29:361
中 高年 婦 人 の性 広井 Key
words:
中 高 年 婦 人,
性
(Sex),
正彦
性 行動
(Jpn J Gariat 29: 361-363,
1992)
は じめ に 近 年 の 寿 命 の延 長 は 高 齢 化 社 会 の 招 来 を 来 し, 健 や か に 老 い る こ とが 大 き な 課 題 と な っ て き て い る. と くに 女 性 で は 閉 経 以 後30年 も生 存 し て お り, い わ ゆ る老 齢 化 の 問 題 は 社 会 の テ ー マ と共 に大 き な 医 学 上 の 研 究 テ ー マ で も あ る. 中 で も,「 生 殖 」を中 心 と し た 性 か ら,「 快 楽 」を主 と し た 性 に 大 き く転 換 し て き て い る現 代, 中 高 年 を 中 心 と した 「性 」の 問 題 は 改 め て 問 い 直 さ れ るべ き時 期 に き て い る. 卵巣 機 能 の老化 原 始 卵 胞 の 数 は 出 生 と共 に減 少 し, 閉 経 期 を 境 に 消
図1
年 齢 よ りみ た 性 的 な刺 激 に よ り外陰 部 が濡 れ る
者 の割 合 の 変化
失 す る. し か し, 卵 巣 の 機 能 は 思 春 期 よ りは じ ま り性 成 熟 期 に 最 も開 花 す る. 婦 人 の卵 巣 機 能 を 示 す 指 標 の うち 主 と して 卵 胞 よ り 分 泌 され る estrogen
は20歳 代 に 最 も多 く分 泌 さ れ, 以
た が, 65歳 以 上 で は 殆 ん どが 濡 れ る こ とが な か っ た. この 外 陰部 の濡 れ る頻 度 を 夫 の有 無 別 で 観 察 す る
後 年 齢 を と る に つ れ て 漸 減 し, 更 年 期 で は 急 減 し て 老
と, と くに60∼64歳
年 期 に 至 る. こ れ は す で に わ れ わ れ が 行 っ た 婦 人 に
者 が み ら れ た が, 他 の 年 齢 群 で は 差 異 は み られ な か っ
卵 胞 刺 激 ホ ル モ ン (hMG)
た.
を投 与 した 時 の 血 中 estro-
gen の 上 昇 反 応 や, 年 齢 別 に 採 取 し た 卵 巣 皮 質 の in
で は 夫 を 有 す る婦 人 に 多 く濡 れ る
こ の よ う に年 齢 が 経 つ に つ れ て 卵 巣 よ り分 泌 され る
vitro で の 培 養 系 に お け る実 験 か ら で も, 年 齢 を と る に つ れ て 卵 巣 で の 老 化 が 主 と して 起 る こ とが 明 ら か で あ る. 中 高年婦 人 の性 の実 態 そ こ で1∼2日
ド ッ クで 入 院 し, 内 科 的 に も 婦 人 科
的 に も大 き な 疾 患 を 有 し な い30歳 以 上 の 婦 人311名 に 性 に 関 す る ア ン ケ ー ト調 査 を 施 行 した. (1) 外 陰 部 の 分 泌 の 減 少 外 陰 部 へ の 直 接 刺 激 や 精 神 的 な 刺 激 に よ り外 陰 部 が 濡 れ る頻 度 は, 図1の
Sexual M.
behavior
Hiroi:
ご と く30歳 代 で は 全 例 に み ら れ
in elderly
females.
山形 大 学 医学 部 産 婦 人 科 学教 室
図2 化
年 齢 よ りみ た性 交 回 数 (平均 ±S.E.) と 自慰 の変
29:362
日本 老 年 医 学 会 雑 誌
図3
estrogen
29巻5号
(1992:5)
■性
行為を欲する
■た
わむれる
■精
神的に異性 と交際 した
□全
くない
年 齢 よ りみた 性 欲 求 の程 度 につ い て の 変化
-男性 --- 女 性
は低 下 す る が, 外 陰 部 の 濡 れ は 数 年 間 遅 れ て
低 下 す る が,
と くに60歳 代 前 半 で は 夫 の 存 在 が 濡 れ を
持 続 さ せ る こ と は estrogen
の 分 泌 を 持続 させ る こ と
を 意 味 し, そ の 上 で も 効 果 的 で あ る こ と が 明 ら か に な っ た. (2) 性 交 頻 度 の 低 下 年 齢 に よ り性 交 の 頻 度 は 低 下 す る. 回 数 で み る と, 図2の
これ を 月 平 均 の 図4
ご と く30歳 代 で7.3回 が 年 齢 と共
年 齢 よ りみた 性 満 足 の程 度
(Glover,
に 低 下 す る. この 低 下 す る 割 合 は, 外 陰 部 よ りの 分 泌
1975)
物 の 低 下 す る割 合 と相 関 して い る. 従 っ て 性 交 時 疼 痛 を 伴 う者 が 増 加 す る.
高齢 婦 人 の性反 応 の特徴
こ の 対 策 と し て 更 年 期 以 後 に 用 い ら れ る estrogen
以上 の よ うに高 齢化 に伴 い 性反応 も低 下 して来 る こ
補 充 療 法 が 最 も 効 果 的 で あ る が, 性 交 時 に 用 い る リュ ー ブ ゼ リー やKYゼ
リー な ど が 有 効 で あ る. ま た
腟 壁 の 乾 燥 感 を 減 少 させ る も の と し て Replens
とは事 実 で あ る. これを Masters,
1. 更年 期 以降, 急速 に卵 巣 よ りの ホル モ ン活 動 が低
が欧
米 で 注 目 され て い る が, わ が 国 で は 未 だ 使 用 さ れ て い
Johnson は,
下 す る. 2. 膣粘 膜 も薄 く伸 展性 も低 下す る.
な い.
3. バ ル トリン腺 の 分泌 も減 少 し,性 交時 に疼 痛 を訴
(3) 性 欲 の 維 持 年 齢 を と る に つ れ て 性 ホ ル モ ン と く に estrogen
の
分 泌 の 低 下 に伴 い, 外 陰 部 の 分 泌 が 減 少 し, 性 交 時 疼
え る. の ご と くま とめ てい る.
痛 を 感 じ るた め に 余 計 に 性 交 回 数 は 減 少 す る. 一 般 に
わが 国 の高齢 婦人 の性 生 活 の問題 点
は こ れ ら と関 係 を も っ て 性 欲 も減 退 す るが, 性 的 欲 求 は か な り高 年 で も 維 持 され る (図3).
と くに65歳 以 上
わ が国 の高齢 婦 人 にみ る性生 活 の実 態 は以上 のべ た
の 婦 人 で 殆 ど 性 的 刺 激 に よ り分 泌 物 が 低 下 減 少 し て い
ご と く, 卵 巣 を中 心 とした性 ホル モ ン分泌 の低 下 に 由
る 場 合 で も, 半 数 以 上 に 男 性 と の 交 際 を 希 望 し て い た.
来 す る こ とが 多 いが, そ の他 に家屋, 心理 な どと くに
これ らか ら, 性 欲 は か な り高 年 齢 で も維 持 す る も の で
以 下 の点 が性 生活 に大 き く影響 を 及ぼ して い る. 1. 性 の タ ブー の風 習 の も とで の生 活 で差 恥 心 が 強
あ る こ とが 明 ら か に さ れ た.
この こ とは 高 年 婦 人 性 の
性 を 理 解 す る 上 で も 極 め て 重 要 で あ る と い え る. (図 4).
い 2. 更年 期 を境 に身体 的 に不 調 を訴 え る者 が多 い 3. 家屋 構造 が夫 婦 の独立 した部 屋 を持 ちに くい
中 高年 婦 人 の性
4. 高血 圧, 心疾 患, 糖 尿病 な ど慢性 疾患 を もつ もの が多 い
29:363
利用 そ して, 従 来 よ り考 え られ て きた老 人 に対す る性 へ
5. 夫 が 自分 よ り年 齢 が上 で イ ンポ テ ン ツの者 が 多 い
のあ や ま った 考 え方, す なわ ち 1. 性 には定 年制 が あ る
6. 婦 人科 疾 患 を性 交 との関 係 で高 齢 者 の性 交 を タ ブー視 して い る 高齢婦 人 の性 生活 へ の改善 策 そ こで これ か らの高 齢婦 人 に対 し次 の よ うに性生 活 を改 善す るよ うに指示 す る必要 が あ ろ う.
2. 老人 に対 す る魅 力の 否定 3. 老人 の性 を不 潔 とみ る 4. 性 の本質 を生 殖 とみ る 5. 一 夫 一婦制 の性道 徳 への違 犯 な どを是正 す る必要 が あ ろ う. そ して老 人 の福祉 につ いて老 人 の残存 してい る本能, 機 能 を積極 的 に支 援 し
1. 夫 と同室 睡眠 のす す め
て み る こ とで あ り, 老 人 自 らの 頭で 考 え行動 す る こ と
2. 全身 と外 性器 へ の清潔 と美容 の保 持
に援 助 の手 を さしのべ るこ とで あ る.(物 や お金 を与 え
3. 婦人 科へ の定 期検 診 と疾患 の早 期 治療
るだ けで福祉 とい え ない) な ど社 会 ぐるみで 考 えて行
4. 性生 活へ の技 術進 進 への 努力
うこ とが老 人化 社会 を迎 えるわ が 国に とって も重 要 な こ とで あ る.
5. 夫へ の健 康管 理 と食事 指導 6. 性生 活 の カ ウ ンセ ラー として の産 婦 人 科 医 師 の