臨
床
高Na血 症,周 期 性 四肢 麻 痺,そ の他 多彩 な 症状 を呈 した視 床 下部 腫瘍 の1臨 床例 虎 の門病院禅経科
山根
清美◇
矢島
一枝
塩沢
瞭一
安芸
基雄
虎 の 門病 院 内分 泌 科
紫芝
良昌
沢野
REPORT OF A CASE OF HYPOTHALAMIC HYPERNATREMIA
真二 TUMOR ASSOCIATED WITH
AND PERIODIC
PARALYSIS
Kiyomi YArrANE,M.D., Kazue YAJIMA,M.D., Ryoichi SHIOZAWA,M.D. and Motoo Am, M.D. Department of Neurology,ToranomonHospital, Tokyo Yoshimasa SHISHIBA,M.D. and Shinji SAWANO,M.D. Department of Endocrinology,ToranomonHospital, Tokyo
概要
中 枢 怪 高Na血 症 に つ い て は 内外 に 多数 の報 告 が み られ るが,そ
れ に 関 連 して 周期 性 四肢 麻 痺
を 生 じた と考 え られ る例 は 希 で あ る.わ れ わ れ は 臨床 的 に視 床 下部 腫 瘍 と診 断 され た症 例 で正 常 脳圧 水 頭症,下 垂 体機 能 低 下症,お
よび,渇 中枢 障 害,ADH分
関 連 して 周 期 性 四 肢 麻 痺 を 生 じた と考え られ る36才,男 と共 に,麻 痺 の 発 生 機 序に つ い て 考 案 を 試 み た.当
泌 障害 に基 づ く高Na血 症 を 呈 し,そ れ に 性 の症 例 を経 験 した.こ
こに症 例 を
例 で はchlorpropamideの 投 与,お
補 給 に よ り血清Naを 正常 に 保 つ ことに よ り,四 肢 麻 痺 の発 生 を コ ン トロ ール 出 来 た.従 lactone, acetazolamideな
bす る
よび 適 当 な水 分 来 のspirono-
ど の経 験 的 薬 物 以外 に も あ る 種 の周 期 性 圏肢 麻 痺 で はchlorpropamideが 有効
な 場 合 もあ る と考 え られ る.
1.は
じめ に
本 邦 で 本 多 らに よ る2例5)の 報 告 を み るに過 ぎな い.わ れ わ れ は最 近,視 床 下 部 腫 瘍 と臨 床 的に 診
中枢 性 高Na血 症に つ い て は 内 外 に 多 数 の 報 告 がみ られ,そ れ らの原 因 は視 床 下 部に 存 在 す る と され て い る渇 中枢,ADH分
断 され た 症 例 で,高Na血 し,か つ,高Na血
泌 中継 の異 常 に も と
症,周 期性 四肢 麻痺 を 呈
症 の消 長 と 周 期性四 肢 麻痺 の
つ く と考 え られ て い る.し か しな が ら中 枢 性 高Na
間 に何 らか の 因果 関係 が存 在 す る と考 え られ る症
血 症 に関 連 し,四 肢 筋 力低 下 の合 併 した症 例 はわ
例 を 経 験 した.こ
れわ れ の知 る限 り希 で,1971年Maddy')ら
痺 の発 生 機 序に つ い て考 察 を試 みた.
により
II .症
初 め て注 目さ れ,こ の他 に は,外 国 で は数 例2)8)4》, 〔昭和49年9月14日
昭和50年12月10日
患 者:
第250回 関 東 地 方 会 推 薦〕
(57)
こに 症例 を報告 す る と共に,麻
36才,男
性.
例
1392
高Na血 症,周 期 性 四 肢 麻 痺,そ の他 多彩 な症 状 を 量 した 視 床 下 部腫 瘍 の1臨 床 例
家 族 歴:
特 記事 項 な し.
又,38℃
既 往歴:
特記 事 項 な し.
院.前Cl同
職 業:会
社 員.
腫 瘍 を疑 わ れ,当 院 神 経 科 へ 転 院 した.
(1)現
病 歴:
以上 の熱 発 を み た た め,菊 地 病 院 に再 入
(2)
様 の髄 液 蛋 白上 昇 が み られ た た め,脳 当院 第1回 入 院 時 の 所 見 と検 査 成 績
a)一般雌運学的所見
生 来,健 康 で心 身共 にた くま し く,会 社 で も業 務 に積 極 的 な社 員 と して信 頼 も あつ か つ た.昭 和 46年 頃 よ り動 作 が緩 慢 とな り,元 気 な く,性 格 も
94/74mm㎏.一
お とな し くな り,物 忘 れ が ひ ど くな つ た.そ れ と
が粗 で あ る以 外,特 記 す べ き異 常 所 見 に乏 しく,
同時 に,周 期 的 に半 日∼数 日にわ た る四肢 筋 の筋
扁桃 腺 肥 大,甲 状 腺 腫 大,リ
力低 下 が お こ り,起 立 不 能 とな つ た り,寝 て い て
腹 部 の 理学 的 所 見 に異 常 を認 めな い. b)神 経 学 的 所 見
身長157cm,体
もふ とん を引 張 る こ とが 出 来 ず,無 理 に動 かす と 筋 痛 が お こ る こ とが あ つ た た め,昭 和47年3月28
重55㎏,脈
拍96/m,整,血
圧
般 身体 的所 見 と しては 腋 毛 ・陰 毛
ンパ 簾 腫 脹 な く,胸
意識 は清明 で あ るが 動 作,お
よび,会 話 は緩 慢
日,四 肢 筋 力低 下 を主 訴 と して東 京 慈 恵会 医科 大
で 見 当識 障 害,作 謡 傾 向 が 認 め られ,記 銘 力低 下
学 へ 入院 した.入 院 中,50%glucose,お よ び, regular insulinを静 注 す る こ とに よ り四肢 麻 痺 が
あ り,眼 底 で乳 頭 が 蒼 白 であ る他 には 脳 神経 等 に は異 常 を み な い.歩 行 は不 安 定 で あ る が 四肢筋
誘 発 さ れ(表1),麻
力,筋
痺 発 作時,血
mEq/lに 下 降 し,低K血
清Kは2.1
症 性 周 期 性 四 肢 麻 痺 と診
トー ヌス は正 常 で と くに筋 強 剛 は明 らか で
な い.深 部 反 射 は正 常 に保 た れ 左 右 差 な く,病 的
断 され た.そ の 他 の検 査所 見 と して,こ の 頃 よ り.
反 射 は 認 め られ な い.小 脳 症 状,お
高Na血 症(血 清Na 158mEq/1)髄
害 も認 め られ なか つ た. c)一 般 検査 所 見(表2)
液 の細 胞 数,お
よ
び,蛋 白濃 度 の増 加 な どの異 常 所 見 がみ られ て い るが,本 人 の事 情 に よ り十 分 検 索 出 来 な い ま ま,
総 コ レ ス テ ロ ー ル が 高 値 で あ る こ と,ト
昭 和47年4.月 中旬退 院 して い る.退 院 後 も数 回,
ア ミナ ー ゼ の 軽 度 上 昇,中
四 肢 筋 力 低 下 の発 作 を 繰 り返 し,会 社 も休 み が ち
の 所 見 は み られ な か つ た.
であ つ た.昭 和48年2月
中 旬,38℃
髄 液 は 初 圧100mmH2Oと
ウを パン と思 つ て食 べ る,実 際 に電 話 は して い な
は180mg/dlと
い の に会 社 の人 と電 話 で話 を して い るつ も りに な
様72・
り,盛 ん に仕 事 の話 をす る な どの異 常 行 動 が み ら
表1.誘
程 度 の 貧 血 以 外,特 別
は49㎎/dlで あつ た.脳
は 水 頭 症 を 示 す 所 見 の み,気
(PEG,図1)で
間で
正 常 で あ る が,蛋
表2.第1回
白
胞 数は100/3個(lymph 血 管写 脳写
は著 明な 側 脳 室 の拡大 がみ ら 入院時一般検査所見
上旬退院
し,自 宅 で静 養 して いた.昭 和48年7月,左 の急 速 な 低 下 を訴え,記
著 増,細
不 明28),糖
(CAG)で
れ,髄 液 中 の蛋 白濃 度 が250mg/dlと 増 加 してい る
解 熱 し,異 常 行 動 も消 失 した た め,3月
ラ ンス
d)神 経学的検査所見
以上 の発 熱 の
ため 銀 座 菊 地 病 院 へ 入 院 した.入 院 中,パ ン ソ ウ コ
所 見 と合 せ て脳 炎 の疑 いを もた れ た が,3日
よび,知 覚障
視力
銘 力障 害 も著 明 とな り,
発 に よ る四 肢 麻 痺 発 作
(慈 恋医 大 阿部 内科1での デー タ,昭 和47年4月).
(58)
日 内会 誌
第64巻"第12号
山根
清美他5名
1393
図2.空
気 脳 室撮 影(PVG)矢
印 は 第3臆 室 前
半 の充盈 欠損 を示 す. 図1.気
脳 写(PEG)著
明 な 側 脳室 の 拡 大 が み
と左 眼 視 力 り著 しい低 下,又,図3に
られ る.
示 す よ うに
左 眼 耳 側 の部 分 的 視 野 欠 損 が 認 め られた.眼 底 は 両 眼 共,乳 頭 の耳 側 が蒼 白 で あ るが,う つ血 乳 頭, お よび,動 脈 硬 化 な どの所 見 は認 め られ なか つ た
れた. RISA-cystemographyで 脳 室 内 へ のRISAの
は 注 入 後,6時 逆 流,貯
に 空 気 脳 室 撮 影(PVC,図2)で 部 の 充 盈 欠 損 像 が 得 られ,脳 部 にhot
間 で 側
第3脳
シ ンチ グ ラム で も同
depositが 認 め られ た.脳
徐 波 化,木
規 則 化 を 示 した..眼 科 的 検 査 で は 0.7
v.s.=0.02
(
1.2x
Cyl-
1 .0
NPH)を
波 で は基 本 波 は
で び ま ん 性 に θ波 が 混 在 し,汎
併 発 して い る も の と診 断 され た).
e)内 分泌学的検査所見
発性 内 分 泌 学 的 検 査 に お い て は,成 イ ン ス リ ン,ア
D 90•Ž)
又,副
(n.c.)
腎 皮 質 ホル モ ンに つ い て は血 漿 コーチ ゾー
点 線 は赤 色 視 標10㎜ に よ る正 常 な 視野 を示 す 実 線 は赤 色 視 標10㎜ に よ る患者 の 視野 を示 す
昭 和50年12月10日
(59)
長 ホ ル モ ン は,
ル ギ ニ ン 負 荷 に 対 し て 反 応 せ ず1
ル は 検 出 下 限 値(1.0μg/d1)以
図3
よび 後 述 の
下垂 体 機 能低 下症 か ら 本例 は 視 床下 部 腫 瘍 を 有 し,そ の結 果 と考 え られ る正 常脳 圧 水頭 症(以 下
室前 半
7一$cps波
v.d.=
(こ れ らの所 見 と前 述 の 臨 床症 状,お
留 が み ら れ た.更
下 で 日内 変動 な
1394
高Na血 症,周 期 性 四肢 麻 痺,そ
く,17・Ks
1.4mg/d,17・oHcs
でACTH分
モ ン に つ い て はtotal RTaU
1.2mg/dと
泌 の 低 下 が 想 像 さ れ た.甲
25-31%と
thyroxine
共 に 低 下 し て お り,TRH
た は,視
SHの
gonadotropinにつ
欠 損 が 考え ら れ た.
床 下 部 性 のT いて
100/wB皮 下 注 射 に 対 し てFSHもLH
も 増 加 反 応 を 示 さ な か つ た(以 T S H系,
機 能 低 下 を 示 し,臨 腋 毛,陰
500
増加 を み と め
な い こ と か ら 下 垂 体 性,ま
CTH系,
低値
状腺 ホ ル
1.4-2.3μ91d1,
μgの 静 脈 注 射 に よ つ て もTSHの
はLH-RH
の他 多 彩 な症 状 を呈 した視 床 下 部 腫 瘍 の1臨 床 例
上 よ りGH系,
gonadotropin系
床 的 に は 易 疲 労 感,低
毛 の 減 少 な ど の 症 状,所
A
の すべ て が
図4.第2回
に抗 して 運 動 出 来 るが,若 干 の抵 抗 を 与 え る と運
見 が み られ た こ
と か ら下 垂 体 機 能 低 下 症 と診 断 さ れ た).
(3)第1回
施 行 した 所,精 た.視
下 を示 した.病 的 反 射,知 覚 障 害 共 に認 め られ な
reservoir setting, V-P 神 症 状,意
か つ た.四 肢 麻 痺 と共 に膀 胱 直 腸 障 害 が み られ,
対 し当院 脳 外 科 に shuntを
自発 的 に 排 尿 出来 ず,導 尿 を行 なつ た所,1200cc の尿 貯 留 が み られ た.
識 状 態 は 著 明に 軽 快 し
床 下 部 腫 瘍 に 対 し て は60Co照 射(5100rads)
を 行 な い,下 tisone
動 出来 なか つ た.深 部 反 射 は 上 下 肢 共 に軽 度 の低
入 院 中 の経 過:
上 述 の 如 く,ま ず,NPHに お い て,Onmaya's
(6)
垂 体 機 能 低 下 症 に 対 して はhydrocor-
20mg/d,1-thyroxine(Thyradin
S)
よ る ホ ル モ ン 補 充 療 法 を 行 な つ た.こ
第2回 入 院 中 の経 過(図4)3
入 院 時,四 肢 麻 痺 発 作 中 にお い て皿 清Kは4.1 mEq/1と 正 常 を示 した に もかか わ らず,血 清Naは
1007/d,
167mEq/1と 高 値 を 示 した.低K血
testosterone-propionate(Enarmon-Depot)200mg/ monthに
入 院 中 の経 過
血 圧,
症 に よ る 周期
れ
性 四 肢 麻 痺 発 作 中,回 復 直 前 に この様 な所 見 を示
ら の 治 療 に よ り,全 身 状 態 は 著 明に 回 復 し,職 場
す こ と も あ り得 る とは考 え られ るが 正常K濃 度を
復 帰 出 来 る 程 と な り昭 和48年11月
退 院 した.な お,
示 した こ とよ り,高Na血 症 の 治 療 を行 な えば 四肢
葉 不 全 が しば
麻 痺 も軽快 し得 るか も知 れ な い と考 えて,強 制的
視 床 下 部 腫 瘍 で は 脳 下 垂 体 前 葉,後 し ば あ り,前 葉 不 全 の 際,後 る こ と が あ る が,本
葉 不 全 がmaskさ
水 分 補 給,お よび,chlorpropamideの
れ
た.そ の 結果,血
例 で は 前 葉 ホ ル モ ン補 充 に よ
つ て も 尿 量 が 増 加 しな い た め,こ
の時 点 で の後 葉
日に は133皿Eq/
ま で低 下 し,こ れに 引 き続 い て 四肢 麻l 痺 も徐 々に 軽 快 し,入 院 後,数
不 全 の 存 在 は 明 ら か で な い.
(4)第1回
清Naは 第7病
投 与 を行 なつ
入 院 後,外 来 で の 経 過:
目で 正 常 筋 力 を 回 復 し た.
昭 和48年12月 中 旬,周 期 性 四 肢 麻 痺 発 作 あ り,
血 清Naと 麻 痺 との 関連 を み る.た め 第18病 日 に chlorpropamideの 投 与 を中 止 し,飲 水 を 本人 の渇
昭 和48年12月 下 旬,軽 度 の下 痢 が 続 いた あ と,再
感 の み に対 応 して 自由に 与え た 所,水 摂 取 は減 少
び 周 期 性 四 肢 麻 痺 発 作 をみ た.こ
し,再
の際,麻 痺 発 作
び 血清Naは 上 昇 一し は じめ155mEq/1と
な
が3日 以上 持 続 し,尿 閉 も 出現 した た φ,昭 和49
り,そ の とき四 肢 筋 力低 下 が 出現 した.そ
年1月5日,当
科 へ再 び 入院 した.
び強 制 的に 飲 水 さ せ た 所,血
入 院 時 所 見:
mEqμ に下 が り,四 肢 筋 力 は 回復 した.そ
こで
さ らにchlorpropamide投 与 を再 開 した 所,血
清Na
よ り下 肢 に強 くみ られ た.下 肢 では 筋 のわ ず か な
は134-143mEqμ
上の
収 縮 はみ られ るが,関 節 の動 き は な く上 肢 は 重 力
経 過 よ り,血 清Naを 正 常 域 に保 つ こ とが重 要 で あ
(5)第2回
四肢 筋 は 弛 緩 性 麻 痺 の状 態 で 麻 痺 の強 さは 上 肢
(60)
こで再
清Naは147-150
と正 常 範 囲 に も どつ た.以
日内 会 誌
第64巻
第12号
山根 表3.12時間
水制 限 テ スト(第2園目
清美他5名
入 院 中 に 実 施)
1395
神 症 状 の消 失 に伴 つ て 神経 学 的 所 見 もさ らに 明 ら か に なつ て,1)汎
下垂 体 機 能 低 下 症 の存 在,渇
中枢 の破 壊 を 示唆 す る 所 見,2)視 在,3)髄
液 蛋 白 の増 量,4)脳
陽性 所 見,5)気 る と 考 え,chlorpropamide投
野欠損の 存 シ ンチ グ ラムで
脳 写,空 気 脳 室 撮 影 の結 果,第3
脳室 前半 部 の充 盈 欠 損 を証 明 され た こ とか ら視 床
与 を 行 な い, 1日20
cc程 度 の 飲 水 が 必 要 で あ る こ と を 患 者00に 指 導 し,
下部 腫瘍 と診 断 され た.腫
退 院 さ せ た.退
行 な わ れ て い な い が,ectopic pinealomaあ るい は astrocytomaが 疑 わ れ て い る 。 第3脳 室 前半 に 占
院 後,1年
行 な つ て い る が,四
間,外
来 で経 過 観 察 を
肢 麻 痺 の 発 作 な く順 調 に 経 過
瘍 の 組織学的検索 春
居性massを 有 す るNPHは,ま
して い る.
(7)水
第3例
制 限 試 験(表3):
び,そ れ に 関 連 したADH分
と一 致 す る所 で あ る6).
(2)高Na血
さて,血 清Naのこ の様 な 増 加 は 口渇 中枢,お よ
症 の成 因 につ い て
本 例 は 高 浸透 圧,高Na血
泌中枢の異常が生 じ
さにAdams源 著 の
症時 に お い て さtiも 尿
て きた こ とに よ る と考 え られ る.こ の点 を 明 らか
量 は 正 常 で 口渇 感 は ほ とん ど欠 如 して い た こ と よ
にす るため に水 制 限 試 験 を 行 な つ た.12時
り,ま ず,日 渇 中 枢 の 異 常 が 高Na血 症 の 原 因 とな つ た と考え られ る.次 にADH分 泌 機能に つ い て
間 の水
制 限 を行 な い,そ の前 後 の 尿 浸 透 圧,血 清 浸 透 圧,
は水 制 限に よ り血 清 澄 透 圧 が十 分,上 昇 した に も
血 清電 解 質 を 調 べ た.血 清 浸 透 圧 は314mOsm/kg
か か わ らず,尿 浸透 圧 上 昇 の程 度 は 少 な か つ た.
と水制 限 前 か らす でに 高 い値 を 示 し,水 制 限 に よ り324mOsm/kgま
で著 し く 上 昇 した.そ
か か わ ら ず 尿 浸透 圧 は423魚Osm/kgよ mOsm/kgま
で しか 上 昇 せ ず,
れに も
尿 浸 透圧 は 血 清浸 透 圧 を越え て い る のでADHが
り672
分 泌 され てい る こ とは示 され るが,上 昇 の程 度 の 少 な い こ と よ りADHの 分 泌 不 全,或 resetが考 え られ る.口 渇 中枢 とADH分
F尿濃 縮 力 は 低 下 し
てい る.こ の結 果 か ら渇 中 枢 の障 害 に よ り,水 分 摂 取 が障 害 され て い るが,ADH分
泌 のre-setting
が起 こつ て い る可 能 性 が 考え られ る.
III.考 (1)視
床 下 部 腫 瘍 お よびNPHの
高Na血 症 の成 因 につ き,
話 傾 向 な ど の症
状,錐 体 外 路 系 障 害 を示 唆 す る動 作 緩 慢,歩 行 不 安定,2)髄
液 圧 が 正 常,3)
内水 頭 症 を示 す 検
査所 見,4)RISA-cysternographyで 疑 わ れ た.そ
こ でV-Pshunt作
ADH分
泌欠 如,渇 感 正 常
ADH分
泌 正常,渇 感 低 下,ま た は 欠 如
3型:
ADH分
泌 欠如,渇 感 低 下,ま た は 欠如
4型:
ADH分
泌 に対 す る刺 激 閾 値亢 進,渇
5型:
存 在 が強 く
ADH分
泌 に対 す る刺 激 閾値亢進,渇
感 低 下,ま た は 欠 如
製 して 髄 液 循 環
の5型に
動 態 の改 善 を 計 つ た とこ ろ,著 明 な症 状 改 善 をみ た.こ れ は 逆 にNPHの 診 断 を裏 づ け る成 績 とも
Mahoneyの (3)本
考 え られ る. この 間,内 分 泌 学 的 検 索 も平 行 して進 め られ 精
昭和50年12月10日
1型: 2型:
感正常
髄液 の 側脳
室 内へ の逆 流 を 示 す 所 見 か らNPHの
症 を ひ きお こす
原 因 にな つ た と考 え られ る 。Mahoney11)は 中 枢性
状 が 出没 し,診 断 が 困 難 で あつ た.当 院 入 院 時, 銘 力障 害,作
る と実 験 的 に 推 察 さ れ て お り7)∼10),本 例 で は視
全 で は あ るが 障 害 され,高Na血
診 断 につ い
本例 は当 初,相 互に 関 連 性 のつ け難 い種 々の症 格 変 化,記
視 床 下 部 で近 い位 置,或 は一 部 重 複 した 位置 に あ 床 下 部 腫 瘍 に よ り,こ れ らの 中枢 が 同時 に,不 完
案
て
1)性
はosmolar 泌中枢は
分 類 し てい る 。 本例 の 高Na血 症 は, 分 類 の5型 に属 す る もの と思 わ れ る. 例 の四 肢 麻 痺,お いて
(61)
よび,そ の成 因 につ
1396
高Na血 症,周 期 性四 肢 麻 痺,そ の 他 多 彩 な 症 状 を 呈 した 視床 下 部腫 瘍 の1臨 床 例
表4.血清Na,Kと
inducedで
麻 痺 発 作 の関 係
あ る 性 質 が 明 らか な こ と,末
鈍 麻 を 伴 う こ と,ま
た,glucose,お
梢性知覚
よび,
insulin
の静 注 で は 麻 痺 は 誘 発 され な い こ と な どが 報 告 さ れ て お り,本
例 の 特 徴 は この 分 類 に あ て は ま らな
い と考 え られ る.次にglucose,お
よ びinsulinに よ
り麻 痺 が 誘 発 さ れ た と い う点 よ り考え る と,家 性(散 発 性)低K血
症 性 周 期 性 四 肢 麻 痺,域
族
い は,
甲 状 腺中毒 症 性 周 期 性 四 肢 麻 痺 を 考 慮 す る必 要 が
ある.本 例が甲状腺中毒症 性周期性 四肢 麻痺 でな い こ とは 甲 状 腺 腫 が な い こ と,血
清T4,
RT3Uが
む し ろ 低 下 し て い る こ と か ら 明 ら か で あ ろ う.
さ て,わ れ わ れ の症 例 が 散 発 性 低K血 症性 周 期
まず,本 例 の 四肢 麻 痺 にか んす る臨 床 像 に つ い て は,1) 間 歓的 に 四 肢筋 力低 下 の 発 作 を 起 こ
性 四 肢 麻 痺 で あ るか ど うか に つ い て で あ るが,わ
し,弛 緩 性 四 肢 麻 痺 の形 を とつ た.2)発
れ わ れ の経験 では 散 発 性 低K血 症性 周期 性 四肢麻
外 に は正 常 筋 力 を示 した.3)知
作時以
痺 では 初 発 年 令 は10才 台,20才
覚障害は発作時
台 に 多 く,30才 台
作 の強 い ときに は膀 胱 直 腸
で初 発 す るの は 比較 的 少 な い こ と,ま た,自 然発
障 害 を伴 つ た こ とな どが あげ られ る.周 期 性 四肢
作 中,著 明 な低K血 症 の発 見 さ れ る確 率 が高 い こ
麻 痺 は一 つ の症 候 群 で あ つ て単 一 の疾 患 で はな い
とな どの 特 徴 を 有 す る こ とを 考え る と,本 例 で
が,以 上 の症 候 よ り本 例 の四 肢 麻 痺 が 一 般 に 周期
は,麻 痺 時 に 低K血 症 を見 逃 した可 能 性 は否 定 は
性 四 肢 麻 痺 と呼 ばれ て い る も のに 一 致 す る事 は 勇
出来 な い が,少 な く と も この分 類 の典 型 的 症例 と
ち か で あ る.次 に本 例 の周 期 性 四 肢 麻 痺 に み ち れ
は考 えに くい の で あ る.鑑 別 す べ き周 期 性 四 肢麻
た 特 徴 と して,1)発
痺 の成 因 は 以 上 の様 な もの とす る と,本 例 の周期
に も伴 わ な い.4)発
が 高 い(表4).2)血 (表4)。3)誘
作 の あ る時 は必 ず,血 清Na
性 四 肢 麻 痺 の 成因 を解 釈す る上 で最 も重要 な もの
清Kは 必 ず し も 低 くな い
は,本 例 で麻 痺発 作時 に必 ず,壷
発 試 験 と してglucoseとinsulin'を静
清Naの 上 昇 を
み る こ と にあ る と思 わ れ る1
注 す る と,麻 痺 は招 来 され,血 清Kは 低 値 とな り
こ こ で 高Na血
血 清Naは 一 部 上 昇 して い る(表1)。4)chlorpro-
症 の 際,水
分 の分 布 が ど の 様 な
pamideが 奏 功 した(血 清 甑 濃 度 を 減 少 させ る こ
形 で あ っ た か を 考 慮 して お き た い.本
とに よつ て か,或 は,直 接 的 に作 用 した か ど うか
痺 時 に 高Na血
は不 明 で あ るが).5)周
症 を 示 した 際,同
例 では 麻
時 に 高Cl血 症 も存
在 した.他
の デ ー タ ー で はTP
は な い ♂な どが あげ られ る.血 清Kが 発 作 中,必
131Dg/dl, Ht
40.3%,
ず し も低 下し て い な い こ とは,本 例に い て は, 一 つ の特 徴 で は あ る が,低K血 症 を伴 う周 期 性 四
例 で 正 常 血 清Na濃
肢 麻 痺 にお い て も発 作 の初 期 を のぞ い て血 清Kは
そ れ ら よ り も低 い 値 で あ り,従
必 ず し も低 くな い場 合 が あ り,こ れ のみ で,本 例
存 在 す る 際 はhemoco塵centrattationが 存 在 し て い た
期性四肢麻痺 の 家族歴
12.48/dl,
Ht
と推 察 さ れ る.本
とは 困 難 で あ る.し か し,同 時 に正K血 症 性 周 期
枢 の 異 常 の た め,細
性 四 肢 麻 痺 を 考 慮 して お か ねば な らな い.後
足 し,hypertonic
の場 合,Poskanzerら129,鎮 に お い て もKC1で
目,紫
誘 発 され る,つ
urea N
あ っ た.本
度 を 示 し て い る 際 のHb
10.3症 の際 の
つ て 高Na血
例 では 日 渇 中 枢,ADH分
症の
泌中
胞 外 液 中 の 主 と して 水 分 が 不 dehydrationの
に,hemoconcentrationの
芝 らis)の症 例
6.6mg/dl,
13。2g/dlで
25.0-35.7%で,高Na血
が 低K血 症 性 周 期 性 四 肢 麻 痺 に属 さ な い とす る こ
者
Hb
状 態 と な り,同 時
状 態 も 存 在 した で あ ろ
う.
ま りpotassium-
(62)
目内 会 誌
第64巻
第12号
山根
満 美他5名
1397
従来,散 発 性 低K血 症 性 周期 性四 肢 麻 痺 に お い て も発 作 期 間 中,血 清Naの 上 昇 を み る こ とが 多
麻 痺 発 作 に 伴 う水 分 のre-distributionと い う因 子 を
く,繰
Hodgkin
り返 し 述 べ る如 く,本
考 慮 し な く て は な ら な い と考え る.何
例 の高Na一血症 と四
肢 麻痺 との 関連 で 周 期性四 肢 麻痺 の結 果 生 じた 水
で は 血 清Naの
分 のre-distributionに 伴 う,.高Na血 症 で あ る 可 能
れ に せ よ
and Katzi17)の 式 で 明 らか な 様 に,本
症例
上 昇 が 麻 痺 の 一つ の 準 備状 態 とな
り得 た と考 え ら れ る.本
例 に お い てch第orpropami-
性 も完 全 に は否 定 す る こ とは 出来 な い.偶 然,散
de投 与 に よ り血 清Naが
正 常 化 さ れ る と と もに 麻
発 性低K血 症 性 周期 性 四 肢 麻 痺 と視 床 下部 腫 瘍 と
痺 の 発 生 を み な くな つ た 事 実 も こ の 考 え を 裏 づ け
が同一 人 に 尚一 時 期に 発 生 した とい う考 え方 も不
る も の で あ ろ う.い ず れ に せ よ,こ の 様 な 症 例 に お
可能 で は な い.し
い て はKCI,
か し,逆
に 血 清Naの 上 昇 が周
spironolactone,
acetazalamideな
ど従
期性 四肢 麻 痺 の誘 因 を作 る か ど うか を考 え て み る
来,こ
こと もまた,.重 要 な はず で あ る.
ropa血ideが 奏 功 す る こ と は 今 後 の 症 例 の 治 療 の 上
周 期 性 四 肢 麻 痺 はmembrane
tzfeidt15),
A18)ら
て い る.麻
要 な参 考 とな る事 項 で あ ろ う、
potential, Eの 減 少
よ る こ と が 大 塚14)ら に よ り実 験 的 に,ま に よ り 臨 床 的に
の 疾 患 に 慣 用 さ れ て い る薬剤 よ り もchlorp-
IV .ま
たCre-に
かめ ら れ
痺 の 起 こ り易 い 状 態 はHodgkin
と
に重
め
わ れ われ は視 床 下 部 腫 瘍 と臨 床 的 に診 断 され た
and
症例 で,正 常 脳 圧 水 頭 症,下 垂 体機 能低 下症 お よ び,ADH分
Katz17)の 式,
泌 異 常,渇 中 枢 障 害 に基 づ く高Na血
症 を呈 しそ れ に 関連し て周 期 性 四肢 麻痺 が生じ た (たゞ し,E:
静 止 膜 電 位,
F:Faraday定
数,
〔K〕o:継 胞 外K濃
度
胞 外Na濃
〔CI〕o:細
胞 外Cl度 〔CI〕i:細
PCI:各
T:
症 例 を経 験 し,そ の成 因 につ き,考 察 を試 み た.
ガ ス 定 数,
謝辞
絶対温度
〔Na〕i:細
胞 内Na濃
本 症 例 の資料 の提 供 を して 頂 い た 東 京 慈 恵 会
医 科大 学 阿部 内科,お よ び銀 座 菊 地 病 院 の 諸 先生 方 に厚
〔K〕i:細 胞 内K濃 度
〔Na〕o:細
PR, PNe,
度
R:
く御 礼 串 し上 げ ます.
度
文
胞 内Cl濃 度
1)Maddy,
イ オ ンの透 過 定 数
J.A.
thalamic
こ の 際,Pc1のPN。 に 比 し,著 し く小 さ い の でCI ),に か ん す る 項 は 無 視 出 来 るか ら
cular
syndrome paralysis,
with
A.J.,
J.
が,本
い は,PKが
J.
Chronic
低 下 して い るか で あ る
Lipsett,
M.B.,
か と推 察 さ れ る.さ
ら にchiorpropamideの
W.E.:
Amer.
の2剖
よ り〔Na〕。 が 低 くなつ た 時 期 で は麻 痺 が 起 こ ら な
R.D., and
増 加 は,PNa増
加,
与に よ る 内因 性insulinの
CK〕 ・の 減 少 に よ るPxの 減 少 と
ら に上 昇 す る 理 由 に つ い て
Goldberg, Neurol.
多 震虔夫,斉 原 隆 造:周
G.M.,
Haskin,
S.,
W.H.:Symptomatic
藤 佳 雄,
期 姓 四 肢 麻 痺 を う視 床 下 部 腫 瘍
Ojemann,
R.G.
occult
hydroce-
with"normal"cerebrospinalfluid Eng。
berg,
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of
Stevenson,
thalamic consumption,
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ト リ ウ ム 血 症 を 伴
New.
and
常 の 他 に 里 吉 ら18)が 主 張 す る 如 く,
昭和50年12月10日
and
pressure,
Med・,273:117,1965・
一7)Gold-
and
antidiuretic
hormone,
the
inappropriate
editorial,
J.Med.35:293,1963.一8)Montemurro,
り実験 的 に 説 明 さ れ て い る こ と で あ る.次 よ に 麻 痺
は,ADH異
Dis.
床 神 経,14:462,1974.一6)Adams,
Fisher, Sweet,
secretion
い う機 序 で 麻 痺 を 起 こ し う る こ と は 大 塚 ら19)に
発 作 中 に 血 清Napaさ
D.
井 秀 幸,塩
検 例,臨
phalus
た は,glucose投
J.
hypernatremia,
主 徴 と し た 高 ナ
治療 に
A.K.
Med.,38:306,1965.一3)Segar,
岡 田 年 弘,平
い こ と も こ の 考え で よ く 説 明 さ れ う る.insulinの 投 与,ま
Ommaya,
(Chicago),15:78,第966.一5)本
ず かな 上 昇 で も麻 痺 の引 き金 を ひ い た の で はな い
mus-
hypernatremia,
hyperosmolality,
M.:Neurogenic
例 で はPN・ が 増 加 し て い た た め に 〔Na]oの わ
and
Med.,51:394,1971.一
112:318,1966.一4)Pleasure,
して い る か,或
W.W.:Hypo-
hypernatremia
Moser,,J.M.:Asymptomatic
Amer.
お い てP漁 が 増 加
献 Wuiternitz,
Amer.
一2)Kastin, and
と単 純 化 す る こ と が 出 来 る)に
and
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structures Yale
in J.
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高Na血 症,周 期 性四 肢 麻 痺,そ
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within
dog,
J.H. due
hold
for
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Amer.
喜 久,鎮
頁 和 夫,紫
J.
Potassium
induced,
on
the
water
Goodman,
release,
the
intake
of
of
Eng.
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Kerr,
paralysis,
with
periodic
favorable
J.
response
to
芝 良 昌,佐 sodium
responsive
by
insulin
with
paralysis,
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electrical J.
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田 昌 暉:2,3の
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尾
久 間 真 樹,矢
lysis
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hypothalamic
the
and
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の他 多 彩 な症 状 を 呈 した 視 床 下 部腫 瘍 の1臨 床 例
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the
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(64)
日内 会 誌
第64巻
第12号