日 内 分 泌 会 誌,(Folia
総
Endocrinol.)
68.
1151∼1157.
1151
1992
説 免疫系 によ る卵 巣機能調節 京都大学医学部婦人科学産科学教室 森
崇
英,福
Immune Regulation Takahide Department
Although primary
regulators
locally
in
the
autocrine
or play
ovarian
function
become
clear
only
known
the
immune for
function.
a long In this
as the cytokines
Key words:
Recent
in regulating one
cells the
time,
in ovarian
but
the
in
Function
of Medicine
in the field show
also on nonimmune
cells,
distribution
reattracted
current
physiology
steroidogenesis,
and
as
of the
are
molecules
the
cells
the
of ovarian a wide
range
physiology.
produced
a third
regulatory
Since
ovaries
kind
of regulator of immune
of it has
functions,
significance
roles
as
immune
regulation
of biological
in mammalian
the
action
of the
immune
the physiological
of which
attention
knowledge
that
function,
cytokines,
prolactin
of gonadotropin
suggest
ovarian
and
nonsteroidal
modulation
studies
, Kyoto University
gonadotropins and
the
恒
FUKUOKA
pituitary
of the topics
factors,
widespread has
, Faculty
steroidal
regulators.
immune
article,
cytokine,
function, implicated
roles
cells,
that
been
has become
that
on immune
resident
ovarian
important
of Ovarian
and Obstetrics
established
have
paracrine
system
not
of
ovary
正
MORI and Masatsune
of Gynecology
it is well
岡
of the has
been
of ovarian cells
as well
is reviewed.
granulosa
cell,
interleukin-1,
tumor
necrosis
factor
は じめ に 卵 胞 の 発 育 ・成 熟 → 排 卵 → 黄 体 形 成 → 黄 体 退 行 と い っ た 卵 巣 の 周 期 的 変 化 と,そ れ に 伴 う性 ス テ ロ イ ドの 産 生 は,下 regulationを
垂 体 よ り 分 泌 さ れ る ゴ ナ ド ト ロ ピ ン,プ
受 け て い る こ と は 周 知 の 事 実 で あ る が,近
ロ ラ ク チ ン に よ りendocrine
年 こ う した ゴ ナ ド ト ロ ピ ン の 作 用 を卵 巣
レベ ル で 修 飾 す る ス テ ロ イ ド性 ・非 ス テ ロ イ ド性 のparacrine
and autocrine
regulatorsの
存在が
知 られ る よ うに な っ て き た 。 こ の 卵 巣 内 局 所 調 節 に 携 わ る細 胞 と して,卵 胞 を構 成 す る顆 粒 膜 細 胞 ・ 莢 膜 細 胞 や黄 体 細 胞 と い った 卵 巣 細 胞 が 当 然 挙 げ られ る が,最 近 注 目 を集 め て い る の が,免 疫 系 細 胞 の 関 与 で あ る。 本 稿 で は,こ 1.免
う した 免 疫 因 子 に よ る卵 巣 機 能 調 節 に 関 す る最 近 の知 見 を 述 べ る。
疫 系 と 卵 巣 との 機 能 連 関
以 前 よ り,自 己 免 疫 疾 患 に お い て卵 巣 炎 に よ る卵 巣 機 能 不 全 を しば しば 伴 う こ と や,胸
腺欠 損マ
ウ ス で 卵 巣 形 成 不 全 ・機 能 不 全 が お こ る こ と が 知 られ て お り,ま た 性 ス テ ロ イ ドが 免 疫 細 胞 機 能 に 影 響 を与 え る こ と な ど か ら,免 疫 系 と卵 巣 と の 機 能 連 関 が 示 唆 さ れ て い た 。 第68巻
第11号
1152
2.卵
免疫 系 に よる卵 巣機 能 調 節(森,他1名) 巣 に おけ る免疫 系細 胞の 分布
卵 巣 間 質 に は,卵
巣 周 期 の あ ら ゆ る 時 期 に お い て 単 球/マ ク ロ フ ァー ジ,リ
ン パ 球,顆
粒球 など
が 存 在 す る1)。と く に マ ク ロ フ ァ ー ジ は 卵 巣 間 質 に 数 多 く存 在 し,そ の 突 起 に よ り卵 巣 細 胞 と 接 触 して い る像 も観 察 され る。 退 行 黄 体 に お い て は,マ て い る と考 え られ て きた 。 卵 胞 に つ い て は,そ
ク ロ フ ァー ジ は 変 性 した 黄 体 細 胞 の 貧食 に携 わ っ
の 発 育 の 初 期 段 階 で は 単 球/マ ク ロ フ ァー ジ 以 外 の
免 疫 系 細 胞 は 卵 胞 内 に は 出 現 し な い 。 しか し排 卵 前 卵 胞 あ る い は 閉 鎖 卵 胞 に は 免 疫 系 細 胞 が 急 速 に 流 入 す る。 排 卵 前 卵 胞 に お い て 最 も早 く出 現 す る 免 疫 系 細 胞 は 肥 満 細 胞(mast 現 象 は 一 種 の 炎 症 反 応 と 考 え られ,肥
満 細 胞 がLHサ
cell)で あ る 。 排 卵
ー ジ に よ っ て 脱 顆 粒 を お こ し,ヒ
ス タ ミンを
遊 離 す る こ と が 排 卵 現 象 の 引 金 に な る と考 え ら れ て い る。 同 時 に排 卵 前 卵 胞 や 形 成 期 黄 体 か らは, 好 中 球 を は じめ とす る炎 症 細 胞 に 対 す る遊 走 刺 激 因 子 が 分 泌 され,そ の 免 疫 系 細 胞 が 排 卵 や 黄 体 形 成,黄 3.実
の シ グ ナ ル に よ り集 ま る種 々
体 機 能 維 持 に 重 要 な役 割 を 果 た して い る可 能 性 が あ る 。
験 モ デ ル と して の 顆 粒 膜 細 胞 培 養 系 に つ い て
卵 巣 内 局 所 調 節 機 構 の 実 験 モ デ ル と して,卵
胞 の 内 層 を 構 成 す る ス テ ロ イ ド産 生 細 胞 で あ る顆 粒
膜 細 胞 の 培 養 系 が しば しば 用 い られ る。 顆 粒 膜 細 胞 は 卵 胞 発 育 に伴 っ て 活 発 に増 殖 す る と 同 時 に, FSH,次
い でLHに
対 す る感 受 性 を獲 得 して 機 能 的 に成 熟 して い く。LHサ
的 成 熟 を ほ ぼ 完 了 し,排 卵 後 に は 黄 体 細 胞(顆
粒 膜 黄 体 細 胞)へ
ー ジ の 発 来 に よ り機 能
と形 態 的 変 化 を 遂 げ る。 こ う した
増 殖 と分 化 の さ ま ざ ま な 局 面 をin vitroに お い て も再 現 す る こ と が 可 能 で あ る。 と く に ブ タで は, 大 き さ の 異 な る卵 胞(小
・中 ・大)よ
プ ター も獲 得 した 細 胞,LHサ
り,FSHレ
セ プ タ ー の み 獲 得 し た 未 成 熟 な 細 胞,LHレ
ー ジ後 の 成 熟 細 胞 と い う,成 熟 度 の 異 な る顆 粒 膜 細 胞 を 選 別 して 採
取 す る こ と が 可 能 で あ る。 ま た,体 外 授 精 の 採 卵 時 に卵 と と も に 得 られ る ヒ ト顆 粒 膜 細 胞 は,自 周 期 のLHサ
ー ジ に 相 当 す るhCG投
顆 粒 膜 細 胞 同 様,黄 4.免
セ
与 か ら約36時 間 後 に採 取 さ れ る こ と か ら,ブ
然
タ大卵 胞 由来 の
体 形 成 期 の顆 粒 膜 黄 体 細 胞 に近 い 機 能 を 有 して い る と 考 え られ る。
疫 系 細 胞 に よ る 卵 巣 細 胞 の 機 能 調 節(in vitro)
本 来 免 疫 担 当細 胞 で あ るマ ク ロ フ ァ ー ジ がin vitroに お い て,卵 を お よ ぼ す こ と を 最 初 に 報 告 した の は,Kirschら(1981)2)で cultureに
よ り,マ
巣 細 胞 の ス テ ロ イ ド産 生 に 影 響
あ る。 彼 ら は マ ク ロ フ ァー ジ とのco-
ウ ス 黄 体 細 胞 の プ ロゲ ス テ ロ ン産 生 が 充 進 す る と 報 告 した 。 こ の刺 激 に は マ ク
ロ フ ァー ジ と卵 巣 細 胞 と の 接 触 が 必 要 で あ り,そ の シ グ ナ ル 伝 達 物 質 は マ ク ロ フ ァー ジ 細 胞 膜 上 に 存 在 し,Concanavalin
A(Con
A)刺
化 顆 粒 膜 細 胞 の 培 養 系 に お い て も,同 用 が 報 告 さ れ て い る 。 一 方,著
激 に よ り培 養 液 中 に 放 出 さ れ る蛋 白 と 考 え ら れ た 。 ヒ ト黄 体 様 の マ ク ロ フ ァー ジ/単 球 に よ る プ ロ ゲ ス テ ロ ン産 生 刺 激 作
者 らの 実 験 で は 単 球 に よ る 影 響 は 追 試 しえ ず,対
ヒ ト黄 体 化 顆 粒 膜 細 胞 と のco-cultureで,プ
照 的 に リ ンパ 球 と
ロ ゲ ス テ ロ ン の 産 生 充 進 が み ら れ た3)。 ま た マ イ ト
ジ ェ ン で 刺 激 した リ ン パ 球 の 培 養 上 清 中 に は,ヒ
ト黄 体 化 顆 粒 膜 細 胞 の プ ロゲ ス テ ロ ン産 生(hC
G刺 激 時 ・非 刺 激 時 と も)を 抑 制 す る 因 子 が 検 出 さ れ る と の 報 告 も あ る 。 ブ タ あ るい は ラ ッ ト顆 粒 膜 細 胞 に つ い て も,免 疫 系 細 胞 あ る い は そ の 培 養 上 清 に よ る ス テ ロ イ ド産 生 へ の 影 響 が い くつ か 報 告 さ れ て い る が,speciesやCon そ の影 響(作 5.サ
用 様 式)は
A刺
激 の 有 無,あ
るいは顆 粒膜 細胞 の成 熟度 等 の実験 条件 に よ り
さ ま ざ ま で は あ る。
イ トカ イ ン に よ る 卵 巣 細 胞 の 機 能 調 節
上 記 の よ うな,免
疫 系 細 胞 に よ る卵 巣 細 胞 機 能 調 節 の シ グ ナ ル 伝 達 に は,お
(未 知 の も の を 含 む)が
関 与 して い る と思 わ れ る。 近 年,免 第68巻
第11号
そ ら く多 くの 因 子
疫 系 の シ グナ ル伝 達 物 質 で あ る サ イ ト
日 カ イ ン が 免 疫 系 の み な らず,卵
本
内
分
泌
学
会
雑
誌
1153
巣 細 胞 を 含 む 様 々 な 組 織 あ る い は 細 胞 に 対 し,広 汎 な 生 物 作 用 を 示
す こ と が あ き ら か と な り,卵 巣 に お け る 局 所 調 節 因 子 と して の 存 在 意 義 が注 目 を 集 め て い る。 種 々 の サ イ トカ イ ンの 同 定 やrecombinantの
サ イ トカ イ ン の 開 発 と あ い ま っ て,サ
in vitroで の 卵 巣 機 能 調 節 に 関 す る 知 見 が 集 積 しつ つ あ る。 また,マ 以 外 に,TGF-α
・TGF-β
・PDGF・EGF・FGF・IGF-1な
イ トカ イ ン に よ る
ク ロ フ ァー ジ は サ イ トカ イ ン
ど の細 胞 増 殖 因 子 を分 泌 す る こ と が
知 られ て お り4),こ れ らの 因 子 は 卵 巣 細 胞 の 増 殖 と分 化 に 対 して さ ま ざ ま な 影 響 を お よ ぼ す と こ ろ か ら,マ
ク ロ フ ァー ジ に よ る卵 巣 細 胞 の 機 能 調 節 は,サ
イ トカ イ ンの み な らず 細 胞 増 殖 因 子 を も介
して い る 可 能 性 が あ る5)。 既 知 の サ イ トカ イ ン の うち と く に注 目 さ れ て い る の は,マ 1(IL-1)と
腫 瘍 懐 死 因 子(TNF-α)で 表1.培
あ る。
養 ブ タ顆 粒 膜 細 胞 に対 す るLL-1の
A.増
ク ロ フ ァ ー ジ 由 来 の イ ン ター ロイ キ ン
作用
殖 促 進*1
1.細 胞 数 増 加 2.[3H]
thymidine
TNF・
incorporation
細 胞 増 殖 因 子(EGF・FGF・insulin)と
B.FSHに
よ る 分 化(1-4)抑
1.aromatase活 2.LH
導
3.progesterone産
C.LHに
制*2
性誘 導
receptor誘
4.cAMP産
相 乗 作用 あ り
生
生
よ る 分 化(黄
体 化)抑
制*3
1.形 態 的 黄 体 化 2.機 能 的 黄 体 化(progesterone産
生)
(機 序) 1.cAMP産 2.LH
生抑 制
receptor数
3.adenylate
D.Progesterone基
*1小
減少
cyclase活
性 阻害
礎 分 泌 抑 制*1
・中 卵胞 由来 の顆 粒 膜 細胞 でみ とめ られ,大 卵 胞 由来 の成 熟 顆 粒膜 細 胞 で は み とめ られ な い作用
1)イ
*2小
卵 胞 由来 の顆粒 膜 細 胞 で の デー タ
*3中
卵 胞 由来 の 顆粒 膜 細 胞 で の デー タ
ン タ ー ロ イ キ ン1(IL-1)
正 常 月 経 周 期 婦 人 の 血 中IL-1活 巣 機 能 とIL-1活
性 が 卵 胞 期 よ り黄 体 期 に 高 い こ と は 以 前 か ら知 ら れ て お り6),卵
性 と の 関 連 が 示 唆 され て い た 。 単 球/マ ク ロ フ ァ ー ジ のIL-1産 第68巻
第11号
生能 は 性 ステ ロイ
1154
免疫 系 に よ る卵 巣機 能 調節(森,他1名)
ドに よ り影 響 を 受 け る7)。 プ ロ ゲ ス テ ロ ン10-9∼10-8M,エ 的 低 濃 度 の刺 激 で ヒ ト単 球 のIL-1産 ジ の リ ポ ポ リサ ッカ ラ イ ド(LPS)刺
激 に よ るIL-1βmRNAの
ラ ジ オ ー ル 濃 度 の 上 昇 に 伴 い 抑 制 さ れ る。 ま た,体 高 いIL-1活
ス トラ ジ オ ー ル10-10∼10-9Mと
発 現 も,プ
ブ タ顆 粒 膜 細 胞 に 対 す る作 用 を 表1に 挙 げ た 。IL-1は
胞 の 増 殖 を 促 進 し9),FSHに
よ る 分 化 誘 導 を抑 制 す る10)とと も に,LH添
(線 維 芽 細 胞 様 の 細 い 形 態 か ら,黄 体 細 胞 に類 似 した,細 胞 様 形 態 へ の 変 化)と
機 能 的 黄 体 化(プ
カ ニ ズ ム に つ い て は,LHレ
な り
胞 質 内 に顆 粒 や 脂 肪 滴 を 集 積 した 上 皮 細
織 に お い て,プ
も抑 制 す る11)。そ の メ
セ プ ター 数 を 減 少 さ せ る と と も に,adenylate
ゲ ス テ ロ ン 産 生 に 至 る ス テ ッ プ に つ い て は,有 ロ ス タ グ ラ ン デ ィ ン(PG)の
cyclaseに
よ るAキ
対 して も直 接
ナー ゼ の活性 化 か らプ ロ
意 な 影 響 を お よ ぼ さ な い 。 ま た,IL-1は
種 々 の組
産 生 を刺 激 す る こ と が 知 ら れ て お り,PGF2α
よ る 顆 粒 膜 細 胞 の 黄 体 化 を 抑 制 す る が,PG産
大 量 添 加 に よ っ て もIL-1の
未 熟 な顆 粒 膜 細
加 に よる形 態 的黄 体 化
ロ ゲ ス テ ロ ン産 生 の 著 明 な 増 加)を
的 な 抑 制 作 用 を お よぼ す た め と考 え られ る12)。一 方,cAMPに
Gを
ロ ゲ ス テ ロ ン ・エ ス ト
外 授 精 時 に 採 取 した ヒ ト卵 胞 液 中 に は,か
性 が み と め られ8),そ の 産 生 源 は 顆 粒 膜 細 胞 で は な い か と考 え ら れ て い る。
in vitroに お け る,IL-1の
同 様 にLHに
い う比 較
生 は 充 進 し,よ り高 濃 度 で は逆 に抑 制 され る。 単 球/マ ク ロ フ ァー
はIL-1
生 の 抑 制 物 質 で あ る イ ン ドメ サ シ ン の
抑 制 作 用 は 影 響 を受 け な い こ と か ら,黄 体 化 に 対 す るIL-1の
作 用 はP
介 した もの で は な い と考 え られ る 。 ラ ッ ト顆 粒 膜 細 胞 に 対 して もIL-1は,FSH刺
LHレ
激 時 の エ ス トラ ジ オ ー ル,プ
ロ ゲ ス テ ロ ン産 生,
セ プ タ ー の 誘 導 を 抑 制 す る こ と が 報 告 さ れ て い る。 ま た プ ロ ゲ ス テ ロ ンの 代 謝 産 物 で あ る20
α-OH-Pの
産 生 を増 加 させ る と こ ろ か ら,IL-1に
よ る プ ロ ゲ ス テ ロ ン分 泌 の 減 少 は ,少 な く と も
部 分 的 に は そ の 代 謝 亢 進 に よ る可 能 性 が あ る 。 な お,2種 に つ い て,ラ
ッ トの顆 粒 膜 細 胞 培 養 系 で は,IL-1β
れ て い る が,ブ
タの 系 で はIL-1α
とIL-1β
とIL-1β
の抑 制作 用
の 効 力 に 差 は み と め られ な い 。
卵 胞 の 外 層 を 構 成 す る莢 膜 細 胞 に 対 す るIL-1の る 報 告 が な さ れ て い る 。 ラ ッ トで はLH/hCG刺 て い る の に 対 し,ハ
類 のIL-1,IL-1α
の 方 が よ り少 な い 濃 度 で 有 効 で あ る と 報 告 さ
作 用 に つ い て は,ラ
ッ トと ハ ム ス タ ー で 相 反 す
激 に よ る ア ン ド ロゲ ン産 生 を 抑 制 す る と報 告 され
ム ス タ ー で は卵 胞 の 器 官 培 養,莢
膜 細 胞 の 培 養 系 に お い てIL-1は
プ ロゲ ス テ
ロ ン ・テ ス トス テ ロ ンの 産 生 を 促 進 す る と報 告 さ れ て い る。 ヒ ト黄 体 化 顆 粒 膜 細 胞 の プ ロ ゲ ス テ ロ ン 分 泌 に対 して は,in テ ロ ン分 泌 能 を 維 持 した 場 合 は,ブ
2)腫
瘍 懐 死 因 子(tumor
卵 巣 に お け るTNF-α
添 加 時 の 基 礎 プ ロ ゲ ス テ ロ ン 分 泌 に 対 して は,促
激 時 の エ ス トラ ジ オ ー ル 分 泌 に対 して は,IL-1は
影響 進的影
抑 制作 用 を示す 。
necrosis factor-α,TNF-α) の 役 割 は,黄
体 退 行 へ の 関 与 と 考 え られ て き た 。 黄 体 退 行 期 に は マ ク ロ
フ ァ ー ジ が 著 明 に 増 加 し,ま た 退 行 期 の黄 体 組 織 はin vitroに お い て,LPS添 Fを 産 生 す る こ と14)から,マ
ク ロ フ ァー ジ よ り産 生 さ れ たTNF-α
能 性 が指 摘 され て い る。 一 方,免
疫 組 織 化 学 的 手 法 に よ り,ラ
α が 産 生 され る と い う報 告 が な され,ま 液 中 に もTNF-α
添 加 して プ ロ ゲ ス
タ の 大 卵 胞 由 来 の 顆 粒 膜 細 胞 に 対 す る作 用 同 様 ,IL-1は
を お よ ぼ さ な い13)。こ れ に 対 し,hCG非 響 を お よぼ す 。 一 方,FSH刺
vitroでhCGを
加 に よ り容 易 にTN
が黄 体 の 退 行 に 関 与 して い る可 ッ ト ・ ウ シ顆 粒 膜 細 胞 か ら もTNF-
た体 外 授 精 の 際 に 得 ら れ た ヒ ト黄 体 化 顆 粒 膜 細 胞 の 培 養
が 検 出 さ れ る と報 告 され て い る。
ブ タ顆 粒 膜 細 胞 上 に は 高 親 和 性 のTNF-α
レ セ プ タ ー が 存 在 し,そ の レセ プ ター 数 はFSHと
イ
ン ス リン の 同 時 添 加 に よ り増 加 す る と報 告 さ れ て い る15)。ラ ッ トの 顆 粒 膜 細 胞 培 養 系 に お い て ,T 第68巻
第11号
日
NF-α
はFSH刺
本
内
分
泌
会
雑
誌
1155
激 に よ る プ ロ ゲ ス テ ロ ン ・エ ス トラ ジ オ ー ル 産 生,LHレ
の ス テ ロ イ ド合 成 酵 素 活 性 を 抑 制 す る16)。FSH作 結 合 に よ り活 性 化 さ れ るadenylate
cyclase活
ト卵 胞 の器 官 培 養 系 に お い てTNFは,発
セプ ター の誘導 や種 々
用 抑 制 の 機 序 と して は,FSHの
レ セ プ ター へ の
性 に 対 す る 阻 害 作 用 に よ る と考 え られ て い る。 ラ ッ
育 卵 胞 ・閉 鎖 卵 胞 い ず れ に 対 して も,プ
プ ロ ゲ ス テ ロ ン ・20α-OH-P・17α-OH-Pの す るTNF-α
学
レグネ ノロ ン ・
産 生 を 亢 進 さ せ る。 こ の 卵 胞 ス テ ロ イ ド産 生 に 対
の 促 進 作 用 は 莢 膜 細 胞 を 標 的 と し た もの で あ り,実 際 分 離 した 莢 膜 細 胞 に対 してTN
F-α は 同 様 の 促 進 作 用 を 示 す 。 ヒ ト黄 体 化 顆 粒 膜 細 胞 の ス テ ロ イ ド産 生 に 対 す るTNF-α は,IL-1と 3)イ
の影 響
全 く 同様 で あ る13)。
ン タ ー フ エ ロ ン(IFN)
IFNα
は 正 常 月 経 周 期 婦 人 へ のin
vivo投
与 に よ り,ゴ
ナ ド トロ ピ ン分 泌 に は 影 響 せ ず に,卵 胞
期 か ら排 卵 期 の エ ス トラ ジ オ ー ル 分 泌 と黄 体 期 の プ ロゲ ス テ ロ ン分 泌 を低 下 させ る と報 告 さ れ て い る17)。ヒ ト卵 胞 液 中 に はIFN活 %,IFNα
性(10-36U/ml)が
に 対 す る 抗 体 で20%中
(premature るが,in
ovarian
failure)に
お い て は,顆
vitroに お い てIFNγ
検 出 さ れ,そ
和 さ れ た18)。ま た,自
の 活 性 はIFNγ
に 対 す る 抗 体 で80
己 免 疫 疾 患 に 合 併 した 早 発 卵 巣 不 全
粒 膜 細 胞 に ク ラ スIIタ イ プ の 組 織 適 合 抗 原 が 発 現 す
に よ り ヒ ト顆 粒 膜 細 胞 に ク ラ スII抗 原 が誘 導 され,ク
増 加 す る19)とこ ろ か ら,IFNγ
ラ スI抗
原も
が 自 己 免 疫 に よ る卵 巣 機 能 不 全 の 発 生 に 関 与 して い る可 能 性 が 指 摘
され て い る 。 ラ ッ トの 顆 粒 膜 細 胞 培 養 系 に お い て,IFN-γ エ ス トラ ジ オ ー ル,LH/hCGレ 顆 粒 膜 細 胞 の 培 養 系 で は,ヒ る が,IL-1と
異 な り,エ
はFSH刺
激 時 の プ ロ ゲ ス テ ロ ン,20α-OH-P,
セ プ ター の 誘 導 を 抑 制 す る と報 告 さ れ て い る19)。ブ タ の 未 成 熟 な トIFN-α
添 加 に よ り,FSH刺
ス トラ ジ オ ー ル 産 生(テ
は 逆 に増 加 す る20)。ま た,IFNは,他
激 時 の プ ロゲ ス テ ロ ン産 生 は抑 制 され
ス トス テ ロ ン か ら エ ス トラ ジ オ ー ル へ の 変 換)
の 多 くの 腫 瘍 ・非 腫 瘍 性 細 胞 に 対 す る影 響 同 様,未
熟なブタ
顆 粒 膜 細 胞 の 増 殖 を 抑 制 す る20)。ヒ ト黄 体 化 顆 粒 膜 細 胞 培 養 系 に お い て は,IFNはIL-1・TNFと 異 な り,LH/hCG刺 れ のIFNで
激 時 の プ ロゲ ス テ ロ ン 産 生 を抑 制 す る13)。こ のIFNの
もみ られ る が,IFNγ
が 最 も強 力 で あ る。 プ ロゲ ス テ ロ ン基 礎 分 泌.FSH刺
エ ス トラ ジ オ ー ル 産 生 に 対 して も,IFNγ 4)そ
抑 制作 用 は α βγいず 激による
は や は り抑 制 作 用 を 示 す 。
の 他 の サ イ トカ イ ン
ラ ッ ト顆 粒 膜 細 胞 培 養 系 に お い て,イ 20α-OH-Pの
産 生 を 促 進 し,ヒ
生 を抑 制 す る との 報 告 もあ る が,こ か れ て い る 。IL-3に
つ い て は,ラ
に は 影 響 し な い が,20α-OH-Pの
ン ター ロイ キ ン2(IL-2)はFSH刺
激 時 の プ ロゲ ス テ ロ ン・
ト黄 体 化 顆 粒 膜 細 胞 に 対 して はhCG刺
激 時 の プ ロ ゲ ス テ ロ ン産
う した 影 響 が み られ な い と い う否 定 的 デ ー タ もあ り,議 論 が 分 ッ ト顆 粒 膜 細 胞 培 養 系 に お い て,見
か け上 プ ロゲ ステ ロン産生
産 生 を 亢 進 させ る と の 報 告 が あ る。 ブ タ顆 粒 膜 細 胞 のLH刺
激
時 の プ ロ ゲ ス テ ロ ン産 生 に対 す る種 々 の サ イ トカ イ ン の 影 響 を 比 較 検 討 した 結 果,IL-1・TNF・I FNが
濃 度 依 存 的 抑 制 作 用 を示 した の に 対 し,IL-3・IL-6で
有 意 な抑 制 効 果 が 得 られ,IL-2・G-CSF・M-CSFで
は100ng/mlと
い う高 濃 度 で は じめ て
は 影 響 を み と め な か っ た(図1)。
お わ りに 免 疫 系 に よ る卵 巣 機 能 調 節 に つ い て,in
vitroで の デ ー タ を 中 心 に,現
在 得 られ て い る知 見 を 述
べ た 。 免 疫 系 は サ イ トカ イ ンや 他 の ペ プ チ ドを 介 して 卵 巣 細 胞 の機 能 調 節 に 関 与 す る と と も に,免 疫 系 も ま た ス テ ロ イ ドホ ル モ ン等 を 介 して 卵 巣 細 胞 に よ る機 能 調 節 を 受 け て い る可 能 性 が あ る5)。 第68巻
第11号
免疫 系 に よる卵 巣機 能 調 節(森,他1名)
1156
ま た サ イ トカ イ ン は 視 床 下 部 か ら のGnRH分 よ ぼ す こ と が 知 られ て お り,こ
泌 や 下 垂 体 か らの ゴ ナ ド トロ ピ ン分 泌 に も 影 響 を お
う した 間 接 的 作 用 に よ り卵 巣 機 能 調 節 に関 与 して い る 可 能 性 もあ る 。
卵 巣 細 胞 機 能 に 対 す る免 疫 系 細 胞 や サ イ トカ イ ン の 影 響 は 多 彩 で あ り,in
vitroに お い て サ イ トカ
イ ン 同 志 あ る い は サ イ トカ イ ン と細 胞 増 殖 因 子 と の 相 互 作 用 も み られ る9)と こ ろ か ら,免 疫 系 に よ る 性 腺 機 能 調 節 機 構 は,ま
だ 同 定 さ れ て い な い 未 知 の サ イ トカ イ ン を含 め た 複 雑 な ネ ッ トワー ク を
形 成 して い る可 能 性 が 大 きい 。 今 後 の 研 究 が待 た れ る と こ ろ で あ る。
図1.ブ
タ顆 粒 膜 細 胞培 養 系 に お け るLH刺 ンの影 響
激 時 の プ ロゲ ス テ ロ ン産生 に対 す る種 々 の サ イ トカ イ
文 1)
Adashi
EY:
physiology:
The
potential
the emerging
献
relevance
of cytokines
role of resident
ovarian
and
growth
factors
cells of the white
to
ovarian
blood cell series.
Endocr Rev 1990; 11: 454-464 2)
Kirsch
TM,
Friedman
mice: characterization 3)
Emi N, Kanzaki by cultured
4)
Rappolee
other growth 5)
Mori
T:
and effects on steroid
H, Yoshida
human DA,
AC, Vogel RL, Flickinger
GL: Macrophages
secretion.
M, et al. : Lymphocytes
granulosa
Biol Reprod stimulate
luteal cells. Am J Obstet Gynecol
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Immuno-endocrinology
ovarian
production
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Science
function.
lutea of
1981; 25: 629-638
progesterone
macrophages
by mRNA phenotyping.
of cyclic
in corpora
TGF- a and
1988; 241: 708
Am J Reprod
Immunol
1990; 23: 80-89 6)
Cannon
JG,
ovulation. 7)
Polan
Science
ML,
interleukin-1
Dinarello
CA:
Increased
plasma
interleukin
-1 activity
in women
after
1985; 227: 1247-1249
Daniele
A,
(IL -1) activity.
Kuo
A:
Gonadal
steroids
Fertil Steril 1988; 49: 964-968 第68巻
第11号
modulate
human
monocyte
日
8)
Khan
SA, Schmidt
本
K, Hallin
内
分
follicular
Mol Cell Endocrinol
1988; 58: 221-230
M, Yasuda
on
porcine
K, Fukuoka
and functional
cells. Biol Reprod 11) Fukuoka
cultured
Endocrinol
of
receptors
E: Human
testis
factor(s).
of cytokines
and growth
Jpn 1992; 39: 277-288
K, Mori T: Inhibitory
hormone
Taii S, Yasuda
effects of interleukin
aromatase
activity,
in cultures
K: Interleukin-1
Endocrinology
granulosa
M, Yasuda
estradiol
cell growth.
induction
-1
progesterone
of porcine
granulosa
secretion
K,
inhibits
luteinization
K, Mori T: Inhibitory
effects of interleukin
adenosine
3', 5'-monophosphate
cells. Endocrinology
1989; 124: 884-890
Emi
in cultures
N,
of porcine
1988; 122: 367-369
K, Takakura
hormone-stimulated
porcine
13) Fukuoka
C, Nieschlag
of interleukin-1-like actions
hormone
M, Taii S, Yasuda
on luteinizing
granulosa
1157
誌
high amounts
luteinizing
cells in culture.
12) Fukuoka
雑
1990; 43: 905-912
M, Mori T,
granulosa
fluid contain
M, Taii S, Takakura
follicle - stimulating
secretion,
会
K, Taii S, Mori T: Synergistic
factors in enhancing 10) Yasuda
学
P, Di Pauli R, De Geyter
cytosol and ovarian 9) Fukuoka
泌
et al. : Cytokine
of luteinized
human
modulation granulosa
-1
accumulation
by
of progesterone
cells.
and
J Clin Endocrinol
Metab 1992; 75: 254-258 14) Bagavandoss production luteum.
JD,
of macrophages
JC, Urban
factor-
a
Resnick
gonadotropin
Demers
Croft
LM,
pleiotropic
swine granulosa
CE,
hormonal
RJ,
(TNF-a):
of untransformed EY,
necrosis
and T lymphocytes
factor- a (TNF- a)
in the
rabbit
corpus
1988; 122: 1185-1187
Garmey
necrosis
functions 16) Adashi
SL, Wiggins RC, Keyes PL: Tumor
Endocrinology
15) Veldhuis tumor
P, Kunkel
and localization
CS,
Aggarwal effects
BB:
of TNF a
cells. Endocrinology
Payne
DW:
action in nontransformed
Tumor ovarian
Ovarian on
actions
of
differentiated
1991; 129: 641-648
necrosis granulosa
factor
a
inhibits
cells.
J Biol Chem
R: Serum
sex steroid
and peptide
and progestin
receptor
1989; 264: 11591-11597 17) Kauppila
A, Cantell
hormone
concentrations,
administration 18) Grasso
in
fertilization. 19) Gorospe
leukocyte
estrogen
levels during
interferon.
Int J Cancer 1982; 29: 291-294
V, Causio
F, Fanizza
M, Traina
human
Vihko
follicular
fluid
after
ovarian
G, Cagnazzo
G:
hyperstimulation
Presence for
of
in
vitro
granulosa
cell
Med Sci Res 1988; 16: 167-168 WC,
differentiation
Tuchel in culture.
K, Fukuoka
functions
Kokko E,
and endometrial
of human
G, Muscettola
interferons
20) Yasuda
K, Janne O,
T,
Kasson
Biochem
M, Fujiwara
and proliferation
BG:
Biophys
r-interferon Res Commun
inhibits
1988; 157: 891-897
H, Mori T: Effects of interferon
of immature
porcine
(in press)
第68巻
第11号
granulosa
rat
on the steroidogenic
cells in culture.
Biol Reprod
総
Endocrinol.)
68.
1151∼1157.
1151
1992
説 免疫系 によ る卵 巣機能調節 京都大学医学部婦人科学産科学教室 森
崇
英,福
Immune Regulation Takahide Department
Although primary
regulators
locally
in
the
autocrine
or play
ovarian
function
become
clear
only
known
the
immune for
function.
a long In this
as the cytokines
Key words:
Recent
in regulating one
cells the
time,
in ovarian
but
the
in
Function
of Medicine
in the field show
also on nonimmune
cells,
distribution
reattracted
current
physiology
steroidogenesis,
and
as
of the
are
molecules
the
cells
the
of ovarian a wide
range
physiology.
produced
a third
regulatory
Since
ovaries
kind
of regulator of immune
of it has
functions,
significance
roles
as
immune
regulation
of biological
in mammalian
the
action
of the
immune
the physiological
of which
attention
knowledge
that
function,
cytokines,
prolactin
of gonadotropin
suggest
ovarian
and
nonsteroidal
modulation
studies
, Kyoto University
gonadotropins and
the
恒
FUKUOKA
pituitary
of the topics
factors,
widespread has
, Faculty
steroidal
regulators.
immune
article,
cytokine,
function, implicated
roles
cells,
that
been
has become
that
on immune
resident
ovarian
important
of Ovarian
and Obstetrics
established
have
paracrine
system
not
of
ovary
正
MORI and Masatsune
of Gynecology
it is well
岡
of the has
been
of ovarian cells
as well
is reviewed.
granulosa
cell,
interleukin-1,
tumor
necrosis
factor
は じめ に 卵 胞 の 発 育 ・成 熟 → 排 卵 → 黄 体 形 成 → 黄 体 退 行 と い っ た 卵 巣 の 周 期 的 変 化 と,そ れ に 伴 う性 ス テ ロ イ ドの 産 生 は,下 regulationを
垂 体 よ り 分 泌 さ れ る ゴ ナ ド ト ロ ピ ン,プ
受 け て い る こ と は 周 知 の 事 実 で あ る が,近
ロ ラ ク チ ン に よ りendocrine
年 こ う した ゴ ナ ド ト ロ ピ ン の 作 用 を卵 巣
レベ ル で 修 飾 す る ス テ ロ イ ド性 ・非 ス テ ロ イ ド性 のparacrine
and autocrine
regulatorsの
存在が
知 られ る よ うに な っ て き た 。 こ の 卵 巣 内 局 所 調 節 に 携 わ る細 胞 と して,卵 胞 を構 成 す る顆 粒 膜 細 胞 ・ 莢 膜 細 胞 や黄 体 細 胞 と い った 卵 巣 細 胞 が 当 然 挙 げ られ る が,最 近 注 目 を集 め て い る の が,免 疫 系 細 胞 の 関 与 で あ る。 本 稿 で は,こ 1.免
う した 免 疫 因 子 に よ る卵 巣 機 能 調 節 に 関 す る最 近 の知 見 を 述 べ る。
疫 系 と 卵 巣 との 機 能 連 関
以 前 よ り,自 己 免 疫 疾 患 に お い て卵 巣 炎 に よ る卵 巣 機 能 不 全 を しば しば 伴 う こ と や,胸
腺欠 損マ
ウ ス で 卵 巣 形 成 不 全 ・機 能 不 全 が お こ る こ と が 知 られ て お り,ま た 性 ス テ ロ イ ドが 免 疫 細 胞 機 能 に 影 響 を与 え る こ と な ど か ら,免 疫 系 と卵 巣 と の 機 能 連 関 が 示 唆 さ れ て い た 。 第68巻
第11号
1152
2.卵
免疫 系 に よる卵 巣機 能 調 節(森,他1名) 巣 に おけ る免疫 系細 胞の 分布
卵 巣 間 質 に は,卵
巣 周 期 の あ ら ゆ る 時 期 に お い て 単 球/マ ク ロ フ ァー ジ,リ
ン パ 球,顆
粒球 など
が 存 在 す る1)。と く に マ ク ロ フ ァ ー ジ は 卵 巣 間 質 に 数 多 く存 在 し,そ の 突 起 に よ り卵 巣 細 胞 と 接 触 して い る像 も観 察 され る。 退 行 黄 体 に お い て は,マ て い る と考 え られ て きた 。 卵 胞 に つ い て は,そ
ク ロ フ ァー ジ は 変 性 した 黄 体 細 胞 の 貧食 に携 わ っ
の 発 育 の 初 期 段 階 で は 単 球/マ ク ロ フ ァー ジ 以 外 の
免 疫 系 細 胞 は 卵 胞 内 に は 出 現 し な い 。 しか し排 卵 前 卵 胞 あ る い は 閉 鎖 卵 胞 に は 免 疫 系 細 胞 が 急 速 に 流 入 す る。 排 卵 前 卵 胞 に お い て 最 も早 く出 現 す る 免 疫 系 細 胞 は 肥 満 細 胞(mast 現 象 は 一 種 の 炎 症 反 応 と 考 え られ,肥
満 細 胞 がLHサ
cell)で あ る 。 排 卵
ー ジ に よ っ て 脱 顆 粒 を お こ し,ヒ
ス タ ミンを
遊 離 す る こ と が 排 卵 現 象 の 引 金 に な る と考 え ら れ て い る。 同 時 に排 卵 前 卵 胞 や 形 成 期 黄 体 か らは, 好 中 球 を は じめ とす る炎 症 細 胞 に 対 す る遊 走 刺 激 因 子 が 分 泌 され,そ の 免 疫 系 細 胞 が 排 卵 や 黄 体 形 成,黄 3.実
の シ グ ナ ル に よ り集 ま る種 々
体 機 能 維 持 に 重 要 な役 割 を 果 た して い る可 能 性 が あ る 。
験 モ デ ル と して の 顆 粒 膜 細 胞 培 養 系 に つ い て
卵 巣 内 局 所 調 節 機 構 の 実 験 モ デ ル と して,卵
胞 の 内 層 を 構 成 す る ス テ ロ イ ド産 生 細 胞 で あ る顆 粒
膜 細 胞 の 培 養 系 が しば しば 用 い られ る。 顆 粒 膜 細 胞 は 卵 胞 発 育 に伴 っ て 活 発 に増 殖 す る と 同 時 に, FSH,次
い でLHに
対 す る感 受 性 を獲 得 して 機 能 的 に成 熟 して い く。LHサ
的 成 熟 を ほ ぼ 完 了 し,排 卵 後 に は 黄 体 細 胞(顆
粒 膜 黄 体 細 胞)へ
ー ジ の 発 来 に よ り機 能
と形 態 的 変 化 を 遂 げ る。 こ う した
増 殖 と分 化 の さ ま ざ ま な 局 面 をin vitroに お い て も再 現 す る こ と が 可 能 で あ る。 と く に ブ タで は, 大 き さ の 異 な る卵 胞(小
・中 ・大)よ
プ ター も獲 得 した 細 胞,LHサ
り,FSHレ
セ プ タ ー の み 獲 得 し た 未 成 熟 な 細 胞,LHレ
ー ジ後 の 成 熟 細 胞 と い う,成 熟 度 の 異 な る顆 粒 膜 細 胞 を 選 別 して 採
取 す る こ と が 可 能 で あ る。 ま た,体 外 授 精 の 採 卵 時 に卵 と と も に 得 られ る ヒ ト顆 粒 膜 細 胞 は,自 周 期 のLHサ
ー ジ に 相 当 す るhCG投
顆 粒 膜 細 胞 同 様,黄 4.免
セ
与 か ら約36時 間 後 に採 取 さ れ る こ と か ら,ブ
然
タ大卵 胞 由来 の
体 形 成 期 の顆 粒 膜 黄 体 細 胞 に近 い 機 能 を 有 して い る と 考 え られ る。
疫 系 細 胞 に よ る 卵 巣 細 胞 の 機 能 調 節(in vitro)
本 来 免 疫 担 当細 胞 で あ るマ ク ロ フ ァ ー ジ がin vitroに お い て,卵 を お よ ぼ す こ と を 最 初 に 報 告 した の は,Kirschら(1981)2)で cultureに
よ り,マ
巣 細 胞 の ス テ ロ イ ド産 生 に 影 響
あ る。 彼 ら は マ ク ロ フ ァー ジ とのco-
ウ ス 黄 体 細 胞 の プ ロゲ ス テ ロ ン産 生 が 充 進 す る と 報 告 した 。 こ の刺 激 に は マ ク
ロ フ ァー ジ と卵 巣 細 胞 と の 接 触 が 必 要 で あ り,そ の シ グ ナ ル 伝 達 物 質 は マ ク ロ フ ァー ジ 細 胞 膜 上 に 存 在 し,Concanavalin
A(Con
A)刺
化 顆 粒 膜 細 胞 の 培 養 系 に お い て も,同 用 が 報 告 さ れ て い る 。 一 方,著
激 に よ り培 養 液 中 に 放 出 さ れ る蛋 白 と 考 え ら れ た 。 ヒ ト黄 体 様 の マ ク ロ フ ァー ジ/単 球 に よ る プ ロ ゲ ス テ ロ ン産 生 刺 激 作
者 らの 実 験 で は 単 球 に よ る 影 響 は 追 試 しえ ず,対
ヒ ト黄 体 化 顆 粒 膜 細 胞 と のco-cultureで,プ
照 的 に リ ンパ 球 と
ロ ゲ ス テ ロ ン の 産 生 充 進 が み ら れ た3)。 ま た マ イ ト
ジ ェ ン で 刺 激 した リ ン パ 球 の 培 養 上 清 中 に は,ヒ
ト黄 体 化 顆 粒 膜 細 胞 の プ ロゲ ス テ ロ ン産 生(hC
G刺 激 時 ・非 刺 激 時 と も)を 抑 制 す る 因 子 が 検 出 さ れ る と の 報 告 も あ る 。 ブ タ あ るい は ラ ッ ト顆 粒 膜 細 胞 に つ い て も,免 疫 系 細 胞 あ る い は そ の 培 養 上 清 に よ る ス テ ロ イ ド産 生 へ の 影 響 が い くつ か 報 告 さ れ て い る が,speciesやCon そ の影 響(作 5.サ
用 様 式)は
A刺
激 の 有 無,あ
るいは顆 粒膜 細胞 の成 熟度 等 の実験 条件 に よ り
さ ま ざ ま で は あ る。
イ トカ イ ン に よ る 卵 巣 細 胞 の 機 能 調 節
上 記 の よ うな,免
疫 系 細 胞 に よ る卵 巣 細 胞 機 能 調 節 の シ グ ナ ル 伝 達 に は,お
(未 知 の も の を 含 む)が
関 与 して い る と思 わ れ る。 近 年,免 第68巻
第11号
そ ら く多 くの 因 子
疫 系 の シ グナ ル伝 達 物 質 で あ る サ イ ト
日 カ イ ン が 免 疫 系 の み な らず,卵
本
内
分
泌
学
会
雑
誌
1153
巣 細 胞 を 含 む 様 々 な 組 織 あ る い は 細 胞 に 対 し,広 汎 な 生 物 作 用 を 示
す こ と が あ き ら か と な り,卵 巣 に お け る 局 所 調 節 因 子 と して の 存 在 意 義 が注 目 を 集 め て い る。 種 々 の サ イ トカ イ ンの 同 定 やrecombinantの
サ イ トカ イ ン の 開 発 と あ い ま っ て,サ
in vitroで の 卵 巣 機 能 調 節 に 関 す る 知 見 が 集 積 しつ つ あ る。 また,マ 以 外 に,TGF-α
・TGF-β
・PDGF・EGF・FGF・IGF-1な
イ トカ イ ン に よ る
ク ロ フ ァー ジ は サ イ トカ イ ン
ど の細 胞 増 殖 因 子 を分 泌 す る こ と が
知 られ て お り4),こ れ らの 因 子 は 卵 巣 細 胞 の 増 殖 と分 化 に 対 して さ ま ざ ま な 影 響 を お よ ぼ す と こ ろ か ら,マ
ク ロ フ ァー ジ に よ る卵 巣 細 胞 の 機 能 調 節 は,サ
イ トカ イ ンの み な らず 細 胞 増 殖 因 子 を も介
して い る 可 能 性 が あ る5)。 既 知 の サ イ トカ イ ン の うち と く に注 目 さ れ て い る の は,マ 1(IL-1)と
腫 瘍 懐 死 因 子(TNF-α)で 表1.培
あ る。
養 ブ タ顆 粒 膜 細 胞 に対 す るLL-1の
A.増
ク ロ フ ァ ー ジ 由 来 の イ ン ター ロイ キ ン
作用
殖 促 進*1
1.細 胞 数 増 加 2.[3H]
thymidine
TNF・
incorporation
細 胞 増 殖 因 子(EGF・FGF・insulin)と
B.FSHに
よ る 分 化(1-4)抑
1.aromatase活 2.LH
導
3.progesterone産
C.LHに
制*2
性誘 導
receptor誘
4.cAMP産
相 乗 作用 あ り
生
生
よ る 分 化(黄
体 化)抑
制*3
1.形 態 的 黄 体 化 2.機 能 的 黄 体 化(progesterone産
生)
(機 序) 1.cAMP産 2.LH
生抑 制
receptor数
3.adenylate
D.Progesterone基
*1小
減少
cyclase活
性 阻害
礎 分 泌 抑 制*1
・中 卵胞 由来 の顆 粒 膜 細胞 でみ とめ られ,大 卵 胞 由来 の成 熟 顆 粒膜 細 胞 で は み とめ られ な い作用
1)イ
*2小
卵 胞 由来 の顆粒 膜 細 胞 で の デー タ
*3中
卵 胞 由来 の 顆粒 膜 細 胞 で の デー タ
ン タ ー ロ イ キ ン1(IL-1)
正 常 月 経 周 期 婦 人 の 血 中IL-1活 巣 機 能 とIL-1活
性 が 卵 胞 期 よ り黄 体 期 に 高 い こ と は 以 前 か ら知 ら れ て お り6),卵
性 と の 関 連 が 示 唆 され て い た 。 単 球/マ ク ロ フ ァ ー ジ のIL-1産 第68巻
第11号
生能 は 性 ステ ロイ
1154
免疫 系 に よ る卵 巣機 能 調節(森,他1名)
ドに よ り影 響 を 受 け る7)。 プ ロ ゲ ス テ ロ ン10-9∼10-8M,エ 的 低 濃 度 の刺 激 で ヒ ト単 球 のIL-1産 ジ の リ ポ ポ リサ ッカ ラ イ ド(LPS)刺
激 に よ るIL-1βmRNAの
ラ ジ オ ー ル 濃 度 の 上 昇 に 伴 い 抑 制 さ れ る。 ま た,体 高 いIL-1活
ス トラ ジ オ ー ル10-10∼10-9Mと
発 現 も,プ
ブ タ顆 粒 膜 細 胞 に 対 す る作 用 を 表1に 挙 げ た 。IL-1は
胞 の 増 殖 を 促 進 し9),FSHに
よ る 分 化 誘 導 を抑 制 す る10)とと も に,LH添
(線 維 芽 細 胞 様 の 細 い 形 態 か ら,黄 体 細 胞 に類 似 した,細 胞 様 形 態 へ の 変 化)と
機 能 的 黄 体 化(プ
カ ニ ズ ム に つ い て は,LHレ
な り
胞 質 内 に顆 粒 や 脂 肪 滴 を 集 積 した 上 皮 細
織 に お い て,プ
も抑 制 す る11)。そ の メ
セ プ ター 数 を 減 少 さ せ る と と も に,adenylate
ゲ ス テ ロ ン 産 生 に 至 る ス テ ッ プ に つ い て は,有 ロ ス タ グ ラ ン デ ィ ン(PG)の
cyclaseに
よ るAキ
対 して も直 接
ナー ゼ の活性 化 か らプ ロ
意 な 影 響 を お よ ぼ さ な い 。 ま た,IL-1は
種 々 の組
産 生 を刺 激 す る こ と が 知 ら れ て お り,PGF2α
よ る 顆 粒 膜 細 胞 の 黄 体 化 を 抑 制 す る が,PG産
大 量 添 加 に よ っ て もIL-1の
未 熟 な顆 粒 膜 細
加 に よる形 態 的黄 体 化
ロ ゲ ス テ ロ ン産 生 の 著 明 な 増 加)を
的 な 抑 制 作 用 を お よぼ す た め と考 え られ る12)。一 方,cAMPに
Gを
ロ ゲ ス テ ロ ン ・エ ス ト
外 授 精 時 に 採 取 した ヒ ト卵 胞 液 中 に は,か
性 が み と め られ8),そ の 産 生 源 は 顆 粒 膜 細 胞 で は な い か と考 え ら れ て い る。
in vitroに お け る,IL-1の
同 様 にLHに
い う比 較
生 は 充 進 し,よ り高 濃 度 で は逆 に抑 制 され る。 単 球/マ ク ロ フ ァー
はIL-1
生 の 抑 制 物 質 で あ る イ ン ドメ サ シ ン の
抑 制 作 用 は 影 響 を受 け な い こ と か ら,黄 体 化 に 対 す るIL-1の
作 用 はP
介 した もの で は な い と考 え られ る 。 ラ ッ ト顆 粒 膜 細 胞 に 対 して もIL-1は,FSH刺
LHレ
激 時 の エ ス トラ ジ オ ー ル,プ
ロ ゲ ス テ ロ ン産 生,
セ プ タ ー の 誘 導 を 抑 制 す る こ と が 報 告 さ れ て い る。 ま た プ ロ ゲ ス テ ロ ンの 代 謝 産 物 で あ る20
α-OH-Pの
産 生 を増 加 させ る と こ ろ か ら,IL-1に
よ る プ ロ ゲ ス テ ロ ン分 泌 の 減 少 は ,少 な く と も
部 分 的 に は そ の 代 謝 亢 進 に よ る可 能 性 が あ る 。 な お,2種 に つ い て,ラ
ッ トの顆 粒 膜 細 胞 培 養 系 で は,IL-1β
れ て い る が,ブ
タの 系 で はIL-1α
とIL-1β
とIL-1β
の抑 制作 用
の 効 力 に 差 は み と め られ な い 。
卵 胞 の 外 層 を 構 成 す る莢 膜 細 胞 に 対 す るIL-1の る 報 告 が な さ れ て い る 。 ラ ッ トで はLH/hCG刺 て い る の に 対 し,ハ
類 のIL-1,IL-1α
の 方 が よ り少 な い 濃 度 で 有 効 で あ る と 報 告 さ
作 用 に つ い て は,ラ
ッ トと ハ ム ス タ ー で 相 反 す
激 に よ る ア ン ド ロゲ ン産 生 を 抑 制 す る と報 告 され
ム ス タ ー で は卵 胞 の 器 官 培 養,莢
膜 細 胞 の 培 養 系 に お い てIL-1は
プ ロゲ ス テ
ロ ン ・テ ス トス テ ロ ンの 産 生 を 促 進 す る と報 告 さ れ て い る。 ヒ ト黄 体 化 顆 粒 膜 細 胞 の プ ロ ゲ ス テ ロ ン 分 泌 に対 して は,in テ ロ ン分 泌 能 を 維 持 した 場 合 は,ブ
2)腫
瘍 懐 死 因 子(tumor
卵 巣 に お け るTNF-α
添 加 時 の 基 礎 プ ロ ゲ ス テ ロ ン 分 泌 に 対 して は,促
激 時 の エ ス トラ ジ オ ー ル 分 泌 に対 して は,IL-1は
影響 進的影
抑 制作 用 を示す 。
necrosis factor-α,TNF-α) の 役 割 は,黄
体 退 行 へ の 関 与 と 考 え られ て き た 。 黄 体 退 行 期 に は マ ク ロ
フ ァ ー ジ が 著 明 に 増 加 し,ま た 退 行 期 の黄 体 組 織 はin vitroに お い て,LPS添 Fを 産 生 す る こ と14)から,マ
ク ロ フ ァー ジ よ り産 生 さ れ たTNF-α
能 性 が指 摘 され て い る。 一 方,免
疫 組 織 化 学 的 手 法 に よ り,ラ
α が 産 生 され る と い う報 告 が な され,ま 液 中 に もTNF-α
添 加 して プ ロ ゲ ス
タ の 大 卵 胞 由 来 の 顆 粒 膜 細 胞 に 対 す る作 用 同 様 ,IL-1は
を お よ ぼ さ な い13)。こ れ に 対 し,hCG非 響 を お よぼ す 。 一 方,FSH刺
vitroでhCGを
加 に よ り容 易 にTN
が黄 体 の 退 行 に 関 与 して い る可 ッ ト ・ ウ シ顆 粒 膜 細 胞 か ら もTNF-
た体 外 授 精 の 際 に 得 ら れ た ヒ ト黄 体 化 顆 粒 膜 細 胞 の 培 養
が 検 出 さ れ る と報 告 され て い る。
ブ タ顆 粒 膜 細 胞 上 に は 高 親 和 性 のTNF-α
レ セ プ タ ー が 存 在 し,そ の レセ プ ター 数 はFSHと
イ
ン ス リン の 同 時 添 加 に よ り増 加 す る と報 告 さ れ て い る15)。ラ ッ トの 顆 粒 膜 細 胞 培 養 系 に お い て ,T 第68巻
第11号
日
NF-α
はFSH刺
本
内
分
泌
会
雑
誌
1155
激 に よ る プ ロ ゲ ス テ ロ ン ・エ ス トラ ジ オ ー ル 産 生,LHレ
の ス テ ロ イ ド合 成 酵 素 活 性 を 抑 制 す る16)。FSH作 結 合 に よ り活 性 化 さ れ るadenylate
cyclase活
ト卵 胞 の器 官 培 養 系 に お い てTNFは,発
セプ ター の誘導 や種 々
用 抑 制 の 機 序 と して は,FSHの
レ セ プ ター へ の
性 に 対 す る 阻 害 作 用 に よ る と考 え られ て い る。 ラ ッ
育 卵 胞 ・閉 鎖 卵 胞 い ず れ に 対 して も,プ
プ ロ ゲ ス テ ロ ン ・20α-OH-P・17α-OH-Pの す るTNF-α
学
レグネ ノロ ン ・
産 生 を 亢 進 さ せ る。 こ の 卵 胞 ス テ ロ イ ド産 生 に 対
の 促 進 作 用 は 莢 膜 細 胞 を 標 的 と し た もの で あ り,実 際 分 離 した 莢 膜 細 胞 に対 してTN
F-α は 同 様 の 促 進 作 用 を 示 す 。 ヒ ト黄 体 化 顆 粒 膜 細 胞 の ス テ ロ イ ド産 生 に 対 す るTNF-α は,IL-1と 3)イ
の影 響
全 く 同様 で あ る13)。
ン タ ー フ エ ロ ン(IFN)
IFNα
は 正 常 月 経 周 期 婦 人 へ のin
vivo投
与 に よ り,ゴ
ナ ド トロ ピ ン分 泌 に は 影 響 せ ず に,卵 胞
期 か ら排 卵 期 の エ ス トラ ジ オ ー ル 分 泌 と黄 体 期 の プ ロゲ ス テ ロ ン分 泌 を低 下 させ る と報 告 さ れ て い る17)。ヒ ト卵 胞 液 中 に はIFN活 %,IFNα
性(10-36U/ml)が
に 対 す る 抗 体 で20%中
(premature るが,in
ovarian
failure)に
お い て は,顆
vitroに お い てIFNγ
検 出 さ れ,そ
和 さ れ た18)。ま た,自
の 活 性 はIFNγ
に 対 す る 抗 体 で80
己 免 疫 疾 患 に 合 併 した 早 発 卵 巣 不 全
粒 膜 細 胞 に ク ラ スIIタ イ プ の 組 織 適 合 抗 原 が 発 現 す
に よ り ヒ ト顆 粒 膜 細 胞 に ク ラ スII抗 原 が誘 導 され,ク
増 加 す る19)とこ ろ か ら,IFNγ
ラ スI抗
原も
が 自 己 免 疫 に よ る卵 巣 機 能 不 全 の 発 生 に 関 与 して い る可 能 性 が 指 摘
され て い る 。 ラ ッ トの 顆 粒 膜 細 胞 培 養 系 に お い て,IFN-γ エ ス トラ ジ オ ー ル,LH/hCGレ 顆 粒 膜 細 胞 の 培 養 系 で は,ヒ る が,IL-1と
異 な り,エ
はFSH刺
激 時 の プ ロ ゲ ス テ ロ ン,20α-OH-P,
セ プ ター の 誘 導 を 抑 制 す る と報 告 さ れ て い る19)。ブ タ の 未 成 熟 な トIFN-α
添 加 に よ り,FSH刺
ス トラ ジ オ ー ル 産 生(テ
は 逆 に増 加 す る20)。ま た,IFNは,他
激 時 の プ ロゲ ス テ ロ ン産 生 は抑 制 され
ス トス テ ロ ン か ら エ ス トラ ジ オ ー ル へ の 変 換)
の 多 くの 腫 瘍 ・非 腫 瘍 性 細 胞 に 対 す る影 響 同 様,未
熟なブタ
顆 粒 膜 細 胞 の 増 殖 を 抑 制 す る20)。ヒ ト黄 体 化 顆 粒 膜 細 胞 培 養 系 に お い て は,IFNはIL-1・TNFと 異 な り,LH/hCG刺 れ のIFNで
激 時 の プ ロゲ ス テ ロ ン 産 生 を抑 制 す る13)。こ のIFNの
もみ られ る が,IFNγ
が 最 も強 力 で あ る。 プ ロゲ ス テ ロ ン基 礎 分 泌.FSH刺
エ ス トラ ジ オ ー ル 産 生 に 対 して も,IFNγ 4)そ
抑 制作 用 は α βγいず 激による
は や は り抑 制 作 用 を 示 す 。
の 他 の サ イ トカ イ ン
ラ ッ ト顆 粒 膜 細 胞 培 養 系 に お い て,イ 20α-OH-Pの
産 生 を 促 進 し,ヒ
生 を抑 制 す る との 報 告 もあ る が,こ か れ て い る 。IL-3に
つ い て は,ラ
に は 影 響 し な い が,20α-OH-Pの
ン ター ロイ キ ン2(IL-2)はFSH刺
激 時 の プ ロゲ ス テ ロ ン・
ト黄 体 化 顆 粒 膜 細 胞 に 対 して はhCG刺
激 時 の プ ロ ゲ ス テ ロ ン産
う した 影 響 が み られ な い と い う否 定 的 デ ー タ もあ り,議 論 が 分 ッ ト顆 粒 膜 細 胞 培 養 系 に お い て,見
か け上 プ ロゲ ステ ロン産生
産 生 を 亢 進 させ る と の 報 告 が あ る。 ブ タ顆 粒 膜 細 胞 のLH刺
激
時 の プ ロ ゲ ス テ ロ ン産 生 に対 す る種 々 の サ イ トカ イ ン の 影 響 を 比 較 検 討 した 結 果,IL-1・TNF・I FNが
濃 度 依 存 的 抑 制 作 用 を示 した の に 対 し,IL-3・IL-6で
有 意 な抑 制 効 果 が 得 られ,IL-2・G-CSF・M-CSFで
は100ng/mlと
い う高 濃 度 で は じめ て
は 影 響 を み と め な か っ た(図1)。
お わ りに 免 疫 系 に よ る卵 巣 機 能 調 節 に つ い て,in
vitroで の デ ー タ を 中 心 に,現
在 得 られ て い る知 見 を 述
べ た 。 免 疫 系 は サ イ トカ イ ンや 他 の ペ プ チ ドを 介 して 卵 巣 細 胞 の機 能 調 節 に 関 与 す る と と も に,免 疫 系 も ま た ス テ ロ イ ドホ ル モ ン等 を 介 して 卵 巣 細 胞 に よ る機 能 調 節 を 受 け て い る可 能 性 が あ る5)。 第68巻
第11号
免疫 系 に よる卵 巣機 能 調 節(森,他1名)
1156
ま た サ イ トカ イ ン は 視 床 下 部 か ら のGnRH分 よ ぼ す こ と が 知 られ て お り,こ
泌 や 下 垂 体 か らの ゴ ナ ド トロ ピ ン分 泌 に も 影 響 を お
う した 間 接 的 作 用 に よ り卵 巣 機 能 調 節 に関 与 して い る 可 能 性 もあ る 。
卵 巣 細 胞 機 能 に 対 す る免 疫 系 細 胞 や サ イ トカ イ ン の 影 響 は 多 彩 で あ り,in
vitroに お い て サ イ トカ
イ ン 同 志 あ る い は サ イ トカ イ ン と細 胞 増 殖 因 子 と の 相 互 作 用 も み られ る9)と こ ろ か ら,免 疫 系 に よ る 性 腺 機 能 調 節 機 構 は,ま
だ 同 定 さ れ て い な い 未 知 の サ イ トカ イ ン を含 め た 複 雑 な ネ ッ トワー ク を
形 成 して い る可 能 性 が 大 きい 。 今 後 の 研 究 が待 た れ る と こ ろ で あ る。
図1.ブ
タ顆 粒 膜 細 胞培 養 系 に お け るLH刺 ンの影 響
激 時 の プ ロゲ ス テ ロ ン産生 に対 す る種 々 の サ イ トカ イ
文 1)
Adashi
EY:
physiology:
The
potential
the emerging
献
relevance
of cytokines
role of resident
ovarian
and
growth
factors
cells of the white
to
ovarian
blood cell series.
Endocr Rev 1990; 11: 454-464 2)
Kirsch
TM,
Friedman
mice: characterization 3)
Emi N, Kanzaki by cultured
4)
Rappolee
other growth 5)
Mori
T:
and effects on steroid
H, Yoshida
human DA,
AC, Vogel RL, Flickinger
GL: Macrophages
secretion.
M, et al. : Lymphocytes
granulosa
Biol Reprod stimulate
luteal cells. Am J Obstet Gynecol
Mark D, Banda MJ, Werb Z: Wound factors in vivo: analysis
Immuno-endocrinology
ovarian
production
1991; 165: 1469-1474 express
Science
function.
lutea of
1981; 25: 629-638
progesterone
macrophages
by mRNA phenotyping.
of cyclic
in corpora
TGF- a and
1988; 241: 708
Am J Reprod
Immunol
1990; 23: 80-89 6)
Cannon
JG,
ovulation. 7)
Polan
Science
ML,
interleukin-1
Dinarello
CA:
Increased
plasma
interleukin
-1 activity
in women
after
1985; 227: 1247-1249
Daniele
A,
(IL -1) activity.
Kuo
A:
Gonadal
steroids
Fertil Steril 1988; 49: 964-968 第68巻
第11号
modulate
human
monocyte
日
8)
Khan
SA, Schmidt
本
K, Hallin
内
分
follicular
Mol Cell Endocrinol
1988; 58: 221-230
M, Yasuda
on
porcine
K, Fukuoka
and functional
cells. Biol Reprod 11) Fukuoka
cultured
Endocrinol
of
receptors
E: Human
testis
factor(s).
of cytokines
and growth
Jpn 1992; 39: 277-288
K, Mori T: Inhibitory
hormone
Taii S, Yasuda
effects of interleukin
aromatase
activity,
in cultures
K: Interleukin-1
Endocrinology
granulosa
M, Yasuda
estradiol
cell growth.
induction
-1
progesterone
of porcine
granulosa
secretion
K,
inhibits
luteinization
K, Mori T: Inhibitory
effects of interleukin
adenosine
3', 5'-monophosphate
cells. Endocrinology
1989; 124: 884-890
Emi
in cultures
N,
of porcine
1988; 122: 367-369
K, Takakura
hormone-stimulated
porcine
13) Fukuoka
C, Nieschlag
of interleukin-1-like actions
hormone
M, Taii S, Yasuda
on luteinizing
granulosa
1157
誌
high amounts
luteinizing
cells in culture.
12) Fukuoka
雑
1990; 43: 905-912
M, Mori T,
granulosa
fluid contain
M, Taii S, Takakura
follicle - stimulating
secretion,
会
K, Taii S, Mori T: Synergistic
factors in enhancing 10) Yasuda
学
P, Di Pauli R, De Geyter
cytosol and ovarian 9) Fukuoka
泌
et al. : Cytokine
of luteinized
human
modulation granulosa
-1
accumulation
by
of progesterone
cells.
and
J Clin Endocrinol
Metab 1992; 75: 254-258 14) Bagavandoss production luteum.
JD,
of macrophages
JC, Urban
factor-
a
Resnick
gonadotropin
Demers
Croft
LM,
pleiotropic
swine granulosa
CE,
hormonal
RJ,
(TNF-a):
of untransformed EY,
necrosis
and T lymphocytes
factor- a (TNF- a)
in the
rabbit
corpus
1988; 122: 1185-1187
Garmey
necrosis
functions 16) Adashi
SL, Wiggins RC, Keyes PL: Tumor
Endocrinology
15) Veldhuis tumor
P, Kunkel
and localization
CS,
Aggarwal effects
BB:
of TNF a
cells. Endocrinology
Payne
DW:
action in nontransformed
Tumor ovarian
Ovarian on
actions
of
differentiated
1991; 129: 641-648
necrosis granulosa
factor
a
inhibits
cells.
J Biol Chem
R: Serum
sex steroid
and peptide
and progestin
receptor
1989; 264: 11591-11597 17) Kauppila
A, Cantell
hormone
concentrations,
administration 18) Grasso
in
fertilization. 19) Gorospe
leukocyte
estrogen
levels during
interferon.
Int J Cancer 1982; 29: 291-294
V, Causio
F, Fanizza
M, Traina
human
Vihko
follicular
fluid
after
ovarian
G, Cagnazzo
G:
hyperstimulation
Presence for
of
in
vitro
granulosa
cell
Med Sci Res 1988; 16: 167-168 WC,
differentiation
Tuchel in culture.
K, Fukuoka
functions
Kokko E,
and endometrial
of human
G, Muscettola
interferons
20) Yasuda
K, Janne O,
T,
Kasson
Biochem
M, Fujiwara
and proliferation
BG:
Biophys
r-interferon Res Commun
inhibits
1988; 157: 891-897
H, Mori T: Effects of interferon
of immature
porcine
(in press)
第68巻
第11号
granulosa
rat
on the steroidogenic
cells in culture.
Biol Reprod
