1045

臨

床

ロ タ ウ イ ル ス に よ る大 量 出 血 性 腸 炎 の1例 豊橋市民病院小児科 鈴木

賀巳

稲垣

晴代

今枝

正行

安藤

光広

松林

正

西村

豊

水谷

文彦

(平成1年12月12日 受付) (平成2年1月9日

Key

words

:

rotavirus,

は じめ に ロタ ウイ ル ス は乳 幼 児 の 冬 期 下 痢 症 の原 因 ウ イ

massive

受理)

hemorrhagic

Table

enteritis

1

Laboratory

finding

on admission

ル ス と して 有 名 で,水 様 性 下 痢 便 が そ の 臨 床 像 の 主 体 を なす こ と も周 知 の 事 実 で あ る.一 般 に そ の 予 後 は 適 切 な 水,電 解 質 管 理 を 行 え ば 良 好 とさ れ て い るが,中

に は 脳 症 に よ り重 症 化 した 例 の 報 告

も見 られ る.今 回,著 者 らは ロ タ ウ イ ル ス 感 染 症 で は 今 まで 報 告 の み られ な い重 症 出 血 性 腸 炎 の1 例 を経 験 した の で,そ の 臨 床 像 を 中心 に 報 告 す る. 症

例

患 児 は7ヵ 月 の 男 児 で,家 族 歴,既

往歴 には特

記 す べ き もの は な い.平 成 元 年1月20日 及 び1日10回 め,翌

に口 区吐,

程 度 の 水 様 性 下 痢 便 が 見 られ た た

日当科 を 受 診 し た.便

ロタ ラテ ック ス凝 集

Fig. 1

Clinical

course

反 応 が 陽 性 で便 の 各 種 細 菌 培 養 で も病 原 菌 が 認 め られ な か った こ とか ら,ロ

タ ウ イル ス に よ る 胃腸

炎 と診 断 し外 来 で補 液 を行 い な が ら経 過 を 観 察 し て い た が,1月24日

に な っ て比 較 的 多 量 の純 血 性

の 血 便 を み る に至 った た め 入 院 とな った. 入 院 時 現 症:入 院 時,顔 色 は や や 不 良 で あ った が,脱 水 は認 め られ ず 腹 部 腫 瘤 も触 知 しな か った. 血 圧 は150/86と 高 値 で あ った. 入 院 時 検 査 所 見(Table

1):入

院時一般検査 で

は 凝 固 系 を含 め 特 に異 常 は 見 られ な か った.腹 部

g以 上 の タ ー ル 便 が み られ 顔 色 蒼 白,不 穏 状 態 と

x.pで 拡 張 した 腸 管 ガ ス像 が 認 め られ た.

な り,血 圧 の低 下 も認 め られ た た め 急 ぎ新 鮮 凍 結

入 院 後 経 過(Fig.1):入 別 刷 請 求先:(〒440)愛

院 後,短 時 間 の 間 に100

平 成2年8月20日

鈴木

及ぶ輸血 を行 っ

た.腸 重 積 の 併 発 も考 え充 影 法 で 注 腸 透 視 を 施 行

知県 豊 橋 市 松葉 町3-1

豊 橋市 民 病 院 小 児科

血 漿 を 開 始 す る と と も に150mlに

賀巳

した が,造 影 剤 の通 過 は 良好 で あ っ た.そ の 後,

鈴木

1046

Fig. 2 Stool appearance in gastroenteritis Rotavirus (Katsushima, 1981)

賀巳 他 は 勝 島 に よ る889例 に 及 ぶ ロタ ウ イ ル ス 胃 腸 炎 の

due to

詳 細 な検 討 の 中 か ら便 性 に 関 す る部 分 を 抜 粋 した もの で あ るが,従 来 の 予 測 に反 して 腸 重 積 併 発 例 を 除 外 して も約7%の

症 例 に血 便 が 認 め られ て お

り3),ロ タ ウイ ル ス 胃腸 炎 に よ る血 便 は 細 菌 性 胃 腸 炎 よ りは 少 な い もの の 必 ず し も稀 で な い こ とを 示 し て い る.さ

らに ロ タ ウイ ル ス と重 症 腸 炎 とい

う観 点 か らす る と,1983年 炎(以 下NECと

以 降,新 生 児 壊 死 性 腸

略 す)と 本 ウ イル ス との 関 連 が注

目 され て い る が4)5),最 近,Rotbartら 2日 間 にわ た り少 量 の タ ール 便 が み られ た が,以

イ ル ス陽 性 のNEC例

は,ロ

を 発 端 と した4ヵ

月,15例

後 は 下 痢 も消 失 し順 調 な 経 過 をた ど った.入 院 時,

に及 ぶNICUで

便 ロ タ ラテ ック ス凝 集 反 応 は陰 性 で 細 菌 培 養 で も

告 し,コ ン トロ ール 群 に比 し腸 炎 群 で ロタ ウイ ル

外 来 で の検 査 結 果 同様,有

ス検 出 率 が 明 らか に高 か った と述 べ,こ

意 菌 は検 出 さ れ な か っ

のNEC,出

タウ

血 性 腸 炎 の 流 行 を報 の重 症 腸

た.出 血 の 原 因 検 索 の た め 二 重 造 影 法 で注 腸 透 視

炎 に ロタ ウイ ル ス が関 与 して い る可 能 性 を 強 く示

を 行 った が,異 常 は 認 め られ な か った.臨

床症状

唆 し て い る6).し か し 著 者 ら が 今 回 経 験 し た

よ り メ ッケル 憩 室 に よ る消 化 性 潰 瘍 が ロ タ ウ イル

シ ョ ック に 至 る よ うな 重 症 出血 性 腸 炎 の報 告 は 調

ス 胃腸 炎 に重 な った の で は な い か と考 え,第7病

べ 得 た 範 囲 で はみ あ た らず,重

日,テ ク ネ シ ウ ムに よ る消 化 管 シ ン チ グ ラ フ ィー

症 とも ど も今 後 注 意 が 必 要 と思 わ れ た の で 報 告 し

を行 った.そ の結 果,膀 胱 上 部 にhotareaが

みら

た.

れ,第13病

ッケ

日,試 験 開 腹 に 踏 み 切 っ た が,メ

ル 憩 室 は認 め られ な か った.同 時 に 小 腸 を 口側 に 向 か い,か

な り上 流 ま で 直 視 下 の 触 診 に よ り検 索

した が 異 常 は み られ な か った.一 方,補

体結合反

応 に よ る ロ タ ウ イ ル ス 抗 体 価 は 急 性 期4倍,回

復

期32倍 と有 意 な上 昇 が 認 め られ た.抗 生 剤 投 与 に よ る 出血 性 腸 炎 と臨 床 像 が 酷 似 し て い た た め 再

本論文の要 旨は第21回 日本小児感染症学会(平 成元年10 月

開催地

の よ うな 事 実 は な か った.以 上 の 点 か ら

患 児 を ロ タ ウイ ル ス に よ る重 症 出 血 性 腸 炎 と診 断 した. 考 1973年,Bishopら

按

に よ り下 痢 症 患 児 の 十 二 指 腸

生 検 材 料 か ら電 顕 で 発 見 され て 以 来1),ロ タ ウ イ ル ス は 乳 幼 児 冬 期 下 痢 症 の 原 因 ウイ ル ス と して注 目 さ れ,最 80∼90%が

近 の報 告 で は 流 行 時 は 本症 の約 ロ タ ウ イ ル ス に よ る もの で あ る と言 わ

れ て い る2).ロ タ ウ イ ル ス に 限 らず,一 般 に ウイ ル ス 性 胃腸 炎 は 細 菌 性 胃 腸 炎 に比 較 して 組 織 侵 襲 が 軽 度 で潰 瘍 性 変 化 が 起 こ りに く く,そ の た め血 便

札幌)で 発表 した.

文 献 1) Bishop, R.F., Davidson, G.P., Holmes, I.H. & Ruck, B.J. : Virus particles in epithelial cells of duodenal mucosa from children with acute non-bacterial gastroenteritis. Lancet, ii : 1281 ―1283

2)

度,家 族 に 他 医 よ りの 投 薬 が な い か ど うか確 認 し た が,そ

症 合 併 症 と して 脳

, 1973.

勝 島 矩 子: Mook,

3)

10:

新 し い ウ イ ル ス 性 下 痢 症. 46-58,

小 児科

1980.

勝 島 矩 子: 非 細 菌 性 下 痢 症. ―130 , 1981.

感 染 症 誌,

11:

121

4) Rotbart, H.E., Levin, M.J., Yolken, R.H., Manchester, D.K. & Jantzen, J.: An outbreak of rotavirus-associated neonatal necrotizing enterocolitis. J. Pediatr., 103 : 454-459, 1983. 5) Harris, L. & Tudehope, D.: Necrotizing enterocolitis and human rotavirus. Med. J. Aust., 1: 104-105, 1983. 6) Rotbart, H.E., Nelson, W.L., Glode, M.P., Triffon, S.J.H., Yolken, R.H., Hernandes, J.A. &

Levin,

M.J. :

associated

necrotizing

trol

study

and

an

outbreak.

Neonatal

prospective J.

Pediatr.,

rota

enterocolitis surveillance 112

virus-

: Case

: 87•\93,

conduring

1988.

を み る頻豊 度 は 少 な い もの と考 え られ て きた.図2 感染症学雑誌

第64巻 第8号

ロタ ウ イル ス に よ る大量 出血 性 腸炎

A Case

of Massive

Hemorrhagic

Enteritis

1047

due to Rotavirus

Yoshimi SUZUKI, Haruyo INAGAKI, Masayuki IMAEDA, Fumihiko MIZUTANI, Mitsuhiro ANDO, Tadashi MATSUBAYASHI & Yutaka NISIMURA Department

of Pediatrics, Toyohashi City Hospital

We described a 8-month-old boy of massive hemorrhagic enteritis due to rotavirus complicated shock. As far as we know, this case is the first patient who developed vascular collapse from gastrointestinal the occurrence enteritis.

平 成2年8月20日

by the

tract bleeding by rotavirus infection. Clinicians should be alerted to the possibility of of severe hemorrhagic enteritis as a life threatening complication in rotavirus induced