

5.経

口糖 負 荷 試 験I(ラ

体 重250gに g,グ

ッ ト)

達 した 生 後8週 齢 のSD系

ル コー ス1.5g+PF-C0.6g,グ

雄 性 ラ ッ トを16時 間 絶 食 後,Kg体

ル コ ー ス1.5g+PEC50mgあ

溶 液 と して 経 口投 与 し,開 始 前,30,60お (mutarotase-GOD法:和 た,シ 6.経

ョ糖1.5gお

光 純 薬)な

健 常 成 人 男 子5名(年

長173.4±2.4cm,体

さ らに,30分

毎 にTotal

りglucagon

immunoreactivity(GI)を

尚,各

重60.2±1.4Kg,BMI20.0±1.0:

対 象 に グル コ ー ス モ ニ ター(GM1310,京

75あ る い は ト レ ラ ンG75+PF-C30gを

glucagon-like

イ ナ ボ ッ ト)を 測 定 した 。 ま

荷 に つ い て も同 様 に試 験 を 実 施 した 。

常 人) 齢30.0±1.5歳,身

平 均 値 ± 標 準 誤 差)を

それ ぞ れ水

よ び120分 後 に 無 麻 酔 下 で 外 頸 静 脈 よ り採 血 し,血 糖 値

ら び に イ ン ス リ ン(RIA法:ダ

よ び シ ョ糖1.5g+PF-C0.6g負

口糖 負 荷 試 験II(健

重 当 た り グル コー ス1.5

る い はPF-C0.6gを

GLI量

経 口投 与 し,6分

お よ び グ ル カ ゴ ンC端

置 下 で トレ ラ ンG

毎 に 血 糖 値 お よ び イ ン ス リ ン を測 定 した 。 特 異 抗 体(OAL

定 量 し,Total

immunoreactivity(GutGLI)量

都 第 一 科 学)設

GLI量

128)を

か らGI量

用 い たRIA法

によ

を 差 し引 く こ と に よ り

を求 めた。

負 荷 試 験 の順 序 は ラ ン ダ ム に1週 間 間 隔 で ク ロ ス オ ー バ ー し て 実 施 した 。 ま た,本

試験 は

ヘ ル シ ン キ 宣 言 の 精 神 に 則 り計 画 ・実 施 さ れ た 。 7.統

計学 的処理

実 験 成 績 は す べ て 平 均 値 ± 標 準 誤 差 で 表 し,群 間 の 有 意 差 検 定 はDuncanの テ ス トに よ り行 い,5%以

下 の 危 険 率 を 有 意 と した 。 成

1.ス

マ ル チプ ル レンジ

績

クラ ーゼ活 性 に及ぼ す影 響

シ ョ糖 の加 水 分 解 に よ り生 じた フ ラ ク トー ス量 を指 標 と して ス ク ラ ー ゼ 活 性 に及 ぼ す 各 種 食 物 繊 維 の 影 響 を 検 討 し た(表1)。PULお

よ びPECは,混

合 比10:1(シ

ョ糖:食

ク ラ ー ゼ 活 性 を シ ョ糖 単 独 の9.7お よ び11.5%に

抑 制 した 。 対 照 的 にPF-C存

ス 生 成 量 の増 加 が み られ,混

おい て有意 差 を認 めた。

Table

1

合 比5:2∼10:1に

Effect of various

PF-C:indigestible *:

mixing

dextrin,

ratio(sucrOse:

Mean±SE:

values

different

from

not each

dietary

PUL:

fibers

pul1ulan,

dietary sharing

on sucrase

PEC:

物 繊 維)に

在 下 で は フ ラ ク トー

activity.

pectin.

fiber).

a common

superscript

other(p