昭 和51年3、
月20日
原
著
73
千葉 県 にお け る百 日咳 に関 す る研 究 ―
特 に血 清 学 的検 討 ―
市村
博*時
枝
正 吉*芦
宮入
正 人*岸
本
圭 司**
*
義 守*
千葉 県衛 生 研 究所 ウイ ル ス研 究 室(千 葉 市 神 明町204)
**
松 戸 市 々立 病 院 小 児 科(松 戸 市 上 本郷1870)
Key words:
Pertussis Sero-epidemiology
培 地 に脱 せ ん い 血15%を
は じめ に わ が国 にお け る百 日咳 は,昭 和25年 度 か ら実 施 され て い る百 日咳 ワクチ ン,ま た 昭和34年 度 か ら の百 日咳,ジ
原
フ テ リア,破 傷 風 混 合 ワ クチ ンお よ
び 早 期 化 学 療 法 に よ り,そ の発 生 は著 し く減 少 傾 向 を 見 せ1),近 年 百 日咳 菌 の分 離 報 告 は全 くみ ら れ な か っ た が,昭 和46年,百
日咳 疫 学 研 究 班 の調
加 え て 分 離培 地 と した
(百 日咳疫 学 研 究 班 実 施 要綱 に よ る). 分 離 菌 の 固定 はす べ て,北 里 研 究 所 中瀬 博 士 の 協 力 を 得 た. 分 離 材料 は,松 戸 市立 病院 小 児 科 で採 取,培
養
(鼻 咽 腔 粘 液)を 実 施 した. 2)百
日咳凝 集 素 価 の測 定:凝 集 反 応 に供 した
査 か ら,昭 和46年 一 昭 和47年 の2力 年 間 で8例 の
血 清 は,患 者 血 清 及 び流 行 地 域 と して松 戸 市 ・非
百 日咳 菌 分 離 の 報 告2)が み られ る よ うに な り,さ
流 行 地 域 と して佐 倉 市,鴨 川 市,館 山市 の 各地 域
らに,昭 和47年 初 夏 に 神 奈 川 県三 浦 半 島 一 円 の流
よ り溶 れ ん菌 感 染症 疫 学調 査時(昭 和49年10月)
行 が 報 告 され3),昭
に 採 血 した 学 童(第1学
和48年 に 入 つ て,東
京,新
年 児)の 血 清 を 利 用 し
た.
潟,愛 知 な ど で も百 日咳 菌 が分 離 さ れ て い る. 千 葉 県 内 で も,先 に報 告4)し た ご と く,東 京 都
3)マ
イ ク ロタ イタ ー法 の応 用:既 に細 菌,ウ
和47年3月
頃よ
イ ル ス学 分 野 で実 施 され て い る方法 に従 い,U字
り,主 に 乳 幼 児 に 本症 の発 生 が認 め られ,百
日咳
型 プ レー トを 使 用 し,血 清,凝 集 抗 原 の微 量 化,
に隣 接 した 松 戸 市 を 中心 に,昭
作 業 の省 力化 を は か り,同 時 に 試 験 管 との 比較 検
菌 も分 離 され てい る. 現 在 日本 の,百
日咳患 者 の届 出 は200名 前 後 で
あ るが,そ の 実 態 は不 明確 で あ る5).す なわ ち, 本 当 に百 日咳 菌 に よ る患 者 で あ るのか.ま
た菌 の
分 離 や 血 清 学 的 に 裏 付 け の あ る もの か不 明 な もの が多 い. そ こで著 者 らは,千 葉 県 内 の そ の 後 の 流行 状 況 を 把 握 す る と と もに,血 2,3の
清疫 学 的 検 討 を試 み,
日咳 菌 の分 離 方 法:Bordet-Gengou基
また,結 果 判 定 時 の よみ の個 人 的 誤 差 を な くす た め,あ
らか じめ 希 釈 液(ゼ
に10%ク
リス タ ル紫1/2000を
光(x線
用 シ ャ ウカ ス テ ンを 応 用)に
4)標
ラチ ン加-PBS) 加 え,判
定は透過 よつ た.
準 前 野 株 と新 分 離 株 に よ る凝 集 素 価 の比
較:凝 集 抗 原 は,百
日咳 疫 学 研 究 班 で分 与 され た
標 準前 野 株 と,新 分 離 株 と して,北 研 よ り分 与 を
知 見 を得 た の で報 告 す る.
受 け た 菌液(小 林 株,安(藤 株,石 井 株 の混 合 抗 原
検査方法 1)百
討 を行 つ た.
礎
液,以 下 新 分 離 株 と略)を 用 い,患 者 血清,学
童(
感染症学雑誌
74
Table
*
Kobayashi,
Andoo
and
Ishii
1.
第50巻
第3号
Clinical
picture
strain
血 清 に つ い て,流 行 地 域,非 流 行 地 域 との 凝 集 素
が,反 面 で 抗 生剤 を早 期 か ら投 与 され なか つ た 症
価 の比 を較 試 み た.
例 や 不 適合 抗 生 剤 を 投 与 した 症 例 で は重 症 に な つ 成
1)患
た 例 が 認 め られ た.ま たWoopingは
績
者 か らの菌 分 離 成 績 及 び 臨 床 像
全例 に 認 め
られ,咳 漱 後 の無 呼 吸 発 作 もみ られ た.
今 回 は 百 日咳 菌 の 分 離 され た 症 例 につ い ての
幼 若 乳 児 の カ タル 期 は 短 か く,3-7日
で,大
み,そ の臨 床 像 を表1に 示 した が,分 離 菌 の血 清
体 が4-5日
型 は,主 要 因子1,2,3で
湿 性 喘 鳴 が 聞 か れ,胸 部 所 見 で は,rhonchiが
3型 で あつ た.臨
床 像 は,咳
表 わ す とす べ て1漱 の強 さ,期
間は
乳 幼 児 及 び 年 長 児 とも従 来 の成 書 に記 載 され てい る よ りもや や 弱 く,ま た短 か い 傾 向 が 認 め られ た
であ つ た.ま た 幼 若 乳 児 で は 軽 度 の 聴
取 され た 例 が 多 か つ た. 白 血 球 数,リ
ンパ 球数 は,検
な り期 間 を 経 た 患 者 や,ワ
査 日が 発 症 後 か
クチ ン歴 の あ る患 者 で
75
昭 和51年3月20日
of
pertussis
cases
ンパ球 数 増 多 は 著 明に は 認
来,実 験 室 診 断 を 容 易 に させ る.ま た 希 釈 液 に ク
め られ な か つた.こ れ ら患 者 の百 日咳 凝 集 素 価 は 一 様 に前 野 株 よ り新 分離 株 に 高 い 傾 向 が 認 め られ
リス タル紫 を 加 え た場 合,凝 集 反 応 に対 す る阻 止
は,白 血 球 数 増 多,リ
清 学 的検 査成 績
2)-1.マ 較.図1の
集 素 価 の 測定 に 際 して,管 底凝
集像 が,従 来 の方 法 よ り透 過 光 で は よ り明確 で, endpointの 取 り方 が 正確 に 判 定 で き,個 人誤 差
た. 2)血
も認 め られず,凝
イ ク ロタ イ タ ー法 と試 験 管 法 との比 ご と く,両 者 の成 績 は よ く一致 して お
り,マ イ ク ロタ イ タ ー法 は百 日咳 凝 集 反 応 に も応
は少 な くな る と思 わ れ る. 2)-2.地
域 別 百 日咳 菌凝 集 素 価 の比 較.
流 行 地 域 で あ る松 戸 地 区 と,非 流 行 地 域 で あ る
用 が 可能 と思 わ れ る.こ の こ とは,被 検 血 清,凝
佐 倉,鴨 川,館 山地 区 で の凝 集素 価 は,図2の
集 抗 原 の 微 量 化 の み な らず,作
と くで あ り,40倍 以 上 が館 山 を除 く名地 区 に 約40
業 の省 力 化 が 出
ご
76
感 染 症学 雑 誌 Fig. I. Comparison of agglutinin titer by micro-titer plate technique and standard tube method.
第50巻
第3号
Fig. 3. Comparion of agglutinin titer against newly isolated strain(Kobayashi, Andoo and Ishii strain) and standard strain(Maeno strain) by micro-titer technique.
%存 在 し,3地
区 で の地 域 差 は ほ とん ど認 め られ
な か つ た. Fig. 2. Agglutinintiter of healthy school children in pertussis prevalent and non-prevalent areas accumulate frequency in%.
2)-3.百
日咳 菌 凝 集 素 価 の菌 株 に よ る比 較.
患 者 血 清 お よび非 患者 血 清 を 用 い て,前 野 株 と新 分 離 株 で の株 間 の相 違 につ い て実 施 した の が 図3 で あ る.患
者 血 清,非
患 者 血清 の両 者 で,前
野
株,新 分 離 株 間 で凝 集 素 価 の 一致 を 見 た のが9/ 31,29.0%で
あ り,な か で も,患 者 血 清 中,両 株
間 で一 致 を 見 た の が5/18,27.7%,非 中 で は4/13,30.7%と られた.こ
患者血清
低 く,両 株 間 の 差 が 認 め
の こ とは,患 者 血 清 で は,病
相 違 が あ るのか,ま
日に よる
た ワ クチ ン歴 も よ る差 か,年
齢 に よ る(患 者 の年 齢 は 低 い)か あ き らか では な い.新 分 離 株 で測 定 した 場 合,患 18,61。1%が
者 血 清 で は11/
前 野 株 よ り高 く凝 集 素 価 が 測 定 さ
れ,非 患 者 血 清 で は2113,15.4%で
あ り,標準 凝 集
抗 原 のみ で測 定 した 場 合,凝 集 価 を か な り低 く測 定 して しま う危 険 性 の あ る こ とが わ か っ た.従 つ て 百 日咳 凝 集 素 価 の 測 定 に は,で
き るだ け最 近 の
分 離 菌 株 を 平 行 させ て 測 定 す る こ とが 望 ま しい 。 佐 倉 地 区 血 清 を,同 様 に 株 間 の 相 違 を 測 定 した とこ ろ,や は り,前 野株 と新 分 離 株 で は一 致 率 が 10/48,20.8%と
低 く,前 野 株 よ り新 分 離株 抗 原
77
昭 和51年3月20貝
に よ る凝 集 素 価 が 高 く測 定 され た 血 清 は25/48,
年10月 の京 都 ジ フテ リア事 件 に よ る ワ クチ ン非 接
52%,新
種 期 を経 過 した 世代 で あ る.議
分 離 株 よ り前 野 株 の方 が 高 い 血 清 は13/
48,27%と
差 が 認 め られ た. 考
が,母 子 免 疫 の検 討 と,感 染源 と して の家 族 内 お よび 託 児 所 につ い て も検 討 を試 み る必 要 が あ る と
察
百 日咳 菌 に よ る急性 気道 感染 症 の届 出数 は,百 日咳 ワ クチ ンの 普 及 や,化 学 療 法 剤 の発 達 に よつ て 近 年 急激 に減 少 し1),百
論 の余 地 は あ る
日咳 患 者 か らの菌 の分
考 え る9)10)11). 患 者 血 清 の凝 集 素 価 は ワクチ ンを接 種 して い る 者 は 感 染 がboosterと が,ワ
な りか な り上 昇 して い る
クチ ン接 種 者 で 非患 者 の凝 集 素 価 は意 外 に
離 も,近 年 は全 く報 告 され なか つ た が,昭 和46年 一 昭 和47年 の2力 年 間 に8例 の菌 の分 離 が 報 告 さ
低 い.こ の こ とは 森 ら7)の 報 告 と同様 で あつ た.
れ2),さ
これ は,血
らに 昭 和47年 一 昭 和48年 にか け て,神 奈
川 県三 浦半 島 で の流 行 の報 告3),昭 で の菌 分 離報 告6)がな さ れ,著
和48年 新 潟 県
者 らもす で に千 葉
清 採 取 時 期(病
日)に も問 題 は あ る
が,痙 咳期 が終 る時 期 に採 取 した血 清 もそ うで あ つ た.こ の こ とは,病
日初 期 に 多量 の抗 生 剤 を 投
県 内 で の 流行 か ら菌 を分 離 した こ とを 報 告 して い
与 す る こ と,ま た低 年 齢 児 の ため 抗 体 の上 昇 が 悪
る4).
い こ とが一 因 と思 わ れ る.
しか しな が ら,最 近 は 抗 生 剤 を 病 日初期 か ら使
流行 地 域 と非 流 行 地 域 との血 清 疫 学 的 検 査 を 試
用 す る こ とも あ り,ま た 地 方 で は 日常 検 査 で積
み たが,そ
極 的 に 百 日咳 患 者 材 料 を取 り扱 うこ とは稀 れ で あ
つた.こ れ は ワ クチ ン接 種 の 普 及,ま た過 去 に お
る.し か し百 日咳 菌分 離技 術 の 向 上,普 及 は,宮
い て大 き な流 行 のな か っ た こ とを 物 語 る もの で あ
本 ら3),森 ら7)が指摘 す る ご と く本 症 の実 態 把 握 の
ろ う.
た め には 必 要 で あ り今 後 の課 題 で あ る. 近 年 の 流 行菌 株 は,因 子 血 清 を用 い て.血清 型 を
の凝 集 素 価保 有 率 に 差 は 認 め られ な か
さ らに著 者 らは,日 常 の実 験 室 診断 を容 易 にす るた め,細 菌 学,ウ
イル ス学 分 野 で急 速 に普 及 し
調 べ た結 果,宮 本 ら3),関 矢 ら6),長 ら8)の報 告 に
てい る マ イ ク ロ タイ タ ー法 を 使用 した微 量 法 を百
もあ る ご と く,大 部 分 が1-3型
日咳 凝 集 反 応 に応 用 を 試 み た が,従 来 行 わ れ て い
であ る とい う.
著 者 らの分 離 した 百 日咳 菌株 も また血 清 型 で す べ
る試 験 管 法 と も よ く一 致 し,血 清,凝 集 抗 原 の微
て1-3型
量 化 の み な らず 省 力 化 が 出来,実 験 室 診 断 を 更 に 一 歩 進 め る こ とが 出来 る と考 え る 。
も属 す る菌 型 で あ つ た.
百 日咳 の診 断 に お い て は,臨 床 的 診 断 に際 し,
さ らに 色素 を使 用 す る こ とに よ り,結 果 の よみ
母 親 が子 の咳 の 性 状 まで は な か な か観 察 が で き て い な い.そ こ で百 日咳 が 現在 で も存 在 して い る こ
取 り時 の管 底 凝 集 像 が よ り明確 とな り,検 査技 術
とを 念 頭 に 入 れ て,疑 わ しい症 例 に は,咳 につ い
者 の結 果 判 定 時 の個 人 誤差 は 少 な く,一 層 正 確 な
て母 親 の 観 察 に正 しい指 示 を与 え,菌 の分 離 培 養
凝 集 素 価 が 測 定 で き る こ と と思 う 。
を 心 が け る こ とが必 要 で あ ろ う。 しか しなが ら, Wooping等
百 日咳 に特 有 の 咳 嗽 を 認 め る こ とは
少 な く,ワ クチ ン接 種 児 や,抗 生 剤 早 期 投 与 例 で は,定 型 的 な臨 床像 を呈 しな い患 児 が い る の で, 「軽症 百 日咳 」 の存 在 す る こ とを 注 意 しな け れ ば な らな い. 患 児 の年 齢 分 布 を み る と,12ヵ 月 未 満 の乳 児 が
先 に岸 本 ら4)が 指摘 した ご と く,今 回 の調 査 で も標 準株 で あ る前野 株 よ り,新 分 離 株 の方 が 凝 集 素 価 が 高 く,差 が み られた. 例 数 が少 な い の で,患 者 血 清 では 病 日に よつ て 差 が あ るのか,ま た ワ クチ ン接 種 歴,患 者 年 齢 に よ る もの で あ るのか は 明確 では な いが,菌 株 に よ る抗 原 性 の変 化 も考 えな け れ ば な らな い.さ
らに
多 く,こ れ は乳 児 が重 症 に な り易 く,来 院 症 例 数
新 分 離 株 で測 定 した 方 が 凝 集 素 価 が 高 い こ とは,
が 多 い た め と も思 わ れ る.症 例 患 児 の大 部 分 の 母
標 準 株 のみ で な く,両 者 の 併 用 が 望 ま れ る.ワ ク チ ン株 で あ る前 野株 と新分 離 株 を抗 原 と して の凝
親 は,百
日咳 の感 染 機 会 の減 少 に加 え て,昭 和23
78
感 染 症学 雑 誌
集 素 価 の違 い は,中 瀬 らの提 唱 の ご と く,百 日咳 菌 の 抗 原 性 の検 討 の必 要性 を示 唆 して い る 。 また 検体 の 採取 方法,百
稿 を 終 る に あ た り,御
文 1) 厚 生 の 指 標,
ま と め
百 日 咳 免 疫 研 究 班 会 議 資 料, 昭47.
3)
宮本
お よび血 清 学 的 に観 察 した. 離 菌 の血 清 型 別 はす べ て1-3型
滝 沢 金 次 郎,
実方
百 日 咳 の 地 域 的 流 行 例.
検 査 の 概 要:
21-9,
感 染 症 学 雑 誌,
剛,
高橋武夫
そ の 疫 学 と臨 床 48,
178-189,
1974. 4)
岸 本 圭 司,
芦 原 義 守 他:
百 日 咳 の 観 察,
であ つ
松戸市周辺 にお け る
小 児 科 臨 床,
26,
1077-1081,
1973.
た.
5)
若 乳 児 に定 型 的 な 臨 床 像 を示 す もの も多
くみ られ た が,一 方,鑑 別 困 難(な軽症 百 日咳 が か
日咳 患 者 血 清,非 患 者 血 清 の両 者
7)
30, 森
888-906,
渡辺
し,血 清,凝 集 抗 原 の微 量 化,省 力 化 が 可 能 で あ る こ とがわ か つ た. 集 反 応 用 の希 釈 液 に ゼ ラチ ン と ク リス タ
ル紫 を加 え,実 施 した と ころ,判 定 に際 して個 人 的 誤 差 が 少 な く良 好 の結果 を 得 た. 行 地域 と非 流行 地 域 の学 童 血 清 を用 い て らか な地 域 的 な差 は認
中 瀬 安 清, 山 田 光 男:
8)
32, 長
1973. 道 雄,
島
弘:
い て.
日 細 菌 雑 誌,
篠 原 信 之,
曽 田 研 二:
咳 の 免 疫 学 的 研 究,
た と ころ,従 来 の試 験 管 法 とそ の成 績 に よ く一 致
村 田 良 介, 石
百 日 咳 の 現 状. 小 1972.
満,
507-513, 1975. 正 俊, 北 村 昆 子,
子, 山 岡 邦 夫,
イ ク ロタ イ タ ー法 を使 つ て微 量 化 を試 み
め ら れな か つ た.
35,
関 矢 加 智 子,
水 原 春 郎,
座 談 会,
最 近 分 離 し た 百 日咳 菌 の 血 清 型,
とも高 か つ た.
凝 集 素 価 を 測定 した が,明
高 津 忠 夫,
福 見 秀 雄:
児 科 診 療, 6)
準 株 で あ る前 野 株 よ り,分 離 株 に百 日咳
凝集 素 価 が,百
中 村 文 弥, 丸 隆 治,
な り高 率 に存 在 してい る こ と も判 明 した.
6)流
泰,
他:
東 京 都 に隣 接 す る松 戸 市 とそ の周 辺 で百 日咳 が
5)凝
国 民 衛 生 の 動 向,
2)
散 発 的 に 発 生 した の で,こ れ を臨 床 的,細 菌 学 的
4)マ
献
特 集,
昭49.
る.
3)標
指 導 と菌 の 同 定 に 御 協 力 い た
日咳 菌 分 離 法 の検 討 も重 要 で
い,流 行 の実 態 を把 握 しなけ れ ば な らな い と考 え
2)幼
第3号
だ い た 北 里 研 究 所 中 瀬 安 清 博 士 に 深 謝 い た し ま す.
あ り,全 国 に お け る百 日咳 菌 分 離 を 積 極 的 に行
1)分
第50巻
古 茂 田智 恵
愛 媛 県 にお け る百 日
愛 媛 衛 研 年 報,
寺 尾 通 徳,
本 間
宏,
35,
29-
宮 腰 賢 治,
間
最 近 分 離 した 百 日咳菌 の 諸性 状 に つ
日細 菌 雑 誌,
30,
487-493,
1975.
9) Morse, S. I.: Pertussis in adults. Ann. Intern. Med., 68: 953-954, 1968. 10) Kurt, T. L., Yeager, A. S., Guenette, S. and Dunlop, S.: Spread of Pertussis by hospital staff. J. A.M. A., 221: 264 267, 1972. 11) Calvin C. Linnemann, Jr., James W. Bass and Margaret H. D. Smith: The carrier state in Pertussis. Amer. J. Epidem., 88: 422-427, 1968.
79
昭 和51年3月20日
A Study ―
Hiroshi
ICHIMURA*, Masato
*
Section
of Virology, **
Department
Public
on Pertussis
Especially
in Chiba
sero-epidemiological
Masayoshi MIYAIRI*
Health
of Pediatrics
TOKIEDA*,
Yoshimori
ASHIHARA*,
and Keiji KISHIMOTO**
Laboratory Matsudo
Prefecture observation•\
Chiba City
Prefecture,
Hospital,
1870
204
Shinmeicho
Kamihongo
Chiba
Matsudo
City
and
City
Since pertussis cases have been observed sporadically in Matsudo City, Chiba Prefecture, a clinical, bacteriological and serological study was carried out.
The result obtained was as follows:
1) The serotype of the agent isolated was all classified as 1-3 type. 2)
Typical clinical symptom of pertussis has been observed in a number of younger children and
infants, however, atypical form has also been found in considerably high percentage. 3)
The agglutinin titer against the newly isolated strains in the sera of both the patients and the
healthy persons was higher than that against the standard strain(Maeno 4)
strain).
A trial using micro-titer technique for the agglutination was made and the titer was compaired
with that of the classical tube method.
The results from the both methods were well matched.
The
micro-titer technique was able to save definitely the quantity of sera and the manpower. 5)
Adding gelatine and crystal violet to the dilution for agglutination test has advantage to make
it easy to read the result and to avoid individual reading difference. 6) A comparison on the agglutinin titer of the school children in the prevarent and the non-prevalent area of the disease was made and found no significant difference between the areas.
月20日
原
著
73
千葉 県 にお け る百 日咳 に関 す る研 究 ―
特 に血 清 学 的検 討 ―
市村
博*時
枝
正 吉*芦
宮入
正 人*岸
本
圭 司**
*
義 守*
千葉 県衛 生 研 究所 ウイ ル ス研 究 室(千 葉 市 神 明町204)
**
松 戸 市 々立 病 院 小 児 科(松 戸 市 上 本郷1870)
Key words:
Pertussis Sero-epidemiology
培 地 に脱 せ ん い 血15%を
は じめ に わ が国 にお け る百 日咳 は,昭 和25年 度 か ら実 施 され て い る百 日咳 ワクチ ン,ま た 昭和34年 度 か ら の百 日咳,ジ
原
フ テ リア,破 傷 風 混 合 ワ クチ ンお よ
び 早 期 化 学 療 法 に よ り,そ の発 生 は著 し く減 少 傾 向 を 見 せ1),近 年 百 日咳 菌 の分 離 報 告 は全 くみ ら れ な か っ た が,昭 和46年,百
日咳 疫 学 研 究 班 の調
加 え て 分 離培 地 と した
(百 日咳疫 学 研 究 班 実 施 要綱 に よ る). 分 離 菌 の 固定 はす べ て,北 里 研 究 所 中瀬 博 士 の 協 力 を 得 た. 分 離 材料 は,松 戸 市立 病院 小 児 科 で採 取,培
養
(鼻 咽 腔 粘 液)を 実 施 した. 2)百
日咳凝 集 素 価 の測 定:凝 集 反 応 に供 した
査 か ら,昭 和46年 一 昭 和47年 の2力 年 間 で8例 の
血 清 は,患 者 血 清 及 び流 行 地 域 と して松 戸 市 ・非
百 日咳 菌 分 離 の 報 告2)が み られ る よ うに な り,さ
流 行 地 域 と して佐 倉 市,鴨 川 市,館 山市 の 各地 域
らに,昭 和47年 初 夏 に 神 奈 川 県三 浦 半 島 一 円 の流
よ り溶 れ ん菌 感 染症 疫 学調 査時(昭 和49年10月)
行 が 報 告 され3),昭
に 採 血 した 学 童(第1学
和48年 に 入 つ て,東
京,新
年 児)の 血 清 を 利 用 し
た.
潟,愛 知 な ど で も百 日咳 菌 が分 離 さ れ て い る. 千 葉 県 内 で も,先 に報 告4)し た ご と く,東 京 都
3)マ
イ ク ロタ イタ ー法 の応 用:既 に細 菌,ウ
和47年3月
頃よ
イ ル ス学 分 野 で実 施 され て い る方法 に従 い,U字
り,主 に 乳 幼 児 に 本症 の発 生 が認 め られ,百
日咳
型 プ レー トを 使 用 し,血 清,凝 集 抗 原 の微 量 化,
に隣 接 した 松 戸 市 を 中心 に,昭
作 業 の省 力化 を は か り,同 時 に 試 験 管 との 比較 検
菌 も分 離 され てい る. 現 在 日本 の,百
日咳患 者 の届 出 は200名 前 後 で
あ るが,そ の 実 態 は不 明確 で あ る5).す なわ ち, 本 当 に百 日咳 菌 に よ る患 者 で あ るのか.ま
た菌 の
分 離 や 血 清 学 的 に 裏 付 け の あ る もの か不 明 な もの が多 い. そ こで著 者 らは,千 葉 県 内 の そ の 後 の 流行 状 況 を 把 握 す る と と もに,血 2,3の
清疫 学 的 検 討 を試 み,
日咳 菌 の分 離 方 法:Bordet-Gengou基
また,結 果 判 定 時 の よみ の個 人 的 誤 差 を な くす た め,あ
らか じめ 希 釈 液(ゼ
に10%ク
リス タ ル紫1/2000を
光(x線
用 シ ャ ウカ ス テ ンを 応 用)に
4)標
ラチ ン加-PBS) 加 え,判
定は透過 よつ た.
準 前 野 株 と新 分 離 株 に よ る凝 集 素 価 の比
較:凝 集 抗 原 は,百
日咳 疫 学 研 究 班 で分 与 され た
標 準前 野 株 と,新 分 離 株 と して,北 研 よ り分 与 を
知 見 を得 た の で報 告 す る.
受 け た 菌液(小 林 株,安(藤 株,石 井 株 の混 合 抗 原
検査方法 1)百
討 を行 つ た.
礎
液,以 下 新 分 離 株 と略)を 用 い,患 者 血清,学
童(
感染症学雑誌
74
Table
*
Kobayashi,
Andoo
and
Ishii
1.
第50巻
第3号
Clinical
picture
strain
血 清 に つ い て,流 行 地 域,非 流 行 地 域 との 凝 集 素
が,反 面 で 抗 生剤 を早 期 か ら投 与 され なか つ た 症
価 の比 を較 試 み た.
例 や 不 適合 抗 生 剤 を 投 与 した 症 例 で は重 症 に な つ 成
1)患
た 例 が 認 め られ た.ま たWoopingは
績
者 か らの菌 分 離 成 績 及 び 臨 床 像
全例 に 認 め
られ,咳 漱 後 の無 呼 吸 発 作 もみ られ た.
今 回 は 百 日咳 菌 の 分 離 され た 症 例 につ い ての
幼 若 乳 児 の カ タル 期 は 短 か く,3-7日
で,大
み,そ の臨 床 像 を表1に 示 した が,分 離 菌 の血 清
体 が4-5日
型 は,主 要 因子1,2,3で
湿 性 喘 鳴 が 聞 か れ,胸 部 所 見 で は,rhonchiが
3型 で あつ た.臨
床 像 は,咳
表 わ す とす べ て1漱 の強 さ,期
間は
乳 幼 児 及 び 年 長 児 とも従 来 の成 書 に記 載 され てい る よ りもや や 弱 く,ま た短 か い 傾 向 が 認 め られ た
であ つ た.ま た 幼 若 乳 児 で は 軽 度 の 聴
取 され た 例 が 多 か つ た. 白 血 球 数,リ
ンパ 球数 は,検
な り期 間 を 経 た 患 者 や,ワ
査 日が 発 症 後 か
クチ ン歴 の あ る患 者 で
75
昭 和51年3月20日
of
pertussis
cases
ンパ球 数 増 多 は 著 明に は 認
来,実 験 室 診 断 を 容 易 に させ る.ま た 希 釈 液 に ク
め られ な か つた.こ れ ら患 者 の百 日咳 凝 集 素 価 は 一 様 に前 野 株 よ り新 分離 株 に 高 い 傾 向 が 認 め られ
リス タル紫 を 加 え た場 合,凝 集 反 応 に対 す る阻 止
は,白 血 球 数 増 多,リ
清 学 的検 査成 績
2)-1.マ 較.図1の
集 素 価 の 測定 に 際 して,管 底凝
集像 が,従 来 の方 法 よ り透 過 光 で は よ り明確 で, endpointの 取 り方 が 正確 に 判 定 で き,個 人誤 差
た. 2)血
も認 め られず,凝
イ ク ロタ イ タ ー法 と試 験 管 法 との比 ご と く,両 者 の成 績 は よ く一致 して お
り,マ イ ク ロタ イ タ ー法 は百 日咳 凝 集 反 応 に も応
は少 な くな る と思 わ れ る. 2)-2.地
域 別 百 日咳 菌凝 集 素 価 の比 較.
流 行 地 域 で あ る松 戸 地 区 と,非 流 行 地 域 で あ る
用 が 可能 と思 わ れ る.こ の こ とは,被 検 血 清,凝
佐 倉,鴨 川,館 山地 区 で の凝 集素 価 は,図2の
集 抗 原 の 微 量 化 の み な らず,作
と くで あ り,40倍 以 上 が館 山 を除 く名地 区 に 約40
業 の省 力 化 が 出
ご
76
感 染 症学 雑 誌 Fig. I. Comparison of agglutinin titer by micro-titer plate technique and standard tube method.
第50巻
第3号
Fig. 3. Comparion of agglutinin titer against newly isolated strain(Kobayashi, Andoo and Ishii strain) and standard strain(Maeno strain) by micro-titer technique.
%存 在 し,3地
区 で の地 域 差 は ほ とん ど認 め られ
な か つ た. Fig. 2. Agglutinintiter of healthy school children in pertussis prevalent and non-prevalent areas accumulate frequency in%.
2)-3.百
日咳 菌 凝 集 素 価 の菌 株 に よ る比 較.
患 者 血 清 お よび非 患者 血 清 を 用 い て,前 野 株 と新 分 離 株 で の株 間 の相 違 につ い て実 施 した の が 図3 で あ る.患
者 血 清,非
患 者 血清 の両 者 で,前
野
株,新 分 離 株 間 で凝 集 素 価 の 一致 を 見 た のが9/ 31,29.0%で
あ り,な か で も,患 者 血 清 中,両 株
間 で一 致 を 見 た の が5/18,27.7%,非 中 で は4/13,30.7%と られた.こ
患者血清
低 く,両 株 間 の 差 が 認 め
の こ とは,患 者 血 清 で は,病
相 違 が あ るのか,ま
日に よる
た ワ クチ ン歴 も よ る差 か,年
齢 に よ る(患 者 の年 齢 は 低 い)か あ き らか では な い.新 分 離 株 で測 定 した 場 合,患 18,61。1%が
者 血 清 で は11/
前 野 株 よ り高 く凝 集 素 価 が 測 定 さ
れ,非 患 者 血 清 で は2113,15.4%で
あ り,標準 凝 集
抗 原 のみ で測 定 した 場 合,凝 集 価 を か な り低 く測 定 して しま う危 険 性 の あ る こ とが わ か っ た.従 つ て 百 日咳 凝 集 素 価 の 測 定 に は,で
き るだ け最 近 の
分 離 菌 株 を 平 行 させ て 測 定 す る こ とが 望 ま しい 。 佐 倉 地 区 血 清 を,同 様 に 株 間 の 相 違 を 測 定 した とこ ろ,や は り,前 野株 と新 分 離 株 で は一 致 率 が 10/48,20.8%と
低 く,前 野 株 よ り新 分 離株 抗 原
77
昭 和51年3月20貝
に よ る凝 集 素 価 が 高 く測 定 され た 血 清 は25/48,
年10月 の京 都 ジ フテ リア事 件 に よ る ワ クチ ン非 接
52%,新
種 期 を経 過 した 世代 で あ る.議
分 離 株 よ り前 野 株 の方 が 高 い 血 清 は13/
48,27%と
差 が 認 め られ た. 考
が,母 子 免 疫 の検 討 と,感 染源 と して の家 族 内 お よび 託 児 所 につ い て も検 討 を試 み る必 要 が あ る と
察
百 日咳 菌 に よ る急性 気道 感染 症 の届 出数 は,百 日咳 ワ クチ ンの 普 及 や,化 学 療 法 剤 の発 達 に よつ て 近 年 急激 に減 少 し1),百
論 の余 地 は あ る
日咳 患 者 か らの菌 の分
考 え る9)10)11). 患 者 血 清 の凝 集 素 価 は ワクチ ンを接 種 して い る 者 は 感 染 がboosterと が,ワ
な りか な り上 昇 して い る
クチ ン接 種 者 で 非患 者 の凝 集 素 価 は意 外 に
離 も,近 年 は全 く報 告 され なか つ た が,昭 和46年 一 昭 和47年 の2力 年 間 に8例 の菌 の分 離 が 報 告 さ
低 い.こ の こ とは 森 ら7)の 報 告 と同様 で あつ た.
れ2),さ
これ は,血
らに 昭 和47年 一 昭 和48年 にか け て,神 奈
川 県三 浦半 島 で の流 行 の報 告3),昭 で の菌 分 離報 告6)がな さ れ,著
和48年 新 潟 県
者 らもす で に千 葉
清 採 取 時 期(病
日)に も問 題 は あ る
が,痙 咳期 が終 る時 期 に採 取 した血 清 もそ うで あ つ た.こ の こ とは,病
日初 期 に 多量 の抗 生 剤 を 投
県 内 で の 流行 か ら菌 を分 離 した こ とを 報 告 して い
与 す る こ と,ま た低 年 齢 児 の ため 抗 体 の上 昇 が 悪
る4).
い こ とが一 因 と思 わ れ る.
しか しな が ら,最 近 は 抗 生 剤 を 病 日初期 か ら使
流行 地 域 と非 流 行 地 域 との血 清 疫 学 的 検 査 を 試
用 す る こ とも あ り,ま た 地 方 で は 日常 検 査 で積
み たが,そ
極 的 に 百 日咳 患 者 材 料 を取 り扱 うこ とは稀 れ で あ
つた.こ れ は ワ クチ ン接 種 の 普 及,ま た過 去 に お
る.し か し百 日咳 菌分 離技 術 の 向 上,普 及 は,宮
い て大 き な流 行 のな か っ た こ とを 物 語 る もの で あ
本 ら3),森 ら7)が指摘 す る ご と く本 症 の実 態 把 握 の
ろ う.
た め には 必 要 で あ り今 後 の課 題 で あ る. 近 年 の 流 行菌 株 は,因 子 血 清 を用 い て.血清 型 を
の凝 集 素 価保 有 率 に 差 は 認 め られ な か
さ らに著 者 らは,日 常 の実 験 室 診断 を容 易 にす るた め,細 菌 学,ウ
イル ス学 分 野 で急 速 に普 及 し
調 べ た結 果,宮 本 ら3),関 矢 ら6),長 ら8)の報 告 に
てい る マ イ ク ロ タイ タ ー法 を 使用 した微 量 法 を百
もあ る ご と く,大 部 分 が1-3型
日咳 凝 集 反 応 に応 用 を 試 み た が,従 来 行 わ れ て い
であ る とい う.
著 者 らの分 離 した 百 日咳 菌株 も また血 清 型 で す べ
る試 験 管 法 と も よ く一 致 し,血 清,凝 集 抗 原 の微
て1-3型
量 化 の み な らず 省 力 化 が 出来,実 験 室 診 断 を 更 に 一 歩 進 め る こ とが 出来 る と考 え る 。
も属 す る菌 型 で あ つ た.
百 日咳 の診 断 に お い て は,臨 床 的 診 断 に際 し,
さ らに 色素 を使 用 す る こ とに よ り,結 果 の よみ
母 親 が子 の咳 の 性 状 まで は な か な か観 察 が で き て い な い.そ こ で百 日咳 が 現在 で も存 在 して い る こ
取 り時 の管 底 凝 集 像 が よ り明確 とな り,検 査技 術
とを 念 頭 に 入 れ て,疑 わ しい症 例 に は,咳 につ い
者 の結 果 判 定 時 の個 人 誤差 は 少 な く,一 層 正 確 な
て母 親 の 観 察 に正 しい指 示 を与 え,菌 の分 離 培 養
凝 集 素 価 が 測 定 で き る こ と と思 う 。
を 心 が け る こ とが必 要 で あ ろ う。 しか しなが ら, Wooping等
百 日咳 に特 有 の 咳 嗽 を 認 め る こ とは
少 な く,ワ クチ ン接 種 児 や,抗 生 剤 早 期 投 与 例 で は,定 型 的 な臨 床像 を呈 しな い患 児 が い る の で, 「軽症 百 日咳 」 の存 在 す る こ とを 注 意 しな け れ ば な らな い. 患 児 の年 齢 分 布 を み る と,12ヵ 月 未 満 の乳 児 が
先 に岸 本 ら4)が 指摘 した ご と く,今 回 の調 査 で も標 準株 で あ る前野 株 よ り,新 分 離 株 の方 が 凝 集 素 価 が 高 く,差 が み られた. 例 数 が少 な い の で,患 者 血 清 では 病 日に よつ て 差 が あ るのか,ま た ワ クチ ン接 種 歴,患 者 年 齢 に よ る もの で あ るのか は 明確 では な いが,菌 株 に よ る抗 原 性 の変 化 も考 えな け れ ば な らな い.さ
らに
多 く,こ れ は乳 児 が重 症 に な り易 く,来 院 症 例 数
新 分 離 株 で測 定 した 方 が 凝 集 素 価 が 高 い こ とは,
が 多 い た め と も思 わ れ る.症 例 患 児 の大 部 分 の 母
標 準 株 のみ で な く,両 者 の 併 用 が 望 ま れ る.ワ ク チ ン株 で あ る前 野株 と新分 離 株 を抗 原 と して の凝
親 は,百
日咳 の感 染 機 会 の減 少 に加 え て,昭 和23
78
感 染 症学 雑 誌
集 素 価 の違 い は,中 瀬 らの提 唱 の ご と く,百 日咳 菌 の 抗 原 性 の検 討 の必 要性 を示 唆 して い る 。 また 検体 の 採取 方法,百
稿 を 終 る に あ た り,御
文 1) 厚 生 の 指 標,
ま と め
百 日 咳 免 疫 研 究 班 会 議 資 料, 昭47.
3)
宮本
お よび血 清 学 的 に観 察 した. 離 菌 の血 清 型 別 はす べ て1-3型
滝 沢 金 次 郎,
実方
百 日 咳 の 地 域 的 流 行 例.
検 査 の 概 要:
21-9,
感 染 症 学 雑 誌,
剛,
高橋武夫
そ の 疫 学 と臨 床 48,
178-189,
1974. 4)
岸 本 圭 司,
芦 原 義 守 他:
百 日 咳 の 観 察,
であ つ
松戸市周辺 にお け る
小 児 科 臨 床,
26,
1077-1081,
1973.
た.
5)
若 乳 児 に定 型 的 な 臨 床 像 を示 す もの も多
くみ られ た が,一 方,鑑 別 困 難(な軽症 百 日咳 が か
日咳 患 者 血 清,非 患 者 血 清 の両 者
7)
30, 森
888-906,
渡辺
し,血 清,凝 集 抗 原 の微 量 化,省 力 化 が 可 能 で あ る こ とがわ か つ た. 集 反 応 用 の希 釈 液 に ゼ ラチ ン と ク リス タ
ル紫 を加 え,実 施 した と ころ,判 定 に際 して個 人 的 誤 差 が 少 な く良 好 の結果 を 得 た. 行 地域 と非 流行 地 域 の学 童 血 清 を用 い て らか な地 域 的 な差 は認
中 瀬 安 清, 山 田 光 男:
8)
32, 長
1973. 道 雄,
島
弘:
い て.
日 細 菌 雑 誌,
篠 原 信 之,
曽 田 研 二:
咳 の 免 疫 学 的 研 究,
た と ころ,従 来 の試 験 管 法 とそ の成 績 に よ く一 致
村 田 良 介, 石
百 日 咳 の 現 状. 小 1972.
満,
507-513, 1975. 正 俊, 北 村 昆 子,
子, 山 岡 邦 夫,
イ ク ロタ イ タ ー法 を使 つ て微 量 化 を試 み
め ら れな か つ た.
35,
関 矢 加 智 子,
水 原 春 郎,
座 談 会,
最 近 分 離 し た 百 日咳 菌 の 血 清 型,
とも高 か つ た.
凝 集 素 価 を 測定 した が,明
高 津 忠 夫,
福 見 秀 雄:
児 科 診 療, 6)
準 株 で あ る前 野 株 よ り,分 離 株 に百 日咳
凝集 素 価 が,百
中 村 文 弥, 丸 隆 治,
な り高 率 に存 在 してい る こ と も判 明 した.
6)流
泰,
他:
東 京 都 に隣 接 す る松 戸 市 とそ の周 辺 で百 日咳 が
5)凝
国 民 衛 生 の 動 向,
2)
散 発 的 に 発 生 した の で,こ れ を臨 床 的,細 菌 学 的
4)マ
献
特 集,
昭49.
る.
3)標
指 導 と菌 の 同 定 に 御 協 力 い た
日咳 菌 分 離 法 の検 討 も重 要 で
い,流 行 の実 態 を把 握 しなけ れ ば な らな い と考 え
2)幼
第3号
だ い た 北 里 研 究 所 中 瀬 安 清 博 士 に 深 謝 い た し ま す.
あ り,全 国 に お け る百 日咳 菌 分 離 を 積 極 的 に行
1)分
第50巻
古 茂 田智 恵
愛 媛 県 にお け る百 日
愛 媛 衛 研 年 報,
寺 尾 通 徳,
本 間
宏,
35,
29-
宮 腰 賢 治,
間
最 近 分 離 した 百 日咳菌 の 諸性 状 に つ
日細 菌 雑 誌,
30,
487-493,
1975.
9) Morse, S. I.: Pertussis in adults. Ann. Intern. Med., 68: 953-954, 1968. 10) Kurt, T. L., Yeager, A. S., Guenette, S. and Dunlop, S.: Spread of Pertussis by hospital staff. J. A.M. A., 221: 264 267, 1972. 11) Calvin C. Linnemann, Jr., James W. Bass and Margaret H. D. Smith: The carrier state in Pertussis. Amer. J. Epidem., 88: 422-427, 1968.
79
昭 和51年3月20日
A Study ―
Hiroshi
ICHIMURA*, Masato
*
Section
of Virology, **
Department
Public
on Pertussis
Especially
in Chiba
sero-epidemiological
Masayoshi MIYAIRI*
Health
of Pediatrics
TOKIEDA*,
Yoshimori
ASHIHARA*,
and Keiji KISHIMOTO**
Laboratory Matsudo
Prefecture observation•\
Chiba City
Prefecture,
Hospital,
1870
204
Shinmeicho
Kamihongo
Chiba
Matsudo
City
and
City
Since pertussis cases have been observed sporadically in Matsudo City, Chiba Prefecture, a clinical, bacteriological and serological study was carried out.
The result obtained was as follows:
1) The serotype of the agent isolated was all classified as 1-3 type. 2)
Typical clinical symptom of pertussis has been observed in a number of younger children and
infants, however, atypical form has also been found in considerably high percentage. 3)
The agglutinin titer against the newly isolated strains in the sera of both the patients and the
healthy persons was higher than that against the standard strain(Maeno 4)
strain).
A trial using micro-titer technique for the agglutination was made and the titer was compaired
with that of the classical tube method.
The results from the both methods were well matched.
The
micro-titer technique was able to save definitely the quantity of sera and the manpower. 5)
Adding gelatine and crystal violet to the dilution for agglutination test has advantage to make
it easy to read the result and to avoid individual reading difference. 6) A comparison on the agglutinin titer of the school children in the prevarent and the non-prevalent area of the disease was made and found no significant difference between the areas.
