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食衛誌 Vol. 58, No. 3
調査・資料
ステンレス製の食品用容器および調理器具中の含有金属に関する実態調査 （平成２９年２月 16 日受理）
塩澤
優 *
羽石奈穂子 鈴 木 公 美 荻 本 真 美 富 岡 直 子 植 松 洋 子 門 間 公 夫
高 梨 麻 由
Survey on Metals Contained in Stainless Steel Kitchenware and Tableware Yuu Shiozawa*, Nahoko Haneishi, Kumi Suzuki, Mami Ogimoto, Mayu Takanashi, Naoko Tomioka, Yoko Uematsu and Kimio Monma Tokyo Metropolitan Institute of Public Health: 3–24–1 Hyakunin-cho, Shinjuku-ku, Tokyo 169–0073, Japan; *Corresponding author Stainless steel kitchenware and tableware on sale in Japan were investigated. Surface elemental composition ratios of 172 samples were analyzed by the fluorescence X-ray method. High levels of manganese（9.59–20.03％）were detected in 17 samples. This finding was confirmed by ICP analysis. Next, we conducted migration tests. Samples conformed to the Italian Specific Migration Limits. Moreover, lead and antimony were not detected in these samples, in accordance with the Japanese Food Sanitation Law. （Received February 16, 2017） Key words: ステンレス stainless steel; マンガン manganese; 鉄 iron; ニッケル nickel; クロム chromium; 鉛 lead; カドミウム cadmium; アンチモン antimony; 蛍光 X 線 X-ray fluorescence analysis （XRF）; 誘導結合プラズマ発光分析法 ICP 付 録 資 料： 付 録 資 料（付 録 表 S1）は J-Stage の 日 本 食 品 衛 生 学 雑 誌（https://www.jstage.jst.go.jp/ browse/shokueishi.58.166）で閲覧できる． 緒
言
用いられる金属について，鉛（Pb）（0.1％以下）および
ステンレス鋼は，鉄（Fe）にクロム（Cr）を 10.5％以
アンチモン（Sb）（5％未満）の限度について規格が定め
上添加し耐食性を向上させた合金であり1），食品用容器，
られているのみで Mn に関する規格はないため，Mn を含
調理器具に多用されている．
むステンレスを食品用容器として使用することは可能であ
平成 25 年に台湾で基準値を超えるマンガン（Mn）を含 有し，ニッケル（Ni）と Cr の量は不足しているステンレ
る． 一方，日本工業規格（JIS）では含有成分によりステン
ス製弁当箱が発見されたという報道があった *1．台湾で
レスの鋼種（以下 SUS と称す）が決められており2），鋼種
は ス テ ン レ ス 材 質 中 の Mn の 割 合 は 中 華 民 国 国 家 規 格
ごとに Cr，Mn，Ni について含有量範囲や限度値が定めら
CNS-8497-G3163 で，200 系 で は 5.5∼10％，300 系 で は
れている（Table 1）．
2.0％以下，400 系では 1.0％以下と定められており * ，こ 2
ス テ ン レ ス 製 品 に は Mn の 含 有 量 が 2.00％ 以 下 の
れらの規格に適合しなかったものと考えられる．具体的な
SUS304 等の 300 系，1.00％以下の SUS430 等の 400 系ス
検出量は不明であるが，Mn を多く含有するステンレス製
テンレスが常用されているが3），それに加えて，ここ数年
の食品用容器および調理器具（以下，ステンレス製品）の
の間の Ni 価格の高騰に伴い，Ni の代替元素として価格の
使用により，Mn が溶出して食品に移行する可能性が考え
安い Mn を用いた省 Ni 高 Mn ステンレス鋼と言われる 200
られる． わが国の食品衛生法では，金属製器具・容器包装として
系ステンレスも開発されている *2．このような影響によ
り中国と同様，わが国でも JIS に適合しない製品が流通し ている可能性が考えられるが，その実態に関する調査報告
* 連絡先： [email protected]
東京都健康安全研究センター： 〒169–0073 東京都新宿区 百人町 3–24–1 *1 http://news.livedoor.com/article/detail/7875037/ *2 http://health.hk.edu.tw/files/archive/428_517fff66.pdf
はない． そこで，わが国で流通しているステンレス製品が，JIS のどの鋼種に該当するか，Mn の含有量等が JIS に適合し ているかについて調査した．
June 2017
ステンレス製食品用容器，調理器具中の含有金属に関する実態調査
Table 1. Stainless steel grades（JIS standard） SUS No. SUS445J1 SUS430LX SUS430J1L SUS430 SUS429 SUS405 SUS410L SUS304 SUS304L SUS304N1 SUS304N2 SUS302 SUS201 SUS202
Cr（％） 21.00̶24.00 16.00̶19.00 16.00̶20.00 16.00̶18.00 14.00̶16.00 11.50̶14.50 11.00̶13.50 18.00̶20.00 18.00̶20.00 18.00̶20.00 18.00̶20.00 17.00̶19.00 16.00̶18.00 17.00̶19.00
Mn（％）
Ni（％）
≦1.00 ≦1.00 ≦1.00 ≦1.00 ≦1.00 ≦1.00 ≦1.00 ≦2.00 ≦2.00 ≦2.50 ≦2.50 ≦2.00 5.50̶7.50 7.50̶10.00
≦0.6 ≦0.6 ≦0.6 ≦0.6 ≦0.6 ≦0.6 ≦0.6 8.00̶10.50 9.00̶13.00 7.00̶10.50 7.50̶10.50 8.00̶10.00 3.50̶5.50 4.00̶6.00
また，ステンレス製品からの金属の溶出量について，
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Primus II． ICP： Perkin Elmer 社製 Optima 7300DV 型． 4. 試料表面元素組成比分析 XRF による分析を行い，試料表面の元素組成比を求め た． 5. 含有金属分析
河村らの方法 *7 に準じ，試料約 0.2 g を精密に試験管に 量り，塩酸–硝酸の混液（1 : 1）20 mL を加え，2 日間室温 で放置し試料を溶解した．この溶解液 5 mL を，蒸留水を 用いて 50 mL とし，さらに塩酸–硝酸の混液（1 : 1）を 10 倍希釈した溶液を用いて 50 倍希釈，または 500 倍希釈し た．その後，0.45 μm のフィルターでろ過したものを試験 溶液とし，ICP を用いて測定した． 6. 食品擬似溶媒を用いた金属の溶出量分析 6.1 イタリアの溶出試験法
コーデックス委員会，欧州委員会，FDA 等において，規
イタリアのステンレス製品の溶出試験法に準じ *3，液
格は設定されていないが，イタリアではステンレス製品中
体 を 満 た せ る 試 料 は，3％ 酢 酸 を 試 験 品 上 部 の 縁 か ら
の Mn，Ni，Cr に対して溶出試験の規格を定めており *3， Mn，Ni，Cr の金属溶出による通関拒否も報告されてい る *4∼*6． Mn，Ni，Cr は必須微量元素であるが，多量に
5 mm まで加え，満たせない試料は試料表面積 1 cm2 当た り 2 mL の割合の 3％酢酸に浸漬し，100℃のオイルバス中 で 30 分間溶出した．この溶出操作を 3 回繰り返し，1 回目
暴露されると Mn は中枢神経障害や呼吸器障害4），Ni はア
から 3 回目の溶出液のそれぞれについて 0.45 μm のフィル
レルギー性皮膚炎5），Cr は消化器症状等がみられることが
ターでろ過し，ICP で測定した．
ある6）．そこで，Mn についての溶出限度を設定している
6.2 わが国の合成樹脂規格試験に準じた溶出試験
イタリアの基準を参考に溶出試験を行った．併せて，Pb，
食品衛生法の器具及び容器包装の「溶出試験における試
Sb 等，食品衛生法上の規格についても試験を行った．
験溶液の調製法」に準じ *8，液体を満たせる試料は，4％ 酢酸を試験品上部の縁から 5 mm まで加え，満たせない試 料は試料表面積 1 cm2 当たり 2 mL の割合の 4％酢酸に浸
実験方法 1. 試
料
平成 26 年度に都内で購入したステンレス製のスプーン， ナイフ，フォークおよび箸などの食器 61 製品（64 試料），
漬し，95℃の水浴中で 30 分溶出した．得られた溶出液を 0.45 μm のフィルターでろ過したものを ICP で測定した．
ならびにおたま，トング，型抜き，おろし金，鍋および
結果および考察
ボールなどの調理器具 103 製品（108 試料），合計 164 製
1. 試料表面元素の組成比
品（172 試料）． 2. 試
薬
XRF による試料表面元素組成比分析により，試料表面 の 元 素 組 成 比 を 求 め，JIS 規 格 と 比 較 し た（Table S1，
塩酸： 特級，和光純薬工業（株）製．硝酸，酢酸： 精密分
Fig. 1）．172 試料中 149 試料は，食品用器具に使用される
析用，和光純薬工業（株）製．Mn，Fe，Cr，Ni，Pb，カド
こ と の 多 い 400 系 お よ び Ni を 含 有 し，400 系 よ り 耐 食
ミウム（Cd），Sb 標準液： 和光純薬工業（株）製．
性・ 加 工 性 に 優 れ る 300 系7） で あ る と 推 測 さ れ た
3. 装
置
蛍 光 X 線 分 析 装 置（XRF） ： 理 学 電 気 工 業（株）製 ZSX
（Fig. 1）．149 試料の約 8 割は 400 系のステンレス製品と 推測され，型抜き，トング，はさみはすべて 400 系に分類 された．400 系に比べ 300 系のステンレス製品は少なかっ
* Ministero della salute, Dcreto 11 novembre 2013, n.140. 3
Regolamento recante aggiornamento al decreto del Ministro della sanita ’ 21 marzo 1973 recante:“Disciplina igienica degli imballaggi, recipienti, utensili destinati a venire a contatto con le sostanze alimentari o con sostanze d’ uso personale” limitatamente agli acciai inossidabili. （13G00184）．Gazzetta ufficiale della repubblica Italiana. *4 https://webgate.ec.europa.eu/rasff-window/portal/?event＝ notificationDetail&NOTIF_REFERENCE＝2013.ASS *5 https://webgate.ec.europa.eu/rasff-window/portal/?event＝ notificationDetail&NOTIF_REFERENCE＝2014.ACS *6 https://webgate.ec.europa.eu/rasff-window/portal/?event＝ notificationDetail&NOTIF_REFERENCE＝2014.AFY
たが，300 系に分類された製品が複数あった試料として は，おたま（12 試料中 5 試料），スプーン（33 試料中 7 試 料），ティーストレーナー（7 試料中 4 試料），フォーク（2 試料中 2 試料）等のカトラリー製品が多かった． 日本製 のステンレス製品 66 試料の 90％以上は，JIS のいずれか の鋼種に分類できた． *7 河村葉子他．食品用器具・容器包装及び乳幼児用玩具の安全
性確保に関する研究．平成 18 年度厚生労働科学研究，2007．
*8 食品，添加物等の規格基準．昭和 34 年 12 月 28 日，厚生省告 示第 370 号．
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400 系，300 系のいずれにも分類されなかった 23 試料中
食衛誌 Vol. 58, No. 3
こ の 他 に，Mn の 含 有 量 は 2.00％ を 超 え て い な い が，
17 試 料 で，2.00％ を 超 え て Mn が 検 出 さ れ， 検 出 量 は
XRF による試料表面元素組成比分析の結果，JIS のどの鋼
9.59∼20.03％であった．うち 12 試料は，Mn を含有する
種にも分類されなかったステンレス製品が 6 試料あった．
SUS200 系の Mn の最大組成比である 10.00％を超えてい た．17 試料の原産国は中国が 10 試料と半数以上を占め， 次いでインド 4 試料，日本 2 試料，記載なし 1 試料であっ た．
参考として XRF の測定結果により確認された SUS 鋼種 と 200 系の SUS 鋼種の JIS 規格値を Table 1 に示した．
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ステンレス製食品用容器，調理器具中の含有金属に関する実態調査 Table 2. Analysis of metals by ICP and fluorescence X-ray methods Mn（％）
Product name* Cup 1 Cup 2 Measuring cup 1 Tea strainer 3 Saucer of tea strainer 3 Pot 1 Chopsticks 2 Bowl 1 Bowl 2 Bowl 3 Bowl 6 Cold noodles bowl 1 Cold noodles bowl 2（large） Cold noodles bowl 2（small） Cold noodles bowl 3 Lid of cold noodles bowl 1 Lid of cold noodles bowl 2 Spoon 9 Spoon 22 Spoon 23 Spoon 24 Chopsticks 1 Kitchen knife 2
Fe（％）
Cr（％）
Ni（％）
Possible JIS
X-ray
ICP
X-ray
ICP
X-ray
ICP
X-ray
ICP
X-ray
ICP
10.27 11.17 9.65 20.03 10.90 10.77 11.30 9.59 10.60 10.90 10.13 11.43 9.75 10.00 9.59 11.63 10.77 0.06 1.10 0.13 ND 1.35 1.62
10.19 10.84 9.17 18.79 10.12 10.41 11.10 8.88 10.56 10.59 9.97 11.26 9.39 9.65 9.15 11.38 10.81 ND 0.87 ND ND 1.23 0.64
71.33 69.60 71.77 61.73 73.57 72.20 71.73 74.87 72.83 72.23 71.47 72.40 71.80 71.70 73.33 73.47 72.87 13.60 69.50 78.27 8.74 68.83 84.80
73.48 70.57 71.91 65.73 73.45 72.19 72.86 72.75 76.33 73.22 76.26 73.21 72.99 73.86 73.02 74.38 76.98 61.21 70.82 80.62 84.63 73.51 86.94
15.07 14.47 14.30 13.90 12.13 13.60 13.73 12.90 13.80 14.17 14.90 13.50 14.87 14.90 14.47 12.93 13.70 2.91 17.70 20.33 1.35 20.63 12.30
15.27 14.21 13.49 13.69 13.21 13.45 13.01 12.06 13.85 13.66 15.11 13.34 14.58 14.61 13.85 12.78 13.79 11.38 19.07 21.60 12.32 19.10 8.49
0.80 1.82 0.62 0.12 0.77 1.10 1.32 0.21 0.79 1.23 1.22 1.10 1.32 1.28 1.19 0.78 1.28 82.63 10.60 0.18 87.73 7.77 0.55
0.82 1.85 0.62 0.09 0.82 1.04 1.23 0.21 0.81 1.22 1.19 1.11 1.32 1.26 1.23 0.73 1.36 2.57 10.45 0.20 4.22 8.15 0.35
− − − − − − − − − − − − − − − − − − − − − − −
− − − − − − − − − − − − − − − − − SUS410L SUS304,304L SUS445J1 SUS405,410L SUS304,301J1 −
* Samples which can’ t be classified into JIS in XRF
■ : Mn content over 10.00％ ■ : Possibility of surface plating Limit of detection of fluorescence X-ray method: 0.5％（Fe, Cr），0.05％（Mn, Ni） Limit of quantification of ICP: 0.5％（Mn, Fe, Cr），0.05％（Ni） −: Cannot be classified into JIS Table 3. Migration test of stainless steel products according to Italian standards Sample Tea strainer 3 Chopsticks 2 Cup 2 Saucer of tea strainer 3 Bowl 3 Bowl 2 Cup 1 Bowl 6 Measuring cup 1 Bowl 1
Solvent vol.（mL） Surface area（cm2） 96 140 215 100 500 1,150 100 750 200 490
48 70 133 50 228 422 74 288 126 235
*1 Concentration in test solution（ng/mL） Mn
Cr
Ni
48±7 60±22 44±9 27±4 49±9 26±9 80±11 38±6 39±7 42±9
18±2 32±25 22±5 14±1 17±1 ND 25±7 19±3 17±2 13±2
ND*2 ND ND ND ND ND ND ND ND ND
*1Average±S.D.（n＝3） *2ND: not detected
Test solvent: 3％ acetic acid Migration conditions: 100℃ 30 min Limit of quantification: 10 ng/mL
2. 含有金属の分析結果
の 試 料 の Cr と Ni の 含 有 量 は Mn を 多 く 含 む SUS201，
XRF において JIS の鋼種に分類できなかった 23 試料を
SUS202 に比べ明らかに低く，平成 25 年に台湾で発見さ
ICP で定量した（Table 2）．Mn が最大組成比を超えて検
れたステンレス製弁当箱の事例と類似のものと考えられ
出された 12 試料のうち 11 試料では，XRF の結果と同様に
た．このほか，Mn の含有量は 2.00％を超えていないが
Mn の 含 有 量 が 10.00％ を 超 え て い た が，Bowl 6 で は
JIS の鋼種に分類できなかった 6 試料のうち Spoon 9 と
10.00％を下回っていた．また，ICP においても，これら
Spoon 24 では，Ni の含有量が XRF の結果と大きく異なっ
170
食衛誌 Vol. 58, No. 3
Fig. 2. Migration tests of stainless steel products Test solvent: 3％ acetic acid Migration conditions: 100℃ 30 min Determination limit in test solution: 10 ng/mL
ていた．XRF では，試料の分析深さが数∼数十 μm 程度ま
イタリアの溶出試験では 3 回目の測定値を用いるが，3
での表面分析となるため8），この 2 試料は表面の Ni めっき
回連続溶出により得られた 1 回目から 3 回目の溶出量を調
により，XRF では Ni の影響が大きく出たと考えられた．
査した．Mn, Ni, Cr に加えステンレス製品から溶出する
こ の 2 試 料 を 除 く XRF と ICP の 測 定 結 果 は ほ ぼ 同 様 で
可能性のある Fe について連続溶出を行った結果，1 回目
あった．しかし，残りの 4 試料のうち，Kitchen knife 2 以
から 3 回目にかけ Fe, Mn, Ni, Cr の溶出量は徐々に減少し
外 の Spoon 22，Spoon 23 お よ び Chopsticks 1 の 3 試 料
ていた（Fig. 2）．
は，僅かな数値のずれで XRF の結果からは JIS にあては
3.2 わが国の合成樹脂規格試験に準じた溶出試験
まらなかったが，ICP の結果では範囲内に入ったため，
食品衛生法ではステンレス製品中の金属について，溶出
JIS のいずれかの鋼種に分類することができた． 以上の結果から，XRF はスクリーニングに使用可能で
試験は定められていないが *8，合成樹脂に関して重金属 試験が設定（溶出条件： 4％酢酸，60 または 95℃，30 分）
あるが，表面にめっきが施されているような試料について
されている *8．そこで，この溶出試験をもとに，溶出試験
は ICP が有用であることが示唆された．
条件を設定した．溶出溶媒は 4％酢酸，溶出温度と時間
3. 食品擬似溶媒を用いた金属の溶出量
は，溶出条件として最も厳しい条件である，使用温度が
3.1 イタリアの規格試験法による分析結果
100℃を超える場合の 95℃，30 分を設定した．含有量が
イタリアのステンレス製品の溶出試験法に準拠し溶出を
高くステンレス製品から溶出する可能性がある金属とし
行い，測定値とイタリアの限度値（Mn, Cr, Ni それぞれ
て，Mn, Fe, Cr, Ni, さらに，合成樹脂や金属において規
0.1 ppm 以下）を比較した．
格が設定されている Pb，Cd，Sb を測定対象とした．XRF
XRF において，Mn 含有量が 2.00％を超えて検出された
において，Mn 含有量が 2.00％を超えて検出された 17 試
17 試料中，加熱すると破損の恐れのある試料と複数購入
料中，試料を複数購入できた 16 試料について溶出を行っ
できなかった試料を除く 10 試料について試験を行った結
た．その結果 Mn が 93∼1110 ng/mL（16 試料中 16 試料），
果，Mn, Cr, Ni の溶出量は，いずれも 0.1 ppm 以下であ
Fe が 431∼5,360 ng/mL（16 試 料 中 16 試 料），Cr が 17∼
り，イタリアの限度値を満たしていた（Table 3）．
169 ng/mL（16 試 料 中 13 試 料），Ni が 13，23 ng/mL（16
June 2017
171
ステンレス製食品用容器，調理器具中の含有金属に関する実態調査 Table 4. Migration test of stainless steel products according to Japanese standards
Sample
Mn（％） Solvent vol. （fluorescence X-ray） （mL）
Tea strainer 3 Lid of cold noodles bowl 1 Cold noodles bowl 1 Chopsticks 2 Cup 2 Saucer of tea strainer 3 Bowl 3 Lid of cold noodles bowl 2 Bowl 2 Cup 1 Bowl 6 Cold noodles bowl 2（small） Cold noodles bowl 2（large） Measuring cup 1 Bowl 1 Cold noodles bowl 3
20.03 11.63 11.43 11.30 11.17 10.90 10.90 10.77 10.60 10.27 10.13 10.00 9.75 9.65 9.59 9.59
96 50 240 140 215 100 500 90 1,150 100 750 320 440 200 490 1100
*1 Concentration in test solution（ng/mL）
Surface area （cm2）
Mn
Fe
Cr
Ni
48 91 145 70 133 50 228 92 422 74 288 173 216 126 235 417
182±5 1,110±201 237±3 457±40 239±96 101±29 130±14 667±107 121±58 294±52 318±26 195±24 174±6 240±74 93±22 186±10
953±113 5,360±489 1,790±68 2,650±231 1,170±569 851±56 888±176 2,720±167 700±403 2,320±222 2,160±284 1,470±150 1,440±65 1,400±579 431±25 973±51
51±3 169±138 55±3 99±22 17±8 50±6 ND 45±6 ND 76±11 102±26 35±11 39±2 17±5 ND 47±5
ND*2 23±3 ND ND ND ND ND ND ND ND 13±3 ND ND ND ND ND
*1Average±S.D.（n＝3） *2ND: not detected
Test solvent: 4％ acetic acid Migration conditions: 95℃ 30 min Limit of quantification: 10 ng/mL
試料中 2 試料）溶出した（Table 4）． 有害金属である Pb，
XRF および ICP による分析の結果，Pb と Sb は検出され
Cd，Sb は，いずれの試料からも溶出しなかった（定量限
ず，日本の食品衛生法に適合していた．以上の結果から，
界： 10 ng/mL）（データ未掲載）．
Mn の多いステンレス製品の使用は食品衛生法上問題はな
3.3 食品衛生法の規格への適合
いと考えられた．
XRF において，すべての製品から Pb, Sb は検出されず （検出限界 Pb: 0.09％，Sb: 0.5％）（データ未掲載），規格
文
（Pb: 0.1％ 以 下，Sb: 5％ 未 満）に 適 合 し て い た． ま た，
1） 日本規格協会．JIS ハンドブック①鉄鋼 I．東京，日本規格 協会，2012, p. 164.（ISBN 978–4–542–18003–1） 2） 日本規格協会．JIS ハンドブック①鉄鋼 I．東京，日本規格 協会，2012, p. 1353–1370.（ISBN 978–4–542–18003–1） 3） 大山 正，森田 茂，吉武進也．ステンレスのおはなし． 東京，財団法人日本規格協会，1990, p. 166–168.（ISBN 4–542–90150–5） 4） 社団法人 日本化学会．微量金属の生体作用．東京，学会 出版センター，1995, p. 102.（ISBN 4–7622–9806–9） 5） 糸川嘉則他．ミネラルの事典．東京，朝倉書店，2003, p. 358（ISBN 4–254–10183–X） 6） 糸川嘉則他．ミネラルの事典．東京，朝倉書店，2003, p. 333（ISBN 4–254–10183–X） 7） 大山 正，森田 茂，吉武進也．ステンレスのおはなし． 東 京， 財 団 法 人 日 本 規 格 協 会，1990, p. 33.（ISBN 4–542–90150–5） 8） 中井 泉編集，日本分析化学会 X 線分析研究懇談会監修． 蛍 光 X 線 分 析 の 実 際． 東 京， 朝 倉 書 店，2005, p. 63.（ISBN 4–254–14072–X）
ICP による含有金属分析を行った 23 試料について，XRF と 同 様 の 結 果 が 得 ら れ た（定 量 限 界 Pb: 0.05％，Sb: 0.5％）（Table 2）． ま
と
め
市販のステンレス製品について含有金属の実態調査を 行った．XRF による試料表面元素組成比分析の結果，Mn の含有量が 2％を超えた試料は，172 試料中 17 試料で，そ の含有量は 9.59∼20.03％であった．また，これら 17 試料 の Cr と Ni の含有量は，Mn を多く含む SUS201，SUS202 に比べ明らかに低かった．以上の結果から，わが国でも平 成 25 年に台湾で発見されたような Mn 含有量の高いステ ンレス製品が出回っていることが明らかとなった． また，食品疑似溶媒を用いて金属の溶出量を調べた結 果，ステンレス製品中の Mn，Cr，Ni は，いずれも溶出試 験の規格があるイタリアの限度値に適合していた．さらに
献
食衛誌 Vol. 58, No. 3
調査・資料
ステンレス製の食品用容器および調理器具中の含有金属に関する実態調査 （平成２９年２月 16 日受理）
塩澤
優 *
羽石奈穂子 鈴 木 公 美 荻 本 真 美 富 岡 直 子 植 松 洋 子 門 間 公 夫
高 梨 麻 由
Survey on Metals Contained in Stainless Steel Kitchenware and Tableware Yuu Shiozawa*, Nahoko Haneishi, Kumi Suzuki, Mami Ogimoto, Mayu Takanashi, Naoko Tomioka, Yoko Uematsu and Kimio Monma Tokyo Metropolitan Institute of Public Health: 3–24–1 Hyakunin-cho, Shinjuku-ku, Tokyo 169–0073, Japan; *Corresponding author Stainless steel kitchenware and tableware on sale in Japan were investigated. Surface elemental composition ratios of 172 samples were analyzed by the fluorescence X-ray method. High levels of manganese（9.59–20.03％）were detected in 17 samples. This finding was confirmed by ICP analysis. Next, we conducted migration tests. Samples conformed to the Italian Specific Migration Limits. Moreover, lead and antimony were not detected in these samples, in accordance with the Japanese Food Sanitation Law. （Received February 16, 2017） Key words: ステンレス stainless steel; マンガン manganese; 鉄 iron; ニッケル nickel; クロム chromium; 鉛 lead; カドミウム cadmium; アンチモン antimony; 蛍光 X 線 X-ray fluorescence analysis （XRF）; 誘導結合プラズマ発光分析法 ICP 付 録 資 料： 付 録 資 料（付 録 表 S1）は J-Stage の 日 本 食 品 衛 生 学 雑 誌（https://www.jstage.jst.go.jp/ browse/shokueishi.58.166）で閲覧できる． 緒
言
用いられる金属について，鉛（Pb）（0.1％以下）および
ステンレス鋼は，鉄（Fe）にクロム（Cr）を 10.5％以
アンチモン（Sb）（5％未満）の限度について規格が定め
上添加し耐食性を向上させた合金であり1），食品用容器，
られているのみで Mn に関する規格はないため，Mn を含
調理器具に多用されている．
むステンレスを食品用容器として使用することは可能であ
平成 25 年に台湾で基準値を超えるマンガン（Mn）を含 有し，ニッケル（Ni）と Cr の量は不足しているステンレ
る． 一方，日本工業規格（JIS）では含有成分によりステン
ス製弁当箱が発見されたという報道があった *1．台湾で
レスの鋼種（以下 SUS と称す）が決められており2），鋼種
は ス テ ン レ ス 材 質 中 の Mn の 割 合 は 中 華 民 国 国 家 規 格
ごとに Cr，Mn，Ni について含有量範囲や限度値が定めら
CNS-8497-G3163 で，200 系 で は 5.5∼10％，300 系 で は
れている（Table 1）．
2.0％以下，400 系では 1.0％以下と定められており * ，こ 2
ス テ ン レ ス 製 品 に は Mn の 含 有 量 が 2.00％ 以 下 の
れらの規格に適合しなかったものと考えられる．具体的な
SUS304 等の 300 系，1.00％以下の SUS430 等の 400 系ス
検出量は不明であるが，Mn を多く含有するステンレス製
テンレスが常用されているが3），それに加えて，ここ数年
の食品用容器および調理器具（以下，ステンレス製品）の
の間の Ni 価格の高騰に伴い，Ni の代替元素として価格の
使用により，Mn が溶出して食品に移行する可能性が考え
安い Mn を用いた省 Ni 高 Mn ステンレス鋼と言われる 200
られる． わが国の食品衛生法では，金属製器具・容器包装として
系ステンレスも開発されている *2．このような影響によ
り中国と同様，わが国でも JIS に適合しない製品が流通し ている可能性が考えられるが，その実態に関する調査報告
* 連絡先： [email protected]
東京都健康安全研究センター： 〒169–0073 東京都新宿区 百人町 3–24–1 *1 http://news.livedoor.com/article/detail/7875037/ *2 http://health.hk.edu.tw/files/archive/428_517fff66.pdf
はない． そこで，わが国で流通しているステンレス製品が，JIS のどの鋼種に該当するか，Mn の含有量等が JIS に適合し ているかについて調査した．
June 2017
ステンレス製食品用容器，調理器具中の含有金属に関する実態調査
Table 1. Stainless steel grades（JIS standard） SUS No. SUS445J1 SUS430LX SUS430J1L SUS430 SUS429 SUS405 SUS410L SUS304 SUS304L SUS304N1 SUS304N2 SUS302 SUS201 SUS202
Cr（％） 21.00̶24.00 16.00̶19.00 16.00̶20.00 16.00̶18.00 14.00̶16.00 11.50̶14.50 11.00̶13.50 18.00̶20.00 18.00̶20.00 18.00̶20.00 18.00̶20.00 17.00̶19.00 16.00̶18.00 17.00̶19.00
Mn（％）
Ni（％）
≦1.00 ≦1.00 ≦1.00 ≦1.00 ≦1.00 ≦1.00 ≦1.00 ≦2.00 ≦2.00 ≦2.50 ≦2.50 ≦2.00 5.50̶7.50 7.50̶10.00
≦0.6 ≦0.6 ≦0.6 ≦0.6 ≦0.6 ≦0.6 ≦0.6 8.00̶10.50 9.00̶13.00 7.00̶10.50 7.50̶10.50 8.00̶10.00 3.50̶5.50 4.00̶6.00
また，ステンレス製品からの金属の溶出量について，
167
Primus II． ICP： Perkin Elmer 社製 Optima 7300DV 型． 4. 試料表面元素組成比分析 XRF による分析を行い，試料表面の元素組成比を求め た． 5. 含有金属分析
河村らの方法 *7 に準じ，試料約 0.2 g を精密に試験管に 量り，塩酸–硝酸の混液（1 : 1）20 mL を加え，2 日間室温 で放置し試料を溶解した．この溶解液 5 mL を，蒸留水を 用いて 50 mL とし，さらに塩酸–硝酸の混液（1 : 1）を 10 倍希釈した溶液を用いて 50 倍希釈，または 500 倍希釈し た．その後，0.45 μm のフィルターでろ過したものを試験 溶液とし，ICP を用いて測定した． 6. 食品擬似溶媒を用いた金属の溶出量分析 6.1 イタリアの溶出試験法
コーデックス委員会，欧州委員会，FDA 等において，規
イタリアのステンレス製品の溶出試験法に準じ *3，液
格は設定されていないが，イタリアではステンレス製品中
体 を 満 た せ る 試 料 は，3％ 酢 酸 を 試 験 品 上 部 の 縁 か ら
の Mn，Ni，Cr に対して溶出試験の規格を定めており *3， Mn，Ni，Cr の金属溶出による通関拒否も報告されてい る *4∼*6． Mn，Ni，Cr は必須微量元素であるが，多量に
5 mm まで加え，満たせない試料は試料表面積 1 cm2 当た り 2 mL の割合の 3％酢酸に浸漬し，100℃のオイルバス中 で 30 分間溶出した．この溶出操作を 3 回繰り返し，1 回目
暴露されると Mn は中枢神経障害や呼吸器障害4），Ni はア
から 3 回目の溶出液のそれぞれについて 0.45 μm のフィル
レルギー性皮膚炎5），Cr は消化器症状等がみられることが
ターでろ過し，ICP で測定した．
ある6）．そこで，Mn についての溶出限度を設定している
6.2 わが国の合成樹脂規格試験に準じた溶出試験
イタリアの基準を参考に溶出試験を行った．併せて，Pb，
食品衛生法の器具及び容器包装の「溶出試験における試
Sb 等，食品衛生法上の規格についても試験を行った．
験溶液の調製法」に準じ *8，液体を満たせる試料は，4％ 酢酸を試験品上部の縁から 5 mm まで加え，満たせない試 料は試料表面積 1 cm2 当たり 2 mL の割合の 4％酢酸に浸
実験方法 1. 試
料
平成 26 年度に都内で購入したステンレス製のスプーン， ナイフ，フォークおよび箸などの食器 61 製品（64 試料），
漬し，95℃の水浴中で 30 分溶出した．得られた溶出液を 0.45 μm のフィルターでろ過したものを ICP で測定した．
ならびにおたま，トング，型抜き，おろし金，鍋および
結果および考察
ボールなどの調理器具 103 製品（108 試料），合計 164 製
1. 試料表面元素の組成比
品（172 試料）． 2. 試
薬
XRF による試料表面元素組成比分析により，試料表面 の 元 素 組 成 比 を 求 め，JIS 規 格 と 比 較 し た（Table S1，
塩酸： 特級，和光純薬工業（株）製．硝酸，酢酸： 精密分
Fig. 1）．172 試料中 149 試料は，食品用器具に使用される
析用，和光純薬工業（株）製．Mn，Fe，Cr，Ni，Pb，カド
こ と の 多 い 400 系 お よ び Ni を 含 有 し，400 系 よ り 耐 食
ミウム（Cd），Sb 標準液： 和光純薬工業（株）製．
性・ 加 工 性 に 優 れ る 300 系7） で あ る と 推 測 さ れ た
3. 装
置
蛍 光 X 線 分 析 装 置（XRF） ： 理 学 電 気 工 業（株）製 ZSX
（Fig. 1）．149 試料の約 8 割は 400 系のステンレス製品と 推測され，型抜き，トング，はさみはすべて 400 系に分類 された．400 系に比べ 300 系のステンレス製品は少なかっ
* Ministero della salute, Dcreto 11 novembre 2013, n.140. 3
Regolamento recante aggiornamento al decreto del Ministro della sanita ’ 21 marzo 1973 recante:“Disciplina igienica degli imballaggi, recipienti, utensili destinati a venire a contatto con le sostanze alimentari o con sostanze d’ uso personale” limitatamente agli acciai inossidabili. （13G00184）．Gazzetta ufficiale della repubblica Italiana. *4 https://webgate.ec.europa.eu/rasff-window/portal/?event＝ notificationDetail&NOTIF_REFERENCE＝2013.ASS *5 https://webgate.ec.europa.eu/rasff-window/portal/?event＝ notificationDetail&NOTIF_REFERENCE＝2014.ACS *6 https://webgate.ec.europa.eu/rasff-window/portal/?event＝ notificationDetail&NOTIF_REFERENCE＝2014.AFY
たが，300 系に分類された製品が複数あった試料として は，おたま（12 試料中 5 試料），スプーン（33 試料中 7 試 料），ティーストレーナー（7 試料中 4 試料），フォーク（2 試料中 2 試料）等のカトラリー製品が多かった． 日本製 のステンレス製品 66 試料の 90％以上は，JIS のいずれか の鋼種に分類できた． *7 河村葉子他．食品用器具・容器包装及び乳幼児用玩具の安全
性確保に関する研究．平成 18 年度厚生労働科学研究，2007．
*8 食品，添加物等の規格基準．昭和 34 年 12 月 28 日，厚生省告 示第 370 号．
168
400 系，300 系のいずれにも分類されなかった 23 試料中
食衛誌 Vol. 58, No. 3
こ の 他 に，Mn の 含 有 量 は 2.00％ を 超 え て い な い が，
17 試 料 で，2.00％ を 超 え て Mn が 検 出 さ れ， 検 出 量 は
XRF による試料表面元素組成比分析の結果，JIS のどの鋼
9.59∼20.03％であった．うち 12 試料は，Mn を含有する
種にも分類されなかったステンレス製品が 6 試料あった．
SUS200 系の Mn の最大組成比である 10.00％を超えてい た．17 試料の原産国は中国が 10 試料と半数以上を占め， 次いでインド 4 試料，日本 2 試料，記載なし 1 試料であっ た．
参考として XRF の測定結果により確認された SUS 鋼種 と 200 系の SUS 鋼種の JIS 規格値を Table 1 に示した．
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169
ステンレス製食品用容器，調理器具中の含有金属に関する実態調査 Table 2. Analysis of metals by ICP and fluorescence X-ray methods Mn（％）
Product name* Cup 1 Cup 2 Measuring cup 1 Tea strainer 3 Saucer of tea strainer 3 Pot 1 Chopsticks 2 Bowl 1 Bowl 2 Bowl 3 Bowl 6 Cold noodles bowl 1 Cold noodles bowl 2（large） Cold noodles bowl 2（small） Cold noodles bowl 3 Lid of cold noodles bowl 1 Lid of cold noodles bowl 2 Spoon 9 Spoon 22 Spoon 23 Spoon 24 Chopsticks 1 Kitchen knife 2
Fe（％）
Cr（％）
Ni（％）
Possible JIS
X-ray
ICP
X-ray
ICP
X-ray
ICP
X-ray
ICP
X-ray
ICP
10.27 11.17 9.65 20.03 10.90 10.77 11.30 9.59 10.60 10.90 10.13 11.43 9.75 10.00 9.59 11.63 10.77 0.06 1.10 0.13 ND 1.35 1.62
10.19 10.84 9.17 18.79 10.12 10.41 11.10 8.88 10.56 10.59 9.97 11.26 9.39 9.65 9.15 11.38 10.81 ND 0.87 ND ND 1.23 0.64
71.33 69.60 71.77 61.73 73.57 72.20 71.73 74.87 72.83 72.23 71.47 72.40 71.80 71.70 73.33 73.47 72.87 13.60 69.50 78.27 8.74 68.83 84.80
73.48 70.57 71.91 65.73 73.45 72.19 72.86 72.75 76.33 73.22 76.26 73.21 72.99 73.86 73.02 74.38 76.98 61.21 70.82 80.62 84.63 73.51 86.94
15.07 14.47 14.30 13.90 12.13 13.60 13.73 12.90 13.80 14.17 14.90 13.50 14.87 14.90 14.47 12.93 13.70 2.91 17.70 20.33 1.35 20.63 12.30
15.27 14.21 13.49 13.69 13.21 13.45 13.01 12.06 13.85 13.66 15.11 13.34 14.58 14.61 13.85 12.78 13.79 11.38 19.07 21.60 12.32 19.10 8.49
0.80 1.82 0.62 0.12 0.77 1.10 1.32 0.21 0.79 1.23 1.22 1.10 1.32 1.28 1.19 0.78 1.28 82.63 10.60 0.18 87.73 7.77 0.55
0.82 1.85 0.62 0.09 0.82 1.04 1.23 0.21 0.81 1.22 1.19 1.11 1.32 1.26 1.23 0.73 1.36 2.57 10.45 0.20 4.22 8.15 0.35
− − − − − − − − − − − − − − − − − − − − − − −
− − − − − − − − − − − − − − − − − SUS410L SUS304,304L SUS445J1 SUS405,410L SUS304,301J1 −
* Samples which can’ t be classified into JIS in XRF
■ : Mn content over 10.00％ ■ : Possibility of surface plating Limit of detection of fluorescence X-ray method: 0.5％（Fe, Cr），0.05％（Mn, Ni） Limit of quantification of ICP: 0.5％（Mn, Fe, Cr），0.05％（Ni） −: Cannot be classified into JIS Table 3. Migration test of stainless steel products according to Italian standards Sample Tea strainer 3 Chopsticks 2 Cup 2 Saucer of tea strainer 3 Bowl 3 Bowl 2 Cup 1 Bowl 6 Measuring cup 1 Bowl 1
Solvent vol.（mL） Surface area（cm2） 96 140 215 100 500 1,150 100 750 200 490
48 70 133 50 228 422 74 288 126 235
*1 Concentration in test solution（ng/mL） Mn
Cr
Ni
48±7 60±22 44±9 27±4 49±9 26±9 80±11 38±6 39±7 42±9
18±2 32±25 22±5 14±1 17±1 ND 25±7 19±3 17±2 13±2
ND*2 ND ND ND ND ND ND ND ND ND
*1Average±S.D.（n＝3） *2ND: not detected
Test solvent: 3％ acetic acid Migration conditions: 100℃ 30 min Limit of quantification: 10 ng/mL
2. 含有金属の分析結果
の 試 料 の Cr と Ni の 含 有 量 は Mn を 多 く 含 む SUS201，
XRF において JIS の鋼種に分類できなかった 23 試料を
SUS202 に比べ明らかに低く，平成 25 年に台湾で発見さ
ICP で定量した（Table 2）．Mn が最大組成比を超えて検
れたステンレス製弁当箱の事例と類似のものと考えられ
出された 12 試料のうち 11 試料では，XRF の結果と同様に
た．このほか，Mn の含有量は 2.00％を超えていないが
Mn の 含 有 量 が 10.00％ を 超 え て い た が，Bowl 6 で は
JIS の鋼種に分類できなかった 6 試料のうち Spoon 9 と
10.00％を下回っていた．また，ICP においても，これら
Spoon 24 では，Ni の含有量が XRF の結果と大きく異なっ
170
食衛誌 Vol. 58, No. 3
Fig. 2. Migration tests of stainless steel products Test solvent: 3％ acetic acid Migration conditions: 100℃ 30 min Determination limit in test solution: 10 ng/mL
ていた．XRF では，試料の分析深さが数∼数十 μm 程度ま
イタリアの溶出試験では 3 回目の測定値を用いるが，3
での表面分析となるため8），この 2 試料は表面の Ni めっき
回連続溶出により得られた 1 回目から 3 回目の溶出量を調
により，XRF では Ni の影響が大きく出たと考えられた．
査した．Mn, Ni, Cr に加えステンレス製品から溶出する
こ の 2 試 料 を 除 く XRF と ICP の 測 定 結 果 は ほ ぼ 同 様 で
可能性のある Fe について連続溶出を行った結果，1 回目
あった．しかし，残りの 4 試料のうち，Kitchen knife 2 以
から 3 回目にかけ Fe, Mn, Ni, Cr の溶出量は徐々に減少し
外 の Spoon 22，Spoon 23 お よ び Chopsticks 1 の 3 試 料
ていた（Fig. 2）．
は，僅かな数値のずれで XRF の結果からは JIS にあては
3.2 わが国の合成樹脂規格試験に準じた溶出試験
まらなかったが，ICP の結果では範囲内に入ったため，
食品衛生法ではステンレス製品中の金属について，溶出
JIS のいずれかの鋼種に分類することができた． 以上の結果から，XRF はスクリーニングに使用可能で
試験は定められていないが *8，合成樹脂に関して重金属 試験が設定（溶出条件： 4％酢酸，60 または 95℃，30 分）
あるが，表面にめっきが施されているような試料について
されている *8．そこで，この溶出試験をもとに，溶出試験
は ICP が有用であることが示唆された．
条件を設定した．溶出溶媒は 4％酢酸，溶出温度と時間
3. 食品擬似溶媒を用いた金属の溶出量
は，溶出条件として最も厳しい条件である，使用温度が
3.1 イタリアの規格試験法による分析結果
100℃を超える場合の 95℃，30 分を設定した．含有量が
イタリアのステンレス製品の溶出試験法に準拠し溶出を
高くステンレス製品から溶出する可能性がある金属とし
行い，測定値とイタリアの限度値（Mn, Cr, Ni それぞれ
て，Mn, Fe, Cr, Ni, さらに，合成樹脂や金属において規
0.1 ppm 以下）を比較した．
格が設定されている Pb，Cd，Sb を測定対象とした．XRF
XRF において，Mn 含有量が 2.00％を超えて検出された
において，Mn 含有量が 2.00％を超えて検出された 17 試
17 試料中，加熱すると破損の恐れのある試料と複数購入
料中，試料を複数購入できた 16 試料について溶出を行っ
できなかった試料を除く 10 試料について試験を行った結
た．その結果 Mn が 93∼1110 ng/mL（16 試料中 16 試料），
果，Mn, Cr, Ni の溶出量は，いずれも 0.1 ppm 以下であ
Fe が 431∼5,360 ng/mL（16 試 料 中 16 試 料），Cr が 17∼
り，イタリアの限度値を満たしていた（Table 3）．
169 ng/mL（16 試 料 中 13 試 料），Ni が 13，23 ng/mL（16
June 2017
171
ステンレス製食品用容器，調理器具中の含有金属に関する実態調査 Table 4. Migration test of stainless steel products according to Japanese standards
Sample
Mn（％） Solvent vol. （fluorescence X-ray） （mL）
Tea strainer 3 Lid of cold noodles bowl 1 Cold noodles bowl 1 Chopsticks 2 Cup 2 Saucer of tea strainer 3 Bowl 3 Lid of cold noodles bowl 2 Bowl 2 Cup 1 Bowl 6 Cold noodles bowl 2（small） Cold noodles bowl 2（large） Measuring cup 1 Bowl 1 Cold noodles bowl 3
20.03 11.63 11.43 11.30 11.17 10.90 10.90 10.77 10.60 10.27 10.13 10.00 9.75 9.65 9.59 9.59
96 50 240 140 215 100 500 90 1,150 100 750 320 440 200 490 1100
*1 Concentration in test solution（ng/mL）
Surface area （cm2）
Mn
Fe
Cr
Ni
48 91 145 70 133 50 228 92 422 74 288 173 216 126 235 417
182±5 1,110±201 237±3 457±40 239±96 101±29 130±14 667±107 121±58 294±52 318±26 195±24 174±6 240±74 93±22 186±10
953±113 5,360±489 1,790±68 2,650±231 1,170±569 851±56 888±176 2,720±167 700±403 2,320±222 2,160±284 1,470±150 1,440±65 1,400±579 431±25 973±51
51±3 169±138 55±3 99±22 17±8 50±6 ND 45±6 ND 76±11 102±26 35±11 39±2 17±5 ND 47±5
ND*2 23±3 ND ND ND ND ND ND ND ND 13±3 ND ND ND ND ND
*1Average±S.D.（n＝3） *2ND: not detected
Test solvent: 4％ acetic acid Migration conditions: 95℃ 30 min Limit of quantification: 10 ng/mL
試料中 2 試料）溶出した（Table 4）． 有害金属である Pb，
XRF および ICP による分析の結果，Pb と Sb は検出され
Cd，Sb は，いずれの試料からも溶出しなかった（定量限
ず，日本の食品衛生法に適合していた．以上の結果から，
界： 10 ng/mL）（データ未掲載）．
Mn の多いステンレス製品の使用は食品衛生法上問題はな
3.3 食品衛生法の規格への適合
いと考えられた．
XRF において，すべての製品から Pb, Sb は検出されず （検出限界 Pb: 0.09％，Sb: 0.5％）（データ未掲載），規格
文
（Pb: 0.1％ 以 下，Sb: 5％ 未 満）に 適 合 し て い た． ま た，
1） 日本規格協会．JIS ハンドブック①鉄鋼 I．東京，日本規格 協会，2012, p. 164.（ISBN 978–4–542–18003–1） 2） 日本規格協会．JIS ハンドブック①鉄鋼 I．東京，日本規格 協会，2012, p. 1353–1370.（ISBN 978–4–542–18003–1） 3） 大山 正，森田 茂，吉武進也．ステンレスのおはなし． 東京，財団法人日本規格協会，1990, p. 166–168.（ISBN 4–542–90150–5） 4） 社団法人 日本化学会．微量金属の生体作用．東京，学会 出版センター，1995, p. 102.（ISBN 4–7622–9806–9） 5） 糸川嘉則他．ミネラルの事典．東京，朝倉書店，2003, p. 358（ISBN 4–254–10183–X） 6） 糸川嘉則他．ミネラルの事典．東京，朝倉書店，2003, p. 333（ISBN 4–254–10183–X） 7） 大山 正，森田 茂，吉武進也．ステンレスのおはなし． 東 京， 財 団 法 人 日 本 規 格 協 会，1990, p. 33.（ISBN 4–542–90150–5） 8） 中井 泉編集，日本分析化学会 X 線分析研究懇談会監修． 蛍 光 X 線 分 析 の 実 際． 東 京， 朝 倉 書 店，2005, p. 63.（ISBN 4–254–14072–X）
ICP による含有金属分析を行った 23 試料について，XRF と 同 様 の 結 果 が 得 ら れ た（定 量 限 界 Pb: 0.05％，Sb: 0.5％）（Table 2）． ま
と
め
市販のステンレス製品について含有金属の実態調査を 行った．XRF による試料表面元素組成比分析の結果，Mn の含有量が 2％を超えた試料は，172 試料中 17 試料で，そ の含有量は 9.59∼20.03％であった．また，これら 17 試料 の Cr と Ni の含有量は，Mn を多く含む SUS201，SUS202 に比べ明らかに低かった．以上の結果から，わが国でも平 成 25 年に台湾で発見されたような Mn 含有量の高いステ ンレス製品が出回っていることが明らかとなった． また，食品疑似溶媒を用いて金属の溶出量を調べた結 果，ステンレス製品中の Mn，Cr，Ni は，いずれも溶出試 験の規格があるイタリアの限度値に適合していた．さらに
献
