81-672
1978
PRIMARY
CARCINOMA SHIGEO
OF THE NASAL
SUGIYAMA,
Department
SEPTUM:
M.D., KUNITOSHI
of Otolaryngology,
Primary reported
of Otolaryngology,
Recently,
M.D.
M.D.
Medical School, Kumamoto
carcinoma of the nasal septum is extremely
in Japan.
YOSHINO,
OF A CASE
Osaka Police Hospital, Osaka.
HIROSHI MIYAHARA, Department
REPORT
rare
University,
Kumamoto.
and only 45 cases have been
a patient with carcinoma simplex arising from the anterior portion
of the nasal septum was seen in our Hospital.
A radical
operation
was
performed.
Eight
months later, however, there was a recurrence, and hte patient has been successfully treated
with
irradiation. Of the 45 cases reported, cartilagenous
15 originated
part, 5 in the tuberculum
in the anterior
portion of the nasal septum, 9 in the
septi nasi, 5 in the posterior border, and 1 in the osseous
part. Histologically, 8 cases were squamous cell carcinoma, 6 basal cell carcinoma, and 5 adenocarcinoma, and 5 carcinoma simplex. Melanoma and transitional cell carcinoma were rare. The treatment
of primary septal carcinoma varies depending on the location and size of the
tumor and with the presence surgery and irradiation
or absence of invasion
should be the treatment
into the adjacent
structures.
Combined
of choice.
A81-0672-32309
原
発
生
鼻
中
隔
癌
症
例
大阪警察病院耳鼻咽喉科 杉
山 茂
夫,吉
野
邦
俊
熊本大学医学部 耳鼻咽喉科学教室 宮 I 緒
原
主 訴:右 側 の鼻 閉 お よ び鼻 出 血
言
副 鼻 腔,こ
裕
と に上顎 洞 の癌 は 高 い発 生 頻 度 を示 す が,
現 病 歴:2月
前 よ り右 鼻 閉が あ り,指 で解 れ る と腫 瘤
鼻 腔 に発 生 す る癌 は稀 で あ る.就 中,鼻 中 隔 原 発 の癌 は
の あ るの に気 づ い た.半 月 前 か らは右 鼻 出血 を伴 うので
きわ め て稀 で,わ れ われ の調 べ た範 囲 では,本 邦文 献 に
近 医 を 受診 した とこ ろ,当 科 を紹 介 され た.
45例 を見 るの み で あ る.
既 往 歴:10年
わ れ わ れ は 最 近 本症 例 を経 験 し,手 術 的 治 療 を 行 っ
来,時
々耳 漏 を伴 う両 側 の難 聴 が あ り,
現在 補 聴 器 を使 用 して い る.そ の頃 よ り両 側 の慢 性 中耳
た.完 全 に摘 出 で きた と考 え られ た に もか か わ らず,8
炎 とい われ て い る.昭 和46年 に は 肺 結 核 で2ヶ月
ヶ 月 後 に 再 発 を来 し,放 射 線 療 法 を行 っ て い る.従 っ
院,ま た1年 半前 よ りは 胃腫 瘍 といわ れ 治 療 中 で あ る.
て,そ の経 過 を述 べ,鼻 中隔 癌 の 発 生 部 位,病 理 組 織 学
家 族 歴:特 記 す べ き こ とな し
的 分 類,治 療法 に つ い て,若 干 の考 察 を加 え て 報 告 す
現 症:
る. II
間入
[全 身所 見] 症
患 者:武
例 ○喜 ○,53才,♂,公
初 診:昭 和51年9月27日
体 格;や 務員
や不 良,脈 拍;75/分,整,緊
138∼100mmHg,体
温;35.4℃,胸
張 良,血 圧; 腹 部;異 常 な し.
表 在 リンパ 腺,頸 部 お よび 全 身 リンパ 腺 の 腫 大 も認 め 7-18
日耳鼻
杉 山 ・他=発 原生鼻 中隔癌症例
られ な か っ た.
分 類 は 好 中球 桿 状 核2%,同
〔 局所所見〕 右 鼻 腔 は 大 き な腫 瘍 組 織 で充 満 し てい る(第1図)
.硬
度 は弾 性 硬 で 出 血 しや す い・ことは ない . ゾ ンデ に よ る触 診 に よれ ば,鼻
81-673
中隔 前 方 に基 部 を もつ腫 瘍 で あ る.後 鼻
孔 は正 常 で腫 瘍 は見 られ ない.ま た,左 鼻 腔 には 特 別 な 所 見 が見 られ な い
分葉 核56%,リ
好 酸 球2%,好
塩 基 球1%,単
血 時 間2分,凝
固 時 間5分30秒,プ
11.1秒,血 Ⅲ
手 術 お よ び経 過
昭 和51年10月1日,局
所麻 酔 の下 に腫 瘍 摘 出 術 を行 っ
る こ とが で きた.さ
らに,基 部 の残 存 と思 わ れ る粘 膜 を
平 型 の両 側 性 混 合 性 難 聴 を認 め る .
咽 喉頭 は 正 常 で あ る.
第3図
第1図
第4図
第2図 〔 検査成績 〕 X線 検 査 で ほ特 別 な所 見 は見 られ な い
す な わ ち,両
側 の 副 鼻 腔 は全 て略 正 常 で あ る.ま た,骨 破 壊 像 は認 め られ な い(第2図). 胸 部X線 像 で は右 肺 炎部 にbullaを,左
肺 炎 部 に硬 化
性 結核 の 像 を認 め る.
7-19
ロ トロ ン ピ ン 時 間
た.腫 瘍 は 鼻茸 切 除用 の絞 断 器 で 基部 よ り容 易 に摘 出す
右側 鼓 膜 は ほ とん ど全 穿 孔 し て お り,左 側 で は上 鼓 室
赤 血 球4499万,血
ンパ球38%, 小 板28万,出
清梅 毒 反 応 陰 性 .
に穿 孔 が み られ る.標 準 純 音 聴 力 検 査 に よ り,気 導 値 が 50∼60dB水
球1%,血
色 素14.79/dl,白
血 球5.500,白
血球
第5図
81-674
1978
杉 山 ・他=発 原生鼻 中隔癌症例
鼻 中隔 軟 骨 よ り剥 離 除 去 した.剥 離 は きわ め て容 易 で軟
後 端 部各5例,骨
骨 に異 常 は な く,従 って腫 瘍 は軟 骨 とは 無 関 係 に,鼻 中
学 的 な特 殊 性 か ら早 期 よ り鼻 閉 を訴 え,か つ 鼻 中隔 前 部
隔 粘 膜 よ り発 生 した もの と思 われ る.腫 瘍 は 小 指 大 で
に発 生す る こ とが多 い た め,比 較 的 早 期 に発 見さ れ 易
1.5×1.5×1.0cm(第3図)で
く,そ れ が 予後 の 良い こ とに結 び つ い てい る の で あ ろ
あ る .出 血 もほ とん どな
く,簡 単 に術 を終 え る こ とが で き た.
medullaryに
に示 す よ う に,全
体 と して
腫 瘍 胞 細 の増 殖 をみ る.細 胞 は核 が 大 き く,
核 小 体 が 明 瞭 でatypicalで sarcomatousで
あ る.あ る部 分 で は 一 見
あ るが(第5図),鍍
とな っ てい る.こ の よ うに解 剖
う.
摘 出腫 瘍 の病 理 組 織 学 的 診 断 は,予 想 に反 して 単 純癌 で あ った.所 見 は第4図
部1例
銀 染 色 に よ っ て否 定
され た.
本 症例 の 病理 組 織 学 的 診 断 は,癌 腫 様 の部分 と肉 腫 様 の 部 分 が あ って 困難 で あ った が,細 胞 が 連 な る傾 向 が あ りcell nestを 作 って い る の で,上 皮 性 の も の と考 え ら れ た.そ の 後,鍍 銀 染 色 を追 加 す る こ とに よ っ て,肉 腫 で あ る こ とは否 定 され た.癌 腫 とし て も細 胞 は未 分 化 で 特 徴 的 な構 造 を有 さな い の で,扁 平 上 皮 か 腺 か不 明 であ
組 織 診 断 で 癌 で あ るこ とが確 定 した の で,10日 後 に再 手 術 を行っ た.再 手術 で は腫 瘍 が 存 在 した部 分 の周 辺 粘 膜 を,広 範 囲 に剥離 除去 した.鼻 中隔 軟 骨 に は 肉眼 的 に
るが,き わ めて未 分化 な腺 癌 で あ る可 能 性 が 高 い
いづ
れ にせ よ単 純 癌 と しか い え な い よ うで あ る. 病 理 組 織 像 を文 献 的 に 眺 め る と扁 平 上 皮 癌18例,基
底
異 常 は 認 め られ な か った が,腫 瘍 部 分 を中 心 に切 除 し,
細 胞 癌6例,腺
健 側 粘 膜 の み を残 した.腫 瘍 周 辺 の粘 膜 の うち,上 下 お
黒 色 癌,移 行 上 皮 癌 な どが あ る.す な わ ち扁 平 上 皮 癌 が
よび 後 方 の 三 ケ所 よ り材 料 を と り,病 理 組 織学 的検 索 を
断 然 多 く,本 症 の よ うな 単純 癌 は比 較 的少 い.発 生 部 位
行 っ た.結 果 は後方 と下方 の粘 膜 に異 常 は な く,上 方 の
と病 理 組 織 像 との 関係 につ い て は,例 数 が少 い の で何 ん
粘 膜 に は摘 出 腫 瘍 と同 じ種 類 の癌 を認 めた.
と もい え ない が,鼻
経 過 は,鼻 中隔 の 穿 孔 を来 す こ とも な く,き わ め て順 調 で あ った.し か し,8ヶ
癌 と単 純 癌各5例
で,珍
ら しい もの には
中隔 癌 の 最 も多 い 型 と して は,鼻 中
隔 前 部 に発 生 し た扁 平 上 皮 癌 で あ る とい え よ う.
月後 に鼻 中隔 最 上 部 に お い
治療 は一 般 の癌 腫 と同 様 に,手 術,放 射 線 治療,両 者
て,米 粒 大 で出 血 しや す い 肉 芽様 の部 分 を認 め た.病 理
の 併 用 に 大別 で き る.本 症 例 で は茎 を有 し表 面 平 滑 な腫
組 織 学 的 に検 査 した と ころ,未 分 化 な癌 細 胞 が 認 め られ
瘤 を鼻入 口部 に認 め た た め,混 合 腫 瘍 を疑 い 絞 断 器 で切
た.直 ち に放 射 線 療 法 を開 始 し,そ の後 現 在 まで 順調 で
除 し,周 辺粘 膜 を 剥離 除 去 した.病 理 組 織 診 断 は 予 想 に
あ る.
反 して癌 で あ っ た の で,早 期 に施 行 した 再 手 術 で は,腫
IV 考
按
瘤 周 辺 の粘 膜 と正 常 と思 われ る鼻 中隔 軟 骨 を広 範 囲 に切
鼻 ・副鼻 腔 悪 性 腫 瘍 は,喉 頭 癌 と共 に頭 頸 部 悪 性腫 瘍 の双 壁 で あ る.し か し,鼻
・副 鼻腔 の悪 性 腫 瘍 は ほ とん
ど上 顎 洞 原 発 で,酒 井4)の797例 92.2%を
の 統計 に よれ ば,実
に
占 め て い る.そ の反 面 鼻腔 よ り発 生 し た も の
は,わ ず か に3.8%に
過 ぎ ない
しか も鼻 腔 癌 に限 定 す
れ ば,発 生 頻 度 の 高 い も のか ら 中 甲介,下 甲介,鼻
中隔
除 した.術 中 お よび 術 後 の経 過 か ら も完 全 に摘 出 で きた もの と考 えて い た が,8ヶ
月後 に再 発 を来 してい る.
どの よ うな 治 療 法 を選 ぶ か は 発生 部位,腫
瘤 の大 き
さ,隣 接 場 所 へ の浸 潤 の 有 無 な どに よっ て 当 然異 な るべ き で あ る.久 保 ら2)は,鼻 腔 腫 瘍 は きわ め て 多様 性 で あ る た め,臨 床 像 が 類 似 して も一 元 的 には考 え られ ず,治
の順 とな り1)3)6),鼻中隔 原 発 癌 は きわ め て稀 な症 例 とい
療 法 も画 一 的 に は論 ぜ られ ない と結 論 し てい
え る.本 邦 文献 に見 られ る原 発 性 鼻 中 隔 癌 は 野村7)の 報
ら9)は 放 射 性 皮 膚 炎 を起 こす こ と をお そ れ て,手 術 に よ
る.平 野
告 に詳 し く,昭 和42年 ま で に32例 が 報告 され てい る.そ
る摘 出 の み で経 過 を観 察 して い るが,手 術1年 後 に も再
の 後 昭 和52年 ま で に,わ れ われ の調 べ 得 た 範 囲 で は13例
発 を見 な い と報 告 して い る.一 方 野 村 ら7)は,何 等 浸 潤
の報 告 が あ り,今 回 の症 例 を含 め て もわ ず か に46例 を見
と思 え る所 見 が な くて も鼻 中 隔軟 骨,骨,健
るの み で あ る.
めて摘 出 し,放 射線 療 法 を加 味す べ き で あ る こ とを指 摘
自覚 症 状 と して は鼻 閉塞(約80%)が 次 は 鼻 出血(約50%)で
圧 倒 的 に 多 く,
あ る.本 症 例 の よ うに鼻 孔 に指
側 粘 膜 を含
し てい る.健 側 の鼻 中 隔粘 膜 ま で除 去 す べ き か否 か につ い ては,腫 瘍 の 進 行 状 態 に よ って き め て も良 い と思 われ
で腫 瘤 を触 れ る こ とか ら,専 門 医 を受 診 す る場 合 も見 ら
る が,少
れ る.ま た 発 生 部位 が記 載 され て い る35例 に つ い て 集
も,放 射 線 療 法 を追 加 す べ き で あ る と考 え られ る.
計 す る と,鼻 中隔 前 部15例,軟
骨 部9例,結
節 部 お よび
V
結
くと も完全 に摘 出 で きた と思 え る場 合 で あ っ て
語 7-20
日耳鼻
杉 山 ・他=発 原生鼻中隔癌症例
原 発 性 鼻 中 隔 癌 の 症 例 に つ い て,そ た.そ
の 発 生 部 位,病
に考 察 す る と 共 に,完 で も,放
理 組 織 像,治
の詳 細 を 報 告 し 療 法 に つ い て文 献 的
腔 学 会 誌,10;65,1972(昭47). 9)
平 野 一 弥,他:手
全 に 摘 出 で き た と 考 え ら れ る場 合
1)
切 替 一 郎:新
2)
久 保 隆 一,他:固 につ い て.耳
耳 鼻 咽 喉 科 学.南
山 堂,1976(昭51).
4)
酒 井 俊 一:上
5)
豊田
鼻 咽 喉 科 学.医
藤 本 俊 明:鼻
中 隔 に 原 発 し た 癌 腫 の1例.日
耳 鼻,
76;97,1973(昭48).
有 鼻 腔 よ り発 生 した 悪 性 腫瘍14例
後 藤 敏 郎 監 修:耳
例 並 び に 其 の 文 献 的 考 察.耳
喉,28;802-809,1956(昭31). 10)
11)
鼻 と 臨 床,16;151∼155,1970(昭45).
3)
術 的 療 法 に 依 り全 治 を 見 た る原 発
性 鼻 中 隔 癌 腫 の1症
射 線 療 法 を 加 味 す べ き で あ る こ と を 強 調 し た. 参 考 文 献
81-675
前 田
真:鼻
中 隔 原 発 癌の一
症 例 .日
耳 鼻,70;
1327,1967(昭42).
学 書 院,1960(昭
12)
山 田 隆 志,他:鼻
13)
吉 田 豊 治,他:鼻
35).
中 隔 癌 腫 症 例.耳
鼻 臨,61;1686,
1968(昭43). 顎 癌.金
務,他:鼻
原 出 版,1974(昭49).
中 隔 癌 の 一 例.日
耳 鼻,74;1213,
中 隔 腫 瘍 に つ い て .日
耳 鼻,75;
900-901,1972(昭47).
1971(昭46). 6)
西 端驥 一 編:日
本 耳 鼻 咽 喉 科 全 書 第2巻
.金
原出
版,1955(昭30). 7)
野村
和,他:原
的 性 鼻 中 隔 癌 腫の1例.耳
鼻 と臨
原田
7-21
紀,他:原
発 性 鼻 中 隔 が ん 症 例.日
(原 稿 受 付 別 刷 請 求先
床,13;314-322,1967(昭42). 8)
本論 文 の要 旨 は,第180回
大 阪 地 方 連 合会 例 会 にお い
て 発表 した.
本 鼻 副鼻
〒543
病 院 耳鼻 咽喉 科
昭和53.3.9日)
大 阪 市 天王 寺 区 小 宮 町8 杉 山 茂夫
大阪警察