日耳 鼻
82-371
FACIAL
PARALYSIS
IN CHILDREN
TORU KIKAWADA, Department
of Otorhinolaryngology
Faculty of Medicine
(Director: Clinical observations during
8 years
April
1970 and March
lower lip palsy (CULLP),
with facial palsy under 1978.
They
the auricle
and the
in childhood, old,
there out
with
were
palsy.
media
in children
time
of patients
difficult Most
with
This with
type
children
symptomatic
from
Bell's
of Bell's were
allowance
noticed should
a half
was
never
seen
under
five
are mostly
from
acute
otitis
media.
should
origin
of palsy
was
to obtain
palsies
palsy,
palsy
that
unknown
whose not found
complete
due to serious
especially
at the
be made
after
in less than a month. be suspected
beginning.
of tumor
Any
3 years
Facial
palsy
It was noted progressive
that with-
literature. of the
state
such as tumors Therefore,
examinations.
of the
were
follow-up
onset
dffficult
we believe In most
cases of delayed
and cautious
of
found
seen under years.
slowly
in previous
diseases
is commonly
were
was
information
careful
palsy
cases
palsy
syndrome, 5 otitic
, ipsilateral anomalies
Bell's
of the
of age
palsy , 35
lower lip palsy (CULLP)
of CULLP
recognized.
which
15 years
37 of Bell's
were
emphasized
otitis
signs of recovery certain
be
syndrome
be differentiated final diagnosis
should
unilateral
In about 62%
meatus
Hunt's
of recovery.
It is rather of the
it
auditory
with
a group
any sign
exceptionally few.
external
and
in contrast
associated
were
were;
20 traumatic palsy , 9 Hunt's
palsy, 9 tumors and 24 others. Most of the facial palsies since birth were congenital while birth traumas
, University of Tokyo, Tokyo
Y. Sato, M,D.)
were made on 137 patients
between
congenital unilateral
M .D.
that
Bell's
recovery
to the
palsies, beyond
a
is necessary.
A82-0371-90509
小児 顔 面 神経麻 痺 につ い て 東京大学医学部耳鼻咽喉科学教室(主 任:佐 藤靖雄教授) 黄 川 田 徹 I.
は
じめ
確 な診 断 が 要 求 され る点 で あ ろ う.
に
私 たち 耳鼻 咽 喉 科 医 に と っ て顔 面 神 経 麻痺 患 者 を診 療
われ わ れ は 当科 で受 診 した137名
の小 児 顔 面 神経 麻 痺
す る機 会 は少 な くな い が,こ れ を小 児 に限 定 す る とまれ
患 者 につ い て検 討 し,若 干 の知 見 を得 た ので こ こに報 告
であ る よう に思 わ れ る.小 児 顔 面 神 経 麻 痺 の臨 床 に おい
す る.
て重要 な こ とは,成 人 に比 べ て原 因が 多 彩で あ る点 に加 え,発症時 お よ びそ の経 過 の把握,さ
らに検 査 に お い て
も十分 な 情報 が 得 られ ぬ こ とが 多 く.耳 鼻 咽 喉 科 お よび 小見科専 門 医 の協力 に よ る十分 な検 査 と これ に基 づ く的
4-27
II.
対 象 な ら び に方 法
東 京大 学 耳鼻 咽 喉 科 に おい て1970年4月
か ら1978年3
月 まで の8年 間 に 顔 面神 経 外 来 を受 診 した 顔面 神経 麻 痺
82-372
患者731例
黄川田=小 の うち,15歳 以 下 の 小 児137例
1979
児,顔 面 麻 痺
を対 象 と して
表-1
原因 別 に 分類 し,好 発 年 齢,麻 痺 の経 過 お よび 予 後 に つ
東 京 大学 耳 鼻 咽 喉 科 顔 面神 経 外 来 を受 診 した733例
の診 断.(1970.4-1978.3)
い て 検 討 し た. 症例 の ほ と ん どに 筋 電 図 に よ る経 過 観 察 を 行 な って お り,本 研 究 に お い て の 予 後判 定 は筋 電 図 上 干 渉波 型 を示 し,か つ 協同 運 動 な どの 後 遺 症 を 認 め ぬ もの を 完 全 回 復,そ の他 の もの は不 完 全回 復 と して 分類 した.表 情 運 動 にて 軽 度 に 麻痺 が残 存 して い る症 例 で も筋 電 図 上 干 渉 波型 を示 す こ とが あり,視 診 に よる麻 痺 判 定 とは 必 ず し も一致 しない.
III. A.
成
績
年 齢別 頻 度 小児 顔 面 神 経 麻痺 症 例137例 を 年 齢 別 に み る と,2歳
児が21例 と最 も多 く,3歳 い で い る(図1参 B.
児 と0歳 児 が17例 で これ に 次
照).
原 因 別 分類 16歳 以 上 の成 人 症 例 を対 照 と して,小 児 顔 面 神経 麻 痺
137例 の原 因別 頻 度 を 表1に示し
た.
生 下 時 よ り麻 痺 の認 め られ た群 が46例 で 最 も多 く,特 に先 天 性 異 常 で あ る先 天 性 片 側 性 下 口唇 麻痺 症 例 が35例 と多数 を 占め て い る.ま た 小 児 に おい て もBell麻
痺 は
37例 と多 く認 め られ,先 天 性 片 側性 下口 唇 麻 痺 とほ ぼ 同 数 で あ り,こ の2疾 患 が 全 体 の 約53%を
占 め てい る.原
因な らび に 麻痺 の 発現,経 過 が 多 彩 で あ るが,以 下各 原 因別 疾 患 に つ い て典 型 的 な 症 例 を 付 し,特 徴 を 述 べ る. 1.
生 下 時 よ り麻 痺 の 認 め られ た も の. 症
例
主
訴:右 下 口唇 麻痺,右 耳 介 奇 型.
女 児,2カ
既 往 歴:特記
月.
事 項 な し.
家 族 歴:特記
事 項 な し.
現 病 歴 お よび 経 過:妊 娠 中 は特 に 問題 な し,子宮 筋腫 のた め 帝 王 切 開 に て 分 娩.生 後 よ り右 耳 介 奇型,泣 いた 時,笑
った 時 に 下 口 唇 の 非対 称 が あ り,某 大学 病 院小児
科 に て 脳 波,心 電 図,そ の他 全 身 検 査 を 行 な ったが 異常 な し との こ とで あ っ た.昭 和52年10月 当科 顔面 神経 外来 を受 診.右 耳 介 奇 型(小耳
症)と 外 耳 道 閉 鎖を 認め た.
筋 電 図 で は号 泣 時 右 口唇 下 制 筋 は干 渉 波 型 を示 した が. 右 口角 下 制筋 に は活 動 電 位 は認 め られ なか った.経 過観
図1
小児顔面神経麻痺 症例の年齢分布
察 に おい て 麻痺 の 状 態 に は 変 化 が な い.
4-28
日耳鼻
82-373
黄 川 田=小 児,顔 面 麻痺
137例 の うち 最 も多 くみ られ た もの は 生 下 時 よ り麻痺 を きた してい た 症 例 で あ る.ほ とん どが 先 天 性 異 常 に よ る もの で あ るが,こ
の うち35例 は 片 側下口 唇 に限 局 した
部分 麻痺 で あ り,先 天 性 片 側 性 下 口唇 麻痺 と 診 断 され た.ま たMobius症
候 群3例,Bonnevie-Ullrich症
候
群が1例 に 認 め られ た.分 娩 時 外 傷 と思 わ れ る症 例 は2 例 と きわ め て 少 ない. 先 天性 片 側 性 下 口 唇 麻痺 の患 側 は右15例,左20例
とや
や 左 側 に 多い.筋 電 図 に よ る検 査 で は完 全 麻痺 お よび不 完 全 麻痺 を呈 す る も の とが あ るが,共 に経 過 にお い て 麻 痺 の状 態 は不 変 で あ り,回 復 ま た は 増悪 し た症 例 は認 め られ て い ない.ま
た22例 に おい て 同 側 の 耳介 ・外 耳 道 奇
型 の合 併 が み られ た. 2.
図3
Bell麻 痺 症
例
女 児,4歳.
主
訴:突 発 性 顔面 神経 麻 痺.
動 電 位1∼2カ(+),
に認 め て お り,全 例3カ 月 以 内に 筋 電 図上 干 渉 波 型 を示 した.3カ
家 族 歴:特 記 事 項 な し. 現病 歴 お よび 経 過:昭 和53年2月
初 旬 よ り感 冒様症 状
後 左 顔 面 神 経 麻痺 が 出 現 した.近 医 にて ス テ
ロ イ ド剤,ATPの
痺 症 例 の回復経 過
干渉 波 型(+++))
既往 歴:特 記 事 項 な し.
あ り,5日
小児Bell麻
(活動 電 位 な し(-),活
投 与 を 受 け る.3月13日
当科 顔 面 神
月 以 内に 干 渉波 型 を 示 さ ぬ 例 は後 日干 渉 波型
を 示 して も協 同 運 動 な どの後 遺 症 を 伴 い,不 完 全 治 癒 に 終 わ る よう で あ る(図3参 3.
Hunt症
照).
候群
症
例
異 常 な し.筋 電 図検 査 で は不 完 全 麻痺 を 呈 し て お り,左
主
訴:耳 介 水疱 形 成,顔面 神 経 麻痺.
眼 輪 筋 お よ び左 口輪 筋 にわ ず か に 活 動 電 位 を認 め た,麻
既 往 歴:特 記事 項 な し.
痺 は徐 々 に 改 善 し,発 症 よ り3カ 月 後 に は 完 全 回復 を
家 族 歴:特 認事 項 な し.
経外 来 受診.耳 鏡 所 見,レ
ン トゲ ン検 査,血 液 検 査 で は
男 児,10歳.
現 病 歴 お よび経 過:昭 和48年2月
示 した. Bell麻 痺 症 例 は37例 と前 者 に次 い で 多 く 認 め られ た. 年 齢別 で は3歳 以 下 に集 中 し て お り,18例 め てい るの が 特 徴 的 で あ る(図2参
照).性
と約 半数 を 占 差 は認 め ら
れ な い.経 過 を 追 え た25例 の う ち完 全回 復 は19例(76%)
介水疱 形 成 が 出 現.約5日
初 旬 右 耳痛 お よ び耳
後右 顔 面 神 経 麻痺 を き た し,
某病 院 にて ス テロ イ ド剤,ATPの
投 与 を 受 け る.耳 鳴,
眩暈,難 聴 な どの 自覚 はな い.ま た聴 力 検 査,レ ン トゲ ン 検査 に おい て も異 常 な し と のこ とで あ っ た.2月12日 当科 顔 面 神 経外 来 を 受 診.筋 電 図 検 査 で は右 前 頭 筋,眼 輪筋, 口輪 筋 に最 大 収 縮 時1∼2個
のamplitudeの
小 さな 活
動 電 位 を認 め,不 完全 麻 痺 の状 態 で あ っ た.麻 痺 は 徐 々 に改 善 し,発 症 よ り約2週 間後 には 完全 回復 を示 した. Hunt症
候 群 は9例 と小 児 にお い て は少 ない.ま た全
例6歳 以上 で あ り,5歳
以下 は1例 も 認 め られ な か っ
た.性 差 は ない.経 過 を追 え た7例 の うち5例(71%) は完 全 回復 を示 した(図4参 4. 症
例
男 児,8歳.
主
訴:顔面
神 経 麻痺,難
既 往 歴:特 記 事 項 な し. 図2 4-29
小 児 のBell麻
痺
照).
外 傷性 顔面 神 経 麻痺
家 族 歴:特 記 事 項 な し.
聴.
82-374
黄川 田=小 児,顔 面 麻痺
1979
た4例 は全 例 完 全回 復 を 示 した.こ れ に対 して 骨折 例 の 予 後 は 不 良 で あ り,即 発性 麻 痺1例,遅
発 性 麻痺3例 に
完 全 回 復 を 認 め た にす ぎ ない. 5.
耳炎 性 顔 面神 経 麻 痺 症 主
列 男 児,3歳, 訴:耳 後 部 腫 脹,顔 面 神 経 麻痺.
既 往歴:特
記事 項 な し.
家 族歴:特 記 事 項 な し. 現 病 歴 お よび 経 過:昭 和51年9月24日 後部 腫張,39℃
よ り左 耳 痛,耳
の 発 熱 が あ った.耳鼻 咽 喉 科 を 受 診 し,
急 性 中耳 炎 との 診 断 に て治 療 を受 け て い た.ま た 小児 科 図4
小 児Hunt症
にて 耳 後 部 腫 脹 は リンパ 節 炎 と診断 され てい る.9月30
候 群症 例 の 回復 経 過
(活動 電 位 な し(-),活 干 渉 電 位(+++))
日よ り耳 漏 出現.翌
動 電 位1∼2カ(+),
日左 顔 面神 経 麻 痺 が 生 じ,10月4日
当科 顔 面 神 経 外来 を受 診 した.筋 電 図 検 査 で は 患側 表情 筋 に 活 動 電 位 は 認 め られ なか っ た.ま た耳 鏡 所 見 お よび
現 病 歴 お よび 検 査 所見:昭 和51年9月19日
自転 車 に乗
レン トゲ ン所見よ り,急 性 中耳 炎 に続 発 した 顔 面神 経麻
っ てい た とこ ろ 小型 トラ ッ クと 衝 突 し,右 側 頭 部 を 打
痺 と診断 し,翌 日全 身 麻 酔 下 に左 乳 突 洞お よび 顔面 神経
つ.直 後 よ り意 識 障 害 が 出現 し,約3時間
管 開 放術 を行 な っ た.
耳 出血 が3日間 入 院 し,3日
続 い た.ま た
手 術所 見:乳 突 洞 内 は 膿 汁 な く,肉
認 め られ た とい う.某 病 院脳 外 科 に救 急
後 に 顔 面 神経 麻 痺 を 指 摘 され た.約1カ
月
入 院 し たが 経 過良 好 で あ り,手 術 不 要 との こ とで 退 院 し,顔面 神経 麻 痺 の 治 療 の た め昭 和51年11月1日
た.こ
術 後経 過:術 後 麻痺 は 急 速 に 改 善し,1週
下が み られ た.筋 電 図 検
査 で は右 前 頭 筋 お よび 眼輪 筋 に は最 大 収縮 時活 動 電 位 の
間後 の 筋電
図検 査で ほぼ 完 全回 復 を 認 め た. 中 耳炎 に よ る麻痺 は5例 で あ る.急 性 中耳 炎 に引 き続
に て側 頭 骨骨 折 と耳 小 骨 の偏 位 が 疑 わ れ た.ま た聴 力 検 査 で は高 音 域 に30∼40dBの低
芽 が 充 満 して い
面 神 経 垂 直部 を 開 放 し
た.
当科 顔
面 神経 外 来 を 受 診 した.耳 鏡 所 見 お よび側 頭 骨 断 層 撮 影
れ を 徹 底 的 に 除 去 し,顔
き発 症 し た もの4例,真
珠 腫 に よ る もの1例 で あ る.前
者 は4歳 以 下 の 低 年 齢 層 に 集 中 してい た の に比べ,後 者
低 い 活 動 電位 が わ
は14歳 と発 症 年 齢 に大 きな 隔 た りが み られ る.急 性 中耳
ず か に認 め られ た.な お 涙分 泌,味 覚 検査 とも に左 右 差
炎 に よ る症 例 の うち,発 症 直後 受 診 し 救急 にて 手術 を行
は ほ とん ど認 め られ なか った.
な っ た2症 例 は,術 後 急 速 に 麻痺 が 回復 し たが,不 適 当
発 射 な く,右口 輪 筋 にamplitudeの
手術 所 見:11月12全
身 麻 酔 下 に 顔面 神 経 減 圧 術,鼓
な 治 療 に よ り症 状 が 遷 延 した症 例 の 予 後 は不 良 であ る.
室 成形 術 を行 な った.術 中顔 面 神経 水平 部 お よび 垂 直 部
1例 は麻 痺 発 症 後4年 経過 してか ら受 診 し,副 神 経 との
に は骨 折 に よ るは っ き りした 障 害 は 認 め られ な か った.
神 経 吻 合 術 を 行 な ったが,表 情 運 動 は不 完全 で あ る.ま
術 後 経 過:徐
々に 回復 傾 向 を 示 し,約3カ
月 後 筋電 図
上 干渉 波 型 を 認 め たが,協 同 運 動 も出現 し,不 完全 回復 に終 わ って い る. 外 傷 性 顔 面神 経 麻痺 は頭 部 外傷17例,手
術 に よ る もの
た真 珠 腫 例 は 手術 治 療 に よ り完 全回 復 を示 した. 6.
腫 瘍 に よる 顔 面 神経 麻 痺 症
例
主
訴:左 顔 面 神 経麻 痺.
男 児,14歳.
3例 の計20例 で あ る.症 状 お よび レ ントゲ ン検 査 に よ り
既 往 歴:特 記 事 項 な し.
骨 折 と診 断 され た頭 部 外 傷 例 は12例 で あ り,こ の うち 即
家 族 歴:特 記事 項 な し,
発 性 麻痺 を呈 した も の は5例,遅
発性 麻 痺 を 呈 した もの
は7例 で あ る.麻 痺 に伴 う症 状 と して は耳 出血 が 最 も多 く(8例),意
識 障害,聴
力 障 害 な どが 少 数 例 に 認 め ら
現 病 歴:昭 和51年11月 頃 よ り左 顔面 神 経 麻 痺 が 出現. 麻 痺 は翌 年3月 頃 ま で 徐 々 に悪 化 し た.昭 和52年5月 り内科 に て マ ッサ ー ジ療 法 を行 な っ て い た.7月
れ る.予 後 は麻 痺 が巣 独 で み られ臨 床 的 に骨 折 な し と診
左 耳 鳴,左 難 聴 を 自覚.ま
断 され た症 例 に おい て は 良 好 で あ り,5例
り,8月30日
中経 過 を追 え
よ
頃 より
た 歩行 時 ふ らつ く よ うにな
当科 を受 診 し た.
4-30
日耳鼻
黄川田=小
児,顔 面麻 痺
検 査所見:筋 電図 検 査で は 患 側 に活 動電 位 の減 少,聴
主
82-375
訴:左 顔 面神 経 麻 痺.
力検 査で は 左高 度 感 音 難 聴,ま た 左 右注 視 眼 振,左 温 度
既往 歴:特記
事 項 な し.
眼 振 反応 低 下が 認 め られ た.さ らに左 三叉 神 経 全 域 で知
家 族 歴:特記
事項 な し.
覚低下 が あ り,精 査 のた め10月12日 当 院脳 外 科 に入 院 し た.CTス
キ ャ ンにて 小 脳 橋 角 部 腫 瘍 を疑 われ,10月18
日手術 を 行 な っ た.
現 病 歴 お よび 経 過:9カ 現 し,約3カ
病 院 小児 科 で 脳 波,レ
手術 所 見:左 小 脳橋 角部 のgliomaで
あ っ た.腫 瘍 の
全 摘 は不 可 能 で あ り,一 部 残 存 した ま ま 手術 を 終 了 し た.
月 頃 よ り左 顔 面神 経 麻 痺 が 出
月 間 徐 々 に悪化 し た.昭 和49年12月 某大 学 ン トゲ ン検 査な どを 行 な っ たが,
異 常 は認 め られ て い ない.昭 和50年1月
当院 脳 神 経 外 科
受 診.顔 面 神 経 麻痺 の ほか は異 常 が 認 め られ ず,1月20 日当科 顔 面 神 経 外来 を受 診 した.筋 電 図検 査 で は患 側 表
経 過:術 後 放 射線 治 療 を行 な い 経 過 観 察 中 で あ るが, 顔 面神 経 麻痺 の 回復 は認 め られ て い な い. 腫瘍 に よる9例 は部 位 別,組 織別 に 表2に示
情 筋 の活 動 電位 数 が 減少 して お り,不 完全 麻 痺 の 状 態 で あ っ た.ま た 口唇 下制 筋 に多 相 性 の異 常 波 型 が 認 め られ
し た.
た.そ い.2年
表-2
腫瘍 に よ る顔 面 神経 麻痺
の ほ か 諸 検査 で は耳 鼻 咽 喉 科 領域 に は 異 常 が な 以 上 経過 を観 察 して い るが,筋 電図 上 変 化 は な
く,ま た 他 の症 状 も出現 して い な い. 最 後 に,徐 々 に進 行 す る麻痺 で 発症 し,長 期 経 過 観 察 に おい て も麻 痺 の ほか は他 の 随 伴症 状 を認 め ぬ6例 を経 験 した の で,一 つ の群 と して と りあ げ た.発 症 情 況 は あ き らか にBell麻
痺 とは異 な る.ま
たBell麻
痺 は全例
に回 復 傾 向 を 認 めて い るが,本 症 例 は初 診 時 と比 較 して 変 化 が な い.(表3参
照) IV.
7.
原 因不 明 群 症
例
察
A.
小 児 顔面 神 経 麻 痺 の原因 に つ い て
1.
生 下時 よ り麻痺 の認 め られ る もの. 生 下 時 よ り 麻 痺 の 認 め られ る 原 因 と して は 先 天 性 異
男 児,3歳.
常,分 娩外 傷 が 主 な もの で あ るが,ま れ に先 天 性 真 珠 腫 表-3
4-31
考
徐 々に 進 行 し た原 因不 明 の顔 面 神経 麻痺 症 例
82-376
やmeningiomaな
ル ス とBell麻
ど の 腫 瘍 に よ る 例 も あ る33)
先 天 性 異 常 の 多 くは 片側 下 口唇 に 限 局 した 障 害 で あ り,泣
い た 時,笑
口 唇 下 制 筋,口
っ た 時 に 初 め て 気 づ か れ る.す 角 下 制 筋,頤
と は 異 な る が),ま
筋(厳
なわ ち
密 に は顔 面神 経 麻 痺
た は これ ら の 表 情 筋 を 支 配 す る 顔 面
神 経 下 顎 縁 枝 の 障 害 で あ る37)40)42)45).小 林26)27)は こ の よ う な 症 例 に 対 し 先 天 性 片 側 性 下 口 唇 麻痺congenital lateral
1979
黄川 田=小 児,顔 面 麻 痺
lower
lip palsy(以
下CULLP)と
uni-
呼 称 し,筋
る2)3)10)11)31)41)44)47)50)51).Adour2)3)はBell麻
叉 神 経 な ど の 感 覚 神 経に 潜 伏 し て い た 単 純疱 疹 ウ ィル ス の 再 活 性 化 に よ っ て 麻 痺 が 発 症 す る と述 べ て い る.ま Bell麻
痺 症 例 にHunt症
痺 群 の 原因 で あ る 帯 状疱 疹 ウ
ィル ス に よ る と思 わ れ る一 群 が 含 ま れ て い る ことが指 摘
麻 痺 の 発 生 機 序 に つ い てischemic vaso-spasmに
は他 の 奇型 を 合併 す る こ とが 多 く43),と く syndromeと
して報 告
Fallopian管
内 で のneurapraxiaを
れ て い る が,ウ
は 組 織 所 見 を 根 拠 と し て,ウ 原 因 で あ る と し て い る.
す る奇 型 と して は これ らが もっ とも多 い と考 え られ る. 先天 性 異 常 の う ち両 側 顔 面神 経 麻 痺 と外 転 神 経 そ の他 の脳神 経 麻痺 を 合併 した 症 例 はMobius症 oculo-facial paralysis syndromeと はCULLPと
候群または
小 児 に お い てBell麻
ひ き お こす と考 え ら
ィル ス に よ る神 経 炎 が そ の
痺 は成 人 同様 非 常 に ポ ピュラー
な 疾 患 で あ る5)30)34)35)36)49)自
験 例 に お いて も生 下時 よ
り の 麻 痺 に 次 い で 多 く 認 め ら れ た.年
感 染 を 示 唆 す る もの と して 感 冒様 症 状が 麻痺 に先行 す る例 を時 に 経 験 す るが,小 児 に お い て は37例 中11例(約
え られ て い る.以 上 の 顔 面 筋形 成 不 全,神 経 核形 成 不 全
30%)に
の ほ か に,青 柳7)ら は 先 天 性異 常 の原 因 と して 中耳 奇 型
わ め て 高 頻 度 で あ る と思わ れ る.
に よ る側 頭 骨 内顔 面 神 経 異 常 の可 能 性 を 指 摘 してい る. 分 娩 外 傷 に よ る麻 痺 は 鉗 子 の使 用 また は産 道 狭窄 に よ
発 熱 そ の他 感 冒様 症 状 を 認 め,成 人 に比 して き
予 後 は成人 同 様 良 好 で あ り,自 験 例 に おい て は 経過 を 追 えた 症 例 の76%は
完 全 に 回 復 し,い ず れ も3カ 月 以 内
る仙骨 の 顔 面 に対 す る圧迫 の た め,神 経 の浮 腫 ・血 腫 を
に筋 電図 上干 渉 波型 を 認 め てい る.
生 ず る こ とに よ る と考え られ てい る.ま た 巨 大 児,特 に
3.
初 産 の 場 合 子宮 内圧亢 進 に よ り顔 面が 頚 部 で 圧 迫 され て
齢 別 に み る と3歳
以 下 に 集中 し て い る の が 特 徴 的 で あ る.
称 され て お り,こ れ
異 な り 顔 面 神 経 核 の 形 成 不 全 に よる と考
で は
ィル ス 説 に お い てEsslen12),Adour4)ら
行 な わ れ て い るわ けで はな いが 頭 頚 部 領 域 に 限 って み る 同側 の耳 介 お よび 外 耳道 奇 型 が み られ,合 併
theory
始 ま る 循 環 障 害 が 神 経 の 浮 腫 を き た し,
され て い る8)9).自 験 例 で は 全 例 に 全 身 的 検 索 が十 分 に
と約63%に
た
さ れ て い る41)50)51).
あ ろ う と 推 論 し て い る.
に 心 奇 型 との 合併 はcardiofacial
痺 患者 の
血 清 学 的 検 索 お よ び ウ ィル ス の好 神 経 的 な 性 質 よ り,三
電 図 に よ る 検 索 に よ っ て 主 な 原 因 は 口 唇 下制 筋 の 不 全 で
CULLPに
痺 と の関 連 に つ い て 活 発 に検 討 され てい
Hunt症候
群
本 疾 患 は 帯 状疱 疹 ウ イル ス の 感染 に よ る と され て お
麻 痺 を生 ず る こ と もあ る とさ れ て い る29)こ の 時 期 に は
り,こ の こ と は最 近 の血 清学 的 検 査 に よ っ て も裏 付 け さ
乳 様 突 起 が十 分 発 達 して お らず,顔 面 神 経 は 茎 乳 突 孔 よ
れ て い る51).麻 痺 の 発 生機 序 と して 初感 染(水 痘)後 あ
り直 接 側方 にむ か って 出た 後 顎二 腹 筋 後 腹 に お お われ て
る程 度 免 疫 され た 個 体 に 潜 在 して い た ウ ィル スが,何
い るだ けで あ り48),圧 迫 に よ り容 易 に傷 害 を 受 け やす い
か の原因 に よ る免 疫 能 の低下 ま た は 外 傷 な ど に よ って再
状 態 にあ る.回
活性 化 す る も の と考 え られ て い る21)23) 一 般 に 成 人 の 疾 患 と され て お り ,小 児 に は ま れ で あ
復 は良 好 で あ り,Alberti5)に
よ る と8
例 中7例 が1カ 月 以 内 に自 然 回 復 を してい る.自 験 例 に
ら
は典 型 的 な 症 例 は な く,分 娩 時 外 傷 の疑 い の あ る2例 は
る5)35)49).自験 例 で は全 例6歳 以 上 で あ り,5歳
と もに 不 完 全 回 復 に終 わ って い る.
は1例 も認 め られ な か った.最 近 の 血 清 学 的 検 索 に よ り
2.
Bell麻 痺 と ウ ィル ス との 関係 が 強 調 され る よ うにな っ
Bell麻
痺
他 に 何 ら 症 状 を 認 め ず,突 た す 特 発 性 す な わ ちBell麻 あ り,多
然 片側 性 顔 面 神 経 麻痺 を き 痺 の原 因 は 現 在 な お不 明 で
く の 仮 説 が 述 べ られ て い る.ischemic
ウ ィル ス 説 が 主 な も の で あ り,そ 害1)39)54),月
theory,
脈血PO2と
の 関
本疾 患 の予 後 はBell麻
痺 と 比 較 す る と一 般 に 不良 と
され て い るが,統 計 的 に観 察 した 報 告 は少 な い.柳原53) に よ る と小 児 を含 め た全 体 の完 治 率 は48%とBell麻
係15)な ど が あ げ られ る. 近 年 免 疫 学 お よ び 血 清 学 的 検 査 法 の 発 達 に よ り,ウ
に お い て3歳 以下 に症 例
が集 中 して い た こ と と比 較 す る と きわ め て 対 照 的 であ る (図5参 照).
の他 グル コー ス代 謝障
経 ・妊 娠 と の 関 係18),動
た こ とは前 述 した が,Bell麻痺
以下 に
ィ
(完 治 率63%)に
痺
比 較 す る と不 良 で あ る.自 験 例 の 小児
4-32
日耳鼻
黄 川 田=小 児,顔 面麻 痺
2-377
け る予 後 は即 発 性 麻痺 に 比べ て 良 好 で あ る.ま 性,即
発 性 に か か わ らず,不
い17)自
た遅発
完 全 麻痺 症 例 の 予後 は よ
験 例 に お い て は麻痺が 単 独 で み られ る症 例 の 予
後 は良 好 で あ るが,他 の 症 状 を伴 う例 は遅 発 性 麻 痺 に や や 回復 傾 向 を 認 め て はい る もの の,概
して不 良 で あ る.
手 術 に 伴 う顔 面 神 経 障 害 の 頻度 はmicrosurgeryの
発
達 お よび 手技 の向 上 によ り減少 しつ つ あ る もの と思 わ れ る.ま れ で は あ るが,中 耳手 術 時 顔面 神 経 に 損 傷 を加 え な か っ た場 合 で も,遅 発性 に麻痺 を きた す症 例 を経 験 す る ことが あ る.手 術 に よ る顔 面 神経 傷害 は 即発 性 麻痺 を もた らす の が 通 例 で あ る.考 え られ る仮 説 の一 つ にtraumaに
よ る ウ ィル ス の活 性 化 が あ げ られ る.す な わ ち 中
耳 手 術 に よ り顔 面神 経 が 直 接 傷 害 され な くと も,麻 痺 を ひ きお こす 可能 性 の あ る こ とが指 摘 され て い る17)21)23). 5.
耳炎 性 顔 面 神 経 麻痺 小児 に お け る耳 炎 性 顔面 神 経 麻痺 の多 くは急 性中 耳 炎
に伴 っ て発 症 す る もの で あ り,慢 性 中 耳炎 お よ び真 珠 腫 に よ る もの は 少 ない.ま
た特 に 小 児 に お い て は滲 出性 中
耳 炎 に 伴 っ た麻 痺 も報 告 され て い る17). 急 性 中 耳炎 に よ る麻 痺 は 抗 生 剤 の 発達 に よ り発 生 率 に おい て 激減 した も のの,近 年横 ばい 状 態 で あ り,皆 無 と はな らな い52).こ の 理 由 と して急 性 中 耳 炎 に おい て は発 症 と同時 に麻 痺 を生 ず る こ とが 多 く,抗 生 剤 に て は 中耳 炎 そ の もの の予 防 は 困 難 で あ る こ とが あ げ られ る.起 炎 菌 と して 特 徴 的 な もの はな い20)麻 痺 の 発生 起 序 と して Fallopian管 図5
Bell麻 痺,Hunt症
候 群 の年 齢分 布
の亀 裂 また は 中 耳腔,乳
突蜂 巣 と吻 合 して
い る血 管 を通 して の炎 症 の 波 及 に よる浮 腫 な らび に循 環
症例 数 は少 な い が,経 過 を追 え た7例 中5例 に 完全 回復
不 全 が そ の原 因 と考え られ て い る6)16).自 験 例 に お い て
を認 め,予 後 は 比較 的良 好 で あ る と思 わ れ た.
はほ とん ど急 性中耳 炎 に よ る もの で あ り,う ち 発 症 後間
4.
もな く受 診 した 症 例 は,手 術 治 療 に よ る炎 症 の消 退 と と
外 傷 性 顔 面 神経 麻 痺 小児 に お け る外 傷 性 顔 面 神 経 麻痺 の 原因 と して頭 部 外
傷,手 術,分 娩 時 外 傷 が 主 な もの で あ るが,分 娩 時 外 傷 に よ る もの は生 下 時 よ り認 め られ る麻 痺 群 に分 類 し,こ こで は除 外 す る.
腫 瘍 に よ る顔 面神 経 麻痺 まれ で はあ るが放 置 され た 場 合,と
くに悪 性 腫 瘍 で は
全 身 的 影 響 を お よぼす ことが 多 く,早 期 の診 断 治 療 が 必
一 般 に頭 部 外 傷 に よ る顔 面神 経 麻 痺 の発 現 頻 度 は きわ めて低 く,約1%程
もに麻 痺 は急 速 に 回復 を示 した. 6.
要 とさ れ る.腫瘍 の部 位 ・性 質 に よ り麻 痺 が 唯 一 の 症 状
度 で あ る17)46).そ の原 因 と して 現在
で あ る場 合 もあ るが,一 般 に麻 痺 の 出現 した 症 例 は広 範
では交 通 事 故 が 主 役 を 占め て い るが,小 児 と くに 乳 幼児
囲 進 展 例 で あ り予 後 不 良 の こ とが 多い24).麻 痺 は 腫 瘍 の
におい て は原 因 の ほ と ん どは 階段,す
べ り台 な どか らの
直 接 浸潤 ま た は圧 迫 に よ って生 ず る.障 害 部 位 に よ り末
転 落お よび転 倒 で あ り,交 通 事 故 に よ る もの は少 ない14).
梢性,中 枢性 に分 類 され,前 者 は核 よ り末 梢 の神 経 線 維 の
麻痺 の 予後 は神 経 へ の 傷 害 の 程度 に よ っ て異 な る こ と は もち ろ んで あ るが,外 傷 の 際生 ず る骨 折 の 多 くは 縦 骨 折で あ り,こ れ に伴 う麻 痺 は神 経 鞘 内 の浮 腫 ・血 腫 によ る遅発 性 麻痺 の傾 向 に あ る29)38).そ して 遅 発 性 麻痺 に お 4-33
障害 で あ り,後者 は核 上 性 す な わ ちcorticobulbar
tract
の障 害 に よ る. 中 枢 性 麻痺 は 頭 蓋 内 と くに 脳 内 腫 瘍 に よ っ て生 ず る. 小 児 に お い て は 小脳,脳
幹 部 な ど 天 幕 下 に 好 発 し,
82-378
glioma,
黄川 田=小 児,顔
medulloblastoma,
ependymoma,
病 態 を 有 す る疾 患 群 の存 在 を考 慮 す る必 要 が あ る.
astrocytoma
器 質 的疾 患 も疑 われ る た め,今 後 さ らに厳 重 な 経過 観
な ど が み られ る. 末 梢 性 麻 痺 は 頭 蓋 内 腫 瘍 に よ っ て も 生 ず る が,主 頭 骨 腫 瘍,耳
下 腺腫 瘍 に よ る.麻
あ る こ と が 多 く,と
1979
面麻 痺
に側
痺 を 伴 う腫 瘍 は悪 性 で
察 が 必 要 と思 われ る. B
く に 幼 児 期 に 好 発 す るembryonal
rhabdomyosarcomaは
顔 面 神 経 麻痺 の 診 断 に お い て 最 も重 要 な こと は初診 時
全 例 に 麻 痺 を 生 じ て い る13)32).
し か し 小 児 の 耳 下 腺 腫 瘍 に お い て は 成 人 と 異 な り,悪
診 断 お よび検 査 につ い て.
性
の注 意 深い 問 診 で あ る.詳 細 に 問 診す る こ とに よ り,お お よ そ の診 断 は可 能 であ る.し か し小 児 は皮膚 のtonus
腫 瘍 で あ っ て も ほ とん ど麻痺 を きたす こと はな い とい わ
が良 く保 たれ て お り麻痺 は 気づ か れ に く く,発 症 時 の情
れ て い る22).
報が 十 分 で ない こ とが 多 い.ま た自 覚 的 お よ び他 覚 的所
自験 例 で は頭 蓋 内腫 瘍 の例 は と もに 顔 面神 経 麻痺 を 初 発 症 例 と し て お り,麻
痺 は 徐 々 に 進 行 す る とい っ た 典 型
的 な 腫 瘍 に よ る 麻痺
発 現 様 式 を 呈 し て い た.側
rhabdomyosarcomaの1例 が 生 じ て か ら わ ず か3カ
が,術
痺
月 後 に 死 の 転 帰 を と っ た26).耳
以上 のこ とか ら小 児 に お い て は 側 頭 骨 腫瘍,白血
病な
ど を 除外 す る 目的 で レン トゲ ン検 査 お よび血 液 検 査 をル ー チ ンに行 な う必 要 が あ る.ま た 可 能 な らば聴 力 ・平 衡
症例で ある
機能 検 査,神 経 学 的 検 査 も行 な う.こ れ らの検 査 に て異
述 した よ う に小 児
常 を 認 めぬ 時 は慎 重 な 経 過 観 察 と麻 痺 の 治療 が 併 行 して
carcinomaの
前 麻 痺 は認 め られ て お ら ず,前
ど の重 篤な 疾 患 が 放 置 され る危 険 性 が高 い.
頭骨
は 経 過 が 急 速 で あ り,麻
下 腺 腫 瘍 はmucoepidermoid
見 に 乏 し く,こ のた め 不 適 当な 治 療 を受 け た り,腫 瘍な
の 耳 下 腺 腫瘍 に お い て は 麻 痺 の 有 無 に よ る 良 性 ・悪 性 の
行 なわ れ る.
鑑別 は 困 難 な よ う で あ る.
小児 に おい て もBell麻
白血 病 に 伴 う顔 面神 経 麻 痺 は,治 療法 の発 達 に よ る生
痺 は 多 く認 め るが,ま れ に 同
様 の 症 状 を呈 す る も のの 中 に 重 篤 な疾 患 が含 まれ て い る
存 期 間 の 延 長 と と もに増 加 す る傾 向 に あ る.白 血 病 細 胞
こ とが あ り,Bell麻
の髄 膜 お よび脳 神経 へ の広 範 な 浸潤 に よるが,出 現 す る
除外 診 断 して な され るべ き もの と考 え る.
脳 神 経 症 状 の中 で は顔 面 神 経 麻 痺 が 最 も多 い19).自 験 例
痺 との 診 断 は注 意 深 い検 査 のの ち,
われ われ は筋 電 図 にて 麻痺 の 経 過観 察 を行 な って い る
に おい て は3例 と もに 突 発性 の麻 痺 を きた して お り,う
が,乳 幼児 に おい て は協 力 を 得 る こ とが 困難 で あ る.協
ち1例 は 顔 面神 経 麻痺 を 初発 症 状 として い る.こ の例 の
力 の 得 られ る症 例 に対 して は疼 痛 のな い 表 面 筋電 図 を 利
よ うに麻 痺 が 初 発 症 状 の こ と もあ り,ま た 多 く突 発性 で
用 す る こ と もあ る.こ れ が 不 可 能 な 場 合 は と りあえ ず 針
しか も寛解 のみ られ る こ とな どか ら,Bell麻痺
電 極 を 使 用 し,疼 痛 刺 激 に よ り号 泣 せ しめ て 眼 輪筋,口
と診 断
され 放 置 され る可 能 性 が あ り注 意 を 要 す る. 7.
唇・口 角下 制 筋 の 最大 収 縮 を惹 起 させ,ほ ぼ 満 足 の ゆ く
原 因不 明 群
検 査 結 果 を 得 て い る.
顔 面 神 経麻 痒痺 を きた す 原 因 の 多 くは不明 で あ る.そ し て この ほ とん どす べ て は突 然 発 症 し,Bell麻 され る もの で あ る,Bell麻
痺 と診 断
痺 で は 遅 くと も発 症 よ り7
日以 内 に 麻痺 は完 了 し,そ れ 以 後 は 回復 に向 か う.回 復 の認 め られ ぬ症 例 はな い とい って よい. わ れ わ れ の経 験 した6例 はBell麻
治 療 法 につ い て. 小 児 に お い て も原 則 的 に は 成人 の治 療 法 と異 な る とこ
ろ はな い. 先天 性 顔 面神 経 麻 痺 の 多 く はCULLPで
あ り機 能 的
な問 題 は は とん どな い が,美 容 的 な意 味 か ら対 側 の選 択
痺 と異 な り,麻 痺
は徐 々に 進 行 し,ま た 回復 傾 向 を ほ とん ど認 め て い な い.初 診 時 に は 全 例不 完 全 麻 痺 を 呈 して い た.6例 発 症 時 よ り1年 以上 経 過 を観 察し て お り,う
C
とも
ち3例 は3
年 以上 経 過 して い るが,麻 痺 は筋 電 図 にお い て は ほ とん
的 顔 面神 経 ブ ロ ッ クを 行 なろ こ と もあ る.ま たMobius 症 候 群 は両 側 の麻 痺 で あ る こ とか ら,構 音 上 と くに口 唇 破裂 音が 問 題 とな る こ とが あ り,わ れ わ れ は この よ うな 症 例 に 言語 治療 を行 な い 効 果 を あげ て い る28). 小 児 に お け る耳 炎 性 の麻 痺 は ほ とん ど急 性 中 耳 炎 に よ
ど変化 が な い.自 験 例 で は3カ 月 経 過 後 も完 全 回復 に至
る もの で あ り,自 験 例 に おい て も手 術 に よ る耳 炎 の 消退
らぬBell麻
と と もに す み やか に完 全 回復 を認 め る ことか ら,麻 痺 発
痺 症 例 の 多 くは,神 経 再 生 の 結 果生 ず る協
同 運動 を伴 うが,こ れ らの症 例 で は認 め られ ず,回 復 傾
症 初 期 の 治 療 が 最 も大切 で あ る と考 え る.中 耳 炎 に対 し
向 を示 してい な い こ とが わか る.成 人 には この よ うな症
て は細 菌 検 査 に 基づ く有効 な抗 生 剤 の十 分 な投 与 が 必 要
例 は ない.麻 痺 発 生 機序 に お い て,Bell麻 痺 とは 異 な る
で あ り,麻 痺 が 生 じた 場 合 は鼓 膜 切開20)な らび に手 術 に 4-34
日耳鼻
黄川田=小
よる病 変 の除 去 が 早 期 に行 なわ れ な けれ ば な らな い.ま た抗 生剤 な どの 十 分 な治 療 に もか か わ らず,炎 症 が 遷 延 し麻痺 が 生 じた 場 合 は,結 核,腫 瘍 な ど一 般 炎 症 以 外 の
児,顔面
82-379
麻痺
6)
耳炎 性 麻 痺 にお い て は 急 性 お よび慢 性 中 耳炎 症 例
との間 に 発症 年 齢 に大 きな 相 異 が み られ る. 7) 腫 瘍 に おい て は早 期 診 断 の 困 難 な例 が 多 く,All
原因 を考 慮 し,手 術 を含 め た 積極 的 な 処 置 が 必 要 で あ
that palsies is not
る.
慎 重 な経 過 観 察 を 強 調 した.
先 天性 お よび 症 候 性麻 痺 を 除い て,顔 面 神 経 麻痺 の 治 療 はほ ぼ同 じ観 点 に た つ と考 え て よ い.Bell麻 Hunt症
候群 な どの 発 症 初期,す
痺,
8)
成 人 に は 認 め られ ず,Bell麻
不 明 の進 行 性 麻痺7例
痺 とは 異 な る原 因
の新 しい一 群 を報告 した.
なわ ち 神 経 変 性 が 急 激
に進 行す る時 期 に お い て は と りあ えず 保 存 的 治 療 を 行 な って い る.こ の 時 期 に お け る第 一 の治 療 目的 は 神 経 変性
参 考 文 献 1) Adour K K, et al.: Prevalence
に歯 止 め をか け る こ とで あ り,神 経 変 性 が 完 了 す る とさ れて い る 発症 か ら約2週 間 の 間 に ス テロ イ ド剤 を 中 心 と した 積極 的 な 薬 物 療 法 を行 な う こ とは合 理 的 で あ る と考
diabetes mellitus and idiopathic
の併用 は効 果 的 で あ ろ う. 手術 に よ る治 療 法す な わ ち 顔面 神 経 管開 放 術 は,腫 瘍
1975. 3) Adour
K
K:
Cranial
polyneuritis
and pathogenesis of Bell's
って よい と考 え て い る.ま た 開放 術 は外 傷,中 耳 炎 に よ
Surgery
の 除
palsy.
Fisch,
Facial Nerve Kugler
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The pathophysiology
も自然 な表 情 運 動 を 可 能 な ら しめ る方 法 と考 え て い る.
of N. Amer. 7 (2): 309-330, 1974. 7)
V
ま
と
か ら1978年3月
め
137例 つ い て,原 2)
3)
以下 の 小 児
因 別 に 示し た.
生 下 時 よ り認 め られ る麻 痺 の大 部 分 は先 天 性 異 常
とくにCULLPで
あ り,分 娩外 傷 に よ る も の は少 な い.
少 児 に お い て もBell麻
痺 は 多 く,と くに3歳 以
下 に集 中 してい た.ま た成 人 に比 べ て 感 冒 様 症 状 の前 駆
Hunt症
候 群 は まれ で5歳 以 下 には 認 め られ ず,
Bell麻 痺 とは きわ め て対 照 的 で あ る. 5)
頭部 外 傷 によ る もの は 随 伴症 状 の 有 無 に よ っ て
(臨床 的骨 折 の 有 無 に よ り),回 られ る. 4-35
優
他:乳
Clinics
幼 児 先 天 性 顔 面 神 経 麻 痺 の4症
例
8) Cayler G G: heart
Cardiofacial syndrome. Congenital
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unrecognized association. 44: 69-75, 1969. 9) Chanther
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371-
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る麻痺 に対 して よい 適 応 とな り,骨 片 に よ る圧迫
in
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いて は異 論 もあ るが,本 剤 の使用 に よ る症 状 の 悪 化 は経 た ステ ロイ ド剤 とγ-グロ ブ リン と
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験 され てい な い.ま
Bell's.に 留意 し,専 門 的 な検 索 と
復 率に顕著な差が認め
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27) Kobayashi
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1979
児,顔 面麻 痺
児 科16:
40) Nelson K B, et al.:
耳鼻 臨 床67:955-960,
Congenital
the depressor anguli oris muscle: from congenital facial palsy.
hypoplasia
of
Differentiation
J. Pediatrics,
81:
16-20, 1972. 41) Ohsaki M, et al.: ated with
Bell's palsy in infants associ-
varicella-zoster
virus
Pediatrics 84: 103-104, 1974. 42) Papadatos C, et al.: Congenital
infection.
J.
hypoplasia of
depressor anguli oris muscle. A genetically deter4-36
日耳 鼻
黄川 田=小 児,顔 面 麻 痺
mined condiction. Arch. Div. Childh.,
49: 927-
50) Tomita H:
931, 1974. 43) Pape An
K E, et al.:
Asymmetric
of other et al.:
antibodies
The in
anomalies.
51)
J.
M, et al.:
and congenital
of herpes
with
Asymmetric Arch.
52)
他:特
発 性 顔 面 神 経 麻 痺 に お け る ウイ ル
crying
facies
Dis. Childh.,
戸塚元吉
他:中
耳 炎 に よ る顔 面 神 経麻 痺 の 臨床
柳原尚明
他:Ramsay
54)
安田宏一
候 群 の 臨 床 像.特
他:ベ
ル 麻痺 と 糖 尿 病
耳 鼻21:7-11,
1975. 稿 を 終 る に 当 り,御
斎 藤 英雄
Hunt症
に そ の 予後 に つ い て 耳 鼻 臨 床69:756-760,1976.
Facial palsy following head injury.
Journal of Laryngology 657, 1964. 47)
日 耳 鼻80(8):
耳 喉43:801-808,1971. 53)
48: 627-629, 1972. 46) Potter J M:
寛
他:特
and Otology,
78: 654-
発 性 顔 面 神 経 麻 痺 に お け る ウイ ル
授 に 深 謝 す る.ま
指 導,御
た,終
日耳 鼻80(8):8-16,
1977.
48) Sammarco G J, et al.:
Anatomy
Plastic and
鞭撻 を 賜 っ た 小 林
武 夫 講 師 に 深 甚 を 謝 意 を 表 す る. 臨 床 耳 科学 会 に て報告
(原稿 受 付 昭 和53.11.6日) 別 刷 請求 先
〒113
東 京 都文 京 区本 郷7-3-1
東 京 大 学 医学 部 耳鼻 咽喉 科 学 教 室
Reconstructive 玉 置 弘 光:小
37: 566-674, 1966.
児 の 顔 面 神 経 麻痺 に つ い て
66:399-408,1973.
4-37
Surgery.
耳 鼻 臨床
し
た.
of the facial
nerve in fetuses and stillborn infants.
校 閲 を 賜 った佐 藤靖 雄 教
始 御 指 導,御
本 論 文 の 要旨 は 昭 和52年11月 ス感 染 の実 態 に 関 す る研 究
49)
in idiopathic
95: 364-368, 1972.
ス感 染 の 早期 診 断 に 関 す る研 究
peripheral
Otol. 84: 65-70, 1970.
anomalies.
冨田
virus
17-20,1977.
incidence
patients
facial palsy. J. Laryngol. 45) Perlman
crying facies:
congenital
81: 21-30, 1972.
44) Peitersen E, zoster
Varicella-zoster
facial palsy. Arch. Otolaryng.
index
Pediatrics,
82-381
黄川田
徹
82-371
FACIAL
PARALYSIS
IN CHILDREN
TORU KIKAWADA, Department
of Otorhinolaryngology
Faculty of Medicine
(Director: Clinical observations during
8 years
April
1970 and March
lower lip palsy (CULLP),
with facial palsy under 1978.
They
the auricle
and the
in childhood, old,
there out
with
were
palsy.
media
in children
time
of patients
difficult Most
with
This with
type
children
symptomatic
from
Bell's
of Bell's were
allowance
noticed should
a half
was
never
seen
under
five
are mostly
from
acute
otitis
media.
should
origin
of palsy
was
to obtain
palsies
palsy,
palsy
that
unknown
whose not found
complete
due to serious
especially
at the
be made
after
in less than a month. be suspected
beginning.
of tumor
Any
3 years
Facial
palsy
It was noted progressive
that with-
literature. of the
state
such as tumors Therefore,
examinations.
of the
were
follow-up
onset
dffficult
we believe In most
cases of delayed
and cautious
of
found
seen under years.
slowly
in previous
diseases
is commonly
were
was
information
careful
palsy
cases
palsy
syndrome, 5 otitic
, ipsilateral anomalies
Bell's
of the
of age
palsy , 35
lower lip palsy (CULLP)
of CULLP
recognized.
which
15 years
37 of Bell's
were
emphasized
otitis
signs of recovery certain
be
syndrome
be differentiated final diagnosis
should
unilateral
In about 62%
meatus
Hunt's
of recovery.
It is rather of the
it
auditory
with
a group
any sign
exceptionally few.
external
and
in contrast
associated
were
were;
20 traumatic palsy , 9 Hunt's
palsy, 9 tumors and 24 others. Most of the facial palsies since birth were congenital while birth traumas
, University of Tokyo, Tokyo
Y. Sato, M,D.)
were made on 137 patients
between
congenital unilateral
M .D.
that
Bell's
recovery
to the
palsies, beyond
a
is necessary.
A82-0371-90509
小児 顔 面 神経麻 痺 につ い て 東京大学医学部耳鼻咽喉科学教室(主 任:佐 藤靖雄教授) 黄 川 田 徹 I.
は
じめ
確 な診 断 が 要 求 され る点 で あ ろ う.
に
私 たち 耳鼻 咽 喉 科 医 に と っ て顔 面 神 経 麻痺 患 者 を診 療
われ わ れ は 当科 で受 診 した137名
の小 児 顔 面 神経 麻 痺
す る機 会 は少 な くな い が,こ れ を小 児 に限 定 す る とまれ
患 者 につ い て検 討 し,若 干 の知 見 を得 た ので こ こに報 告
であ る よう に思 わ れ る.小 児 顔 面 神 経 麻 痺 の臨 床 に おい
す る.
て重要 な こ とは,成 人 に比 べ て原 因が 多 彩で あ る点 に加 え,発症時 お よ びそ の経 過 の把握,さ
らに検 査 に お い て
も十分 な 情報 が 得 られ ぬ こ とが 多 く.耳 鼻 咽 喉 科 お よび 小見科専 門 医 の協力 に よ る十分 な検 査 と これ に基 づ く的
4-27
II.
対 象 な ら び に方 法
東 京大 学 耳鼻 咽 喉 科 に おい て1970年4月
か ら1978年3
月 まで の8年 間 に 顔 面神 経 外 来 を受 診 した 顔面 神経 麻 痺
82-372
患者731例
黄川田=小 の うち,15歳 以 下 の 小 児137例
1979
児,顔 面 麻 痺
を対 象 と して
表-1
原因 別 に 分類 し,好 発 年 齢,麻 痺 の経 過 お よび 予 後 に つ
東 京 大学 耳 鼻 咽 喉 科 顔 面神 経 外 来 を受 診 した733例
の診 断.(1970.4-1978.3)
い て 検 討 し た. 症例 の ほ と ん どに 筋 電 図 に よ る経 過 観 察 を 行 な って お り,本 研 究 に お い て の 予 後判 定 は筋 電 図 上 干 渉波 型 を示 し,か つ 協同 運 動 な どの 後 遺 症 を 認 め ぬ もの を 完 全 回 復,そ の他 の もの は不 完 全回 復 と して 分類 した.表 情 運 動 にて 軽 度 に 麻痺 が残 存 して い る症 例 で も筋 電 図 上 干 渉 波型 を示 す こ とが あり,視 診 に よる麻 痺 判 定 とは 必 ず し も一致 しない.
III. A.
成
績
年 齢別 頻 度 小児 顔 面 神 経 麻痺 症 例137例 を 年 齢 別 に み る と,2歳
児が21例 と最 も多 く,3歳 い で い る(図1参 B.
児 と0歳 児 が17例 で これ に 次
照).
原 因 別 分類 16歳 以 上 の成 人 症 例 を対 照 と して,小 児 顔 面 神経 麻 痺
137例 の原 因別 頻 度 を 表1に示し
た.
生 下 時 よ り麻 痺 の認 め られ た群 が46例 で 最 も多 く,特 に先 天 性 異 常 で あ る先 天 性 片 側 性 下 口唇 麻痺 症 例 が35例 と多数 を 占め て い る.ま た 小 児 に おい て もBell麻
痺 は
37例 と多 く認 め られ,先 天 性 片 側性 下口 唇 麻 痺 とほ ぼ 同 数 で あ り,こ の2疾 患 が 全 体 の 約53%を
占 め てい る.原
因な らび に 麻痺 の 発現,経 過 が 多 彩 で あ るが,以 下各 原 因別 疾 患 に つ い て典 型 的 な 症 例 を 付 し,特 徴 を 述 べ る. 1.
生 下 時 よ り麻 痺 の 認 め られ た も の. 症
例
主
訴:右 下 口唇 麻痺,右 耳 介 奇 型.
女 児,2カ
既 往 歴:特記
月.
事 項 な し.
家 族 歴:特記
事 項 な し.
現 病 歴 お よび 経 過:妊 娠 中 は特 に 問題 な し,子宮 筋腫 のた め 帝 王 切 開 に て 分 娩.生 後 よ り右 耳 介 奇型,泣 いた 時,笑
った 時 に 下 口 唇 の 非対 称 が あ り,某 大学 病 院小児
科 に て 脳 波,心 電 図,そ の他 全 身 検 査 を 行 な ったが 異常 な し との こ とで あ っ た.昭 和52年10月 当科 顔面 神経 外来 を受 診.右 耳 介 奇 型(小耳
症)と 外 耳 道 閉 鎖を 認め た.
筋 電 図 で は号 泣 時 右 口唇 下 制 筋 は干 渉 波 型 を示 した が. 右 口角 下 制筋 に は活 動 電 位 は認 め られ なか った.経 過観
図1
小児顔面神経麻痺 症例の年齢分布
察 に おい て 麻痺 の 状 態 に は 変 化 が な い.
4-28
日耳鼻
82-373
黄 川 田=小 児,顔 面 麻痺
137例 の うち 最 も多 くみ られ た もの は 生 下 時 よ り麻痺 を きた してい た 症 例 で あ る.ほ とん どが 先 天 性 異 常 に よ る もの で あ るが,こ
の うち35例 は 片 側下口 唇 に限 局 した
部分 麻痺 で あ り,先 天 性 片 側 性 下 口唇 麻痺 と 診 断 され た.ま たMobius症
候 群3例,Bonnevie-Ullrich症
候
群が1例 に 認 め られ た.分 娩 時 外 傷 と思 わ れ る症 例 は2 例 と きわ め て 少 ない. 先 天性 片 側 性 下 口 唇 麻痺 の患 側 は右15例,左20例
とや
や 左 側 に 多い.筋 電 図 に よ る検 査 で は完 全 麻痺 お よび不 完 全 麻痺 を呈 す る も の とが あ るが,共 に経 過 にお い て 麻 痺 の状 態 は不 変 で あ り,回 復 ま た は 増悪 し た症 例 は認 め られ て い ない.ま
た22例 に おい て 同 側 の 耳介 ・外 耳 道 奇
型 の合 併 が み られ た. 2.
図3
Bell麻 痺 症
例
女 児,4歳.
主
訴:突 発 性 顔面 神経 麻 痺.
動 電 位1∼2カ(+),
に認 め て お り,全 例3カ 月 以 内に 筋 電 図上 干 渉 波 型 を示 した.3カ
家 族 歴:特 記 事 項 な し. 現病 歴 お よび 経 過:昭 和53年2月
初 旬 よ り感 冒様症 状
後 左 顔 面 神 経 麻痺 が 出 現 した.近 医 にて ス テ
ロ イ ド剤,ATPの
痺 症 例 の回復経 過
干渉 波 型(+++))
既往 歴:特 記 事 項 な し.
あ り,5日
小児Bell麻
(活動 電 位 な し(-),活
投 与 を 受 け る.3月13日
当科 顔 面 神
月 以 内に 干 渉波 型 を 示 さ ぬ 例 は後 日干 渉 波型
を 示 して も協 同 運 動 な どの後 遺 症 を 伴 い,不 完 全 治 癒 に 終 わ る よう で あ る(図3参 3.
Hunt症
照).
候群
症
例
異 常 な し.筋 電 図検 査 で は不 完 全 麻痺 を 呈 し て お り,左
主
訴:耳 介 水疱 形 成,顔面 神 経 麻痺.
眼 輪 筋 お よ び左 口輪 筋 にわ ず か に 活 動 電 位 を認 め た,麻
既 往 歴:特 記事 項 な し.
痺 は徐 々 に 改 善 し,発 症 よ り3カ 月 後 に は 完 全 回復 を
家 族 歴:特 認事 項 な し.
経外 来 受診.耳 鏡 所 見,レ
ン トゲ ン検 査,血 液 検 査 で は
男 児,10歳.
現 病 歴 お よび経 過:昭 和48年2月
示 した. Bell麻 痺 症 例 は37例 と前 者 に次 い で 多 く 認 め られ た. 年 齢別 で は3歳 以 下 に集 中 し て お り,18例 め てい るの が 特 徴 的 で あ る(図2参
照).性
と約 半数 を 占 差 は認 め ら
れ な い.経 過 を 追 え た25例 の う ち完 全回 復 は19例(76%)
介水疱 形 成 が 出 現.約5日
初 旬 右 耳痛 お よ び耳
後右 顔 面 神 経 麻痺 を き た し,
某病 院 にて ス テロ イ ド剤,ATPの
投 与 を 受 け る.耳 鳴,
眩暈,難 聴 な どの 自覚 はな い.ま た聴 力 検 査,レ ン トゲ ン 検査 に おい て も異 常 な し と のこ とで あ っ た.2月12日 当科 顔 面 神 経外 来 を 受 診.筋 電 図 検 査 で は右 前 頭 筋,眼 輪筋, 口輪 筋 に最 大 収 縮 時1∼2個
のamplitudeの
小 さな 活
動 電 位 を認 め,不 完全 麻 痺 の状 態 で あ っ た.麻 痺 は 徐 々 に改 善 し,発 症 よ り約2週 間後 には 完全 回復 を示 した. Hunt症
候 群 は9例 と小 児 にお い て は少 ない.ま た全
例6歳 以上 で あ り,5歳
以下 は1例 も 認 め られ な か っ
た.性 差 は ない.経 過 を追 え た7例 の うち5例(71%) は完 全 回復 を示 した(図4参 4. 症
例
男 児,8歳.
主
訴:顔面
神 経 麻痺,難
既 往 歴:特 記 事 項 な し. 図2 4-29
小 児 のBell麻
痺
照).
外 傷性 顔面 神 経 麻痺
家 族 歴:特 記 事 項 な し.
聴.
82-374
黄川 田=小 児,顔 面 麻痺
1979
た4例 は全 例 完 全回 復 を 示 した.こ れ に対 して 骨折 例 の 予 後 は 不 良 で あ り,即 発性 麻 痺1例,遅
発 性 麻痺3例 に
完 全 回 復 を 認 め た にす ぎ ない. 5.
耳炎 性 顔 面神 経 麻 痺 症 主
列 男 児,3歳, 訴:耳 後 部 腫 脹,顔 面 神 経 麻痺.
既 往歴:特
記事 項 な し.
家 族歴:特 記 事 項 な し. 現 病 歴 お よび 経 過:昭 和51年9月24日 後部 腫張,39℃
よ り左 耳 痛,耳
の 発 熱 が あ った.耳鼻 咽 喉 科 を 受 診 し,
急 性 中耳 炎 との 診 断 に て治 療 を受 け て い た.ま た 小児 科 図4
小 児Hunt症
にて 耳 後 部 腫 脹 は リンパ 節 炎 と診断 され てい る.9月30
候 群症 例 の 回復 経 過
(活動 電 位 な し(-),活 干 渉 電 位(+++))
日よ り耳 漏 出現.翌
動 電 位1∼2カ(+),
日左 顔 面神 経 麻 痺 が 生 じ,10月4日
当科 顔 面 神 経 外来 を受 診 した.筋 電 図 検 査 で は 患側 表情 筋 に 活 動 電 位 は 認 め られ なか っ た.ま た耳 鏡 所 見 お よび
現 病 歴 お よび 検 査 所見:昭 和51年9月19日
自転 車 に乗
レン トゲ ン所見よ り,急 性 中耳 炎 に続 発 した 顔 面神 経麻
っ てい た とこ ろ 小型 トラ ッ クと 衝 突 し,右 側 頭 部 を 打
痺 と診断 し,翌 日全 身 麻 酔 下 に左 乳 突 洞お よび 顔面 神経
つ.直 後 よ り意 識 障 害 が 出現 し,約3時間
管 開 放術 を行 な っ た.
耳 出血 が3日間 入 院 し,3日
続 い た.ま た
手 術所 見:乳 突 洞 内 は 膿 汁 な く,肉
認 め られ た とい う.某 病 院脳 外 科 に救 急
後 に 顔 面 神経 麻 痺 を 指 摘 され た.約1カ
月
入 院 し たが 経 過良 好 で あ り,手 術 不 要 との こ とで 退 院 し,顔面 神経 麻 痺 の 治 療 の た め昭 和51年11月1日
た.こ
術 後経 過:術 後 麻痺 は 急 速 に 改 善し,1週
下が み られ た.筋 電 図 検
査 で は右 前 頭 筋 お よび 眼輪 筋 に は最 大 収縮 時活 動 電 位 の
間後 の 筋電
図検 査で ほぼ 完 全回 復 を 認 め た. 中 耳炎 に よ る麻痺 は5例 で あ る.急 性 中耳 炎 に引 き続
に て側 頭 骨骨 折 と耳 小 骨 の偏 位 が 疑 わ れ た.ま た聴 力 検 査 で は高 音 域 に30∼40dBの低
芽 が 充 満 して い
面 神 経 垂 直部 を 開 放 し
た.
当科 顔
面 神経 外 来 を 受 診 した.耳 鏡 所 見 お よび側 頭 骨 断 層 撮 影
れ を 徹 底 的 に 除 去 し,顔
き発 症 し た もの4例,真
珠 腫 に よ る もの1例 で あ る.前
者 は4歳 以 下 の 低 年 齢 層 に 集 中 してい た の に比べ,後 者
低 い 活 動 電位 が わ
は14歳 と発 症 年 齢 に大 きな 隔 た りが み られ る.急 性 中耳
ず か に認 め られ た.な お 涙分 泌,味 覚 検査 とも に左 右 差
炎 に よ る症 例 の うち,発 症 直後 受 診 し 救急 にて 手術 を行
は ほ とん ど認 め られ なか った.
な っ た2症 例 は,術 後 急 速 に 麻痺 が 回復 し たが,不 適 当
発 射 な く,右口 輪 筋 にamplitudeの
手術 所 見:11月12全
身 麻 酔 下 に 顔面 神 経 減 圧 術,鼓
な 治 療 に よ り症 状 が 遷 延 した症 例 の 予 後 は不 良 であ る.
室 成形 術 を行 な った.術 中顔 面 神経 水平 部 お よび 垂 直 部
1例 は麻 痺 発 症 後4年 経過 してか ら受 診 し,副 神 経 との
に は骨 折 に よ るは っ き りした 障 害 は 認 め られ な か った.
神 経 吻 合 術 を 行 な ったが,表 情 運 動 は不 完全 で あ る.ま
術 後 経 過:徐
々に 回復 傾 向 を 示 し,約3カ
月 後 筋電 図
上 干渉 波 型 を 認 め たが,協 同 運 動 も出現 し,不 完全 回復 に終 わ って い る. 外 傷 性 顔 面神 経 麻痺 は頭 部 外傷17例,手
術 に よ る もの
た真 珠 腫 例 は 手術 治 療 に よ り完 全回 復 を示 した. 6.
腫 瘍 に よる 顔 面 神経 麻 痺 症
例
主
訴:左 顔 面 神 経麻 痺.
男 児,14歳.
3例 の計20例 で あ る.症 状 お よび レ ントゲ ン検 査 に よ り
既 往 歴:特 記 事 項 な し.
骨 折 と診 断 され た頭 部 外 傷 例 は12例 で あ り,こ の うち 即
家 族 歴:特 記事 項 な し,
発 性 麻痺 を呈 した も の は5例,遅
発性 麻 痺 を 呈 した もの
は7例 で あ る.麻 痺 に伴 う症 状 と して は耳 出血 が 最 も多 く(8例),意
識 障害,聴
力 障 害 な どが 少 数 例 に 認 め ら
現 病 歴:昭 和51年11月 頃 よ り左 顔面 神 経 麻 痺 が 出現. 麻 痺 は翌 年3月 頃 ま で 徐 々 に悪 化 し た.昭 和52年5月 り内科 に て マ ッサ ー ジ療 法 を行 な っ て い た.7月
れ る.予 後 は麻 痺 が巣 独 で み られ臨 床 的 に骨 折 な し と診
左 耳 鳴,左 難 聴 を 自覚.ま
断 され た症 例 に おい て は 良 好 で あ り,5例
り,8月30日
中経 過 を追 え
よ
頃 より
た 歩行 時 ふ らつ く よ うにな
当科 を受 診 し た.
4-30
日耳鼻
黄川田=小
児,顔 面麻 痺
検 査所見:筋 電図 検 査で は 患 側 に活 動電 位 の減 少,聴
主
82-375
訴:左 顔 面神 経 麻 痺.
力検 査で は 左高 度 感 音 難 聴,ま た 左 右注 視 眼 振,左 温 度
既往 歴:特記
事 項 な し.
眼 振 反応 低 下が 認 め られ た.さ らに左 三叉 神 経 全 域 で知
家 族 歴:特記
事項 な し.
覚低下 が あ り,精 査 のた め10月12日 当 院脳 外 科 に入 院 し た.CTス
キ ャ ンにて 小 脳 橋 角 部 腫 瘍 を疑 われ,10月18
日手術 を 行 な っ た.
現 病 歴 お よび 経 過:9カ 現 し,約3カ
病 院 小児 科 で 脳 波,レ
手術 所 見:左 小 脳橋 角部 のgliomaで
あ っ た.腫 瘍 の
全 摘 は不 可 能 で あ り,一 部 残 存 した ま ま 手術 を 終 了 し た.
月 頃 よ り左 顔 面神 経 麻 痺 が 出
月 間 徐 々 に悪化 し た.昭 和49年12月 某大 学 ン トゲ ン検 査な どを 行 な っ たが,
異 常 は認 め られ て い ない.昭 和50年1月
当院 脳 神 経 外 科
受 診.顔 面 神 経 麻痺 の ほか は異 常 が 認 め られ ず,1月20 日当科 顔 面 神 経 外来 を受 診 した.筋 電 図検 査 で は患 側 表
経 過:術 後 放 射線 治 療 を行 な い 経 過 観 察 中 で あ るが, 顔 面神 経 麻痺 の 回復 は認 め られ て い な い. 腫瘍 に よる9例 は部 位 別,組 織別 に 表2に示
情 筋 の活 動 電位 数 が 減少 して お り,不 完全 麻 痺 の 状 態 で あ っ た.ま た 口唇 下制 筋 に多 相 性 の異 常 波 型 が 認 め られ
し た.
た.そ い.2年
表-2
腫瘍 に よ る顔 面 神経 麻痺
の ほ か 諸 検査 で は耳 鼻 咽 喉 科 領域 に は 異 常 が な 以 上 経過 を観 察 して い るが,筋 電図 上 変 化 は な
く,ま た 他 の症 状 も出現 して い な い. 最 後 に,徐 々 に進 行 す る麻痺 で 発症 し,長 期 経 過 観 察 に おい て も麻 痺 の ほか は他 の 随 伴症 状 を認 め ぬ6例 を経 験 した の で,一 つ の群 と して と りあ げ た.発 症 情 況 は あ き らか にBell麻
痺 とは異 な る.ま
たBell麻
痺 は全例
に回 復 傾 向 を 認 めて い るが,本 症 例 は初 診 時 と比 較 して 変 化 が な い.(表3参
照) IV.
7.
原 因不 明 群 症
例
察
A.
小 児 顔面 神 経 麻 痺 の原因 に つ い て
1.
生 下時 よ り麻痺 の認 め られ る もの. 生 下 時 よ り 麻 痺 の 認 め られ る 原 因 と して は 先 天 性 異
男 児,3歳.
常,分 娩外 傷 が 主 な もの で あ るが,ま れ に先 天 性 真 珠 腫 表-3
4-31
考
徐 々に 進 行 し た原 因不 明 の顔 面 神経 麻痺 症 例
82-376
やmeningiomaな
ル ス とBell麻
ど の 腫 瘍 に よ る 例 も あ る33)
先 天 性 異 常 の 多 くは 片側 下 口唇 に 限 局 した 障 害 で あ り,泣
い た 時,笑
口 唇 下 制 筋,口
っ た 時 に 初 め て 気 づ か れ る.す 角 下 制 筋,頤
と は 異 な る が),ま
筋(厳
なわ ち
密 に は顔 面神 経 麻 痺
た は これ ら の 表 情 筋 を 支 配 す る 顔 面
神 経 下 顎 縁 枝 の 障 害 で あ る37)40)42)45).小 林26)27)は こ の よ う な 症 例 に 対 し 先 天 性 片 側 性 下 口 唇 麻痺congenital lateral
1979
黄川 田=小 児,顔 面 麻 痺
lower
lip palsy(以
下CULLP)と
uni-
呼 称 し,筋
る2)3)10)11)31)41)44)47)50)51).Adour2)3)はBell麻
叉 神 経 な ど の 感 覚 神 経に 潜 伏 し て い た 単 純疱 疹 ウ ィル ス の 再 活 性 化 に よ っ て 麻 痺 が 発 症 す る と述 べ て い る.ま Bell麻
痺 症 例 にHunt症
痺 群 の 原因 で あ る 帯 状疱 疹 ウ
ィル ス に よ る と思 わ れ る一 群 が 含 ま れ て い る ことが指 摘
麻 痺 の 発 生 機 序 に つ い てischemic vaso-spasmに
は他 の 奇型 を 合併 す る こ とが 多 く43),と く syndromeと
して報 告
Fallopian管
内 で のneurapraxiaを
れ て い る が,ウ
は 組 織 所 見 を 根 拠 と し て,ウ 原 因 で あ る と し て い る.
す る奇 型 と して は これ らが もっ とも多 い と考 え られ る. 先天 性 異 常 の う ち両 側 顔 面神 経 麻 痺 と外 転 神 経 そ の他 の脳神 経 麻痺 を 合併 した 症 例 はMobius症 oculo-facial paralysis syndromeと はCULLPと
候群または
小 児 に お い てBell麻
ひ き お こす と考 え ら
ィル ス に よ る神 経 炎 が そ の
痺 は成 人 同様 非 常 に ポ ピュラー
な 疾 患 で あ る5)30)34)35)36)49)自
験 例 に お いて も生 下時 よ
り の 麻 痺 に 次 い で 多 く 認 め ら れ た.年
感 染 を 示 唆 す る もの と して 感 冒様 症 状が 麻痺 に先行 す る例 を時 に 経 験 す るが,小 児 に お い て は37例 中11例(約
え られ て い る.以 上 の 顔 面 筋形 成 不 全,神 経 核形 成 不 全
30%)に
の ほ か に,青 柳7)ら は 先 天 性異 常 の原 因 と して 中耳 奇 型
わ め て 高 頻 度 で あ る と思わ れ る.
に よ る側 頭 骨 内顔 面 神 経 異 常 の可 能 性 を 指 摘 してい る. 分 娩 外 傷 に よ る麻 痺 は 鉗 子 の使 用 また は産 道 狭窄 に よ
発 熱 そ の他 感 冒様 症 状 を 認 め,成 人 に比 して き
予 後 は成人 同 様 良 好 で あ り,自 験 例 に おい て は 経過 を 追 えた 症 例 の76%は
完 全 に 回 復 し,い ず れ も3カ 月 以 内
る仙骨 の 顔 面 に対 す る圧迫 の た め,神 経 の浮 腫 ・血 腫 を
に筋 電図 上干 渉 波型 を 認 め てい る.
生 ず る こ とに よ る と考え られ てい る.ま た 巨 大 児,特 に
3.
初 産 の 場 合 子宮 内圧亢 進 に よ り顔 面が 頚 部 で 圧 迫 され て
齢 別 に み る と3歳
以 下 に 集中 し て い る の が 特 徴 的 で あ る.
称 され て お り,こ れ
異 な り 顔 面 神 経 核 の 形 成 不 全 に よる と考
で は
ィル ス 説 に お い てEsslen12),Adour4)ら
行 な わ れ て い るわ けで はな いが 頭 頚 部 領 域 に 限 って み る 同側 の耳 介 お よび 外 耳道 奇 型 が み られ,合 併
theory
始 ま る 循 環 障 害 が 神 経 の 浮 腫 を き た し,
され て い る8)9).自 験 例 で は 全 例 に 全 身 的 検 索 が十 分 に
と約63%に
た
さ れ て い る41)50)51).
あ ろ う と 推 論 し て い る.
に 心 奇 型 との 合併 はcardiofacial
痺 患者 の
血 清 学 的 検 索 お よ び ウ ィル ス の好 神 経 的 な 性 質 よ り,三
電 図 に よ る 検 索 に よ っ て 主 な 原 因 は 口 唇 下制 筋 の 不 全 で
CULLPに
痺 と の関 連 に つ い て 活 発 に検 討 され てい
Hunt症候
群
本 疾 患 は 帯 状疱 疹 ウ イル ス の 感染 に よ る と され て お
麻 痺 を生 ず る こ と もあ る とさ れ て い る29)こ の 時 期 に は
り,こ の こ と は最 近 の血 清学 的 検 査 に よ っ て も裏 付 け さ
乳 様 突 起 が十 分 発 達 して お らず,顔 面 神 経 は 茎 乳 突 孔 よ
れ て い る51).麻 痺 の 発 生機 序 と して 初感 染(水 痘)後 あ
り直 接 側方 にむ か って 出た 後 顎二 腹 筋 後 腹 に お お われ て
る程 度 免 疫 され た 個 体 に 潜 在 して い た ウ ィル スが,何
い るだ けで あ り48),圧 迫 に よ り容 易 に傷 害 を 受 け やす い
か の原因 に よ る免 疫 能 の低下 ま た は 外 傷 な ど に よ って再
状 態 にあ る.回
活性 化 す る も の と考 え られ て い る21)23) 一 般 に 成 人 の 疾 患 と され て お り ,小 児 に は ま れ で あ
復 は良 好 で あ り,Alberti5)に
よ る と8
例 中7例 が1カ 月 以 内 に自 然 回 復 を してい る.自 験 例 に
ら
は典 型 的 な 症 例 は な く,分 娩 時 外 傷 の疑 い の あ る2例 は
る5)35)49).自験 例 で は全 例6歳 以 上 で あ り,5歳
と もに 不 完 全 回 復 に終 わ って い る.
は1例 も認 め られ な か った.最 近 の 血 清 学 的 検 索 に よ り
2.
Bell麻 痺 と ウ ィル ス との 関係 が 強 調 され る よ うにな っ
Bell麻
痺
他 に 何 ら 症 状 を 認 め ず,突 た す 特 発 性 す な わ ちBell麻 あ り,多
然 片側 性 顔 面 神 経 麻痺 を き 痺 の原 因 は 現 在 な お不 明 で
く の 仮 説 が 述 べ られ て い る.ischemic
ウ ィル ス 説 が 主 な も の で あ り,そ 害1)39)54),月
theory,
脈血PO2と
の 関
本疾 患 の予 後 はBell麻
痺 と 比 較 す る と一 般 に 不良 と
され て い るが,統 計 的 に観 察 した 報 告 は少 な い.柳原53) に よ る と小 児 を含 め た全 体 の完 治 率 は48%とBell麻
係15)な ど が あ げ られ る. 近 年 免 疫 学 お よ び 血 清 学 的 検 査 法 の 発 達 に よ り,ウ
に お い て3歳 以下 に症 例
が集 中 して い た こ と と比 較 す る と きわ め て 対 照 的 であ る (図5参 照).
の他 グル コー ス代 謝障
経 ・妊 娠 と の 関 係18),動
た こ とは前 述 した が,Bell麻痺
以下 に
ィ
(完 治 率63%)に
痺
比 較 す る と不 良 で あ る.自 験 例 の 小児
4-32
日耳鼻
黄 川 田=小 児,顔 面麻 痺
2-377
け る予 後 は即 発 性 麻痺 に 比べ て 良 好 で あ る.ま 性,即
発 性 に か か わ らず,不
い17)自
た遅発
完 全 麻痺 症 例 の 予後 は よ
験 例 に お い て は麻痺が 単 独 で み られ る症 例 の 予
後 は良 好 で あ るが,他 の 症 状 を伴 う例 は遅 発 性 麻 痺 に や や 回復 傾 向 を 認 め て はい る もの の,概
して不 良 で あ る.
手 術 に 伴 う顔 面 神 経 障 害 の 頻度 はmicrosurgeryの
発
達 お よび 手技 の向 上 によ り減少 しつ つ あ る もの と思 わ れ る.ま れ で は あ るが,中 耳手 術 時 顔面 神 経 に 損 傷 を加 え な か っ た場 合 で も,遅 発性 に麻痺 を きた す症 例 を経 験 す る ことが あ る.手 術 に よ る顔 面 神経 傷害 は 即発 性 麻痺 を もた らす の が 通 例 で あ る.考 え られ る仮 説 の一 つ にtraumaに
よ る ウ ィル ス の活 性 化 が あ げ られ る.す な わ ち 中
耳 手 術 に よ り顔 面神 経 が 直 接 傷 害 され な くと も,麻 痺 を ひ きお こす 可能 性 の あ る こ とが指 摘 され て い る17)21)23). 5.
耳炎 性 顔 面 神 経 麻痺 小児 に お け る耳 炎 性 顔面 神 経 麻痺 の多 くは急 性中 耳 炎
に伴 っ て発 症 す る もの で あ り,慢 性 中 耳炎 お よ び真 珠 腫 に よ る もの は 少 ない.ま
た特 に 小 児 に お い て は滲 出性 中
耳 炎 に 伴 っ た麻 痺 も報 告 され て い る17). 急 性 中 耳炎 に よ る麻 痺 は 抗 生 剤 の 発達 に よ り発 生 率 に おい て 激減 した も のの,近 年横 ばい 状 態 で あ り,皆 無 と はな らな い52).こ の 理 由 と して急 性 中 耳 炎 に おい て は発 症 と同時 に麻 痺 を生 ず る こ とが 多 く,抗 生 剤 に て は 中耳 炎 そ の もの の予 防 は 困 難 で あ る こ とが あ げ られ る.起 炎 菌 と して 特 徴 的 な もの はな い20)麻 痺 の 発生 起 序 と して Fallopian管 図5
Bell麻 痺,Hunt症
候 群 の年 齢分 布
の亀 裂 また は 中 耳腔,乳
突蜂 巣 と吻 合 して
い る血 管 を通 して の炎 症 の 波 及 に よる浮 腫 な らび に循 環
症例 数 は少 な い が,経 過 を追 え た7例 中5例 に 完全 回復
不 全 が そ の原 因 と考え られ て い る6)16).自 験 例 に お い て
を認 め,予 後 は 比較 的良 好 で あ る と思 わ れ た.
はほ とん ど急 性中耳 炎 に よ る もの で あ り,う ち 発 症 後間
4.
もな く受 診 した 症 例 は,手 術 治 療 に よ る炎 症 の消 退 と と
外 傷 性 顔 面 神経 麻 痺 小児 に お け る外 傷 性 顔 面 神 経 麻痺 の 原因 と して頭 部 外
傷,手 術,分 娩 時 外 傷 が 主 な もの で あ るが,分 娩 時 外 傷 に よ る もの は生 下 時 よ り認 め られ る麻 痺 群 に分 類 し,こ こで は除 外 す る.
腫 瘍 に よ る顔 面神 経 麻痺 まれ で はあ るが放 置 され た 場 合,と
くに悪 性 腫 瘍 で は
全 身 的 影 響 を お よぼす ことが 多 く,早 期 の診 断 治 療 が 必
一 般 に頭 部 外 傷 に よ る顔 面神 経 麻 痺 の発 現 頻 度 は きわ めて低 く,約1%程
もに麻 痺 は急 速 に 回復 を示 した. 6.
要 とさ れ る.腫瘍 の部 位 ・性 質 に よ り麻 痺 が 唯 一 の 症 状
度 で あ る17)46).そ の原 因 と して 現在
で あ る場 合 もあ るが,一 般 に麻 痺 の 出現 した 症 例 は広 範
では交 通 事 故 が 主 役 を 占め て い るが,小 児 と くに 乳 幼児
囲 進 展 例 で あ り予 後 不 良 の こ とが 多い24).麻 痺 は 腫 瘍 の
におい て は原 因 の ほ と ん どは 階段,す
べ り台 な どか らの
直 接 浸潤 ま た は圧 迫 に よ って生 ず る.障 害 部 位 に よ り末
転 落お よび転 倒 で あ り,交 通 事 故 に よ る もの は少 ない14).
梢性,中 枢性 に分 類 され,前 者 は核 よ り末 梢 の神 経 線 維 の
麻痺 の 予後 は神 経 へ の 傷 害 の 程度 に よ っ て異 な る こ と は もち ろ んで あ るが,外 傷 の 際生 ず る骨 折 の 多 くは 縦 骨 折で あ り,こ れ に伴 う麻 痺 は神 経 鞘 内 の浮 腫 ・血 腫 によ る遅発 性 麻痺 の傾 向 に あ る29)38).そ して 遅 発 性 麻痺 に お 4-33
障害 で あ り,後者 は核 上 性 す な わ ちcorticobulbar
tract
の障 害 に よ る. 中 枢 性 麻痺 は 頭 蓋 内 と くに 脳 内 腫 瘍 に よ っ て生 ず る. 小 児 に お い て は 小脳,脳
幹 部 な ど 天 幕 下 に 好 発 し,
82-378
glioma,
黄川 田=小 児,顔
medulloblastoma,
ependymoma,
病 態 を 有 す る疾 患 群 の存 在 を考 慮 す る必 要 が あ る.
astrocytoma
器 質 的疾 患 も疑 われ る た め,今 後 さ らに厳 重 な 経過 観
な ど が み られ る. 末 梢 性 麻 痺 は 頭 蓋 内 腫 瘍 に よ っ て も 生 ず る が,主 頭 骨 腫 瘍,耳
下 腺腫 瘍 に よ る.麻
あ る こ と が 多 く,と
1979
面麻 痺
に側
痺 を 伴 う腫 瘍 は悪 性 で
察 が 必 要 と思 われ る. B
く に 幼 児 期 に 好 発 す るembryonal
rhabdomyosarcomaは
顔 面 神 経 麻痺 の 診 断 に お い て 最 も重 要 な こと は初診 時
全 例 に 麻 痺 を 生 じ て い る13)32).
し か し 小 児 の 耳 下 腺 腫 瘍 に お い て は 成 人 と 異 な り,悪
診 断 お よび検 査 につ い て.
性
の注 意 深い 問 診 で あ る.詳 細 に 問 診す る こ とに よ り,お お よ そ の診 断 は可 能 であ る.し か し小 児 は皮膚 のtonus
腫 瘍 で あ っ て も ほ とん ど麻痺 を きたす こと はな い とい わ
が良 く保 たれ て お り麻痺 は 気づ か れ に く く,発 症 時 の情
れ て い る22).
報が 十 分 で ない こ とが 多 い.ま た自 覚 的 お よ び他 覚 的所
自験 例 で は頭 蓋 内腫 瘍 の例 は と もに 顔 面神 経 麻痺 を 初 発 症 例 と し て お り,麻
痺 は 徐 々 に 進 行 す る とい っ た 典 型
的 な 腫 瘍 に よ る 麻痺
発 現 様 式 を 呈 し て い た.側
rhabdomyosarcomaの1例 が 生 じ て か ら わ ず か3カ
が,術
痺
月 後 に 死 の 転 帰 を と っ た26).耳
以上 のこ とか ら小 児 に お い て は 側 頭 骨 腫瘍,白血
病な
ど を 除外 す る 目的 で レン トゲ ン検 査 お よび血 液 検 査 をル ー チ ンに行 な う必 要 が あ る.ま た 可 能 な らば聴 力 ・平 衡
症例で ある
機能 検 査,神 経 学 的 検 査 も行 な う.こ れ らの検 査 に て異
述 した よ う に小 児
常 を 認 めぬ 時 は慎 重 な 経 過 観 察 と麻 痺 の 治療 が 併 行 して
carcinomaの
前 麻 痺 は認 め られ て お ら ず,前
ど の重 篤な 疾 患 が 放 置 され る危 険 性 が高 い.
頭骨
は 経 過 が 急 速 で あ り,麻
下 腺 腫 瘍 はmucoepidermoid
見 に 乏 し く,こ のた め 不 適 当な 治 療 を受 け た り,腫 瘍な
の 耳 下 腺 腫瘍 に お い て は 麻 痺 の 有 無 に よ る 良 性 ・悪 性 の
行 なわ れ る.
鑑別 は 困 難 な よ う で あ る.
小児 に おい て もBell麻
白血 病 に 伴 う顔 面神 経 麻 痺 は,治 療法 の発 達 に よ る生
痺 は 多 く認 め るが,ま れ に 同
様 の 症 状 を呈 す る も のの 中 に 重 篤 な疾 患 が含 まれ て い る
存 期 間 の 延 長 と と もに増 加 す る傾 向 に あ る.白 血 病 細 胞
こ とが あ り,Bell麻
の髄 膜 お よび脳 神経 へ の広 範 な 浸潤 に よるが,出 現 す る
除外 診 断 して な され るべ き もの と考 え る.
脳 神 経 症 状 の中 で は顔 面 神 経 麻 痺 が 最 も多 い19).自 験 例
痺 との 診 断 は注 意 深 い検 査 のの ち,
われ われ は筋 電 図 にて 麻痺 の 経 過観 察 を行 な って い る
に おい て は3例 と もに 突 発性 の麻 痺 を きた して お り,う
が,乳 幼児 に おい て は協 力 を 得 る こ とが 困難 で あ る.協
ち1例 は 顔 面神 経 麻痺 を 初発 症 状 として い る.こ の例 の
力 の 得 られ る症 例 に対 して は疼 痛 のな い 表 面 筋電 図 を 利
よ うに麻 痺 が 初 発 症 状 の こ と もあ り,ま た 多 く突 発性 で
用 す る こ と もあ る.こ れ が 不 可 能 な 場 合 は と りあえ ず 針
しか も寛解 のみ られ る こ とな どか ら,Bell麻痺
電 極 を 使 用 し,疼 痛 刺 激 に よ り号 泣 せ しめ て 眼 輪筋,口
と診 断
され 放 置 され る可 能 性 が あ り注 意 を 要 す る. 7.
唇・口 角下 制 筋 の 最大 収 縮 を惹 起 させ,ほ ぼ 満 足 の ゆ く
原 因不 明 群
検 査 結 果 を 得 て い る.
顔 面 神 経麻 痒痺 を きた す 原 因 の 多 くは不明 で あ る.そ し て この ほ とん どす べ て は突 然 発 症 し,Bell麻 され る もの で あ る,Bell麻
痺 と診 断
痺 で は 遅 くと も発 症 よ り7
日以 内 に 麻痺 は完 了 し,そ れ 以 後 は 回復 に向 か う.回 復 の認 め られ ぬ症 例 はな い とい って よい. わ れ わ れ の経 験 した6例 はBell麻
治 療 法 につ い て. 小 児 に お い て も原 則 的 に は 成人 の治 療 法 と異 な る とこ
ろ はな い. 先天 性 顔 面神 経 麻 痺 の 多 く はCULLPで
あ り機 能 的
な問 題 は は とん どな い が,美 容 的 な意 味 か ら対 側 の選 択
痺 と異 な り,麻 痺
は徐 々に 進 行 し,ま た 回復 傾 向 を ほ とん ど認 め て い な い.初 診 時 に は 全 例不 完 全 麻 痺 を 呈 して い た.6例 発 症 時 よ り1年 以上 経 過 を観 察し て お り,う
C
とも
ち3例 は3
年 以上 経 過 して い るが,麻 痺 は筋 電 図 にお い て は ほ とん
的 顔 面神 経 ブ ロ ッ クを 行 なろ こ と もあ る.ま たMobius 症 候 群 は両 側 の麻 痺 で あ る こ とか ら,構 音 上 と くに口 唇 破裂 音が 問 題 とな る こ とが あ り,わ れ わ れ は この よ うな 症 例 に 言語 治療 を行 な い 効 果 を あげ て い る28). 小 児 に お け る耳 炎 性 の麻 痺 は ほ とん ど急 性 中 耳 炎 に よ
ど変化 が な い.自 験 例 で は3カ 月 経 過 後 も完 全 回復 に至
る もの で あ り,自 験 例 に おい て も手 術 に よ る耳 炎 の 消退
らぬBell麻
と と もに す み やか に完 全 回復 を認 め る ことか ら,麻 痺 発
痺 症 例 の 多 くは,神 経 再 生 の 結 果生 ず る協
同 運動 を伴 うが,こ れ らの症 例 で は認 め られ ず,回 復 傾
症 初 期 の 治 療 が 最 も大切 で あ る と考 え る.中 耳 炎 に対 し
向 を示 してい な い こ とが わか る.成 人 には この よ うな症
て は細 菌 検 査 に 基づ く有効 な抗 生 剤 の十 分 な投 与 が 必 要
例 は ない.麻 痺 発 生 機序 に お い て,Bell麻 痺 とは 異 な る
で あ り,麻 痺 が 生 じた 場 合 は鼓 膜 切開20)な らび に手 術 に 4-34
日耳鼻
黄川田=小
よる病 変 の除 去 が 早 期 に行 なわ れ な けれ ば な らな い.ま た抗 生剤 な どの 十 分 な治 療 に もか か わ らず,炎 症 が 遷 延 し麻痺 が 生 じた 場 合 は,結 核,腫 瘍 な ど一 般 炎 症 以 外 の
児,顔面
82-379
麻痺
6)
耳炎 性 麻 痺 にお い て は 急 性 お よび慢 性 中 耳炎 症 例
との間 に 発症 年 齢 に大 きな 相 異 が み られ る. 7) 腫 瘍 に おい て は早 期 診 断 の 困 難 な例 が 多 く,All
原因 を考 慮 し,手 術 を含 め た 積極 的 な 処 置 が 必 要 で あ
that palsies is not
る.
慎 重 な経 過 観 察 を 強 調 した.
先 天性 お よび 症 候 性麻 痺 を 除い て,顔 面 神 経 麻痺 の 治 療 はほ ぼ同 じ観 点 に た つ と考 え て よ い.Bell麻 Hunt症
候群 な どの 発 症 初期,す
痺,
8)
成 人 に は 認 め られ ず,Bell麻
不 明 の進 行 性 麻痺7例
痺 とは 異 な る原 因
の新 しい一 群 を報告 した.
なわ ち 神 経 変 性 が 急 激
に進 行す る時 期 に お い て は と りあ えず 保 存 的 治 療 を 行 な って い る.こ の 時 期 に お け る第 一 の治 療 目的 は 神 経 変性
参 考 文 献 1) Adour K K, et al.: Prevalence
に歯 止 め をか け る こ とで あ り,神 経 変 性 が 完 了 す る とさ れて い る 発症 か ら約2週 間 の 間 に ス テロ イ ド剤 を 中 心 と した 積極 的 な 薬 物 療 法 を行 な う こ とは合 理 的 で あ る と考
diabetes mellitus and idiopathic
の併用 は効 果 的 で あ ろ う. 手術 に よ る治 療 法す な わ ち 顔面 神 経 管開 放 術 は,腫 瘍
1975. 3) Adour
K
K:
Cranial
polyneuritis
and pathogenesis of Bell's
って よい と考 え て い る.ま た 開放 術 は外 傷,中 耳 炎 に よ
Surgery
の 除
palsy.
Fisch,
Facial Nerve Kugler
Jr, et al.:
The pathophysiology
も自然 な表 情 運 動 を 可 能 な ら しめ る方 法 と考 え て い る.
of N. Amer. 7 (2): 309-330, 1974. 7)
V
ま
と
か ら1978年3月
め
137例 つ い て,原 2)
3)
以下 の 小 児
因 別 に 示し た.
生 下 時 よ り認 め られ る麻 痺 の大 部 分 は先 天 性 異 常
とくにCULLPで
あ り,分 娩外 傷 に よ る も の は少 な い.
少 児 に お い て もBell麻
痺 は 多 く,と くに3歳 以
下 に集 中 してい た.ま た成 人 に比 べ て 感 冒 様 症 状 の前 駆
Hunt症
候 群 は まれ で5歳 以 下 には 認 め られ ず,
Bell麻 痺 とは きわ め て対 照 的 で あ る. 5)
頭部 外 傷 によ る もの は 随 伴症 状 の 有 無 に よ っ て
(臨床 的骨 折 の 有 無 に よ り),回 られ る. 4-35
優
他:乳
Clinics
幼 児 先 天 性 顔 面 神 経 麻 痺 の4症
例
8) Cayler G G: heart
Cardiofacial syndrome. Congenital
disease and facial weakness,
unrecognized association. 44: 69-75, 1969. 9) Chanther
C, et al.:
Arch.
a hitherto
Dis.
Cardiofacial
Childh.,
syndrome.
Proc. roy. Soc. Med., 64: 4-6, 1971. 10) Djupesland G, et al.: The role of viral infection in acute peripheral facial palsy. Acta Otolaryng.,
してい る症 例が 多い. 4)
青柳
Otolaryngol.
耳 喉48:315-319,1976.
まで の8年 間 に 東 京大
学耳鼻 咽 喉 科 顔 面 神 経 外 来 を 受 診 した15歳
82: 1013-
1020, 1972. 6) Antoli-Candela
of otologic facial paralysis.
1970年4月
371-
Facial paralysis in children.
舌下 神 経,副 神 経 な ど と の吻 合 に 比 べ,現 在 の と ころ最
1)
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A review of 150 cases. Laryngoscope
nerve gra-
ftingを 行 な って い る.健 側 の 傷痕 な ど問 題 点 もあ るが,
by U.
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edited
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な どを否 定 す る意 味 か らも回 復 の遅 い 症 例 に対 して 行 な
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in
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験 され てい な い.ま
Bell's.に 留意 し,専 門 的 な検 索 と
復 率に顕著な差が認め
79: 221-227, 1975. 11) Djupesland
G, et al..
Viral infection as a cause
of acute peripheral facial palsy. Arch. Otolaryng. 102: 403-406, 1976. 12) Esslen E:
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34)
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Nerve
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herpes
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Facial
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喜 多 村健
of varicella20: 323
Facialisparesen
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他:側
頭 部 に原 発 した胎 児性 横 紋 筋 肉 腫
臨 床 耳 科5:182-183,1978. 小 林 武夫:先
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Anatomy
Plastic and
鞭撻 を 賜 っ た 小 林
武 夫 講 師 に 深 甚 を 謝 意 を 表 す る. 臨 床 耳 科学 会 に て報告
(原稿 受 付 昭 和53.11.6日) 別 刷 請求 先
〒113
東 京 都文 京 区本 郷7-3-1
東 京 大 学 医学 部 耳鼻 咽喉 科 学 教 室
Reconstructive 玉 置 弘 光:小
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児 の 顔 面 神 経 麻痺 に つ い て
66:399-408,1973.
4-37
Surgery.
耳 鼻 臨床
し
た.
of the facial
nerve in fetuses and stillborn infants.
校 閲 を 賜 った佐 藤靖 雄 教
始 御 指 導,御
本 論 文 の 要旨 は 昭 和52年11月 ス感 染 の実 態 に 関 す る研 究
49)
in idiopathic
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ス感 染 の 早期 診 断 に 関 す る研 究
peripheral
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冨田
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index
Pediatrics,
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黄川田
徹
