YAKUGAKU ZASSHI 135(2) 169―174 (2015)  2015 The Pharmaceutical Society of Japan

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―Symposium Review―

薬学的な総合判断力に基づく薬物モニタリングの実践 片 山 歳 也†

Practice of Drug Monitoring Based on Comprehensive Pharmaceutical Judgment Toshiya Katayama† Department of Pharmacy, Yokkaichi Social Insurance Hospital; 108 Hazuyama-cho, Yokkaichi, Mie 5100016, Japan.

(Received July 22, 2014) With the revisions to the pay for performance of pharmaceutical service of inpatients in April 2012, the ward permanent time of pharmacists grew longer than previously; however, there are as yet few reports on the pharmaceutical outcome of the new medical service. To improve the pharmaceutical service requires that pharmacists collect useful medical information and extract the problems of pharmaceutical care for inpatients. Since many cases of treatment with multidrug regimens are regularly performed, pharmacists cannot contribute to medical treatment only by knowledge of a single disease. Therefore quick and comprehensive judgment of pharmacists is necessary in addition to acquisition of pharmaceutical knowledge. We especially highlight medical emergencies such as severe cases of sepsis and infection to which physicians require rapid judgment. Pharmacists alike require appropriate knowledge of drug administration to avoid medical treatment failure. Moreover, it is necessary for pharmacists to apply advanced drug monitoring in di‹cult cases. On the other hand, integrated team medical treatment is now advancing, although pharmacists' roles in clinical decision making are increasing, and pharmacists have a greater burden of responsibility than before. Key words―pharmaceutical service; drug monitoring; comprehensive pharmaceutical judgment

はじめに

と適切な薬物療法の提案が要求される.そのために

平成 24 年度調剤報酬改定及び薬剤関連の診療報

は,病態と薬物治療に関する知識や情報を対象患者

酬改定において,薬剤師が病棟において病院勤務医

に適合させ,総合的に判断する能力が薬剤師に必要

等の負担軽減及び薬物療法の有効性,安全性の向上

であると考える.したがって,本稿では薬学的な総

に資する薬剤関連業務(病棟薬剤業務)を実施して

合判断力に基づく薬物モニタリングの実践について

いることが,病棟薬剤業務実施加算の算定要件とさ

述べたい.

れている.この要件には,薬剤師の勤務医等の負担

1.

軽減等に資する業務や他の医療スタッフからの相談

病棟薬剤業務は,持参薬を確認し処方設計・処方

応需が含まれる.薬剤師が薬学的な知識・技能・態

提案に至る処方前の病棟全般の薬学的管理を意味し

度を駆使して薬物療法の有効性,安全性の向上に資

ている.薬剤管理指導業務は,患者面談と並行して

するためには,患者の病態変化を把握して,薬物治

服薬への理解や服薬評価を通じて,そして薬学的支

療の効果及び副作用を評価できることが必要であ

援計画に至る処方後の個別の薬学的管理と位置付け

る.すなわち,薬学的知識に基づく薬物療法の評価

られている.

病棟薬剤業務について

日本病院薬剤師会が提示する薬剤師の病棟薬剤業 四日市社会保険病院薬剤部(〒5100016 三重県四日市 市羽津山町 108) 現所属:†独立行政法人地域医療機能推進機構四日市羽 津医療センター薬剤科(〒5100016 三重県四日市市羽 津山町 108) e-mail: toshiya@m4.cty-net.ne.jp 本総説は,日本薬学会第 134 年会シンポジウム S20 で 発表した内容を中心に記述したものである.

務のあり方としては,次の 5 項目が挙げられてい る.(1) 入院患者に対する最適な薬物療法の実施に よる有効性・安全性の向上,( 2 ) 疾病の治癒・改 善,精神的安定を含めた患者の QOL の向上,( 3 ) 医薬品の適正使用の推進による治療効果の向上と副 作用の防止による患者利益への貢献,(4) 病棟にお

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YAKUGAKU ZASSHI

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ける薬剤(注射剤,内服剤等)に関するインシデン

者や医療スタッフのニーズによって異なる.すなわ

ト・アクシデントの減少,(5) 薬剤師の専門性を活

ち,即断が求められているのか,時間を要してもよ

かしたチーム医療の推進.

り詳しい医薬品情報が必要とされているのか,いず

病棟薬剤業務の算定要件として,具体的には当該

れの場合においても薬剤師と医療スタッフ及び患者

保険医療機関における医薬品の投薬・注射状況の把

間における十分なコミュニケーションが必要となる

握,当該保険医療機関で使用している医薬品の医薬

のは言うまでもない.十分なコミュニケーションが

品安全性情報等の把握及び周知並びに医療従事者か

とれない薬剤師は,患者や医療スタッフから生じる

らの相談応需,入院時の持参薬の確認及び服薬計画

問題点を正しく定型化できない可能性があり,薬剤

の提案,2 種以上(注射薬及び内用薬を 1 種以上含

師が問題解決しようとする内容と患者や医療スタッ

む)の薬剤を同時に投与する場合における投与前の

フが必要とする医療情報が合致しないことがある.

相互作用の確認・患者等に対するハイリスク薬等に

したがって,患者の問題点に即断するためには,幅

係わる投与前の詳細な説明,薬剤の投与にあたり,

広い薬学的知識の習得のみならず,臨床症例におい

流量又は投与量の計算等の実施などが挙げられる.

て,薬剤師はあらかじめ予測できる問題点を抽出

病棟薬剤業務は病棟薬剤業務日誌として記載する

し,その対策を準備しておくことが必要である.

ことが必要であり,四日市羽津医療センター薬剤科

しかし,一般的に入院患者は,多剤併用により治

(当薬剤科)の業務所要時間に関する分析結果によ

療が行われるため,薬剤師は単一疾患による薬物治

ると,処方前業務>処方後業務>チーム医療>外来

療の知識での対応ではほとんど通用しない.実際の

指導の順に多かった.また,病棟薬剤業務項目の内

入院患者では多くの合併症を有し,多剤併用療法が

訳では,医薬品の投薬・注射状況の把握,当該保険

なされることが少なくない.特に高齢者になれば,

医療機関で使用している医薬品の医薬品安全性情報

自ずと合併症は増加傾向にある.単一疾患の薬物治

等の把握及び周知並びに医療従事者からの相談応

療の知識を活用することは現行の薬学教育の中でも

需,入院時の持参薬の確認及び服薬計画の提案の 3

なされているが,合併症が多い症例に対する適応能

項目の合算で約 9 割を占め,薬歴把握>持参薬管理

力が乏しい薬剤師(薬学生)が多いと思われる.

>相談応需の順で多かった.

多剤併用療法が施される患者の薬物治療におい

この結果から,薬剤師は処方前業務における薬歴

て,臨床薬剤師に求められる能力としては,(1) 対

把握や持参薬管理に多くの時間を費やすことが多

象疾患の急性期と慢性期の薬学的ケアができる.

く,患者側から見ると,顔のみえない薬剤師に陥る

( 2 ) 症状・検査値・薬歴を時系列に評価できる.

危険性がある.しかし,このような薬剤師業務は安

(3) 症状及び病態を薬と疾患の両側面から評価でき

心で,安全な薬物療法を支援するために重要な業務

る.( 4 ) 薬物治療による転帰を推察できる.そし

であるため,その成果を目に見える形で国民に情報

て,(1) から(4) を踏まえた薬学的な総合判断力が

発信していくことが必要である.

必要であると考えられる.つまり,多剤併用療法に

2.

患者の問題点に即断できるための必要な薬剤

師の課題

おける患者の問題点の解決には,薬剤師は知識の習 得以外に,総合的かつ迅速な判断力が必要になり,

薬物療法における主な薬剤師の処方介入場面とし

確固たる医療人マインドを有し,医薬品情報の取捨

て,処方せん調剤における疑義照会,外来及び病棟

選択及び患者情報収集に関する能力が必要となる.

におけるチームカンファレンス,医療スタッフから の相談事例が挙げられる.どの処方介入場面におい ても,共通して必要なことは患者の問題点に即断で きるということであり,様々な薬物治療の問題点に 対する必要な医薬品情報について,薬剤師が事前に 準備して報告することはさほど難しくないが,予想 外の医療情報を薬剤師が即断して報告することは難 しいと言える.患者の問題点に対する報告様式は患

片山歳也

1994 年名城大学薬学部薬学科卒業後, 四日市羽津医療センター薬剤科(旧四 日市社会保険病院)勤務.三重県病院 薬剤師会理事,日本医療薬学会認定・ 指導薬剤師,日本病院薬剤師会感染制 御専門薬剤師,東海地区感染制御研究 会代表.感染制御,糖尿病,慢性腎臓 病,関節リウマチ領域の臨床研究に取 り組む.

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薬効・副作用モニタリングにおける総合判断

[内服薬]テルミサルタン錠 40 mg 2 錠分 2 朝夕食

力が必要であった,慢性腎不全患者の敗血症におけ

後,アゼルニジピン錠 8 mg 2 錠分 2 朝夕食後,ニ

る持続的腎機能代替療法と抗菌化学療法を施行した

フェジピン徐放錠 20 mg 1 錠分 1 朝食後(非透析

症例

日),ビルダグリプチン錠 50 mg 2 錠分 2 朝夕食

3.

[背景]

後,インスリンアスパルト 1 日 1 回夕食直前 4 単

敗血症,重症敗血症,及び敗血症性ショックは,

位,アルファカルシドール 0.25 mg 1CP 分 1 毎食

全身性細菌感染の結果として起こる炎症状態であ

後,ビキサロマーカプセル 250 mg 6CP 分 3 毎食直

る.重症敗血症及び敗血症性ショックでは,組織灌

後,ダルベポエチンアルファ 30 mg 週 1 回.

流の重大な減少がみられ,症状はしばしば悪寒戦慄

[薬剤師と医師との協議事項]

とともに始まり,発熱,低血圧,乏尿,及び錯乱を

a)

併発し,肺,腎臓,肝臓を含む多くの臓器で急性不

Day 1

感染部位と感染経路について 感染部位は不明であるが,腹部単純コン

全が起こる場合もある.したがって,重症敗血症及

ピュータ断層撮影法(computed tomography; CT)

び敗血症性ショックでは,大量輸液投与,抗菌薬投

所見からは消化器疾患の可能性がある.Day 2 造

与,昇圧剤投与が行われる.そして播種性血管内凝

影 CT 所見からは総胆管結石が原因となる胆管炎・

固症候群(disseminated intravascular coagulation;

胆嚢炎から菌血症を来し,ショックに至ったと考え

1) DIC )に至ることがある.

られた(Fig. 1) .

このような場合,多剤

併用療法が施行され,持続的腎機能代替療法(con-

b)

tinuous renal replacement therapy; CRRT)におい

Day 1

て,エンドトキシン吸着療法( polymyxin

抗菌薬選択と投与設計 人工シャント部位より過去にメチシリン

B-im-

耐 性 黄 色 ブ ド ウ 球 菌 ( methicillin-resistant

mobilized ˆber column-direct hemoperfusion; PMX-

Staphylococcus aureus; MRSA)検出歴があり,肺

DHP ) や 持 続 緩 除 式 血 液 濾 過 透 析 ( continuous

炎よりも胆管炎を想定し,エンペリカルにダプトマ

hemodiaˆltration; CHDF )が施行される症例を経

イシン( daptomycin; DAP ) 350 mg (体重 55 kg )

験する.CRRT においては,血液透析( hemodialy-

1 日 1 回 30 分 点 滴 と ド リ ペ ネ ム ( doripenem;

sis; HD),血液濾過( hemoˆltration; HF),持続血

DRPM)0.25 g 1 日 2 回 3 時間点滴を初期投与とし

液濾過( continuous hemoˆltration; CHF ), CHDF

てすぐに(1 時間以内)開始すること,及び抗菌薬

と様々な手法が存在し,これらは患者の病態や状況

1) 投与前に血液培養提出を推奨した.

に応じて選択されるが,様々な CRRT における薬 物動態は明らかにされていないのが現状である. [症例]70 歳代

男性

体重 52 kg.

c)

MRSA 菌血症疑いにおける抗 MRSA 薬の選

択について 本患者の血小板数は低下を認めており,リネゾリ

[現病歴]10 年以上前に糖尿病と診断され,通院さ

ド(linezolid; LZD)は第一選択としては避けたい.

れていたが,血糖コントール不良にて持続タンパク

維持透析患者の敗血症性ショックであり,大量輸液

尿が認められ,糖尿病腎症となる.その後,急激な

投与と hemodiaˆltration(HDF)が施行されるため,

腎機能悪化を伴い慢性腎不全を来し,2 年 4 ヵ月前

抗菌薬のクリアランス増大を考慮した.DAP は肺

に維持透析導入となった.

サーファクタントで失活するため,肺炎には効果が

[既往歴]糖尿病,糖尿病腎症,高血圧症,慢性腎

ない.Day 1 血液培養検査でグラム陽性菌の検出

不全(維持透析: 2 年 4 ヵ月),腎性貧血,虚血性

はなかったため,主治医と協議して肺炎の起因菌は

心疾患.

MRSA の可能性は低いと考えた.

[入院までの経過]維持透析(週 3 回)にて通院中,

d)

胆管炎・胆嚢炎における抗菌薬選択2,3)

高熱,腹痛,全身倦怠感を訴えられ,軽度の意識混

胆道感染における主な起因菌の検出率の推移で,

濁,血圧低下(81/52 mmHg)が認められ,プロカ

注目すべき菌種は Enterococcus spp. (腸球菌属)

ル シ ト ニ ン 7.8 ng / mL と 高 値 を 示 し , 敗 血 症 性

及び嫌気性菌であり,近年の増加が認められてい

ショックの疑い及び DIC 疑いのため緊急入院と

る.胆道感染の初期治療に用いる抗菌薬では,基礎

なった.

疾患や重症度を考慮しつつ,腸球菌属と嫌気性菌を

172

Fig. 1.

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Clinical Course

T-Bil; total bilirubin, AST; aspartate aminotransferase, ALT; alanine aminotransferase, g-GTP; g-glutamyltranspeptidase, ALP; alkaline phosphatase, CK; creatine kinase, BUN; blood urea nitrogen, Cre; creatinine, CRP; C-reactive protein, WBC; white blood cell, seg; segmented cell, PLT; platelet, FDP; ˆbrinogen and ˆbrin degradation products.

カバーする抗菌薬で治療を開始して,起因菌判明時

血液浄化療法施行(透析,濾過,吸着)は血液から

に適した狭域の抗菌薬に変更することを推奨した.

不要あるいは有毒な物質を除去する治療法である

e)

HDF 施行時における DAP の用法用量設定

維持透析患者における MRSA 菌血症の場合,

が,薬剤も同時に除去されてしまうことに留意が必 要である.

DAP 添付文書では 6 mg / kg / d を 1 日 1 回 30 分点

今回の自験例では, Day 1 3 は CHDF でなく,

滴隔日投与が推奨される.HDF は通常,高流速を

PMX-DHP + HDF の た め , 透 析 性 を 考 慮 し て

週 3 回, 1 回 4 時間で施行されるが, CHDF は通

DAP の 350 mg/d 連日投与を推奨し,Day 4 以降は

常,低流速で 24 時間かけて行うことが多い.集中

更なる creatine kinase ( CK )上昇の危険性を考慮

治療室(intensive care unit; ICU)の CHDF 施行患

し,隔日投与を推奨した.

者では DAP 投与は連日・隔日での薬剤蓄積に関す

f)

4) CHDF による影響は少ないと考 る有意差はなく,

低流速 CHDF 施行による DRPM のクリアラン

えられた.また,モンテカルロシュミレーション結

スは大きくなく,通常の CHDF より多い濾液流量

果では,透析後に 50%増量した DAP の追加投与が

と透析液流量を用いる high ‰ow-volume continuous

望ましいという報告がある.5,6)

hemodiaˆltration ( HFV-CHDF )では, DRPM の

HDF 施行時における DRPM の用法用量設定

敗血症の病態生理の変化により,敗血症の初期に

クリアランスが大きいことが報告されている.8) 血

は薬物血中濃度が低下するため,抗菌薬の最大用量

液透析単独(維持透析に該当)による血漿中濃度の

を投与することもある.敗血症性ショック患者で

減少率は腎臓以外の経路による排泄を考慮した血漿

は,抗菌薬の組織移行性は悪く,健常者の 1/5~1/

中濃度の減少率であり,平均 56 %と報告されてい

10

7) まで低下することがある.

腎障害患者の投与量

る.9)

設定(添付文書)は,慢性腎障害患者で敗血症では

Day 1 3 はエンドトキシン吸着+ HDF のため,

ない患者を対象とした試験で決定されているため,

透析性や薬剤クリアランスを考慮し, DRPM 0.5 g

添付文書に準じた投与設計では投与量は不足する.

1 日 2 回 1 時 間 点 滴 を 推 奨 し た . Day 4 以 降 は

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DRPM 0.25 g 1 日 2 回 1 時間点滴を推奨した.

[経過と転帰] 外来救急受診時にショックバイタルが認められ, プロカルシトニン高値より敗血症性ショックにて腎 臓内科病棟の集中治療室に緊急入院となった. Day 1

胸部レントゲン所見及び胸腹部 CT 所見

173

CHDF による薬物動態変化の知識を総合的に考え

る必要性があった.単一疾患の薬物療法の知識のみ では対応できず,かならずしも明確な薬学的根拠が ない場合でも,臨床医から即断を求められた. 4.

患者の問題点に即断できるための臨床薬学へ

の提言

から,総胆管結石が認められ,生化学及び凝固系

薬学的知識・技能・態度の単なる暗記ではなく,

データ所見からは, DIC が疑われた.カテコラミ

臨床症例で使用できる(応用できる)基礎能力を備

ン及びトロンボモジュリンが投与開始され,さらに

えるアドバンス教育が必要である.自施設における

エンドトキシン吸着と HDF の同時施行( 8 h )下

病院実務実習では,病態と薬物治療における多角的

(並列)で DAP 350 mg (体重 55 kg ) 1 日 1 回と

な問題抽出の実践を行っている.例えば CT 画像変

DRPM 0.25 g 1 日 2 回が開始された.

化から肺炎像が悪化したと判断した場合,どうして

肝・胆道酵素の上昇,C 反応性タンパク

病態悪化と判断したのかという要因について,薬学

( C-reactive protein; CRP )高値,腹痛を呈し,胆

生が回答する訓練を行っている.この場合,病態増

汁うっ滞の改善なく,内視鏡的逆行性胆管膵管造影

悪に起因するものか,副作用又は薬効不十分に起因

(endoscopic retrograde cholangiopancreatography;

するものかについて,病態変化と薬物治療の両側面

ERCP)下の緊急ドレナージの適応であったが,突

から考えてもらうようにしている.10) 病院実務実習

然の意識状態の悪化より,気管内挿管の上,人工呼

では,臨床症例に圧倒され,自身の知識の不十分さ

吸管理となりデクスメデトミジン塩酸塩が開始され

を感じる薬学生は少なくない.過密な教育を受けて

た. DIC も進行しており,胆嚢からのドレナージ

いる薬学生ではあるが,臨床症例をどう捉え,どう

施行が優先され,エンドトキシン吸着と HDF の同

治療したよいかを考え,薬学的知識に基づき症例の

時施行が継続された.

問題解決能力を伸ばす薬学教育の必要性があると考

Day 2

Day 3 には DIC ・肝障害の改善を認めず,アミ

える.

ラーゼ及びクレアチニンキナーゼ(CK)高値が認

5.

められ, DAP による CK 上昇の副作用が疑われた

今後の病棟薬剤業務,チーム医療及び医学・薬学

が,エンドトキシン吸着と HDF の同時施行が継続

の進展により,総合判断力を活かした薬効・副作用

されていたこと,そして CK は DAP 開始前からの

モニタリングに基づく薬剤師の薬物療法支援が必要

増加傾向も認められたことから継続した.

とされる場面は増え,医師及び他の医療スタッフか

まとめ

Day 4 5 には著明改善はなかったが, HDF から

らは,更なる薬剤師の能動的な発言・行動が要求さ

HF に切り替え,循環動態及び電解質は管理されて

れるであろう.複合的な病態変化における薬物治療

いた. Day 6 には DIC と CK は改善傾向となった

の薬効・副作用モニタリングは薬剤師のみで完結す

が , 胆 汁 う っ 滞 と 肝 障 害 が 残 存 し た . Day 7 に

ることは難しく,医師・看護師と協働して実践して

ERCP 下で総胆管結石の採石に成功したが,血液

いくものと考えられ,求められる今後の病院薬剤師

培養は陰性であったため,DAP は中止して DRPM

のあり方の 1 つであると考える.

のみ継続された.Day 8 以降は採石の効果があり, 感染兆候は徐々に改善を示し, HDF 維持透析に戻 り , DRPM は Day 17 で レ ボ フ ロ キ サ シ ン

謝辞

本稿の作成に関してご指導賜りました,

鈴鹿医療科学大学薬学部教授 八重徹司博士,四日

(levo‰oxacin; LVFX)内服に切り替えられた.

市羽津医療センター薬剤科長 松田浩明博士に感謝

[本症例における薬剤師の総合判断]

致します.

維持透析患者の敗血症における抗菌化学療法を CHDF 施行下でどのように薬剤選択して投与設計

を行うかということが焦点であった.敗血症の病態 変化 及び 薬 につ いて , 薬物 動態 の 変化 の知 識 と

利益相反

開示すべき利益相反はない.

174

YAKUGAKU ZASSHI

REFERENCES 1)

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[Practice of drug monitoring based on comprehensive pharmaceutical judgment].

With the revisions to the pay for performance of pharmaceutical service of inpatients in April 2012, the ward permanent time of pharmacists grew longe...
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