1003

当 科 に お け る 最 近6年

間 のImmunocompromisedhostに

お ける

α-溶連 菌 に よ る敗 血 症 の 臨 床 的 検 討 レンサ球菌感染症研究会(会 長:中 島邦夫) 久留米大学医学部小児科学教室 佐 々木宏和

吉永 陽一 郎

沖

眞 一郎

津村

直幹

織田

慶子

阪田

保隆

富永

薫

本廣

孝

山下

文雄

(平成2年11月5日 受付) (平成2年3月12日 受理)

Key

words:

alpha-hemolytic

streptococci,

要 最 近 の 化 学 療 法 剤 の 発 達 に もか か わ らず,易

septicemia,

immunocompromised

host

旨

感 染 宿 主Immunocompromised

hostに

お ける重 篤 な感

染 症 の治 療 は 依 然 と して 困 難 で あ る.今 回 我 々 は,口 腔 内 常 在 菌 で あ る α-溶連 菌 に よ る敗 血 症 お よ び 細 菌 性 髄 膜 炎 を 合 併 した2症 と も にS.sanguisを

例 を 経 験 し た.【 症 例1】 急 性 リン パ 性 白 血 病 の6歳

分 離 し た.発

症 時,顆

女 児 で,血

液,髄

粒 球 減 少 が 著 明 で,経 過 中 髄 液 よ り除 菌 で きず,心

死 亡 した.【 症 例2】 非 ポ ジ キ ン型 悪 性 リン パ 腫 の11歳 女 児 で 血 液,髄 症 時 顆 粒 球 減 少 が 著 明 で あ っ た が,良 好 な 経 過 を 示 した.2症

液 よ りS.mitisが

液から

不 全 にて

検 出 さ れ た.発

例 と も基 礎 疾 患 の 維 持 療 法 中 で あ り,発

症 時 顆 粒 球 減 少 が 著 明 で 口 内 炎 や 歯 肉 炎 の 合 併 を 認 め た. 1984年 か ら1989年 の6年 株(総 検 出 菌 の11.5%)に

間 の 当 科 に お け る血 液 培 養 か ら の 分 離 菌 は131株 で,そ 検 出 され た.こ

基 礎 疾 患 の 内 訳 は,血 液 疾 患5例,先 S.sanguisが5例,

S.mitisが2例

序

の6年

の うち α-溶連 菌 は15

間 に我 々 が 経 験 し た α-溶連 菌 に よ る 敗 血 症 は12例 で,

天 性 心 臓 病5例,神

経 疾 患1例,新

生 児1例

で あ った.検

出菌 は

で あ った.

か ら の分 離 菌 の 動 向 も検 討 した の で併 せ て 報 告 す

文

今 日医 療 技 術 の 進 歩 や 化 学 療 法 剤 の 発 達 に よ

る. 症

り,今 ま で 治 療 が 困 難 で あ った 重 篤 な疾 患 に も長 期 の予 後 が 得 られ る よ うに な って き て い る.し か

症 例1:

し,多 剤 耐 性 菌 や 真 菌 に よ る感 染 症 の増 加1)2)が臨

既 往 歴: 急 性 リンパ 性 白血 病(1984年12月

床 的 に 重 要 視 さ れ る な か で,易 munocompromised

感 染 宿 主Im-

hostに お け る感 染 症 で の 治

今 回 我(々は,口 腔 内 常 在 菌 で あ る α-溶連 菌3)に

経 験 した.ま 別 刷 請 求 先:

た,当 科 で の 最 近6年 (〒830)久 留 米 市旭 町67 久 留 米 大 学 医学 部 小 児科

平 成3年8月20日

を

間の血液培 養

発 症,

家 族 歴: 特 記 す べ き事 項 な し. よ り39.0∼40.0℃ の 発

熱 が 出 現 し,直 ち に抗 生 物 質 の 投 与 が 開 始 され た. 患 児 に は う歯 が 多 数 あ り 口内炎,歯 肉 炎 も認 め た. 経 過:発

熱 は 持続 し2月6日,14日

が陽 性 で あ っ た.2月19日 佐 々木 宏 和

月 女 児.

維 持 療 法 中). 現 病 歴: 1989年2月2日

療 は依 然 と して 困 難 な場 合 が 少 な くな い. よ る 細 菌 性 髄 膜 炎 お よ び 敗血 症 を合 併 した2例

A.S.5歳8ヵ

例

の血 液 培 養

痙 変出 現.髄 液 検 査 に

て,細 菌 性 髄 膜 炎 と診 断 した.種

々 の抗 生 物 質 を

1004

佐 々木宏 和 他

投 与 す る も 髄 液 よ り除 菌 で き ず,ま 状 態 も 悪 く,3月4日

た基礎疾患 の

心 不全 のた め に死 亡 した

(Fig.1).

検 査 所 見:こ 粒 球 数o)と

検 査 所 見:白 を 認 め,治 CRPは

伴 い 軽 快 し た(Fig.2).

血 球 数 は500/mm3と

療 開 始 後10日

著 明 な減 少

目 ま で 顆 粒 球 数 は0,

強 陽 性 で あ っ た(Fig.1).血

髄 液 か ら4回,α-溶

液 か ら2回,

連 菌 が 分 離 さ れ,API20

STREPRに

よ りStreptococcus

た3).デ

ィ ス ク 感 受 性 試 験 で は,セ

sanguisと

同定 し

フ ェ ム 系,ペ

シ リ ン 系 薬 剤 に 高 度 感 受 性 で あ っ た(Table1) 症 例2:

Y.H.11歳2ヵ

既 往 歴:

非 ポ ジ キ ン 型 悪 性 リ ン パ 腫(1988年7

月 発 症,維

の 症 例 も 白 血 球 数 は700/mm3(顆

著 明 な 減 少 を 認 め た(Fig.2).血

ニ .

月 女 児.

持 療 法 中).

家 族 歴:

特 記 す べ き 事 項 な し.

現 病 歴:

1989年2月19日

よ り,39.0℃

前 後 の発

熱 が 出 現 し,直 ち に 抗 生 物 質 の 投 与 が 開 始 さ れ た . 一旦解 熱す る も ,3月2日 よ り再 び39.0∼40.0℃ の 発 熱 及 び 頭 痛,意 し た.こ

識 障 害,髄

膜 刺 激 症 状 が 出現

の 症 例 で も 口内 炎 が 認 め られ た.

経 過:3月2日 あ っ た が,抗

の 血 液,髄

液培 養が共 に陽性で

生 物 質 の投 与 及 び顆 粒 球 数 の 改善 に

Fig. 2 Table

1

course

Antimicrobial

S. sanguis

Fig.1

Clinical

of Case 2

susceptibility

against

and S. mitis

Clinical course of Case 1

感染症学雑誌

第65巻 第8号

液,

α-溶 連 菌 に よ る敗 血 症

1005

成

髄 液 か ら と も に α-溶連 菌 が 分 離 さ れ,Streptococcusmitisと

同 定 し た3).デ

ィス ク感 受 性 試 験 で は

績

1984年 か ら1989年 の6年 間 に お け る血 液 培 養 の

β-ラ ク タ ム 系 薬 剤 に 高 度 感 受 性 で あ っ た(Table 1). Table

敗 血 症 に お け る α溶 連 菌 の 検 出 率 を み る た め に,1984年1月

か ら1989年12月

ま で の6年

2

and

Yearly

change

cerebrospinal

of positive

fluid

(CSF)

間の当

(1984.

科 で の 血 液 培 養 の 陽 性 率 お よ び 分 離 菌 を 調 べ た. 対 象 は,連 2,019件

続検 体 や 重複 検 体 を 除 いた 血液 培 養

で,培

養 に は,1984年

か ら87年 ま で は カ ル

チ ャ ー ボ トルR3号,5号"栄

研",88年

ル チ ャ ー ボ トルR5号"栄 社 のHemoline た.分

研"お

performance

離 菌 の う ち,α-溶

以 降は カ

よ びbioMerieux

diphasiqueRを

用 い

連 菌 の 同 定 に は,API20

STREPR(APISYSTEMS.A.)を

用 い た.

Table

3

Organisms

isolated

from

blood

cultures (1984.

1•`1989.

12)

※GPB=Gram-positivebacteria

GNB=Gram-negative

平 成3年8月20日

rate

for

blood

cultures

bacteria

1•`1989.

12)

佐 々木宏和 他

1006

陽 性 率 は,培 養2,019件 あ っ た.同 養386件

の う ち 陽 性121件

で6.0%で

間 に15例,全

時 期 に お け る 髄 液 培 養 の 陽 性 率 は,培

の う ち 陽 性37件

で9.6%で

11.5%に

あ っ た(Table

検 出 さ れ た.グ

検 出 菌 の

ラ ム 陰 性 菌 で は,E.coli

が12株,E.cloacaeが11株

2).

検 出 さ れ,近

年 グラム

陰 性 桿 菌 の 増 加 が 見 ら れ た(Table3).解

血 液 培 養 の 分 離 菌 別 頻 度 で は,総 検 出 菌 は131株 (検 出 率6.5%)で,う

(53.4%)と (39.7%),嫌

た 敗 血 症 症 例113例

ち10症 例 で 複 数 菌 に よ る 混

合 感 染 が 認 め ら れ た.グ

ラ ム 陽 性 菌 は70株

約 半 数 を 占 め,グ

ラ ム 陰 性 菌 は52株

気 性 菌 は9株(6.9%)で

ラ ム 陽 性 菌 で は,Saureusが21株

Underlying

diseases

(Table4).敗

血 症113例 あ っ た.基

と 約 半 数 を 占 め,う

と最 も 多 く コ ア

in

19.2%で

連 菌 は6年

septicemia (1984.

の う ち 死 亡 は23例

で死 亡

礎 疾 患 別 に は,白

血病 ・

ち 死 亡 は10例

hostと

我 々 が こ の6年

12)

で 死 亡 率 は

あ っ た.基 礎 疾 患 が 無 か っ た 症 例 は113例

中14例(12.4%)で,全

children 1•`1989.

の基礎 疾患 及 び死亡 率 を示 す

率 は20.4%で

promised 4

析 で き

悪 性 リ ン パ 腫 等 の 血 液 悪 性 疾 患 が52例(46.0%)

あ っ た.グ

グ ラ ー ゼ 陰 性 ブ ドウ 球 菌 が13株,α-溶

Table

血 液 培 養 件 数 の0.7%,総

敗 血 症12例

体 の 約80%がImmunocom考 え ら れ る. 間 に 経 験 し た α-溶 連 菌 に よ る

をTable5に

報 告 し た2例

示 す.基

を 含 め 症 例1か

礎 疾 患 は,今

ら5ま

疾 患 で,白 血 病4例,悪

性 リ ン パ 腫1例

症 例6は

例7はSSPE(Subacute

超 未 熟 児,症

Sclerosing 炎)で,何 た.症

Panencephalitis;亜

で あ っ た.

急 性 硬化 性 全 脳

れ もImmunocompromised

例8か

回

で が血 液 悪 性

hostで

ら12ま で は 心 疾 患 で,感

あ っ

染性心 内膜

炎 と 診 断 し た 症 例 で あ る.分 離 菌 は,Ssanguisが 5例,S.mitisが2例

で あ った . 考

今 回 報 告 し た2症

Table

ALL : acute ANLL SSPE

5

Case of alpha-hemolytic

lymphocytic

leukemia

: acute

non-lymphocytic

: subacute

sclerosing

VSD

: ventricular

septal

CHD

: congenital

heart

AML

streptococcal

: acute

myelogenous

察

例 は,と

も に基 礎 疾 患 が 血 液

septicemia

leukemia

leukemia panencephalitis

defect

TOF

: tetralogy

of Fallot

disease

感染症学雑誌

第65巻 第8号

α-溶 連 菌 に よる敗 血症

1007

悪 性 疾 患 で あ り,そ の 維 持 療 法 中 に発 症 した.抗

して お り,敗 血 症 の起 炎 菌 と して軽 視 す る こ とは

癌 剤 投 与 後 に 顆 粒 球 が 著 明 に減 少 し,そ れ に 伴 い

で き な い.今 回 の症 例 の よ うに,抗 菌 力 の あ る抗

発 熱 等 の感 染 症 状 を 認 め る と,直 ち に抗 菌 剤 の 投

生 物 質 が 前 投 与 され て い るに も か か わ らず 発 症 す

与 が 開 始 され た.し

る 場 合 も 多 い6).従 っ てImmunocompromised

か し,前 投 与 され て い た に も 膜 炎 を発 症 して お り,そ の

hostに お け る感 染 症 で は,従 来 の起 炎 菌 の 他 に常

時 の 顆 粒 球 数 は2症 例 と も に0で あ った.顆 粒 球

在 菌 の 感 染 も増 加 し て きて い る こ とを考 慮 した 抗

数 が500/mm3以

菌 剤 の 選 択 が 必 要 と思 わ れ る.

か か わ らず 敗 血 症,髄

下 に な る と,約40%に

発熱 が認め

文

られ る と され て い る.発 熱 の原 因 の 多 くは感 染 症 で あ るが,感

染 臓 器 や 病 原 微 生 物 が 判 明 さ れ るの

は 約50%で,そ

の うち細 菌 は85%に

敗 血 症 で は,顆 粒 球1数が500/mm3以

同定 され る4). 下 の 状 態 が10

日以上 続 くと死 亡 率 が増 加 す る とい わ れ て お り5),顆 粒 球 輸 注 やGCSFの

1)

2)

例 と も 口内 炎 や 歯 肉 炎 な ど の 口腔 内 肉炎,う 歯 な どの 疾 患 や 歯

1986.

伊 藤 尹 敦,

藤 井 良 知,

小 児 白 血 病 に お け る 敗 血 症 最 近5年

は そ れ ぞ れ 総 検 出菌 の5.5%,7.4%だ の1984年 か ら1989年 ま で の6年

-165 5)

40:1643-1647,

P.H.A.,

の α-溶連 菌 に よ る敗 血 症 を 経 験

et al. :

Bergey's

manual

Williams

& Wilkins,

of

1988. Fever

in the pediatric

and

, 1982.

金 森 平 和, 他:

Hicks,

血 液 疾 患 に 合 併 し た 敗 血 症 の 検 討.

30: 158-163,

R.A.,

children

Cullen,

treated

age intermittent Infect. 7)

1989.

S.V., Jackson,

Alpha-streptococcal

間 の集 計 で は 回報 告 した

小児

1987.

bacteriology.

6) Sotiropoulos,

った が,我 々

に1989年 に は,今

西村

間の動

young adult patients with cancer. A prospective stydy of 1001 episodes. Medicine, 61 : 153

び 小 児 白血 病 の 敗 血 症 か ら の α-溶連 菌 の 検 出 率

平 成3年8月20日

60:7-14,

平 岩 幹 男,

2:1054-1063,

の 全 国 集 計 の 報 告1)2)によれ ば,小 児 の 敗 血 症 お よ

2例 を 含 め5例

感 染 症 誌,

野 田 正 子,

臨 床 血 液,

藤 井,西 村 ら の1980年 か ら1984年 まで の5年 間

あ った.特

に つ い て.

4) Pizzo, P.A., et al. :

と も考 え られ る.

11.5%で

年 齢別 頻 度 並 び に原 因 菌

systematic

血 症 を 起 こ す と い わ れ7),こ れ がlmmunocomhostに 重 篤 な感 染 症 を 引 き起 こす 原 因

邦48施 設 に お け る ア ソ

ケ ー ト調 査 成 績 ・年 度,

3) Sneath,

磨 き,抜 歯 等 の 機 械 的 刺 激 に よ り時 に 一 過 性 の 菌

promised

小 児 敗 血 症 の 現 況

第1報.本

臨 床,

異 常 所 見 が認 め られ て い た.口 腔 内 異 常 菌 で あ る α-溶連 菌 は 口内 炎,歯

西 村 忠 史:

(1980―1984).

向 ― 小 児 敗 血 症 全 国 ア ソ ケ ー ト調 査 か ら―.

ま た,抗 癌 剤 の 副 作 用 や 歯 磨 きの 影 響 と考 え ら れ るが,2症

藤 井 良 知,

忠 史:

投 与 も行 わ れ る.

献

with

J.

功:

編),

p.225,

Freeman, in

continuous

or large

cytosine

arabinoside.

G.M., A.I. :

septicemia

Dis. J., 8 : 755-758,

中村

M.A. Woods, &

leukemic

1989.

感 染 症 と 抗 生 物 質 の 使 い 方. (島 田 文 光 堂,

1988.

dos-

Pediatr. 馨

佐々木宏和 他

1008

Alpha-Hemolytic Hirokazu

Many We

of microorganisms

reporting

hematological

and

Meningitis

in Immunocompromised

can

alpha-hemolytic

produce

toxic

septicemia

streptococcal

in

septicemia

Children

Keiko ODA ,

immunocompromised

and

meningitis

hosts.

in

two

children

with

malignancies.

[Case

1]

and

bacterial

the

blood

6 year

girl

who

11

had

been

suffering

in maintenance-therapy

cerebrospinal

2]

and

old

meningitis and

[Case sepsis

Septicemia

SASAKI, Yoichiro YOSHINAGA, Shinichiro OKI, Naoki TSUMURA, Tatsuhiko KOGA, Yasutaka SAKATA, Kaoru TOMINAGA, Takashi MOTOHIRO & Fumio YAMASHITA Department of Pediatrics, School of Medicine, Kurume University

kinds are

Streptococcal

year

bacterial

fluid old

girl

Both

acute

lymphocytic

leukemia.

leukemia.

Streptococcus

She

sanguis

was

had

sepsis

isolated

from

(CSF). who

meningitis

maintenance-therapy.

from for

had

due cases

to

had

malignant

lymphoma

Streptococcus

had

been

mitis

treated

(non-Hodgkin

which

with

was

isolated

anti-cancer

type). from

drugs

She

blood

and

also

and

had

had

CSF

severe

in

gran-

ulocytopenia. Positive 6.0%

(total

rate

determined; (39.7%). hundred

of blood

number

of

cultures

Gram-positive Fifteen thirteen

strains cases

streptococcal

septicemia

compromised

states).

during

cultures

were cocci

(11.5%)

were of

70

recent

6 years

positive strains

observed

were

analysed (5

cases

(1984

cultures (53.4%)

alpha-hemolytic

of septicemia were

the

2,019,

and

Streptococci in medical with

.1•`1989.12)

were

infective

121)

at our

. Strains

of

Gram-negative were charts

rods

isolated and

endcarditis

department 131

were

during

12 cases and

was

bacteria

were

52 6

strains

years.

One

of alpha-hemolytic 7 cases

感 染 症 学 雑誌

in

immuno-

第65巻

第8号