第72回 日本 内科 学 会 講 演 会(1975年)
シ ンポ ジ ウ ム (2)肺
血 液 凝 固 と線 溶 と凝 固 線 溶 系
北海道大学医学部第一内科 長谷川
SYMPOSIUM (2)
淳
ON THE BLOOD COAGULATION AND FIBRINOLYSIS
OBSERVATIONS ON THE COAGULATION AND FIBRINOLYSIS IN THE LUNG Hiroshi HASEGAWA, M.D. The First Department of Medicine, Hokkaido University School of Medicine, Sapporo,Hokkaido, Japan 1.は
じめ に
を作 製 す る と,石 松 子 静 注群 で は2日後にfibrino
組 織 の 綱 胞 蛋 白 に 結 合 して い る と考 え られ る組
gen(Fbg)の
有 意 な増 加 と線 溶 活-性 の低 下 を 認 め,
織thomboPlastin(以 下TTp)と 組 織activator(T Act)の うち,前 者 は脳 に 次 いで 肺 に多 量 に 存 在
細 切 凝 血 塊 静 注 群 で は3日 後 にFbgが 増 加 す る傾
す る が,後 者 は 少 な く,し か も 肺 動 脈,細
を 示 した3).
系 に存 在 して い る こ とがAstmpに
向 を 示 し,線 溶 活 性 は処 置 前 値 とほ ぼ 同様 の活{生
動脈
よつ て 指 摘 され
石松 子静 注群 で は静 注2日 後,細 切 凝 塩 塊 静注
て い る1).も し肺 が病 的 状 態 に お ち いつ た 場 合 に
群 で は3β 後 に,湿 重 量30㎎ の ヒ トまた は 家 兎凝
は,こ の両 老 が その 病 態 を少 なが らず 左 右 す る と
血 塊 を2コ 頚 静 脈 か ら注 入 す る と,24時 間後 に楔
考 え られ る.臨 床 的 に種 々 の肺 疾 患 に 際 して血 中
状 肺 出血 巣 が 出現 した.楔 状 肺 出 血 巣 を 認 め た実
凝 固 線 溶 活 性 の変 動 す る こ とが 認 め られ,さ
験 群 で は認 め なか つ た 実 験 群 に比 して,凝 血塊 注
らに
病 態 の解 明 と治療 へ の 応 用 を 目的 と して 凝 固 学 的
入 時 の凝 固活 性 は高 く,線 溶 活 性 は 低 く,さ らに
検 索 を要 す る疾 患 も多 いが,今 回 は肺 塞 栓 ・硬 塞
注 入後3∼6時
症 に か んす る凝 固 ・線 溶 現 象 を 中 心 に 述 べ る. 肺 硬塞 作製 実 験
間後 ではFbgの 消 費 と 線 溶活 性 の
進 が高 度 で あつ た3).Todd法
に よる凝血 塊 注 入 亢
24時 間 後 の組 織 線 溶 活 性 の 検 索 で は,凝 血塊,血
II.
肺硬 塞 に か ん す る 問題 点 と して,実 験 上Virchow
管 壁,凝 血 塊 よ り末 梢 部 に 多 数 の 溶 解 巣 を 認 め
は肺 動脈 を結 紮 して も赤 色硬 塞 を作 製 し得 なか つ
た4).抽 出法 に よるTActの
た と述 べ た よ うに肺 硬 塞 の実 験 的 作 製 の 困難 な こ
入3β 後 迄IMKSCN抽
とが 挙 げ られ て い る.疫 学 的 に本 邦 で は反 復 性 肺
凝 血 塊 注 入 に よ る と考 え られ る消 費 に よる低 下 を
塞 栓 症 に合 併 した 肺 硬 塞 が 多 い2)の で,そ
示 し,2M尿
の発 症
直 径20∼30μ の 石 松 子 浮遊 液10mg/mlを6ml, また は 湿重 量1㎎
血塊注
出Act活 性 が 前 処 置 お よび
素 抽 出Act活 性 は 模 状 肺 出酸 部 位 で
よ り高 値 を示 し,5日
機 序 の解明 を目 的 と して モデ ル 実 験 を 実 施 した.
検 索 で は,凝
以 後 に はIMKSCN抽
出Act
活性 が上 昇 し,組 織 修 復 との関 連 性 を推 測 させ る
に 細 切 した 約50〓 の 家 兎 な い し
所見 で あつ た4).組 織 学 的 に も,24時
ヒ トの 白色 凝 血塊 を 家兎 に 静 注 して肺 微 小 塞栓 症
間後 塞 栓子
よ り末 梢 の麹 管 内 皮 細 胞 の 空 胞 化,破
Cs)
日内会誌 第64巻
壊 がみ ら
第10号
長 谷川
1099
淳
れ,血 管 腔 内 へ の 組 織 因 子 の遊 出 の可 能 性 が 推 測
が 引 き金 となつ て肺 動 脈 に1血栓 を形 成 し,次 いで
された,ま た48時 間 後 に は,塞 栓 子 よ り末 梢 の肺
2次 血 栓 形 成 と共 に 肺 動 脈 を 閉 塞 して強 い胸 痛 が
動脈 に2次 漁 栓 形 成 もみ られ た.
出 現 した と考 え られ た 。従 つ て 急性血 管 内凝 固 の
状 肺 出血 巣 の 出 現 頻 度 は 楔 石 松 子 静 注 群 で80 %,細
切 凝 血 塊 静 注 群 で50∼55%で,後
時 期 は さか のぼ つ て血 小 板 数 の 変動 で推 察 され る が,強 い 胸痛 等 の自 覚 症 状 は 血 小板 数 が正 常 化 し
者 の成 績
は反復 性 肺 塞 栓 症 に お け る肺 硬 塞 の合 併 頻 度54%
て か ら出現 して い る こ とか ら,た また ま基 礎 疾 患
に類 似 した 成績 で あ つ た3).
の 経 過 を 連 続的 に観 察 して いた 症例 以 外 は,自 覚
以 上 の実 験 成 績 か ら楔 状肺 出血 巣 の成 立 機 序 を
症 状 出 現 前 に起 こる急性 血 管 内 凝 固 の 時 期 を把 握
考 え る と,石 松 子 な い し細切 凝 血 塊 静 注後 の 凝 固
し難 い こ とを 本 症例 は示 唆 して い る.な お 本 症例
進,線 溶 低 下 傾 向 の 最 も高 度 な 時 期 に 凝 血 塊 を 亢
で 自覚 症 状 出現3日 後X線 写 真 上 硬 塞 出現 を み た
注 入 した の で,注 入 した 塞 栓 子 周 辺 お よび そ の 末
の は実 験 の際,凝 血塊 注 入後24∼48時 間 で 模 状 肺
梢 で は組 織 標 本 で み られ た よ うに2次 血栓 形 成 が
出血 巣 が 出現 した こ と と同 じ機 序 に基 づ く と思 わ
促 進 され,凝 固 因 子 こ 消 費 と2次 線 溶 の亢 進 が 強
れ た5)。
く起 こ り,側 副 血 行 路 を 遮 断 され た 塞 栓 子 周 辺 と して 内 皮 細 胞
胸 痛 が 出現 し,自 覚 症 状 出 現 と同 時 に来 院 した39
出法 等 の所 見 か ら推 測 され
才 男 の症 例 で は,来 院 時 のX線 写 真 で左 上 肺 野 に
その末 梢 の肺 動 脈 で は 血 流 停 滞,そ の標本,Todd法,抽
肺 硬 塞 症 で入 院 治 療 し,退 院1ヵ 月後 に血痰,
る よ うに,組 織Actの 放 出 も加 わ り,局 所 線溶 の
硬 塞像 を認 めた.こ
進 が益 々高 度 とな り,血 管 透 過 性 が亢 ま り,24 亢 ∼48時 間後 に楔 状 肺 出血 巣 が 成 立 した と推 察 され
績 と石 松 子 静 注 後楔 状 肺 出血 巣 の 出現 した 実験 群
の症 例 の 経過 を 追 つ た 検査 成
た4).な お石 松 子 静 注 群 と 細 切 凝血 塊 静 注 群 の撰
諸 量 の 変 動経 過 を比 較 す る と,最 初 の時 期 の 変 動
状肺 出 血 巣 出現 頻 度 の差 は 肺 動 脈 の 塞 栓 部 位 の差
こ様 相 は類 似性 を欠 い て いた.そ
に よる側 副血 行 路 遮 断 の程 度 の差 に よる と考 え ら
述 の症 例 の経 験 か ら,自 覚 症 状 出現 前 に既 に 急 性
れ た.
血 管 内 凝 固 に基 づ く一 連 の変 動 が 既 に 終 息 して い
の 検査 成績 とを種,ス
ケ ール の 差 を無 視 して そ の の理 由 と して 前
た こ とに基 づ い て い る為 と思 わ れ た5).
皿 ・ 肺塞栓硬塞臨床症例における問題点
以 上2症 例 の 経験 か ら,肺 塞 栓,硬 塞 症 例 で 急
臨 床 的 に 本症 の診 断 率 は低 い現 状 で あ る の で,
性 血管 内凝 固 に 基 づ く,一 連 の凝 固 線 溶 系 の 変 動
臨床 症 例 で も前項 で述 べ た と同様 な急 性血 管 内凝 固 に基 づ く,凝 固 因 子 の 消 費 と線 溶亢 進 を証 明 し
を把 握 す る こ とは 困 難 で は あ るが,そ
得 る な らば,本 症 の 診 断 な らび に 治 療 へ 資 す る こ
症 の早 期 診 断 に 繋 が り,そ の症 例 の治 療 な い し予
とが大 で あ る と考 え られ る. 一 症 例 を提 示 す る と ,発 病 後 約3年 を経 過 した
後 へ資 す る こ とが 大 で あ る と考 え られ る ので,本 症 の発 症 が 予 測 され る基 礎疾 患 の存 在 す る時 に は
58才,女 のCML症
例 で は,Busulfanへ
の把 握 は 本
経 過 を追 つ て凝 固 線 溶 系 の 検 索 を す る こ とは有 意
の耐性出
義 で あ る. 1V・ 肺 硬 塞 発 症 後 のFbgの 動 態
現 の為 代 謝拮 抗 剤 を 使 用 し始 め た 直 後 か ら白 血 球,漁 小 板 の 急 激 な 減 少 を 認 め た の で 直 ちに 薬 剤
石松 子 静注 後 に凝血 塊 を注 入 した 襖 状肺 出 血 巣
を中止 した.そ の 項 か ら軽 い腰 背 部 痛 が 出 現 し,
作 製 実験 で は,出
中止1週 後 に は 白 血 球,血 小 板 数 と も正 常 値 とな つ た が,突 然 強 い 胸 痛 が 出現 した.そ の 時 の胸 部
め な か つ た 実験 群 に比 して2日 以 後 有 意 に 増 加 し
写真 では 異 常 陰 影 を認 め なか つ た が,3β
の 症例で
例 に つ い て,Fbgの 動 態 を検 討 した. 70才,男,泌 尿科 的手 術 後 に シ ョッ ク症 状 を 伴
は,急 激 な白 血 球 の破 壊 で 放 出 され たTTp様 物 質
つ て 発 症 し,術 後2週 で 肺 動 脈 が 再 流 通 した 右
下肺 野 に2個
の硬 塞 像 が 出 現 した.こ
昭 称50年10.月10日
た 成 績 を 得 た.そ
後 に左
(9)
血 巣 を 認 め た 実験 群 のFbgは 認 こで臨 床 的 発 症 時 期 の明 確 な 症
1100
シ ンポ ジ ウム
肺 動 脈 塞 栓 症 例 で あ る.Fbgは
血 液 凝 固 と線溶(2)
術後10日 ま で増 量
凝 固6)の 症 候 と して 指摘 され て い るFbgの 増加 と
し,以 後 正 常 化 した.
類 似 す る機 序 に 基 づ い て い る と思 わ れ た.
右 肺 動 脈 影 が 消 失 し,左 肺 動 脈 へ の 血 流 の シ フ トを推 察 させ た35才,男
種 々の 濃 度 の τTpを 週5回,3週
の 症 例 で は,入 院後 右 上
間 家 兎 に 静注
す る と,1%の
濃 度 の 注 射群 に の みFbgが 有 意 に
中 肺 野 に 空 洞 を 伴 う硬 塞 像 の 出 現 を 認 め た が,
増 加 した.こ
の成 績 か らTTpが 引 き 金 とな るFbg
Fbgは 最 高70mg/d1と
著 増 し,症 状 改 善 と共 に
の 増 加 に は あ る至 適 濃 度 が あ る よ うに 推 察 され
Fbgも 正 常 化 した.増
加 期 間 は 約50β で あ つ た.
た7).
前 項 で 後 述 した39才,男
の 症 例 では,Fbgは
常 範 囲 内 の 変 動 で あ るが,5蜜
V・ 標識Fbgの 血 中 消 失 曲 線
正
後 最 も増 加 し,10
肺 塞栓 ・硬 塞 症 の 臨床 症 例 な らび に 実 験 上Fbg
日後 まで 増 加 傾 向を 示 した. Fbgの 増 加 が10日 間 続 い た 肺 塞 栓 症 例 と50日 間
の 増 加 が認 め られ た が,そ の際 のFbg代 謝 をみ る
持 続 した 肺 硬 塞 症 例 の 成 績 は,前
お 実験 に用 い た家 兎Fbgはpolyethylenglyco18)で 作
に,家 兎 の1霞
と症 例 の7∼10日
わ せ て 比 較 す る と,模
目的 で標 識Fbgの 血 中 消失 曲線 の検 討 を した.な
項 と同 じ よ う とス ケール を合
製 した が,polyacrylomideゲ
状 肺 出血 巣 の 有 無1に よ る
成 分 で あ り,90∼95%可
Fbgの 差 と類 似 した成 績 で あ つ た .し か し肺 硬 塞
ル電 気 泳 動 で単 一 の
凝 固 性 で あつ た.
正常 家兎 の溶 血 血液9)を 用 い て 測定 した 血 中消
症 例 で も軽 症 例 で は 正 常 範 囲 内 の 変 動 を示 す のみ
失曲 線 は 第1相
で あつ た.こ れ らの 重 症,軽 症 の肺 硬 塞症 例 の成
り,以 後 減 衰 した.こ の 消失 曲線 は二 つ の指数 関
績 と実験 成績 とを あ わ せ て 考案 す る と,肺 硬 塞 症
数 の 和 に解 析 され,そ れ ぞれ 半 減 期 は8.1,60.8
例 に お け るFbgの 増 減,そ
時 間 で あ つ た(図1).石
の持 続 の 長 短 は局 所 病
変 の重 症 度 に関 係 が 深 く,Fbgは に し得 る と考 え られ た,そ
予 後 推 測 の 指標
き金 とな つた と推 測 され,そ
図1.正常
松 子 静 注 に よる肺 微小 塞
栓 作 製2日 後 のFbg増 加 時 の溶 血 血 液 の消 失曲 線
して肺 硬 塞 症 例 に お け
るFbgの 増 加 は 病 巣 局所 か ら放 出 され たTTpが
と第2根 の移 行 部 がや や 平 坦 とな
は 第1相 か ら第2相
引
へ の移 行 部 の活 性 が上 昇 し,
以 後 減 衰 した.こ の 消失 曲線 も二 つ の指 数 関数 の
の増 加 は慢 性 血 管 内
和 に解 析 され,そ れ ぞれ 半 減 期 は6.0,37.8時
家 兎 か ら得 た溶 血 血 液 に お け る標 識Fbgの 消 失 曲線(左 図),そ の 消 失曲 線 の解 析(右図)
(10)
日内会誌
第64巻
第10号
間
長谷川
図2.石
図3,石
松 子 静 注2日 後 のFbg増 加 時 の溶 血血 液 にお け る標 識Fbgの 消失 曲線(左 図), そ の消 失 曲線 の解 析(右 図)
松 子 静 注2日 後 の 血漿,凝
固 部 分,血 清 に お け る消 失 曲 線(左 函),そ の消 失 曲線 の解 析(右 図)
の 切 り込 み の あ る特徴 的 な型 は塞 栓 症 の 存 在 を
であつ た(図2). 肺 塞栓 症(5正 才,男),肺
示 唆 す る所 見 と して,診 断 上 に も有 用 と考 え られ
硬 塞 症(45才,男)に
た.
つ いてFbg増 加時 の溶 血 血液 を用 いた 消 失 曲線 は 第1相 か ら第2相
次 に血 漿,凝 固 部分,血
へ の移 行 部 の活 性 が上 昇 し以 後
清 に分 け,そ の各 部 分
に つ い て消 失 曲 線 を 求 め た.対 照 と 熱た 正常 家 兎
減衰 す る前 述 の 実験 成 績 と類 似 した 型 で あ つ た.
に おけ る血 漿10),凝 固 部 分,血 清 の 消 失 曲線 は第
以上 の実 験 お よび 臨 床 症 例 でみ られ た 減 衰 曲 線
昭和50年10舞10日
1101
淳
(11)
1102
シ ンポ ジ ウ ム
1相 と第2相 した.こ
血 液凝 固 と線 溶(2)
の移 行 部 の 活 性 が 上 昇 し,以 後 減 衰
識fibrinない しFbgの 分 解 に よつ て生 じたFDPが 1町 を分 離 し易 い こ とを 示 唆 して い る と 考 え られ
の3者 と もそ れ ぞ れ 二 つ の 指数 関数 に解
析 され,そ の 半 減 期 は血 漿5.8,50.3,凝 7.2,50.2,血
清5。8,43時
静 注2日 後 に測 定 した 消失曲 線 も血 漿,凝 分,血 清 の3者
この項 の 成績 を ま とめ る と,採 取 血 液 の凝 固部 分 の放 射活 性 は6brin生 成,間
固部
質 液 へ の 移 行,分
解 に よつ て 減衰 し,間 質 液 か らの再 移 行 に よる増
ともそ れ ぞ れ 二 つ の指 数 関数 に解
析 され,血 漿6.8,43,凝 清7,2,43時
た.
固部 分
間 で あ つ た.石 松 子
加 が 加 わ6,血
固 部 分6.4,27.4,血
1,FDP等)の
間 で あつ た.し か も24時 間 場後 の血
清部 分 は非 凝 固部 分(標 識 蛋 白, 尿 中排 出,網 内 系 へ の補 捉 等 に
よ る減 衰 とfibrin分 解 標 識 蛋 白 ・1の 増 加 が 加 わ
漿 と血 清 の 曲線 の 型 の類 似 性 が 高 く,血 漿 に お け る消 失 曲線 は血 清 部 分 に 強 く影 響 され て い る と考
り,凝 固 部分 と血 清部 分 の放 射 活 性 に そ れ ぞれ 指
え られた(図3)る
数 関 数 的 に 減衰 す る部分 と放 物 線 状 に増 加 し減衰
以 上 の成 績 か ら,正 常 家 兎 の 血 漿 と凝 固部 分 の
す る部 分 に 解 析 され る もの と考 え られ た 。な お
半 減 期 は ほぼ 同値 で あつ た が,石 松 子 静 注群 こ 血
血 雄 液 お よび 血漿 の 消失 曲線 は,凝 固部 分 と漁 血清
漿 と凝 固 部 分 の差 はと くに大 で あつ た.こ の こ と
部 分 の合 成 と して考 え られ る. VI.今
か ら血 中Fbgの 代 謝 を観 察 す る 目的 で 全 血 な い し
後 の課 題
血 漿 を用 い る こ とに は問 題 が あ り,凝 固 部 分 に つ
血 栓 症 に おけ る血 液凝固 学 的研 究 の 対象 は,10
い て測 定 す べ きで あ る 。凝 固 部 分 に つ い て,正 常
年 来 肉眼 的 血 栓 か ら微 小 血栓 へ と移 行 して い る.
家 兎 と石 松 子 静 注 群 との 半減 期 を比 較 す る と, の半 減 期
肺 微 小 血 栓 は0.25∼1㎜ 径 の 肺 動脈 微 小血 栓 と ∼100μ 径 の毛 細 管 微 小 血 栓 に 分 類 され,龍 者 20
は石 松 子 静 注 群 で著 明 に短 縮 して いた.こ の 成 績
は 静脈 系か らの塞 栓 子 と同 様 の構 造 を 示 し,後 者
か ら,石 松 子 静 注2日 後 にみ られ たFbgの 増 加 は
は 血小 板 凝 集 塊,fibrin血 小 板 の混 在 す る構 造 を示
過 産 生 の状 態 に基 づ く もの で あ る とい い得 る.
して い る.し か も後 者 は 外 傷,手 術 後,シ
72,50.2と6.4,27.4時
52才,女
間で,第2相
状 態 に認 め られ,12∼48時
子 の肺 硬 塞 症 例 で,症 状 もほ とん ど消
ョック
間 以 後 消 失 す る こ とが
の移 行 部 の活 性
多 い11). TTpは 微 小 血 栓 形 成 の 引 き金 の一 つ に 挙 げ ら
が や や平 坦 とな り,以 後 再 び減 衰 した ・な お お の
れ,流 血 中 のTTPは 肺 で 捕 捉 さ れ る こ とをAstrup
お の は二 つの 指数 関数 に解 析 さ れ,前 述 の実 験 成
は 記載 して い る12).TTpを
績 と同様 の成 績 で あ つ た.
時間 後 に凝 固 ・線溶 因子 こ消 費,PF4の
増 加,6
時 間 でFOPの
織学的 に
退 した時 期 の標 識Fbgの 消失 曲線 は 血 漿,凝 分,血 清 部分 と も第1根
標 識FDPの FDP血
と第2相
固部
消 失 曲 線 を 求 め る 目的 で 血清 に抗
は,5∼15分
清 を 加 え,そ の 遠 心沈 殿部 分 ζ つ い て放
射 活 性 を 測 定 した.血 清 の 全放 射 活 性 の5%以 と第2糊
増 加 傾 向 を 示 した.組 後 に100μ
以下 の 血 管 にPTAH染
色 で濃 青 色 に染 色 され る丘brin血栓 の 存 在 を 認 め,
下
電 顕 で血 小 板 の血 管 壁 へ の 粘 着 像 が 認 め られた.
活 性 を 示 す の み で あ つ 起.ま た,そ の 消 失 曲の 線 は第1相
家 兎 に静 注 す る と,3
TTpを 静 注 す る と,何 故 細 血管 に血 栓 が 形 成 さ
の移 行 部 の活 性 が 急 上 昇 し,10
れ る か の疑 問が あ るが,肺 血 管 網 の表面 積 が大 で
時 間 目を極 値 と して以 後 急 激 に 減 少 し,12階 閥 以 後 は 活 性 も少 な く,勾 配 の 低 い曲 線 を 得 た.こ の
あ る こ と,肺 に おけ る壷 流 速 度 の遅 延,TTpの
消 失 曲線 でみ られ た10時 間 目を 尖 端 と した 槍 の 穂
注 後 肺 の総 血 管 に 到 達 す る以 前 に凝 固 機 転 が始 動
先 状 の活 性 上 昇 は,血
して い る こ と等 が そ の因 と して挙 げ られ る 。TTp
清 の消 失 曲線 の 解 析 か ら
静
得 られ た 放 物 線 の 上 行 脚 に繋 が る よ うな型 で あつ
に鰐 す る坑 血 溝 を ラ ッ トで 作 製 し,イ ヌ肺 組織 片
た.こ
をTTp液 で1時 問37℃ で反 応 させ,洗
の よ うな特 異 なFDPの
消 失曲 線 は,標 (12)
巨内 会 誌
浄 後,抗 血
第64巻
第10号
長 谷川
1103
淳
清 を2時 間37℃ で反 応 させ,洗 浄 後 蛍 光 標 識 抗 ラ トγ グ ロブ リンで20分 反 応 後 再 び 洗 浄 して蛍 光 ッ
らな り,そ の 型 か ら塞 栓 症 の診 断 も可 能 と思 わ れ
顕微 鏡 で観 察 す る と,血 管 内膜 に蛍 光 を認 めた. この成 績 は,血 管 内膜 にTTpに 対 す る 親 郡 性 物 質
算 出す べ き で,石 松 子 静 注2田 後 に お け る 標 識 Fbgの 半 減 期 は27時 間(対 照50時 間)でFbgの 増
が 存在 す る こ とを示 唆 す る もの と考 え られ る が,
加 は過 産 生 に 基 づ いて い る と考 え られ る.
なお 血管 内 皮細 胞膜 と凝 固 因 子 と く にTTp,血
る.標 識Fbgの 半 減 期 は凝 固 部 分 の 消失 曲線 か ら
5)肺
小
小血 管 内膜 にTTpに 対 す る親 和性 物 質 が
存 在 す る こ とが推 測 され る.
板 膜 との親 和性 の解 析 に か ん す る詳 細 な研 究 が肺 微 小血 栓 の 病 態 解 明 の た め に は 必 要 で あ る, VII.ま とめ 1)肺
参 考文 献
硬 塞 作 成 実 験 で は,前 処 置 に 用 い る微 小
血 栓子 が 小 さ く,び 漫 度 の高 いほ ど,2次
1)
Astrup,
1140,
処置 と
1970.
169)
して の凝 血 塊 注 入 時 の凝 固亢 進,線 溶 低 下 の反 応
ibid,
出血 巣 は消 粍 性 凝 固 障 害 に加 え て,局 所 線 溶亢 進
15:
12: 165,
一8)三
意 しな け れば な らな い.
一10}
Von
1971. &
験 的 肺 硬 塞 ではTTpが 引
一12)
き金 とな つ た慢 性 血 管 内凝 固 に 基 づ いてFbgが 増
embolism(ed.Moser), 1973.
識Fbgの 血 中 消 失曲 線 は2曲 線 の 合成 か
昭 秘0年10月10日
(13)
Heart
H.
etal.:
谷 川 淳;臨
Press,
床 壷 液,
Coagulation
N. Y.,
1973.
一7)長
プ ラ ス ミ ン 研 究 会 報 告 集,1974. 像 か:第13回
プ ラ ス ミ ン 研 究 会 報 告
haemorrh.,
Pulmonary
1970.
Jap.
D. G.:
Diathes. der
219:
床 科 学,8:
etal.:
一5)長 McKey,
Ottolander,
一11}
Physiol.,
Hasegawa,
den
加 す る と考 え られ る 。 4)標
1971. 一6)
Acad.
Thrombos.
硬 塞 症 例 で は重 症 度 が増 す ほ ど,Fbgが
増量 す る傾 向 が あ る.実
251,
神 昭 雌
凝 固 と臨床 的発 症 との時 相 の ず れ が あ る こ とに留
J.
H.
一4)
田 博 ほ か:第14回
硬 塞 臨 床例 の解 析 に 当 つ て は急 性 血 管 内
Amer.
谷 川 淳 ほ か:臨
1972.
1974.
集,1973.一9)
3)肺
al.:
Hasegawa,
176,
(ed.Schmer,G.),
によ つ て成 立 す る. 2)肺
13:
et 一2)長
1972. -3)
J.,
の高度 な ほ ど,そ の 成 立 頻 度 は高 い.ま た楔 状 肺
T.
Maas, Hume,
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etal.:
embolism, Astrup,
G. J. H. 32: al.:
ibid,
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et
277,
aL: 1974.
26:
thrombosis Press.,
Mass., thromboPub.,
1,
シ ンポ ジ ウ ム (2)肺
血 液 凝 固 と線 溶 と凝 固 線 溶 系
北海道大学医学部第一内科 長谷川
SYMPOSIUM (2)
淳
ON THE BLOOD COAGULATION AND FIBRINOLYSIS
OBSERVATIONS ON THE COAGULATION AND FIBRINOLYSIS IN THE LUNG Hiroshi HASEGAWA, M.D. The First Department of Medicine, Hokkaido University School of Medicine, Sapporo,Hokkaido, Japan 1.は
じめ に
を作 製 す る と,石 松 子 静 注群 で は2日後にfibrino
組 織 の 綱 胞 蛋 白 に 結 合 して い る と考 え られ る組
gen(Fbg)の
有 意 な増 加 と線 溶 活-性 の低 下 を 認 め,
織thomboPlastin(以 下TTp)と 組 織activator(T Act)の うち,前 者 は脳 に 次 いで 肺 に多 量 に 存 在
細 切 凝 血 塊 静 注 群 で は3日 後 にFbgが 増 加 す る傾
す る が,後 者 は 少 な く,し か も 肺 動 脈,細
を 示 した3).
系 に存 在 して い る こ とがAstmpに
向 を 示 し,線 溶 活 性 は処 置 前 値 とほ ぼ 同様 の活{生
動脈
よつ て 指 摘 され
石松 子静 注群 で は静 注2日 後,細 切 凝 塩 塊 静注
て い る1).も し肺 が病 的 状 態 に お ち いつ た 場 合 に
群 で は3β 後 に,湿 重 量30㎎ の ヒ トまた は 家 兎凝
は,こ の両 老 が その 病 態 を少 なが らず 左 右 す る と
血 塊 を2コ 頚 静 脈 か ら注 入 す る と,24時 間後 に楔
考 え られ る.臨 床 的 に種 々 の肺 疾 患 に 際 して血 中
状 肺 出血 巣 が 出現 した.楔 状 肺 出 血 巣 を 認 め た実
凝 固 線 溶 活 性 の変 動 す る こ とが 認 め られ,さ
験 群 で は認 め なか つ た 実 験 群 に比 して,凝 血塊 注
らに
病 態 の解 明 と治療 へ の 応 用 を 目的 と して 凝 固 学 的
入 時 の凝 固活 性 は高 く,線 溶 活 性 は 低 く,さ らに
検 索 を要 す る疾 患 も多 いが,今 回 は肺 塞 栓 ・硬 塞
注 入後3∼6時
症 に か んす る凝 固 ・線 溶 現 象 を 中 心 に 述 べ る. 肺 硬塞 作製 実 験
間後 ではFbgの 消 費 と 線 溶活 性 の
進 が高 度 で あつ た3).Todd法
に よる凝血 塊 注 入 亢
24時 間 後 の組 織 線 溶 活 性 の 検 索 で は,凝 血塊,血
II.
肺硬 塞 に か ん す る 問題 点 と して,実 験 上Virchow
管 壁,凝 血 塊 よ り末 梢 部 に 多 数 の 溶 解 巣 を 認 め
は肺 動脈 を結 紮 して も赤 色硬 塞 を作 製 し得 なか つ
た4).抽 出法 に よるTActの
た と述 べ た よ うに肺 硬 塞 の実 験 的 作 製 の 困難 な こ
入3β 後 迄IMKSCN抽
とが 挙 げ られ て い る.疫 学 的 に本 邦 で は反 復 性 肺
凝 血 塊 注 入 に よ る と考 え られ る消 費 に よる低 下 を
塞 栓 症 に合 併 した 肺 硬 塞 が 多 い2)の で,そ
示 し,2M尿
の発 症
直 径20∼30μ の 石 松 子 浮遊 液10mg/mlを6ml, また は 湿重 量1㎎
血塊注
出Act活 性 が 前 処 置 お よび
素 抽 出Act活 性 は 模 状 肺 出酸 部 位 で
よ り高 値 を示 し,5日
機 序 の解明 を目 的 と して モデ ル 実 験 を 実 施 した.
検 索 で は,凝
以 後 に はIMKSCN抽
出Act
活性 が上 昇 し,組 織 修 復 との関 連 性 を推 測 させ る
に 細 切 した 約50〓 の 家 兎 な い し
所見 で あつ た4).組 織 学 的 に も,24時
ヒ トの 白色 凝 血塊 を 家兎 に 静 注 して肺 微 小 塞栓 症
間後 塞 栓子
よ り末 梢 の麹 管 内 皮 細 胞 の 空 胞 化,破
Cs)
日内会誌 第64巻
壊 がみ ら
第10号
長 谷川
1099
淳
れ,血 管 腔 内 へ の 組 織 因 子 の遊 出 の可 能 性 が 推 測
が 引 き金 となつ て肺 動 脈 に1血栓 を形 成 し,次 いで
された,ま た48時 間 後 に は,塞 栓 子 よ り末 梢 の肺
2次 血 栓 形 成 と共 に 肺 動 脈 を 閉 塞 して強 い胸 痛 が
動脈 に2次 漁 栓 形 成 もみ られ た.
出 現 した と考 え られ た 。従 つ て 急性血 管 内凝 固 の
状 肺 出血 巣 の 出 現 頻 度 は 楔 石 松 子 静 注 群 で80 %,細
切 凝 血 塊 静 注 群 で50∼55%で,後
時 期 は さか のぼ つ て血 小 板 数 の 変動 で推 察 され る が,強 い 胸痛 等 の自 覚 症 状 は 血 小板 数 が正 常 化 し
者 の成 績
は反復 性 肺 塞 栓 症 に お け る肺 硬 塞 の合 併 頻 度54%
て か ら出現 して い る こ とか ら,た また ま基 礎 疾 患
に類 似 した 成績 で あ つ た3).
の 経 過 を 連 続的 に観 察 して いた 症例 以 外 は,自 覚
以 上 の実 験 成 績 か ら楔 状肺 出血 巣 の成 立 機 序 を
症 状 出 現 前 に起 こる急性 血 管 内 凝 固 の 時 期 を把 握
考 え る と,石 松 子 な い し細切 凝 血 塊 静 注後 の 凝 固
し難 い こ とを 本 症例 は示 唆 して い る.な お 本 症例
進,線 溶 低 下 傾 向 の 最 も高 度 な 時 期 に 凝 血 塊 を 亢
で 自覚 症 状 出現3日 後X線 写 真 上 硬 塞 出現 を み た
注 入 した の で,注 入 した 塞 栓 子 周 辺 お よび そ の 末
の は実 験 の際,凝 血塊 注 入後24∼48時 間 で 模 状 肺
梢 で は組 織 標 本 で み られ た よ うに2次 血栓 形 成 が
出血 巣 が 出現 した こ と と同 じ機 序 に基 づ く と思 わ
促 進 され,凝 固 因 子 こ 消 費 と2次 線 溶 の亢 進 が 強
れ た5)。
く起 こ り,側 副 血 行 路 を 遮 断 され た 塞 栓 子 周 辺 と して 内 皮 細 胞
胸 痛 が 出現 し,自 覚 症 状 出 現 と同 時 に来 院 した39
出法 等 の所 見 か ら推 測 され
才 男 の症 例 で は,来 院 時 のX線 写 真 で左 上 肺 野 に
その末 梢 の肺 動 脈 で は 血 流 停 滞,そ の標本,Todd法,抽
肺 硬 塞 症 で入 院 治 療 し,退 院1ヵ 月後 に血痰,
る よ うに,組 織Actの 放 出 も加 わ り,局 所 線溶 の
硬 塞像 を認 めた.こ
進 が益 々高 度 とな り,血 管 透 過 性 が亢 ま り,24 亢 ∼48時 間後 に楔 状 肺 出血 巣 が 成 立 した と推 察 され
績 と石 松 子 静 注 後楔 状 肺 出血 巣 の 出現 した 実験 群
の症 例 の 経過 を 追 つ た 検査 成
た4).な お石 松 子 静 注 群 と 細 切 凝血 塊 静 注 群 の撰
諸 量 の 変 動経 過 を比 較 す る と,最 初 の時 期 の 変 動
状肺 出 血 巣 出現 頻 度 の差 は 肺 動 脈 の 塞 栓 部 位 の差
こ様 相 は類 似性 を欠 い て いた.そ
に よる側 副血 行 路 遮 断 の程 度 の差 に よる と考 え ら
述 の症 例 の経 験 か ら,自 覚 症 状 出現 前 に既 に 急 性
れ た.
血 管 内 凝 固 に基 づ く一 連 の変 動 が 既 に 終 息 して い
の 検査 成績 とを種,ス
ケ ール の 差 を無 視 して そ の の理 由 と して 前
た こ とに基 づ い て い る為 と思 わ れ た5).
皿 ・ 肺塞栓硬塞臨床症例における問題点
以 上2症 例 の 経験 か ら,肺 塞 栓,硬 塞 症 例 で 急
臨 床 的 に 本症 の診 断 率 は低 い現 状 で あ る の で,
性 血管 内凝 固 に 基 づ く,一 連 の凝 固 線 溶 系 の 変 動
臨床 症 例 で も前項 で述 べ た と同様 な急 性血 管 内凝 固 に基 づ く,凝 固 因 子 の 消 費 と線 溶亢 進 を証 明 し
を把 握 す る こ とは 困 難 で は あ るが,そ
得 る な らば,本 症 の 診 断 な らび に 治 療 へ 資 す る こ
症 の早 期 診 断 に 繋 が り,そ の症 例 の治 療 な い し予
とが大 で あ る と考 え られ る. 一 症 例 を提 示 す る と ,発 病 後 約3年 を経 過 した
後 へ資 す る こ とが 大 で あ る と考 え られ る ので,本 症 の発 症 が 予 測 され る基 礎疾 患 の存 在 す る時 に は
58才,女 のCML症
例 で は,Busulfanへ
の把 握 は 本
経 過 を追 つ て凝 固 線 溶 系 の 検 索 を す る こ とは有 意
の耐性出
義 で あ る. 1V・ 肺 硬 塞 発 症 後 のFbgの 動 態
現 の為 代 謝拮 抗 剤 を 使 用 し始 め た 直 後 か ら白 血 球,漁 小 板 の 急 激 な 減 少 を 認 め た の で 直 ちに 薬 剤
石松 子 静注 後 に凝血 塊 を注 入 した 襖 状肺 出 血 巣
を中止 した.そ の 項 か ら軽 い腰 背 部 痛 が 出 現 し,
作 製 実験 で は,出
中止1週 後 に は 白 血 球,血 小 板 数 と も正 常 値 とな つ た が,突 然 強 い 胸 痛 が 出現 した.そ の 時 の胸 部
め な か つ た 実験 群 に比 して2日 以 後 有 意 に 増 加 し
写真 では 異 常 陰 影 を認 め なか つ た が,3β
の 症例で
例 に つ い て,Fbgの 動 態 を検 討 した. 70才,男,泌 尿科 的手 術 後 に シ ョッ ク症 状 を 伴
は,急 激 な白 血 球 の破 壊 で 放 出 され たTTp様 物 質
つ て 発 症 し,術 後2週 で 肺 動 脈 が 再 流 通 した 右
下肺 野 に2個
の硬 塞 像 が 出 現 した.こ
昭 称50年10.月10日
た 成 績 を 得 た.そ
後 に左
(9)
血 巣 を 認 め た 実験 群 のFbgは 認 こで臨 床 的 発 症 時 期 の明 確 な 症
1100
シ ンポ ジ ウム
肺 動 脈 塞 栓 症 例 で あ る.Fbgは
血 液 凝 固 と線溶(2)
術後10日 ま で増 量
凝 固6)の 症 候 と して 指摘 され て い るFbgの 増加 と
し,以 後 正 常 化 した.
類 似 す る機 序 に 基 づ い て い る と思 わ れ た.
右 肺 動 脈 影 が 消 失 し,左 肺 動 脈 へ の 血 流 の シ フ トを推 察 させ た35才,男
種 々の 濃 度 の τTpを 週5回,3週
の 症 例 で は,入 院後 右 上
間 家 兎 に 静注
す る と,1%の
濃 度 の 注 射群 に の みFbgが 有 意 に
中 肺 野 に 空 洞 を 伴 う硬 塞 像 の 出 現 を 認 め た が,
増 加 した.こ
の成 績 か らTTpが 引 き 金 とな るFbg
Fbgは 最 高70mg/d1と
著 増 し,症 状 改 善 と共 に
の 増 加 に は あ る至 適 濃 度 が あ る よ うに 推 察 され
Fbgも 正 常 化 した.増
加 期 間 は 約50β で あ つ た.
た7).
前 項 で 後 述 した39才,男
の 症 例 では,Fbgは
常 範 囲 内 の 変 動 で あ るが,5蜜
V・ 標識Fbgの 血 中 消 失 曲 線
正
後 最 も増 加 し,10
肺 塞栓 ・硬 塞 症 の 臨床 症 例 な らび に 実 験 上Fbg
日後 まで 増 加 傾 向を 示 した. Fbgの 増 加 が10日 間 続 い た 肺 塞 栓 症 例 と50日 間
の 増 加 が認 め られ た が,そ の際 のFbg代 謝 をみ る
持 続 した 肺 硬 塞 症 例 の 成 績 は,前
お 実験 に用 い た家 兎Fbgはpolyethylenglyco18)で 作
に,家 兎 の1霞
と症 例 の7∼10日
わ せ て 比 較 す る と,模
目的 で標 識Fbgの 血 中 消失 曲線 の検 討 を した.な
項 と同 じ よ う とス ケール を合
製 した が,polyacrylomideゲ
状 肺 出血 巣 の 有 無1に よ る
成 分 で あ り,90∼95%可
Fbgの 差 と類 似 した成 績 で あ つ た .し か し肺 硬 塞
ル電 気 泳 動 で単 一 の
凝 固 性 で あつ た.
正常 家兎 の溶 血 血液9)を 用 い て 測定 した 血 中消
症 例 で も軽 症 例 で は 正 常 範 囲 内 の 変 動 を示 す のみ
失曲 線 は 第1相
で あつ た.こ れ らの 重 症,軽 症 の肺 硬 塞症 例 の成
り,以 後 減 衰 した.こ の 消失 曲線 は二 つ の指数 関
績 と実験 成績 とを あ わ せ て 考案 す る と,肺 硬 塞 症
数 の 和 に解 析 され,そ れ ぞれ 半 減 期 は8.1,60.8
例 に お け るFbgの 増 減,そ
時 間 で あ つ た(図1).石
の持 続 の 長 短 は局 所 病
変 の重 症 度 に関 係 が 深 く,Fbgは に し得 る と考 え られ た,そ
予 後 推 測 の 指標
き金 とな つた と推 測 され,そ
図1.正常
松 子 静 注 に よる肺 微小 塞
栓 作 製2日 後 のFbg増 加 時 の溶 血 血 液 の消 失曲 線
して肺 硬 塞 症 例 に お け
るFbgの 増 加 は 病 巣 局所 か ら放 出 され たTTpが
と第2根 の移 行 部 がや や 平 坦 とな
は 第1相 か ら第2相
引
へ の移 行 部 の活 性 が上 昇 し,
以 後 減 衰 した.こ の 消失 曲線 も二 つ の指 数 関数 の
の増 加 は慢 性 血 管 内
和 に解 析 され,そ れ ぞれ 半 減 期 は6.0,37.8時
家 兎 か ら得 た溶 血 血 液 に お け る標 識Fbgの 消 失 曲線(左 図),そ の 消 失曲 線 の解 析(右図)
(10)
日内会誌
第64巻
第10号
間
長谷川
図2.石
図3,石
松 子 静 注2日 後 のFbg増 加 時 の溶 血血 液 にお け る標 識Fbgの 消失 曲線(左 図), そ の消 失 曲線 の解 析(右 図)
松 子 静 注2日 後 の 血漿,凝
固 部 分,血 清 に お け る消 失 曲 線(左 函),そ の消 失 曲線 の解 析(右 図)
の 切 り込 み の あ る特徴 的 な型 は塞 栓 症 の 存 在 を
であつ た(図2). 肺 塞栓 症(5正 才,男),肺
示 唆 す る所 見 と して,診 断 上 に も有 用 と考 え られ
硬 塞 症(45才,男)に
た.
つ いてFbg増 加時 の溶 血 血液 を用 いた 消 失 曲線 は 第1相 か ら第2相
次 に血 漿,凝 固 部分,血
へ の移 行 部 の活 性 が上 昇 し以 後
清 に分 け,そ の各 部 分
に つ い て消 失 曲 線 を 求 め た.対 照 と 熱た 正常 家 兎
減衰 す る前 述 の 実験 成 績 と類 似 した 型 で あ つ た.
に おけ る血 漿10),凝 固 部 分,血 清 の 消 失 曲線 は第
以上 の実 験 お よび 臨 床 症 例 でみ られ た 減 衰 曲 線
昭和50年10舞10日
1101
淳
(11)
1102
シ ンポ ジ ウ ム
1相 と第2相 した.こ
血 液凝 固 と線 溶(2)
の移 行 部 の 活 性 が 上 昇 し,以 後 減 衰
識fibrinない しFbgの 分 解 に よつ て生 じたFDPが 1町 を分 離 し易 い こ とを 示 唆 して い る と 考 え られ
の3者 と もそ れ ぞ れ 二 つ の 指数 関数 に解
析 され,そ の 半 減 期 は血 漿5.8,50.3,凝 7.2,50.2,血
清5。8,43時
静 注2日 後 に測 定 した 消失曲 線 も血 漿,凝 分,血 清 の3者
この項 の 成績 を ま とめ る と,採 取 血 液 の凝 固部 分 の放 射活 性 は6brin生 成,間
固部
質 液 へ の 移 行,分
解 に よつ て 減衰 し,間 質 液 か らの再 移 行 に よる増
ともそ れ ぞ れ 二 つ の指 数 関数 に解
析 され,血 漿6.8,43,凝 清7,2,43時
た.
固部 分
間 で あ つ た.石 松 子
加 が 加 わ6,血
固 部 分6.4,27.4,血
1,FDP等)の
間 で あつ た.し か も24時 間 場後 の血
清部 分 は非 凝 固部 分(標 識 蛋 白, 尿 中排 出,網 内 系 へ の補 捉 等 に
よ る減 衰 とfibrin分 解 標 識 蛋 白 ・1の 増 加 が 加 わ
漿 と血 清 の 曲線 の 型 の類 似 性 が 高 く,血 漿 に お け る消 失 曲線 は血 清 部 分 に 強 く影 響 され て い る と考
り,凝 固 部分 と血 清部 分 の放 射 活 性 に そ れ ぞれ 指
え られた(図3)る
数 関 数 的 に 減衰 す る部分 と放 物 線 状 に増 加 し減衰
以 上 の成 績 か ら,正 常 家 兎 の 血 漿 と凝 固部 分 の
す る部 分 に 解 析 され る もの と考 え られ た 。な お
半 減 期 は ほぼ 同値 で あつ た が,石 松 子 静 注群 こ 血
血 雄 液 お よび 血漿 の 消失 曲線 は,凝 固部 分 と漁 血清
漿 と凝 固 部 分 の差 はと くに大 で あつ た.こ の こ と
部 分 の合 成 と して考 え られ る. VI.今
か ら血 中Fbgの 代 謝 を観 察 す る 目的 で 全 血 な い し
後 の課 題
血 漿 を用 い る こ とに は問 題 が あ り,凝 固 部 分 に つ
血 栓 症 に おけ る血 液凝固 学 的研 究 の 対象 は,10
い て測 定 す べ きで あ る 。凝 固 部 分 に つ い て,正 常
年 来 肉眼 的 血 栓 か ら微 小 血栓 へ と移 行 して い る.
家 兎 と石 松 子 静 注 群 との 半減 期 を比 較 す る と, の半 減 期
肺 微 小 血 栓 は0.25∼1㎜ 径 の 肺 動脈 微 小血 栓 と ∼100μ 径 の毛 細 管 微 小 血 栓 に 分 類 され,龍 者 20
は石 松 子 静 注 群 で著 明 に短 縮 して いた.こ の 成 績
は 静脈 系か らの塞 栓 子 と同 様 の構 造 を 示 し,後 者
か ら,石 松 子 静 注2日 後 にみ られ たFbgの 増 加 は
は 血小 板 凝 集 塊,fibrin血 小 板 の混 在 す る構 造 を示
過 産 生 の状 態 に基 づ く もの で あ る とい い得 る.
して い る.し か も後 者 は 外 傷,手 術 後,シ
72,50.2と6.4,27.4時
52才,女
間で,第2相
状 態 に認 め られ,12∼48時
子 の肺 硬 塞 症 例 で,症 状 もほ とん ど消
ョック
間 以 後 消 失 す る こ とが
の移 行 部 の活 性
多 い11). TTpは 微 小 血 栓 形 成 の 引 き金 の一 つ に 挙 げ ら
が や や平 坦 とな り,以 後 再 び減 衰 した ・な お お の
れ,流 血 中 のTTPは 肺 で 捕 捉 さ れ る こ とをAstrup
お の は二 つの 指数 関数 に解 析 さ れ,前 述 の実 験 成
は 記載 して い る12).TTpを
績 と同様 の成 績 で あ つ た.
時間 後 に凝 固 ・線溶 因子 こ消 費,PF4の
増 加,6
時 間 でFOPの
織学的 に
退 した時 期 の標 識Fbgの 消失 曲線 は 血 漿,凝 分,血 清 部分 と も第1根
標 識FDPの FDP血
と第2相
固部
消 失 曲 線 を 求 め る 目的 で 血清 に抗
は,5∼15分
清 を 加 え,そ の 遠 心沈 殿部 分 ζ つ い て放
射 活 性 を 測 定 した.血 清 の 全放 射 活 性 の5%以 と第2糊
増 加 傾 向 を 示 した.組 後 に100μ
以下 の 血 管 にPTAH染
色 で濃 青 色 に染 色 され る丘brin血栓 の 存 在 を 認 め,
下
電 顕 で血 小 板 の血 管 壁 へ の 粘 着 像 が 認 め られた.
活 性 を 示 す の み で あ つ 起.ま た,そ の 消 失 曲の 線 は第1相
家 兎 に静 注 す る と,3
TTpを 静 注 す る と,何 故 細 血管 に血 栓 が 形 成 さ
の移 行 部 の活 性 が 急 上 昇 し,10
れ る か の疑 問が あ るが,肺 血 管 網 の表面 積 が大 で
時 間 目を極 値 と して以 後 急 激 に 減 少 し,12階 閥 以 後 は 活 性 も少 な く,勾 配 の 低 い曲 線 を 得 た.こ の
あ る こ と,肺 に おけ る壷 流 速 度 の遅 延,TTpの
消 失 曲線 でみ られ た10時 間 目を 尖 端 と した 槍 の 穂
注 後 肺 の総 血 管 に 到 達 す る以 前 に凝 固 機 転 が始 動
先 状 の活 性 上 昇 は,血
して い る こ と等 が そ の因 と して挙 げ られ る 。TTp
清 の消 失 曲線 の 解 析 か ら
静
得 られ た 放 物 線 の 上 行 脚 に繋 が る よ うな型 で あつ
に鰐 す る坑 血 溝 を ラ ッ トで 作 製 し,イ ヌ肺 組織 片
た.こ
をTTp液 で1時 問37℃ で反 応 させ,洗
の よ うな特 異 なFDPの
消 失曲 線 は,標 (12)
巨内 会 誌
浄 後,抗 血
第64巻
第10号
長 谷川
1103
淳
清 を2時 間37℃ で反 応 させ,洗 浄 後 蛍 光 標 識 抗 ラ トγ グ ロブ リンで20分 反 応 後 再 び 洗 浄 して蛍 光 ッ
らな り,そ の 型 か ら塞 栓 症 の診 断 も可 能 と思 わ れ
顕微 鏡 で観 察 す る と,血 管 内膜 に蛍 光 を認 めた. この成 績 は,血 管 内膜 にTTpに 対 す る 親 郡 性 物 質
算 出す べ き で,石 松 子 静 注2田 後 に お け る 標 識 Fbgの 半 減 期 は27時 間(対 照50時 間)でFbgの 増
が 存在 す る こ とを示 唆 す る もの と考 え られ る が,
加 は過 産 生 に 基 づ いて い る と考 え られ る.
なお 血管 内 皮細 胞膜 と凝 固 因 子 と く にTTp,血
る.標 識Fbgの 半 減 期 は凝 固 部 分 の 消失 曲線 か ら
5)肺
小
小血 管 内膜 にTTpに 対 す る親 和性 物 質 が
存 在 す る こ とが推 測 され る.
板 膜 との親 和性 の解 析 に か ん す る詳 細 な研 究 が肺 微 小血 栓 の 病 態 解 明 の た め に は 必 要 で あ る, VII.ま とめ 1)肺
参 考文 献
硬 塞 作 成 実 験 で は,前 処 置 に 用 い る微 小
血 栓子 が 小 さ く,び 漫 度 の高 いほ ど,2次
1)
Astrup,
1140,
処置 と
1970.
169)
して の凝 血 塊 注 入 時 の凝 固亢 進,線 溶 低 下 の反 応
ibid,
出血 巣 は消 粍 性 凝 固 障 害 に加 え て,局 所 線 溶亢 進
15:
12: 165,
一8)三
意 しな け れば な らな い.
一10}
Von
1971. &
験 的 肺 硬 塞 ではTTpが 引
一12)
き金 とな つ た慢 性 血 管 内凝 固 に 基 づ いてFbgが 増
embolism(ed.Moser), 1973.
識Fbgの 血 中 消 失曲 線 は2曲 線 の 合成 か
昭 秘0年10月10日
(13)
Heart
H.
etal.:
谷 川 淳;臨
Press,
床 壷 液,
Coagulation
N. Y.,
1973.
一7)長
プ ラ ス ミ ン 研 究 会 報 告 集,1974. 像 か:第13回
プ ラ ス ミ ン 研 究 会 報 告
haemorrh.,
Pulmonary
1970.
Jap.
D. G.:
Diathes. der
219:
床 科 学,8:
etal.:
一5)長 McKey,
Ottolander,
一11}
Physiol.,
Hasegawa,
den
加 す る と考 え られ る 。 4)標
1971. 一6)
Acad.
Thrombos.
硬 塞 症 例 で は重 症 度 が増 す ほ ど,Fbgが
増量 す る傾 向 が あ る.実
251,
神 昭 雌
凝 固 と臨床 的発 症 との時 相 の ず れ が あ る こ とに留
J.
H.
一4)
田 博 ほ か:第14回
硬 塞 臨 床例 の解 析 に 当 つ て は急 性 血 管 内
Amer.
谷 川 淳 ほ か:臨
1972.
1974.
集,1973.一9)
3)肺
al.:
Hasegawa,
176,
(ed.Schmer,G.),
によ つ て成 立 す る. 2)肺
13:
et 一2)長
1972. -3)
J.,
の高度 な ほ ど,そ の 成 立 頻 度 は高 い.ま た楔 状 肺
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